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第48話 幼女といっしょ!

 次の日の正午。


 俺達三人は準備を終えて約束通り城下町の門の前で冒険者とギルド職員を待っていた。


 そして三人で雑談をしているとその二人はやってきた。


「やぁ、君達だね。仮登録したばかりの冒険者見習いってのは」

「ん」


 やたら気安い気取った声の男の声が聞こえたので、俺達がそちらを振り向くと赤いマントと銀色の鎧を纏った身長180センチくらいの美男子が立っていた。


「やぁ、こんにちは。ボクはストレイボウ。冒険者ギルドに言われて君達に引率する為に来た。冒険者見習いの先輩とでも思って気さくに『ストレイボウさん』とでも呼んでくれ」


 ストレイボウと名乗った男はそう言って俺達に手を差し出した。

 男の指の右の人差し指には金色の指輪を身に付けていた。


「えっと……初めまして、カルミアです」


 カルミアちゃんがちょっと遠慮気味に手を差し出すと、ストレイボウを名乗る男が彼女の手をがっしりと掴む。


「ヒッ!?」

「よろしくね……ってどうしたんだい、急に驚いて……?」

「い、いえ……よろしくです」


 カルミアちゃんは笑みを浮かべて握手をする。しかし、顔に汗が滲んでてどうにも緊張してしまっているようだ。俺は彼女の隣まで歩いて「サイトだ、よろしく」と手を差し出す。


