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第47話 お前が一番危険なポジションだ。覚悟して戦え。

 俺が客室に戻ると既にカルミアちゃんは戻っており、女神は最初と同じように席に座っていた。


「お疲れ様です、砕斗」

「サイトさんも検査と試験が終わったんですか」

「ああ、一応ね」


 俺はそう言いながらカルミアちゃんの隣に座る。


「で、『斥候』の試験はどうでした?」

「楽勝だった」


 俺はあのちびっこ職員の事を思い出しながら答える。するとカルミアちゃんは驚いたような反応をする。


「え、一発で合格貰えたんですか?」

「うん」


 大体、そこの女神のお陰だけど。それが分かっているのか、女神様は背後でカルミアちゃんの背後でドヤ顔を決めている。うぜぇ。


「二人はどうだった?」

「私も一発で合格貰えましたよ、ぶいっ♪」


 カルミアちゃんは可愛くピースサインをしながらそう答える。


「流石、カルミアちゃん」

「えへへ」

「で、ミリアムは?」

「ふっ……愚問ですね、合格に決まってますよ」


 女神様はテーブルに足を掛けて偉そうに紅茶のカップを口にしながら言う。


「……ちなみに、何故か態度が悪いから減点と言われましたが」

「ダメじゃねぇか」


 俺は呆れながら女神に突っ込みを入れる。女神は誤魔化すように視線を逸らした。そんなやり取りをしつつ、俺達は検査結果の報告を待ちながら雑談をしていると……。


「サイトさん、カルミアさん、ミリアムさん。冒険者の仮登録の審査が終わりましたよ」と、最初に俺達を客間に連れてきてくれたギルド職員がやってきて、開口一番でそう言った。

「お、ようやくか」

「それで、今から三人の試験結果を伝えたいと思います。


 俺達はそれぞれ席を立ち、ギルド職員に向き直る。

 すると、ギルド職員は手元の書類を見ながら説明を始めた。


「まず最初に、カルミアさんが志望した『魔法剣士』としての結果ですが――」

「はい」


 名前を呼ばれたカルミアちゃんは、俺達と一緒に居る時と比べて落ち着いた声量で返事をする。


「軽戦士としても十分な力量を持っていて接近戦では申し分ありません。魔法面に関しても技術はさておき、魔力の貯蔵量が他の方と比べて群を抜いて高いです。総合して評価すれば今の段階でも十分に冒険者としてやっていけるでしょう」

「ありがとうございます」


 カルミアちゃんは恭しく礼をする。


「そしてミリアムさんの方ですが……」

「はい」


 女神様は余裕の表情で職員の言葉を待つ。


「……『呪文使い』として既に十分過ぎる力量を持っています。冒険者どころか王宮勤めの宮廷魔道士としても重用されるほどです」

「ふふ、当然です」

「……ですが、占いの結果が少々おかしくて……何故か正常な測定が出来ませんでした。こちらの不手際だと思うのですが……」

「……」


 さっきまで余裕の表情を浮かべていた女神様がいきなり顔を逸らして黙り込む。


「……ミリアムさん?」と、職員が女神に声を掛ける。


「な、なんでもありません」

「そうですか……? ともかく占い結果は置いとくとしても文句無しです。そして、最後にサイトさんですが……」

「……は、はい」


 俺は緊張しながらギルド職員の言葉を待つ。

 これで俺一人、仮登録すら駄目って言われたら色々台無しである。


「サイトさんの希望は『斥候』でしたね」

「はい」

「ギルド職員のリリィさんから苦情が来てましたよ。『リリィに対する暴言が酷すぎる!教育的指導っ!失格!!』……って」

「……あのメスガキ」


 俺は内心「メスガキ」呼ばわりしているちびっこ職員の顔を思い浮かべる。リリィへの対話は子供とのコミュニケーションであって別に暴言じゃないつもりだ。


 ギルド職員はコホンと咳払いをしてから話を続ける。


「まぁ、それはさておき……サイトさんですが……」

「……はい」

「即座に仕掛けられた罠二つを即座に見抜いて的確に処理を行えました。『斥候』としての評価としては問題ありません」

「え、マジすか? でも今失格って……」

「あれはただのリリィさんの伝言を伝えただけなので結果には反映されません。ただし、戦闘では少々不安があります。防御面がやや未熟な面があり、魔力面においては一般人と同程度と言ったところです」

