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第49話 初心者用ダンジョン

 ――イザレの大空洞地下1階――


 地下1階は壁や床が石で出来た迷宮のようになっていた。

 通路には一定間隔毎に松明が設置されていて、視界はそこまで悪くない。

 何度も人が入った形跡があり、どうやら冒険者にとって登竜門のような場所のようだ。

 所々、石壁や床が修繕された跡が垣間見えるのはその為だろう。


「どうだい、このダンジョンは? 雰囲気出ているだろう?」

「ああ、そうだな」


 ストレイボウが自慢げにダンジョンの感想を聞いてくると俺は素直に感想を返す。


「ただ、こんな整備された場所に魔物なんか出てくるのか?」

「そうでもないさ。確かに地下二階までは他の冒険者が何度も出入りしているが、それ以降は中々厄介でね。敵も強い上に深層では魔物が繁殖しているせいで奥へ行けば行くほど危険になっていく。魔物も積極的に地上に出ようとしないお陰で平和は保たれているがね」

「なるほどな、他の冒険者もここに来るのか?」

「ああ、僕も昨日地下二階を普段組んでるメンバーで探索してたよ。ボクのようなベテランには肩慣らしには丁度良い相手さ」

「自分で言うか」

「まぁね、これでもボクはギルドの信頼を得ているから今回のキミ達の指導に選ばれたわけだし」


 俺はストレイボウの話に頷きながら周囲を見回す。すると、通路の影から何かが出てくるのが見えた。緑色のゲル状の物体が床の上を這いずり回っているようだ。


「……うわっ……あれ、スライムか?」


 俺が尋ねると俺の手を握っているリリィが答えた。


「うん、そう。だけど緑のスライムは毒を持ってるから近づくとちょっと危険かも」

「ボクくらい丈夫な鎧を身に付けていれば、顔に攻撃を喰らわない限り平気だけど、君達のように軽装だと反撃に気を付けないとダメかもね」


 リリィとストレイボウは俺達に丁寧に解説してくれる。いや、解説してくれんのは良いんだけど、どんどんスライムが迫ってきて来るんだが……。


「教えてくれるのは助かるのですが、早めに対処しなくてもいいのですか?」


 俺と同じ事を考えていたのか女神様がストレイボウにそう質問する。


「ああ、最初はボクがどうにかしよう。……よし、サイト君とリリィさんは下がっててくれ」


 ストレイボウはそう言って前に出て腰の剣を引き抜く。

 そしてスライムに向けて剣を振るうと斬撃がスライムに命中して奥に吹き飛んでいく。しかし、大して効いていないようでスライムは再び起き上がってズルズルと這い寄ってくる。


「……と、まぁ物理攻撃はあまり通用しない相手なんだよね。一応急所を狙えば武器でも倒せるが、この手の相手を対処するなら攻撃魔法の類が有効だ」

「ちなみに下手に斬り掛かると分裂してとんでもないことになるよ。対処出来ないなら逃げた方が良いと思う」


 ストレイボウとリリィの解説に俺は納得して後ろの女神様に声を掛ける。


「ミリアム頼むわ」

「まぁ私の出番という事になりますよね」


 女神様はそう言って前に出る。

 するとリリィが俺の手を引っ張るので後ろに視線を落として彼女を見る。

 リリィは女神様に視線を向けながら俺に質問する。


「呪文使いの人?」

「ああ、そうだよ」


 中身が実は神様だという事は言わないことにする。


「……へぇ、噂通り」

「噂?」


 俺が続きを促そうとすると、女神がスライムに向かって手を向ける。

 そして数秒溜めた後に魔法を放つ。


<凍結>(フリーズ)


