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第46話 リリィちゃん

「次はサイトさん、どうぞ」

「はーい」


 書類の項目を埋めた俺は職員に呼び出され、適正検査を受けることになった。

 職員に案内されるがまま、俺は別室へと通される。


「ここか……」


 部屋の中央には如何にもな魔法陣が描かれており、中央には占い師らしき人物が座っていた。ローブを着こみフードで顔は見えなかったが、まぁまぁ年老いた女性だというのは分かる。


「お掛けなさいな」

「どーも」


 俺が椅子に座って適当に挨拶を返すと、占い師は微笑みながら口を開いた。


「では水晶玉に手を翳してね」

「ほーい……」


 俺は言われた通りに手を翳す。


「この水晶玉は対象の眠っている魔力を検査するの。水晶に移ったものの形によって貴方の魔力の質が分かるわ」

「ふぅん……?」


 俺がそう呟いている間にも、占い師は水晶玉に手を翳しながら何か呪文の様な物をブツブツと唱えていた。といっても俺は女神に魔法の素質が無いって言われてるんだけどなぁ。


「……分かったわ。アナタの魔力の属性は『無』ね」

「はいはい、どーせ魔力ないですよーっと」


 俺は若干やさぐれながら言う。するとその占い師は言った。


「違うわ」

「はい?」

「魔力が無いならここには何も映らない。今、口にした『無』というのは属性に寄らない魔法ならば素質アリと言う事よ。映った形が小さいから魔力自体は高くないけどちゃんと魔法を使う事が可能という事」

「え、マジすか!?」


 俺は異世界の人間だから魔力とか一切無いと思ってたのに。

 ちょっとテンション上がってきた。


「で、”無”ってどんな魔法なんすか?」

「さぁ? 私は専門家じゃないし属性色が分かっても全ての『無』が使えるとは限らないから」

「さいですか……」


 この人、見た目の割に魔法の専門家じゃないのかよ……。

 俺は肩を落としてガックリと項垂れる。


「ちなみにアナタの魔力量はさっき私の所に来た女の子の1/30くらいね」

「希望を持たせておいてトドメ刺すの趣味悪くね?」


 さっき来た女の子というのにはカルミアちゃんの事だろう。女神様の話によると魔法の素質があるらしいからまぁ当然かもしれない。


 が、占い師は表情を硬くする。俺が「どうしたんすか?」と尋ねると、占い師は一瞬口にするのを躊躇したように見えたが、少し間を置いて語り出した。


「……カルミアって娘はアナタの友達よね?」

「俺の嫁っスけど」


 メッチャ嘘だけど。何なら結婚どころか告白すらしてないけど。


「……あの娘には気を付けなさい」


「……あ?」

「あの娘の魔力を探った時に気付いたのだけど、あの子は得体の知れない何かが憑りついているわ。それも相当性質の悪い……あの子自身も影響を受けている可能性もある」

「……何だそりゃ? 幽霊でも憑りついてるって事っスか?」

「そうかもね……それだったらいいのだけど……」


 俺は占い師が言っている事の意味がよく分からずに首を傾げる。


「いや、カルミアちゃんは元々なんとか聖教会とかいう所で暮らしてた子ッスよ? そんなおかしなモノが憑りついてたら神様が何かが守ってくれるでしょ。守護神でも付いてんじゃねーの?」

「……」


 俺がそう言うと占い師は黙り込んでしまった。


 カルミアちゃんは滅茶苦茶良い子だし、そもそも神様の啓示を受けた”勇者様”だぞ?


 この占い師が言うようなモノなんて存在するわけがないだろ。


「多分それ勘違いッスよ。アンタは知らないだろうけどあの子はいつも一生懸命正しい事を為そうしてるんだ。だから彼女の事を悪く言うのは止めてくれ」


 彼女の事を腫れもののように言われた事に俺は腹を立てていたのだろう。ここまで言うつもりはなかったが辛辣な言い方をしてしまった。


 占い師は俺の剣幕に圧されたのか「ごめんなさい、私の勘違いかもしれない……忘れて……」と、頭を下げて謝罪をしてきた。


 俺も流石に罪悪感を感じたので頭を下げてもらうのは止めさせて、俺も一応言葉を訂正して謝罪してから部屋を出た。


「……何なんだよ、全く」


 部屋を出ると思わず愚痴が出てしまった。すると俺を待っていたのか男のギルド職員が入り口のすぐ傍で待機しており話しかけてきた。


「何かありましたか?」

「あ、大丈夫っす」

「そうですか。次の検査がありますので行きましょうか」

「うぃーっす」


 俺はそのままギルド職員に連れられて、別の部屋へと案内された。


 ◆◇◆


「次は実際の戦闘力を検査させて頂きます」


 次に俺が案内されたのは、見学の時にも一度訪れていた訓練場だった。


「いや、俺は一応『斥候』希望なんだけど……」

「はい、存じております。斥候は直接的な戦闘力を求められる役割ではありませんが、常に危険を冒してパーティを導く役割があります。その為、敵の奇襲を受けやすいので最低限の強さが求められるので、戦闘力の検査は必須項目となっています。戦闘経験はおありですか」