 するとストレイボウは彼女から手を離して俺の手を握ってきた。


「ああ、よろしく。君がリーダーなのかい?」

「そういうわけじゃないんだが……まぁ俺達は特に誰がリーダーって決まってはいないんだよ」

「そうなのかい」


 俺はそう言いながらカルミアちゃんに視線を向ける。彼女の顔色を窺うと少しだけ顔色が悪かった。

 ストレイボウもそれに気付いたのか少し心配そうな表情を向ける。


「ん、彼女、気分でも悪いのかい?」

「……いや」


 おそらくカルミアちゃんが人見知りなのが理由だろう。突然、馴れ馴れしく握手をしてきたコイツに対して警戒して気が引けてしまったようだ。


 そんなカルミアちゃんを気遣うように女神様は彼女の手を取って優しく微笑む。そしてストレイボウの方に視線を向ける。


「私はミリアム。彼女、少し緊張しているだけなの。しばらくすれば顔色も戻ると思うから気にしないで」

「なんだ、そうだったのかい」


 ストレイボウは肩を下ろして安堵の表情を浮かべる。


「それにしてもミリアムさん。随分とお美しい方だ」


 ストレイボウがそう言って彼女を口説くと女神様は微笑む。


「ふふ、ありがとうございます。ですが、今日の所はナンパはお断りさせて頂きますね」


 いや、今日じゃなければいいんかい。社交辞令だろうけど。


「ではまた別の機会に……」


 いや、女神の社交辞令を真に受けんなよ。コイツ、結構なお調子者っぽいな……カルミアちゃんにちょっかいを出させないように注意しないと……。


 そう思っていると、俺は視線を感じて背後を振り向く。するとそこには何処かで見たような幼女が俺を睨んでいた。


「むぐぐ……」

「あ、メスガキじゃん」

「メスガキじゃないよ! うぅ……なんでリリィがこんな奴らと……」

「ん? 俺らになんか用でもあるの?」


 そう。昨日、冒険者ギルドで絡んできたあのちびっこ職員のリリィだ。


「おっと、彼女の紹介がまだだったね」


 すると、ストレイボウがマントを翻してこっちに歩いてきた。


「彼女は冒険者ギルドの職員のリリィだよ。今回のクエストに君達と同伴することになっている」

「え、この幼女が?」

「幼女って言い方止めて!!」

「じゃあ、メスガキちゃんで」

「うぐぐっ……!」


 リリィは拳を握りしめて悔しそうに唸る。


「随分と最初から絡んでますね……」

「サイトさん、もしかして知り合いですか?」

「ああ、うん」


 俺は二人に返事してリリィの頭にポンと手を置く。


「こいつ、俺が『斥候』の試験を受けた時の試験官でさぁ……」

「試験官に対してこの態度ぉ~!! リリィを子供扱いしないでよ!!」

「そこは『ざーこ、ざーこ♪』って言ってメスガキアピールする所だろ。ほら言ってみ?」


 俺はリリィにそう言って揶揄う。

 すると彼女は顔を真っ赤にしてプンスカと怒り出した。


「むきぃぃぃ!! なんでリリィがそんな事を言わないといけないんだよ!?」


 そんな俺達のやり取りを見てストレイボウが笑う。


「ははは、すっかり打ち解けたようで良かったよ……それじゃあ早速行こうか?」


 ストレイボウはそう言って先頭に立って城下町の外へ向かっていく。


「私達も行きましょうか」

「はい。サイトさんも行きましょー」

「おう……ってわけなんで、よろしくなリリィ?」


 カルミアちゃんに返事をしながら、俺はリリィの頭を撫でながら声を掛ける。


「ふんだ!」


 するとリリィはそっぽを向いて行ってしまったのだった……。


 ◆◇◆


 俺達三人はストレイボウとリリィと一時的にパーティに加えて目的のダンジョンへ向かった。道中、ストレイボウは俺達にダンジョンの概要を教えてくれた。


「今回のクエストの舞台は『イザレの大空洞』という地下遺跡だよ」

「大空洞?」


 俺が首を傾げるとストレイボウが頷く。


「ああ、この大陸の地下には古代文明時代の遺跡が幾つか残っててね。その一つがここなんだ」

「へぇー……」

「そんな場所に俺達が行って大丈夫なのか? そんな遺跡だと貴重品とか残ってんじゃねーの?」


 俺がそう質問するとストレイボウは言った。


「今は歴史的価値があるものは殆ど残ってない。今は魔物の巣窟になってて冒険者ギルドが定期的に冒険者を派遣して魔物討伐をしているんだ。魔物が増え過ぎて外で出てきても困るしね」

「なるほど……」


 そんな会話を交えながら、俺達は目的地に到着した。

 そこは巨大な岩山にぽっかりと開いた洞窟だった。

 ストレイボウは入り口の前で俺達に声を掛ける。


「さて……ここが『イザレの大空洞』だよ。


 今回、君達にやってもらいたいことは地下1階の魔物の駆除とマッピングだね」


「魔物の駆除は分かるとして……」

「マッピング?」


 俺達が首を傾げるとリリィが前に出て説明する。


「遺跡を探索する為の地図を作成する事。キミ達三人が冒険者としてやっていけるか初歩的なクエストだよ」

「へぇ、マッピングか。冒険者って皆そんな面倒な事してんの?」

「冒険者は行ったことのない場所の調査もするからこれくらいやって貰わないとね。はい、これにマップを書き込んでね」


 そう言ってリリィは俺達に羊皮紙と羽ペンを渡してきた。貰った羊皮紙を確認すると水平、垂直方向に線が引かれた方眼紙のようになっていた。


「なるほどね、こういうのは割と得意だわ」


 俺がそう言うとカルミアちゃんが驚いた顔をする。


「え、意外」

「昔やってたゲーム……って言っても分からないか。まぁ似たようなマッピングの経験があるって事だよ」

「……ウィ〇ードリィ (自主規制)ですか」


 女神様がボソッと呟く。


「うお、正解」


 さすが女神様だ。ゲームなんてやらないはずなのに知識があるんだな。


「何の話をしてるんだい?」

「あ、いや。こっちの話だよ。ともかくマッピングは俺に任せてくれ」

「斥候の仕事も忘れちゃダメだよ? 時には周囲に罠が無いかチェックしないと」

「ああ、分かってるよ。リリィ」

「む……なら良いよ」

「それじゃあ、頼んだよ。それじゃあ準備が整い次第ダンジョン探索開始だ」


 ストレイボウはそう言って先行してダンジョンの中に入っていく。


「よし、じゃあ俺達も行こう」

「はい!」

「……ええと、リリィさん? 貴女も付いてくるんですか?」


 女神様はそう言って俺の隣にいるリリィに質問をする。


「当然だよ、リリィはキミ達の仕事ぶりを確認する為に派遣されたギルド職員なんだから」

「……とても戦えるようには見えませんが」


 女神様がそう呟くと、リリィはムッとした表情を浮かべて俺の手を掴む。


「お、何だ?」

「信じられないなら証明してあげる。早く行くよ」


 リリィはそう言って俺の手を引っ張ってダンジョン内に入ろうとする。


「分かった分かった……二人とも、行こうぜ」

「まぁ良いですけど……」

「サイトさん、結構子供に懐かれるタイプ?」

「さぁどうだろうね……」

「むぅ……リリィは子供じゃないよ。三人より全然ベテランなんだから」


 リリィが頬を膨らませて不満そうに言う。俺はそんなリリィの生意気な言葉に多少の愛着を覚えながら、ダンジョンへの階段を降りていくのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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