 女神様がそう呟くとスライムの足元に魔法陣が出現し、そこから氷が現れてスライムを一瞬で凍らせる。そして氷の塊は地面に音を立てて落ちる。どうやら完全に凍ったようだ。


 それを見てストレイボウが拍手をする。


「いやぁさすがだね。噂通りに優れた呪文使いのようだ」

「噂、ですか?」

「ああ、『とんでもない人材が現れた』ってギルド内でかなり話題になってるよ。そこのリリィ君も貴女の事を口にしてたしね」

「へー」

「そうなのか?」


 俺がリリィに質問すると、こくんと頷く。


「リリィは魔法は専門外だから会う機会が無かったし、一度どんな人か見てみたかった」


 目を輝かせながらリリィは言う。

 すると女神様はそれに気を良くしたのか機嫌良さそうに笑って俺に言った。


「ふふふ、地上の人間――……失敬、やはり誰もが私の優秀さに目を奪われるのですね。どうですか、砕斗。少しは私を立てるように努力しなさい」

「いちいち自慢すんなうぜぇ」

「あはは……でも流石、めが……ミリアム様ですね」


 カルミアちゃんは苦笑いしながら女神様を持ち上げる。


「ふふ、そうでしょう? もっと褒めても構いませんよ?」

「ところでストレイボウ、この凍った魔物放っといていいのか」


 俺は調子に乗った女神様を無視してスライムを指差しながらストレイボウに尋ねる。


「……いや、復活するかもしれない。完全に倒すなら砕いた方が良いね」

「そか」


 俺は返答を聞くなり鞘から剣を取り出して力任せに剣をぶつけてスライムを砕く。砕け散ったスライムは氷の粒になって消えていった。


「うん、お見事」


 ストレイボウがそう褒めてくれる。


「じゃあ先に進もう。斥候のサイト君、ここからはマッピングもよろしくね」

「はいはい。リリィ、両手使うから手を放してくれ」

「……」

「リリィ?」


 俺がもう一度声を掛けると、リリィはハッと我に返る。


「……な、何?」

「いやだから地図書くから手を離してほしいんだが……」


 俺はそう言いながら片手を持ち上げようとするが、その前にカルミアちゃんが俺とリリィの間に割って入り言う。


「リリィちゃん、ここからは私と手を繋ごう?」


 カルミアちゃんは笑顔でリリィにそう話すが、リリィは頬を膨らませて俺の手を振り払う。


「子供扱いしないで。……サイト、斥候の仕事を教えてあげるからリリィに付いて来て」

「いや、そこは呼び捨てじゃなくてお兄さんと呼べと」

「じゃあ斥候見習い、付いて来て」

「おい役職名かよ」


 俺はやれやれと肩を竦めつつ、リリィに付いていく。


「……ふむ、随分と気難しいのですね。あのリリィという少女は」


 女神は先行する二人の背中を見て言う。


「ああの子はいつもあんな感じだよ。見た目通りの子供だが両親から離れて過ごす期間が長かったせいか他の子供と比べて独り立ちが早くてね。強いて言うなら背伸びしたい年頃ってやつさ」

「でも、リリィちゃんはあの歳でギルド職員なんですよね?」

「そうさ。生まれつき五感が鋭いそうで斥候やレンジャーなどの技能を両親から教わっていたらしいよ。2年前に冒険者ギルドが設立された時、彼女の優秀さを見込んだギルド側がスカウトしたんだ」

「へぇ……そんな事が」

「ただまぁ、それが理由で余計に生意気な感じに――じゃなかった。……一人前のように振る舞うようになってしまったのだけどね」

「でも、それはそれで可愛らしいです」

「しかし、随分と彼に懐いてる様子だね……特にウマが合うようには見えないけど……」


 ストレイボウはそう言いながらカルミアと話すサイトを見据えるのだった……。


 ◆◇◆


「いい? こういうダンジョン内は暗いから分かり辛いけど、目立たないところに罠とか宝箱とか設置されてるんだよ。だからマップを埋めるもの大事な作業だけど足元に注意しないとすぐに―――」

「いや、分かってるって……」


 リリィは俺に説教を垂れてくる。

 何でこんな偉そうにされなきゃいけないんだろうな?

 この子供も大人に対しての接し方ってもんがあるだろうに。

 少しくらいビシッと言ってやった方が良いのだろうか?


