第05話 詰んだ\(^o^)/オワタ
初投稿……嘘です。
それから2時間ほど、僕とカルミアちゃんは城内の隅々を歩き回った。
バグ女神様の予想通りなのがちょっと気に食わないが、最初に見つけたモノ以外のも城内にいくつかのバグを発見。それを一つずつ修正していく。
流石に都合よく宝物庫に壁抜けバグは無くて中身をゲットは出来なかった。しかしお姫様の寝室の壁にそれらしいバグ跡が残っており、僕がカルミアちゃんに言ったデタラメが真実味を帯びてきた。
「ふぅ……」
一通りバグを修正し終わったので、僕とカルミアちゃんは城にある中庭のベンチで休憩することにした。
「結構歩いたねー」
「うん……」
お互い歩き疲れたので少しぐったりしながらベンチに深々を座って態勢を崩す。
「でもサイトさんと一緒だからとっても楽しかったですよ!」
「そ、そう?」
あれ、滅茶苦茶良い雰囲気になってない?
どうみてもカルミアちゃん、僕の事を信じ切ってくれてるし、何ならちょっと好意を寄せてくれてる気が……。
『オタクって優しくされるとすぐ勘違いしますよね』
黙れクソバグ女神。
見た目だけの真っ黒なアンタと違ってカルミアちゃんは見た目も中身も天使なんですよ!
『天使より女神の方が格上ですけど何か?』
死ねばいいのに。
僕が脳内の女神様と気さくなコミュニケーションを取っていると、カルミアちゃんが少しソワソワした様子で、膝の上に置いた自身の手をギュッと握りしめると、上目遣いで僕を見た。
「あの……サイトさん……」
「うん?」
カルミアちゃんは僕から視線を少し逸らして頬を紅潮させる。その仕草が滅茶苦茶可愛い。
「あ、あの……もしよければ……!」
「!!」
まさか告白?告白なのか!?
生まれてこのかた一度も女の子と付き合ったことが無い僕に、ついに春が!?
「私と―――」
……ドキドキ!
「お友達になってくれませんか?」
『ぶふぉっ!!』
脳内でバグ女神が吹き出す。何笑ってんだ転がすぞオイ。
「え、えっと……友達……?」
僕は若干引きつった笑いを浮かべながら彼女に問いかける。
「はい……私、実は田舎の方からやってきたんですけど、こっちに知り合いが一人もいなくて……」
「あ、あぁ……なるほど」
カルミアちゃんの言葉に、僕は納得する。
確かにこんな可愛い子が一人で城下町にいたら男どもが放っておかないだろう。
「私になり明るく振る舞っていても、周りの人には苦笑いされてしまって……全然溶け込める気がしないっていうか……。向こうに居た時は、みんな私の事を知ってて友達も多かったんですけど……」
「……そうだったんだ」
「気丈に振る舞うようにはしてるんですけど、いざ一人になると、誰も自分を受け入れてくれないと勝手に感じて……近づいて話しかけてくれる人もいるんですが……なんか怖くて……。田舎から出る時、あんなに皆に励まされて元気を貰ったのに……えへへ……ごめんなさい、変な話をしてしまって……」
「……」
こんな可愛らしくて良い子なのに……。
だけど、そういう話は僕も以前に少し身に覚えがあった。
中学の時の話だ。僕は親の都合で引っ越して別の学校に通うようになった。その時、僕も新しい学校に早く溶け込めるように頑張って明るく振る舞ってた。
だけど結局僕はその学校では上手く馴染めなかった。一応、気遣って友人になってくれた人はいるけど今はもう疎遠になっている。むしろそれ以前に通ってた学校の友達の方が今でもリモート飲み会などをして付き合いがあるくらいだ。
一度環境が変わって関係性がリセットされてしまうと、それを埋め合わせるために無理して周囲に明るく振る舞う。わざと自分の弱みを見せて人の気を引いたり、話題に大げさに乗っかってみたり……。
だけど結局それは長続きしない。相手にとって、それが本当の自分じゃないとわかってしまう。結果、本当の自分を見せないから上辺だけの付き合いで終わってしまう。
だからカルミアちゃんもそれと同じなのだと思う。
「……でも、サイトさんは、変に私と距離を取るような雰囲気を全然感じませんし、今だってこうして一緒に居ても全然平気なんです。……だから、ちゃんと友達になってくれるんじゃないかなって……えっと……うまく言えないけど……」
カルミアちゃんは僕の方を見ると、小さく微笑みながら膝に置いた手のひらを落ち着きなく動かす。
この子……本当に天使みたいな良い子だ……。
どっかの脳内バグり散らかしてる外見だけのクソ女神様とは全然違う。
浮かれてた自分が恥ずかしくなってきた……反省だ……。
『は?』
黙れ、出てくんな、今は黙ってろ。
……格好付けるのは一旦止めよう。
彼女の弱みに付け込んで嘘を並べ立てるのは良心が疼いてしまう。
僕にだって親切に接してくれた他人への感謝と、それを返したいという人情はあるのだ。
彼女が辛い気持ちを抱えているなら、それを少しでも和らげてあげたいと思う。
「……カルミアちゃん、大丈夫」
