第50話 ハプニング
それからリリィにあれこれ指示されながらもマッピングしつつダンジョンを探索を続けた。
魔物に襲われることもあったが、昨日カルミアちゃんにパリィを教わっていたおかげで何とか一撃を凌いで、その後に駆けつけてくれる仲間達と連携を取って倒すことが出来た。特にカルミアちゃんは魔物を倒した数が一番多かった。
「てぇい!」
前線に出たカルミアちゃんが現れた魔物達を剣で一掃する。同じようにストレイボウも前線に出て戦うが、彼女の強さに驚きの表情を浮かべていた。
「ヒュウ……♪ カルミア君だっけ? 君、随分と強いんだね。驚いちゃったよ」
「いえ、それほどでも……」
カルミアちゃんは相変わらず俺以外の相手には恐縮した態度で話す。
「いやいや、謙遜することはないさ。それだけの剣腕の女の子なんて今まで見た事がないし、それで魔法も修めているんだろう? うちのパーティにも欲しい人材だ。うちに来て働かないかい?」
「あ、あはは……ごめんなさい、私……」
カルミアちゃんは困った様子で愛想笑いをしていた。
「っておい、人の仲間を引き抜こうとすんじゃねえよ!」
俺がそう叫ぶとストレイボウは肩を竦める。
「はは、別に本気で誘ったわけじゃないさ」
「嘘つけ、目が半分マジだったぞ」
「おや、こんな暗がりでも分かるのかい?」
「てめぇの目つきが変わって瞳がギラついてんだよ、むしろ目立つくらいだ」
俺はそう答えつつストレイボウを睨みつける。
「カルミアちゃんも嫌なら嫌ってちゃんと断らなきゃダメだぜ? こういう節操のない手合いはこっちが曖昧な態度を取ると調子に乗ってくるんだ」
俺はそう言いながらカルミアちゃんに近付いて彼女の手を取ってストレイボウから距離を取らせる。
「節操がないとは失礼な事を言うね、サイト君。ボクはちゃんと人柄を見てアプローチを掛けてるつもりなんだけど?」
「嘘つけ、出会いがしらにミリアムを口説こうとしてたじゃねーか」
「あれはちょっとした挨拶さ。美しいレディがそこに居るんだから男として口説かないと失礼だろ?」
「は、お前何処の紳士だよ? つまりカルミアちゃんも口説こうとしたと?」
「当然じゃないか」
「ミリアムはともかく……カルミアちゃんに手を出したら……」
「……手を出したら……なんだい?」
「……」
「サイトさん……私を助けてくれるのは嬉しいですけど、喧嘩は……」
カルミアちゃんはそう言いながら俺の背中の裾を引っ張って不安そうに言う。
「……カルミアちゃんがそう言うなら止めとくけどさ」
「……はは、まるで彼女の騎士だね」
ストレイボウは半笑いでそんな事をほざく。
だが、彼女への勧誘は止めたようで俺達に背を向けてきた道を戻ろうとする。
「おい、何処に行く?」
「頃合いかと思ってね。魔物も十分な数倒したしそろそろ帰還しよう」
ストレイボウは俺達に背中を向けたまま言い、やれやれといった様子で肩を竦める。
「三人共、予想以上の人材だったよ。呪文使いのミリアムさんは言うに及ばず、魔法剣士の彼女の実力も折り紙付きだ。そして君は冒険者としては見習い相応だが、ボクに食って掛かるその無謀さと我の強さは評価に値するよ」
「……ふん、偉そうに言いやがって」
俺はそう悪態をつくが、ストレイボウは気にせずに歩き始めて出口に向かっていく。
「ああ、そうだ。カルミア君とミリアムさん。二人に話があるんだ。こっちに来てくれるかい? 歩きながら話そう」
「え……? あ、はい」
「話とは何でしょうか……?」
女神様とカルミアちゃんは、彼の言葉に困惑しながらストレイボウの元へと歩き出す。俺はストレイボウの態度が少々気に食わず奴に言った。
「おい、まさかまたしつこく勧誘するんじゃないだろうな?」
すると、ストレイボウはチラリとこちらを見て笑う。そして軽薄な表情のまま言った。
「いやいや、そんな個人的な話じゃないよ。それよりサイト君とリリィさんは疲れているだろう? ボク達の事は気にしないでゆっくり来てくれたまえ」
「はぁ……? 余計なお世話だっての……って、リリィ本当に疲れてそうだな……」
「べ、別に疲れてないよ! 思ったより魔物の連戦が続いて気疲れしているだけ……」