「ねぇ聞いてる?」


 俺が考え事をしているとリリィが不満そうに言う。


「あ、悪い。聞いてなかったわ。もっとメスガキ風に言ってくれる?」

「ざーこ、ざーこ♪ ポンコツなクセに耳も悪いとかお兄さん救いなさすぎ~♪ ……こんな感じ?」

「……」


 自分で要求したは良いが余計にイラッと来た。とりあえずほっぺを摘んで変顔させてやろう。


「ひゃにふんのひょ!」

「あっはっは、面白い顔だな。おい」

 俺が笑いながらリリィを弄り倒しているとストレイボウが割り込んでくる。


「お二人さん。仲良いのは結構だがここは危険地帯だからね。リリィさんもギルド側の人間なんだからもうちょっと真面目にして貰えないかな?」

「むー……言われなくても分かってるよ」


 リリィはストレイボウに怒られて俺の手を振りほどく。


「いい、斥候見習い!?」

「名前で呼べ」

「じゃあ、サイト」

「おうおう、年上相手には敬語使えや」

「雑魚お兄さん」

「もういっぺん顔つねったろか」

「むかー!」

「ちょっと二人共、じゃれるのはそのへんにして貰えるかい?」


 俺とリリィが睨み合っているとまたストレイボウが呆れて間に入ってくる。


「あー悪い、つい」

「コイツが悪いんだよ」


 流石に大人に怒られるのはアレなので俺は素直に謝ることにした。

 すると彼は苦笑しながら肩を竦める。


「やれやれ、こんな緊張感のない新人研修は初めてだよ」

「ごめんなさいね、うちの砕斗が迷惑を掛けてしまって……」

「(女神様、なんかサイトさんのお母さんみたい……)」


 女神の謝罪を聞いてカルミアは密かに思った。


「ともかく! 斥候は前に出て罠の確認!」

「あー、はいはい」


 俺は適当に頷いて剣を鞘から引き抜いて先行を歩く。

 しかし、冒険者が散々歩き回ってるのに罠なんて残ってるのか……?


 俺はそう思いながら壁や床を注意しながら歩く。

 すると床の石が一部が出っ張っていて、僅かに透明な糸が壁の方に向かって伸びているのが見えた。


「……ん、まさかこれ……おい、リリィ!」


 俺は慌てて後ろのリリィに声を掛ける。


「何?」

「罠っぽいのを見つけた!」


 俺がそう叫ぶとリリィがパタパタと走ってくる。


「見せて……あーなるほどね。糸が引っかかると壁の罠が連動する様になってるんだね」

「どうやって解除すればいいんだ?」

「触れなければ大丈夫だけど帰りに忘れると困るから解除しとこうか。いい? こういう類の罠は、引っ張らずに壁の先端の糸を切っておけば作動しなくなるんだよ」

「なるほど、参考になる」

「宜しい!」

「ていうか本当にただの子供じゃなかったんだなお前、ビックリだわ」

「ふふん♪ リリィは8歳でギルド職員にスカウトされた天才だよ? 当然じゃない!」

「ああうん、頭の中は幼女まんまだけどな」

「むっかー! もう怒ったもんね、リリィは大人だからそんな悪口言うお兄さんの事はキライになるからね!」


 リリィは頬を膨らましてプンスカと怒る。それを見た俺は肩を竦めて苦笑する。


「……へいへい、悪かったよ」

「むー……反省してる?」

「ああ、もちろんだよメスガキリリィちゃん」

「絶対してない!!」


 ◆◇◆


「ああ、また始まったよ」

「……でもサイトさん、何かわざと煽ってるような気が―――って、リリィちゃん危ない!!」

「!?」


 カルミアがそう叫ぶとリリィがビクッと肩を震わせて正面を見上げる。そこにはサーベルを持った骨だけの魔物が、剣を振り翳してリリィを狙おうとしていた。


「!」


 次の瞬間、彼女に向けて放たれた斬撃をサイトが自身の剣で受け流して無効化する。


「――てめぇ、子供に何しやがる!!」


 サイトは低い声で怒り、そのまま剣を振るい魔物の胴体を横に両断する。

 リリィはそれを見て気が抜けて床に腰を下ろしてしまう。


「大丈夫か、リリィ」

「あ……ありがと」

「おう、危なかったけど怪我はないか?」

「……うん、問題ない」


 リリィがそう答えると、サイトはホッと胸を撫で下ろした。


「大丈夫か!?」

 そこにストレイボウ達が一歩遅れて走ってくる。


「いや、大丈夫だよ。何とかなったし……」

「……骨の魔物スケルトンか……すまない、油断してたよ」

「いやいや、俺らも喧嘩してたから自業自得だわ」

「……う、うん」


 リリィはサイトに助けられたのが理由か、それとも自分達が悪いことを自覚していたのか、気まずそうに小さく頷いた。


「まぁ無事ならいいよ。しかし斥候希望と聞いてたけど軽戦士としてもやれるんじゃないか?」

「ははは、そうだろ? ……じゃあ先に進もうぜ」


 サイトはそう言って再び歩き出す。そのすぐ後ろをストレイボウとリリィが、更にその後ろで女神とカルミアが安堵した表情で付いて行った。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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