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第43話 女神様「若いっていいですね……」

 それから数時間後。俺達は滞りなくレガーティア王国に辿り着いた。入り口の前には他にも旅人が来ているようで行列が出来ていた。


 明らかに行商人の風貌をした男性や、俺達のように旅姿の民間人の姿もあった。だがその中に不釣り合いなほどに物々しい武器や、過剰なほど武装した者達の姿も見受けられた。


「なんだろうな、アイツら」

「サイトさん、誰の事を言ってるんですか?」


 俺が御者席から外を覗きこんでいると背後からカルミアちゃんが声を掛けてくる。


「ほら、あの衛兵を話をしてる行商人の周りに居る奴らだよ」


 俺は指を差してそいつらの場所を示す。


「……うーん、傭兵さんかなぁ……?」

「なるほど、傭兵か……」


 そう言われてみると納得だ。外には魔物も出現するのだから非武装の行商人では危険だろうし、行商人が護衛を雇うのも不自然ではない。


 それから10分程経過し、俺達の番になった。レガーティア王国の入り口で衛兵によって止められたので俺達は馬車を降りる。


「キミ達も旅人か……? 通行証や許可証の提示をしなければ入れないぞ」


 衛兵に求められて女神様は一枚の書類を衛兵に差し出す。 


「どうぞ」

「拝見させてもらう……ほぅ……グリザイユから訪れた旅の者達か」

「はい、そうです」


 衛兵は確認すると女神様に書類を返す。


「以前まではわざわざ検問などせずに誰もが出入り自由だったが、ここ数年前から魔物が人を襲う事件が多発している為、警備は以前より厳しくなっているのだ」

「なるほど、物騒ですからね」

「”黒炎団”とかいう凶悪な犯罪者集団の話も聞くしグリムダールの方では最近被害があったらしい。魔物ばかりか人間まで警戒せばならんとなると、我々も人手が足りんのだ」

「……黒炎団か……」


 衛兵の愚痴を聞いて俺はラズベランの街の事を思い出して顔を顰める。奴らに懸賞金が掛かっていることは聞いているが、やはり何処の国でも問題になっているらしい。


「あの、この国ではそういった脅威に対抗する為に戦力を集めているって聞いてるんですけど……」


 カルミアちゃんが衛兵にそう質問する。


「ああ、冒険者ギルドの事か」

「冒険者ギルド?」

「最近、レガーティアで設立された組織でな。腕に覚えのある旅人や武芸者などを中心に構成されており、レガーティア周辺の危険地帯や魔物の生息地の調査、物資の輸送の護衛を主な仕事としている。我が国の国王様が脅威に対抗する為に考案されたのだ」

「へー、冒険者ギルドかぁ……ファンタジーの定番だな……」

「ん? 何か言ったか?」

「いや、なんでもないっす」


 ”冒険者”という言葉は創作ファンタジーやゲームなどを嗜んでいると割と聞き慣れた単語だ。冒険者を題材にした創作作品は多く、主にダンジョン探索や魔物討伐を生業にしている。


「もしかして、さっき行商人の周りに居た人達って……」


 カルミアちゃんは衛兵にそう質問する。


「ああ、彼らも冒険者だよ。彼らがこの周辺を巡回して魔物討伐している時に、行商人が魔物に襲われそうになったところを助けたらしい」

「へぇ……そういう事もやるのか。冒険者はボランティアで魔物と戦ったり護衛もするんだな」


 俺がそう言って感心していると、衛兵は一瞬間の抜けた顔をしたと思ったら、急に笑い出した。


「ははは、そういう親切な奴らも居るだろうが、『護衛』は冒険者の仕事の一つだ。彼らも行商人と交渉して護衛を受け持ったんだろうさ。当然、魔物退治の方もギルドから報酬を出されるようになっているよ」

「あ、そうなんすか」


 流石に無償で魔物退治を受け持つような冒険者は滅多に居ないらしい。

 自分の命が掛かってるのだから当然とも言えるが。


「おっと済まない、話が長くなったな。ようこそ我が国レガーティアへ」


 そう言って衛兵は俺達を歓迎して道を開けてくれた。


 ◆◇◆


 馬車で王都の門をくぐるとそこは賑やかな光景が待っていた。


 市場には多くの店が並び、多くの人が行き交っている。そして屋台やお店の前から様々な声が聞こえてきて盛況なようだ。


 グリムダールと比較すると城下町はそれほど広いわけじゃないが、人通りは多くて活気がある。


 俺達は歩き回りながら宿を探す。


「しかし、活気があるのは良いですが、武装した人達が多くて少々気が休まりませんね」


 女神様はそう言ってすれ違う人達を見る。すれ違った人物は男女バラバラだが、約5割は入り口で見たような冒険者の出で立ちだ。


「あれが冒険者なんだろうなぁ」

「これだけの数が居るとなると、その冒険者ギルドとやらはかなり盛況なのかもしれませんね」

「まぁ、そいつらの事は良いとして……俺達はこれからどうする?」


 俺は足を止め振り向いて二人にそう問いかける。


「とりあえずは宿を見つけましょう。国王への謁見は明日で良いでしょう」

「ああ、賛成……カルミアちゃんもそれでいいか?」

「……え? あ、はい」


 俺の声掛けにカルミアちゃんは少し遅れて返事をする。


「……もしかして王様の話をしたから緊張してる? カルミアちゃんの気持ちの準備がまだならすぐ明日じゃなくてもいいんだけど……」


 俺はそう言って彼女に気を遣うが、カルミアちゃんは横に首を振った。


「ううん、そうじゃなくて……”冒険者”ってのがちょっとだけ気になりまして……」

「気になるって?」

「ギルドの方を一度見学してみたいなぁって……どうですか?」

「俺は別に構わないけど……ミリアムはどうする?」


 ここは街の中だ。

 女神様の事は以前の約束通り『ミリアム』と呼び捨てにしながら尋ねる。


「構いませんよ。私自身、冒険者の活動を見たことがないので少し興味があります」


 女神様は微笑みながらそう答えた。


「じゃ、決まりだな……謁見はひとまず後回しだ。とりあえず宿に行って腹ごなしをしてから『冒険者ギルド』とやらに行ってみようぜ」

「はい♪」


 俺はそう言ってカルミアちゃんの手を取ると、そのまま歩き出したのだった。そんな二人の背中を眺めて、一人置いて行かれた女神は思う。


「私の手は取ってくれないんですね……」


 地味に凹んでる女神様であった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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