第45話 ”せ○こう”ってなあに?
ひとしきりギルド内を見学した後、俺達は女性のギルド職員に呼び止められて奥の客室に連れて来られた。
「では仮登録という事で、お三方にこの書類を書いていただきます。同時に能力検査をさせて頂きますので、名前を呼ばれた順に奥の部屋に進んで下さい」
ギルド職員がそう言うと、俺達三人の前に書類を置かれる。
「では、ごゆっくりお書きください。私は準備の方がありますので」
ギルド職員はそう言って席を立つ。そして俺達を置いて部屋を出ていってしまった。
「行っちゃいましたね……」
「まぁ言われた通りに私達は書きましょうか。ほら、砕斗もボーっとしてないで」
「はいはい……あー細かい文字見ると嫌になる……」
俺は女神様に促されて書類を読み上げる。目の前の書類に書かれた言語は俺には読めないはずだが、隣の女神の加護で翻訳が可能だ。
「ええと……戦術面における役割……軽戦士・弓使い・槍使い・重戦士・魔道士・治療師・せ……せっこう?」
俺が書類を読み上げると女神様が補足を加えていく。
「戦闘における役割……軽戦士は接近戦を、魔道士は遠距離から魔法攻撃や支援を、弓使いは遠方からの援護射撃を担当……といった感じですね」
「この重戦士ってのなんだ?」
俺がそう質問すると、カルミアちゃんが書類に文字を書き記しながら答えてくれた。
「重戦士というのは機動性よりも防御面を重視した前衛の事。他の仲間達よりも前に出て攻撃に耐えながら仲間を守るのが主な役割ですよぉ」
「あーなるほど、所謂タンク職か」
「この中で自分に合った役割を選んで冒険者として仮登録するって流れでしょうね」
「ほー……で、治療師の後ろに書いてある……ええと……」
「”斥候”です」
「ああ、それそれ。これどういう役割なんだっけ?」
「……砕斗。なんでゲーム会社に勤めてるのにこの意味を知らないんですか?」
女神様は呆れ顔で俺を見る。
「いやいや、あまり見かけない職業だからピンと来なくて」
「斥候とは、ダンジョン内でパーティ最前列を歩いて、罠や敵の奇襲を発見してパーティに注意を促す役割のことです」
「まぁ、盗賊とかスカウトの役割ですね」
最初にカルミアちゃんが解説してくれ、その後の女神様の補足でピンと来た。
「ほうほう、つまり一番危険な役回りって事か」
「まぁそうなりますね」
「よし、じゃあこれは除外しとこう」
「……砕斗」
俺が頭の中で”斥候”の文字を真っ先に除外すると、女神様はジト目で俺の事を見た。
「なんだよぉ……」
「……別に良いですけど、自分に何が出来るか考えてから選択した方が良いですよ」
「そういうミリアムは何を選んだんだよ?」
俺が女神様の質問すると、女神様は自分が書いている書類を俺に見せてくる。
「私が選んだのは『呪文使い』ですね」
「え、何それ?」
「魔法使いと治療師の上位職です。私は攻撃魔法も治療魔法も両方使えますから」
「へー……カルミアちゃんは?」
「魔法剣士を選んでみました、えへへ」
……二人とも、明らかに基本職を飛び越えてないか?なんかズルくない?
「それで、サイトさんは何を選んだんですか?」
「何を……って、そりゃあ……」
……俺って役割あんのか?