「まぁ一応は」

「普段主力として使ってる武器種は?」

「一応、剣だけど」

「なるほど。ではこの試しの剣を持って軽く素振りをお願いします。それである程度の錬度が知れますので。その後に簡単な実戦試験を行います」


 そう言ってギルド職員から木で出来た剣を投げ渡される。

 俺はその剣を鞘から抜いて何度か振ってみる。


 カルミアちゃんに指導されたお陰で素振りに関しては並以上だと自負している。

 あくまで自負してるだけで実際は知らんけど。


「……ふむふむ、かなり洗練されていますね。では、私が打ち込みますので防御してみてください」

「うーっす」


 ギルド職員は木剣を構えると、俺に向かって打ち込んでくる。最初は単発で何度か打ち込んでくるが、俺はそれを軽く防御してみせる。


 カルミアちゃんの一撃に比べたら全然大した事が無い……と思っていたのだが……。


「ふむ、最低限の守りは出来ていますね。ではここからは連続して打ち込むので凌いでくださいね」

「えっ」


 と、俺が一言漏らした時には既に職員は連続した攻撃を繰り出してきていた。


「うおっ!?」


 俺は必死にその剣戟を受け止める。だが、ギルド職員の放った連撃は想像以上に重く素早かった。数度受け止めることは出来たが、徐々に手が疲れてきて軽く面を取られてしまう。


「あいたっ!」


 ギルド職員は寸前で力を抜いて俺に当ててきたがそれでも痛みで声を出してしまう。


「……ふむ、防御面はまだまだ……と。素直に攻撃をガードばかりしていては身が持ちませんよ?」

「いや、反撃しろって事か!?」

「そういう意味ではないのですが……では次はそちらが攻めてきてください」

「くそっ……! アンタ、見た目より全然強いっぽいから手加減しないからな!」

「私はこれでも戦闘指導員ですから本気で構いませんよ」

「マジかよ」


 ギルド職員はそんな事を言いながら木剣を構える。俺は一旦距離を取ってから、軽く息を吸って一気に攻勢に転じる。


 上段からの振り下ろし、斜めからの薙ぎ払い、下段から上段への振り上げ。カルミアちゃんに習った剣の型を思い出してガンガン追撃する。


 ギルド職員は俺の攻撃を全部受け止めることは無く、回避したり軽く合わせて弾いたり、それが無理なら剣で防御する。そして互いの剣がぶつかり合って膠着状態になる。


「ふむ……! 防御はともかく攻撃に関してはそれなりですね」

「ぐぎぎ……!」


 ギルド職員は膠着状態で抑え込みながらもそんな余裕の言葉を吐く。

 逆に俺は何とか一撃を当てようと必死だ。


「力はそれなりにあるようですが無駄に力が入り過ぎですね。緩急を付けて相手の態勢を崩すなど工夫を覚えればもっと強くなれそうですが……まぁ試験はこれくらいで十分でしょう」


 ギルド職員はそう言いながら、剣に力を込めて俺の剣を弾く。


「くっ……」

「防御面は及第点に届きませんが、攻撃面は斥候としては及第点です。後の事は別の職員に任せるとしましょうか」


 ギルド職員はそう言って木剣を収める。俺もそれに倣って剣を鞘へと収めた。


「最後は斥候として最も大事な注意力の検査です。では右隣りの部屋に行ってください。そこで別の職員が待ってますよ」

「……へーい」


 俺は不満の声を漏らしながら試しの剣を床に置いて指示通り右隣りの部屋に向かった。


「あ、来た」


 俺が部屋に向かうと、小さな女の子に出迎えられてしまった。


「……誰?」

「失礼な! これでもリリィは立派なギルド職員だぞっ!」

「え、ギルド職員で子供でもやれんの?」

「誰が子供だっ!!」


 そういう彼女は少女というより幼女と言いたくなるくらい幼い見た目だった。


 クリクリの大きな緑色の瞳、長い黒髪を後ろで束ねてポニーテールにしており、その幼い外見と落ち着きのない年相応の言動と合わさってまるで小動物のようだ。


 服装は他のギルド職員と同じような格好だが無理して着ているのかサイズが合っていない。愛らしいといえば愛らしいのだが、大人に対しては失礼極まりない言動もあって生意気な印象が勝る。