「くっ……!」


 自分だけ散々な評価な事に俺は恥ずかしさを覚えて後ろの二人の反応を見てしまう。


 カルミアちゃんは「あはは、ドンマイです」と笑いながら励ましてくれる。


 しかし、意外なのは女神様の方だった。


 女神様は驚いた表情を浮かべて、ギルド職員に「魔力があるという事ですか?」と質問をする。


 だが、ギルド職員は頭にクエスチョンマークを浮かべて「はい」と答える。


「とはいえ、サイトさんは魔法使いになれるほどの魔力は無く、属性的にもかなりマイナーなので実戦で扱うのは難しいかと」

「……そうですか」


 女神様は話をしっかり聞いていないようで、何処か上の空だった。


「……私の力の影響でしょうか、それとも先天的なもの……? 何かしらの切っ掛けで得たということか……もしや、カルミアさんと接触したのが……?」

「あのー……ミリアムさん? どうかされましたか?」

「……なんでもありません、話を続けてください」


 ギルド職員に声を掛けられた女神様は何事も無かったかのように返事をする。


「総評すると三人とも問題ありません。それぞれ活躍を期待しております」


 ギルド職員はそう締めくくり、俺達は冒険者の仮登録を済ませることが出来た。


 ◆◇◆


 ――冒険者ギルド・訓練所――


 俺とカルミアちゃんは手合わせの時のように互い向き合って剣を構える。それを女神様が近くの椅子に座って見学している状態だ。


「サイトさん、今から技を教えますから普通に攻めてきてください」

「え、実践してくれんじゃないの?」

「いいからいいから」


 俺は半信半疑ながらも言われた通りに剣を構えて向かって攻撃を仕掛けていく。しかし、普段ならすぐに反応して構える彼女は一歩後ろに退くだけで動かない。


 その違和感に一瞬疑問を感じたが、俺は退かれた分射程距離まで迫って、彼女なら確実に防げると信じて遠慮なく剣を振るう。


「そぉい!!」

「!!」


 俺の攻撃が勢い付いて繰り出されると同時に、彼女の身体が僅かに後ろに下がって上体を低くする。


 そして――


「てやっ」


 俺の振るった剣が横から割り込んできた彼女の剣によって、先端を引っ掛けられ横に流されてしまう。


「……ん?」


 今、物凄く簡単に受け流されてしまったような……。


「サイトさん、もう一回しましょう」

「お、おう」


 俺は今度は先ほどとフォームを変えて、より素早く動ける袈裟斬りを仕掛ける。


 そして彼女は先程と同じように一歩後ろに下がり、俺が射程距離に入った瞬間に彼女は横薙ぎの構えに入って上体を下げる。


 それを見て俺は僅かにタイミングをずらして斬り掛かったのだが、彼女の身体に接触する寸前に呆気なく剣が流されてしまう。


「!?」


 そして、次の瞬間には俺の首に彼女の剣が当てられていた。


「はい、お終いです」


 カルミアちゃんはそう言うと剣を下ろす。俺は茫然となって立ち尽くしてしまった。


「……え、今の何? ……のれんに腕押ししたみたいに受け流されちゃったんだが……」

「私が教えたかったのは正にそれです。さっき職員さんの話だと、サイトさんの防御面に不安があるって話だったのでその辺を鍛えようかと」

「……って事は、『技』っていうのは……」


 俺が彼女にそう問いかけるとカルミアちゃんはニコリと笑う。


 そして横から見学していた女神様が言った。


「要するに返しの技……相手の攻撃をギリギリまで見極めて、速度が乗る前に軌道をズラし最小の力で攻撃を捌く技法。『パリィ』という技術ですね」


「パリィ……」


 俺が女神様の言葉に首を傾げると、カルミアちゃんは頷いて補足を加える。


「『パリィ』は相手の武器を受け流すことで攻撃を無効化する防御技術です。相手の攻撃の軌道を見極めるのに訓練が要りますが、上手く行けば力に頼らずに確実に受け流してカウンターを決められるんです……さっきの私みたいに」


 そう言いながら彼女は俺から離れる。


「サイトさんは『斥候』なので、いざ単独行動中に襲われた時に、これで一旦凌いでから反撃を狙うのが良いかなと思ったんです。そうでなくとも虚を突かれた敵が動揺している間に逃げて助けを呼ぶことだって出来るかもしれません」

「あ~、そういう事か……」


 俺は納得したように頷く。なるほど確かに派手な必殺技とは言い難いが、彼女が俺に技を授けようとしたのも理解できる。これを通常の立ち回りで出来るようになれば優位に戦えるはずだ。


 あの戦闘担当の職員が言ってた言葉――


『素直に攻撃をガードばかりしていては身が持ちませんよ?』


 つまりはこういう事だったんだ。

 もうちょっと分かりやすいアドバイスしてくれよ。


「ありがとな、カルミアちゃん」


 俺が礼を述べると彼女はニコリと笑った。


「いえいえいえ、サイトさんが強くなってくれると私もすっごく嬉しいです。それじゃあ、今からこれを百回繰り返しましょう」

「ひゃく!?」

「むー、それくらいしないと身に付きませんよ?」

「そ、そんな急いで習得しなくても……」

「ダメですっ! 明日のダンジョンでもしサイトさんに何かあったら泣いちゃいますよ、私!」

「う……」


 俺は彼女の勢いに押されて頷くしか無かった。


「……やれやれ、私が魔法を教える時間があると良いんですが……」


 そんな二人と女神は暇そうに見守っていた。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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