「……」
……あれ、もしかして俺って……。
「役割なくね……無職か?」
俺がそう呟いた瞬間、左右の二人のジト目が俺に圧し掛かってくる。
「砕斗……」
「サイトさん……」
「いやいやいや、別に楽したいから言ってるわけじゃなくて……!」
そもそも俺は女神の力で不具合を修正する力を持っているけど、それ以外は完全に一般人だ。少し前にカルミアちゃんに剣を教わったが、だからといって俺が軽戦士の役割をこなせるかかなり怪しい所がある。
「ええと、俺は一応『軽戦士』ということで……」
「……カルミアさんの魔法戦士の下位職ですね」
「うぐ……じゃあ『重戦士』を……」
「サイトさん、重い鎧を身に付けられるんですか?」
「ぐぬぅ……」
二人に突っ込みを入れられて俺は完全に手が止まってしまった。
カルミアちゃんの下位互換と言われてしまうとその通りだがそれを認めるのは気に入らないし、かといって重戦士の役割をこなせる自信もない。魔法を使えるわけでもないし、槍なんて持ったことないし、弓も中学校でちょっと触ったくらいで……。
……や、やべぇ……マジで出来ることがねぇよ、どうしよ……。
俺が頭を抱えて悩んでいると、奥の部屋から別のギルド職員がやってくる。
「――カルミア・ロザリーさん。準備が出来ましたので、奥の部屋へとどうぞ」
「あっ……はい!」
カルミアちゃんは返事をすると席を立つ。
「私、行ってきますね」
「ああ……うん……」
「サイトさんも絶対に役割があるから頑張ってくださいねっ」
「お、おう」
俺はカルミアちゃんの励ましに返事をしながら、去っていく彼女の背中を見送るのが精一杯だった。そんな俺の様子を見て女神様は溜め息を吐きながら、俺に言った。
「で、どうするんです?」
「無職で良いっスか?」
「そんな役職ありません……そうですねぇ、貴方は『斥候』が一番合ってると思いますが」
「いや、無理だろ!」
俺は女神様の言葉を即座に否定する。
戦闘の素人である俺が最も危険そうな役割である斥候が務まるとは思えない。
斥候の役割は最前列で罠や敵を発見して仲間に警戒を呼びかけるという話だ。
要するに最も敵の攻撃の不意打ちを受けやすいという事になる。
はっきり言うが、俺はこの中で断トツで戦闘力が低い。
勇者であるカルミアちゃんとの剣の技量差は”100戦中1勝99敗”という絶望的な戦績。
更に彼女は攻撃魔法を使えるが、俺は何一つ魔法なんか使えない。そうなると彼女に魔法を教えた女神様にも敵わないという事になる。
……というわけで、俺が斥候なんて役割がこなせるとは思えないのだが。
「意外とそうでもないですよ。貴方、私が前に差し上げた『バグ剣』があるじゃないですか」
「あれはバグ修正用ツールだろ……攻撃力0のゴミ武器だっての!」
ちなみに一度だけゴブリンに試したことあるが、小気味良い音がするだけでゴブリンはノーダメージで襲い掛かってきた。
「確かに戦闘では役に立ちませんがダンジョン攻略では役に立つと思いますが」
「いや、何処がだよ」
「カルミアさんに聞きましたよ? コボルトの巣を二人で攻略していた時、その剣で隠し通路を発見したって」
「え」
……そういえば、そんな事もあったような。
「その剣はこの世界の不具合を正常化させる能力がありますが、副次的な効果として隠された物を発見し解除する能力もあるので罠解除などに使えますよ。以前に与えた『チート無効』能力もありますから、仮に何かしらの封印が施された扉があっても封印を無力化出来る……はず」
「これそんなチートアイテムだったのかよ?」
どうみても後付けみたい設定にしか見えないが、俺は女神様の話を聞いて驚愕する。最後に曖昧に付け足した言葉がちょっと気になるが……。
「その剣があれば『斥候』の役割を果たせるかと、多分」
「えー……」
「それに、貴方は案外タフで根性がありますし、逃げ帰るくらいの事は出来ると思います」
「根性論かよ……」
女神様の訳の分からない評価に俺は眉を顰める。
「そういうわけなので、斥候で良いのではないでしょうか?」
「……」
俺は悩んだが仕方なく『斥候』の項目にチェックを入れるのだった。
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