「え?」
僕が彼女に声を掛けると、彼女はこちらを見る。少し不安そうな顔だ。
「こうやって一緒に城内を歩き回って、話をしたんだ。わざわざ『友達になって』なんて言わなくても、もう十分、友達だよ」
「サイトさん……」
僕は彼女に向かってそう言った。カルミアちゃんは僕の言葉を聞くと嬉しそうに笑う。
「それに、今はいなくてもキミなら沢山友達が作れるよ。捻くれてる僕でもこうやって仲良くなれたんだしさ」
自分への皮肉を込めて僕は彼女に笑い掛ける。
僕も昔はもっと素直だったのに、今は随分と擦れてしまったものだ。
「……ありがとう」
彼女はそう言って視線を自分の膝に落として顔をこちらに見えないように伏せる。
……きっと、ここまでの道のりで色々あったのだろう。今は彼女の気持ちが落ち着くまで、黙って待つことにしよう。
『……』
そうして彼女がベンチで顔を伏せてから数分、彼女は勢いよく立ち上がる。
「よっし! 元気が出ました!」
「それは良かった」
さっきまで感じていた彼女の陰は消えていた。どうやら彼女の気持ちの切り替えが終わったようだ。
彼女は立ち上がると、僕の方を見てふわりと笑った。
あぁ……やっぱこの子すっごい可愛いな。こうやって見てるだけで自分の心の傷が癒されていく気持ちだ。
ただ、こんな平凡な自分が彼女の近くにいて良いのだろうか、とそんな風にも感じてしまう。
しかしカルミアちゃんは僕に向かって手を差し出すと、こう言った。
「さぁ行きましょう、サイトさん! 休憩終わり、ですよ!」
「……はは」
僕は彼女のその手を握り返して立ち上がる。今はこの子と友達にいられることを素直に喜ぼう。
それで彼女の寂しさが紛れるなら。それくらいの貢献が出来たと胸を張ってもいいと思うんだ。でも、いつか……。
いつかは彼女の本当の笑顔を見れるような男になりたい。
……と、僕達二人が立ち上がった所で、兵士の一人がこちらに走ってくる。
「ここに居ましたか、カルミア殿」
「?」
彼女の名前を呼んだ兵士の方を二人で振り向く。
「国王様がお呼びです。至急、謁見の間にお越しください」
王様がカルミアちゃんを直々に……?
何故、彼女が王様に呼ばれているのか理由が分からずに僕は困惑していると、カルミアちゃんは先程の元気っ子な表情が真面目な表情に切り替わる。
「はい、分かりました。すぐに行きますと国王様にお伝えください。よろしくお願いします」
そして、さっきまでの彼女とは思えないような落ち着いた口調で兵士にそう返事した。
え、カルミアちゃん?もしかして二重人格だったりするの?
そんな事を僕が考えていると、兵士の人は一礼して去っていく。
するとカルミアちゃんは「ほっ」と息を吐いて、こちらを振り返るとさっきまでの明るい表情に戻った。
「ごめんなさい。私、王様に呼ばれちゃいました。一緒に手伝う約束だったのに、本当にごめんなさい!」
カルミアちゃんはそう言ってペコリと背を曲げてお辞儀する。
「あ、いや……うん、それは大丈夫。手伝ってくれてありがとう。……でも、カルミアちゃん。王様に呼ばれてるって……キミ、一体……」
僕が恐る恐るそう質問すると、彼女は困ったような笑みを浮かべ胸に手を当てて、まるで敬礼するように言った。
「ちゃんとした自己紹介が出来てなくてごめんなさい。
私は――カルミア・ロザリー……神様の啓示を受け、世界を救うために遣わされた――”勇者”です」
「……え。……ゆ、勇者……?」
「あ、王様を待たせちゃダメなので、行ってきますね! サイトさん、また会いましょう。ばいばーい!」
彼女はそう言うと、そのまま城の中に走って行ってしまった。
…………。
「うああああああああああああああああああああ、うっそだろおぉぉぉぉ!!!??」
あの子が本物の『勇者』だったの!?
僕、偽物のくせに彼女に『実は僕、勇者なんだよね (キリッ)」とか大嘘付いてキメ顔作っちゃったよ!!
あの子、めっちゃ頷いてたけど、全部嘘バレバレじゃん!!!
『……ぷっ、クスクス……!!!あっはっはっはっは!!! ひー……む、胸が苦しい……!! あー、ほんと面白い……!!』
僕の頭の中でバグ女神の笑い声が響く。
うるせぇよ!!アンタにだけは笑われたくねぇんだよ、クソ!!!
「ていうか女神様、絶対知ってて黙ってただろ!!!」
『あっはっは………! い、いや……気付いてましたけど、あんまり二人が盛り上がってたので……』
「こ、この……!!」
自分が思いっきり墓穴を掘って恥を掻いてしまったことと、女神様がそれを知ってて黙っていたことに僕は手が震えて拳を握りしめていた。
い、いつか、このアホ女神に仕返ししてやる……!!
そう僕は心に誓い、地団駄を踏んだのだった……。
5話目終了です。
ヒロイン?を出してみましたがどうでしょうか。
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でわっ!