リリィはそんな事言うが、明らかに息を乱していて、明らかに俺達より歩みが遅くなっていた。
「しゃーない……二人は先に行っててくれ。俺達は少し遅れていくからさ」
「……そーですか、なら仕方ないですね」
「砕斗、もし魔物に襲われた大声を出すなりしてください。気付いたらすぐに私とカルミアさんが戻ってきますので」
「おー、了解了解」
女神の言葉に俺は手を振りながら応じる。そして彼女達とストレイボウの背を見送って、俺はリリィの隣に付いた。
「大丈夫か、リリィ」
「別に問題なかったのに……ダンジョン内で孤立するのは危険だよ」
「でもお前を残していくわけにも行かないだろ」
「余計なお世話だよ」
「さよか……まぁ俺が勝手に隣に居るだけだから気にすんなよ」
そう言いながら俺はリリィの隣の床に腰掛けた。そんな俺を見つめながら、リリィは観念したのか俺と同じようにその場に座り込んだ。
「……っていうかよ」
「何?」
「お前、子供なのにやたら博識だよな」
「む……子供じゃない! ……パパがレンジャーだったから色々教わってたんだよ」
「なるほど、親の教育なんだな……。で、両親は……っと!」
俺は咄嗟に自分の口を噤む。
さっきストレイボウが言ってたじゃないか。
コイツの両親は他界してるって。
危ない危ない。危うく地雷踏むところだった。
「……どうしたの、急に黙り込んで?」
「い、いや……いくら教わってたとしても妙に目が良かったり嗅覚が鋭かったりするもんかなってさ」
「それは簡単な話。リリィのパパは獣人なんだよ」
「そうなのか?」
「だから普通の人よりは五感が鋭いし手先も器用なんだよ。まぁママの方の血が濃いからリリィは見た目人間と変わらないんだけどね」
「へー……」
――それから10分後。
ある程度リリィの体力が戻ったのを見計らって俺は立ち上がる。
「リリィ、そろそろ行こうぜ」
「うん」
俺の言葉に応じてリリィは立ち上がり、そして俺は彼女から背を向けて歩き出す。
しかし、リリィは何故かその場から動かなかった。
「おい、どうした?」
リリィの方に振り返って返事を求めるが、リリィはこちらを向いておらず何故か背を向けていた。
「……リリィ?」
「……嫌な予感がする」
「……なんだって?」
俺はリリィにそう聞き返して周囲を見渡す。ダンジョン内は松明の周り以外は暗くて見通しが悪いが、彼女は何かに勘づいたらしい。
「……まさか、魔物か?」
俺がそう呟くとリリィは頷く。
「うん……しかもかなり危険な臭いが……」
「強い魔物って事か……ヤバいな。カルミアちゃん達は先に行っちまったし、俺達も早くここを――」
その時、突然周囲がガタンガタンと揺れ始めた。
「な、何だ……地震か!?」
「違う……何かの足音……大きな何かがこっちに向かってくる……!」
リリィがそう呟くと、振動と共に何か巨大な物体がこちらに近付いてくる音が聞こえてくる。
「な、何だ……!?」
その直後、壁や天井を突き破ってソレは現れた。
「な……!?」
俺はその姿を見て驚愕する。それはレンガと石を賭け合わせたような謎の物体だった。
「ご、ゴーレム……!? な、なんであんな強力な魔物がこんな浅い階層に……!?」
「ヤバい相手なのか?」
「あんなの普通の冒険者じゃ何人で掛かっても勝ち目がないよ!!」
「く……逃げるぞ、リリィ!!」
俺はリリィの手を掴んで 走り出そうとするが、ゴーレムはこちらに狙いを定めているようで俺達に襲い掛かってくる。岩石の塊だというのにゴーレムは二足歩行で人間のように動き、俺達に向かって腕を伸ばしてきた。
「リリィ、危ない!!」
俺は咄嗟にリリィを抱き寄せてゴーレムの攻撃をかわす。しかし、ゴーレムの腕が壁に衝突した瞬間、衝撃と共に壁と床が崩壊してしまう。そして床の亀裂に巻き込まれてリリィが足を踏み外してしまう。
「あ……!」
「リリィ!!」
咄嗟に彼女に手を掴んで、踏ん張ろうとするのだが、俺の足元の床も亀裂が入って崩れてしまい、俺達は為す術も無く地下二階へと落下してしまうのだった。
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