「こほん……それで、キミが”斥候”希望の冒険者見習いさん?」

「ああ」

「素質無さそう」

「あ?」

「っていうか弱そう」

「いや、お前に言われたくないが」

「リリィは超優秀だぞ!」

「いや、お前も弱そうじゃん。てか子供じゃん、何ならメスガキじゃん」

「むぐぐ……!」


 俺の歯に衣着せぬ言葉にリリィは顔を真っ赤にする。どうやら見た目通り子供らしい感情的な人物のようだ。からかうと面白そうだが、今はそういう事をしてる場合ではないか……。


「まぁいいや。じゃあさっさと試験とやらを始めてくれ」

「な、納得いかない……で、でも仕事だからやらなきゃ……! リリィは優秀……超超優秀なんだから、こんなアホそうな奴の煽りに負けちゃいけない!」

「や~い、メスガキ~! 優秀なクセに冒険者見習いに翻弄されて情けなくないの~?」

「キモッ!? ってかウザッ!!」

「いや、逆転の発想で俺がメスガキを演じてみようかと」

「誰も望んでないよ、そんなの!?」

「んじゃあ早いとこ始めようぜ」


 俺はそう言ってリリィに話を促す。

 すると彼女はコホンと一つ咳ばらいをしてから説明を始めた。


「斥候の試験は”目”を見るよ。キミ、目は良い方?」

「ああ、まぁ普通かな」

「なら……まずは床と周囲の壁を見て」


 ちびっこ職員リリィはそう言いながら左手を人差し指を突き出して自分の足元の床に指先を向ける。


「この部屋の中の床と壁にトラップが隠されてる。全部で二つあるからそれを探してみて。もし気付く前に引っかかったら減点だよ」

「それが試験内容か?」

「そう、優秀なリリィは全部分かってるけど、キミは何処までやれるか見ものだね」

「おうおう、そこまで言うやらやってやろうじゃん」


 俺はリリィの挑発に乗って周囲の床を見渡してみる。


 ……見た感じ特に異常らしい物はない……が……。


「……ん?」


 デバッガーとしての能力の恩恵だろうか。一部の床のマス目がグリット線のように四角で区切られており、そこの部分だけが他と比べて浮いているように見えた。


「いや、バレバレじゃん」

「え?」


 俺の言葉にリリィが反応するがスルーしてグリット線に囲まれた床に近付く。そして自前の剣を取り出してグリット線の中の床を突いてみる。すると床が簡単に崩れてぽっかりと穴が開いてしまった。


「落とし穴か、古典的な……」

「うそ。なんで一発で分かったの!?」


 リリィは唖然としてそんな声をあげる。


「いや、あんな線に囲まれてたら誰だって分かるだろ」

「線……? そんな分かりやすくした覚えは……」

「……ん、向こうにもなんかあるな」

「は?」


 相変わらず変な反応をするリリィを無視して俺はその場に近付く。

 今度は部屋の壁の方に不自然な黒いシミが見えた。


 俺は近づかずにポケットから財布を取り出してコインを一枚壁に向かって投げてみる。そのコインが壁にぶつかると、壁がいきなり1メートルくらい前に動いた。


「これは、壁に近付くと押し出されて転ばせる罠か? やってることは派手なのに効果はショボいな……」

「むむむ……! テスト用の罠だから敢えてショボくしてるの!! ……っていうか何でそんな簡単に分かるわけ!?」

「いや、壁に不自然にシミが出来てたら分かるだろ?」

「……シミ? ……いや、リリィが仕掛けたのは壁に使われてる一部の素材にヒビを入れて判別できるようにしたのだけど……」

「ヒビ……? あ、言われてみれば足元だけちょっと崩れてるな」


 なるほど、判り難いが一応その方法でも判別が可能なようだ。


「シミなんて何処にもないじゃない! どうやって気付いたの?」

「……?」


 なんだかさっきから話が噛み合わないな。

 さっきの落とし穴も「そんな分かりやすくした覚えが無い」って言ってた。

 そんな事を考えていると、俺は少し前の女神との会話を思い出す。


『その剣はこの世界の不具合を正常化させる能力がありますが、副次的な効果として巧妙に隠された物を発見し解除する能力もあるので――』


 俺、バグ剣なんか使ってないんだが……?

 俺自身がバグ剣の特性を取り込んで発見できるようになってるのか……?


「うぐぐ……く、悔しいけど……素質無さそうって言ったことは撤回する……合格だよ」

「お、おう。認められて何よりだ」


 俺が考えているとリリィの方から降参の声が聞こえてくる。


「ひとまず、これで検査と試験は全部終わりだよ。後は呼ばれる前に待機してた場所で待っててね」

「そうか、親切にありがとな」


 俺がお礼を言うとリリィは鼻をフンスと鳴らして得意げに胸を張った。


「ふふん! もっと感謝してくれても良いよ!」

「おう、サンキュ。メスガキリリィちゃん」

「誰がメスガキ!?」


 そう言って俺はちびっこ職員リリィを揶揄いながら部屋を出るのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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