第42話 危機感を覚える主人公
グリザイユを出てから三時間程経過した頃。
俺達は馬車に乗って街道に沿ってレガーティア王国を目指すが、まだまだ道のりは遠い。集めた情報によるとレガーディアまでの道のりはおよそ2日掛かるそうだ。
俺達は途中にある休憩所で馬と身体を休ませながら進んでいく。そして旅立って二日目の最後の休憩所に立ち寄り、残りあと一息という所まで来た。
「はぁー……明日の午前には何とか辿り着けそうだな」
俺は馬車から飛び降りて伸びをしながら二人に言う。
「そうですね……私も少々疲れました」
「ねむーい……」
彼女達もここまでの旅でそれなりに疲労しているようで、
「今日は早めに休んで明日に備えましょう」
「さんせーいです……」
「なら早く休憩所に入ろうぜ」
と女神様が提案し俺達もそれに賛成する。
そして休憩所に設置されている小さな厩舎に馬を休ませて休憩所の中に入る。
休憩所は旅人が休めるように仮眠用のベッドが設置されており、それ以外にも怪我をした時の為の救急箱など簡単な医療施設も完備してある。
これらはレガーディア王国が旅人や商人に安全に旅をしてもらえるように配慮した設備だそうだ。ちなみに台所やトイレもしっかり完備しているので調理も可能だ。
「さて、夕食はどうしますか?」
「よし、たまには俺が作るわ」
俺は休憩所の机に荷物を置いてから鎧を外して調理の準備を始める。
「あ、じゃあ私も手伝います!」
カルミアちゃんも荷物を置いて俺の傍まで歩いてくる。「ありがとう」と俺は笑顔で彼女を迎えた。
◆◇◆
数十分後。
グリザイユで調達した食料は十分に残っていたので今日は結構豪華な感じになった。
休憩所の厨房で俺達が作ったのは鳥肉のトマト煮込みだ。それにパンとサラダも作ったので結構良い感じに夕食を用意できたと思う。更に麦も調達してあるので麦飯も用意出来た。その辺の食事処には劣るが自炊ならば中々のものだろう。
そして全員分の食器とコップを用意して席に着き、手を合わせて食事を始める。
まず自分の作った鶏肉料理を食べて頬張って一言。
「うん、やっぱ俺の料理最高だわ」
「自画自賛ですか……」
女神様が俺の言葉に呆れながらスープに手を付ける。
「んな事言うけどさぁ、アンタそんなに料理作ってくれないじゃん」
「サイトさんは見掛けによらず料理上手ですもんね。でも私としてめ……ミリアム様がどんな料理をおつくりになさるのか興味があります」
「……ま、まぁ機会があれば」
カルミアちゃんの言葉に女神様は苦笑して答える。そして食事を終えて食器を洗い、俺達はそれぞれ自分のベッドに横になった。
――次の日の朝。
休憩所から出て馬車を再び走らせる俺達。
しかし、道中で荷台に積んである食料に目を付けたのか魔物が近寄ってきた。
遠目から見る感じゴブリンだろう。数は二匹と少ない。
「……ち、魔物だ」
「どうします、このまま走って逃げ切れますか?」
御者席で俺が舌打ちをして呟くと、女神様が俺に近くに来て窓から外を覗きながら言う。
「いや、倒した方が早い。無理に逃げてまた馬を暴走させると面倒だし」
「じゃあ私が出ます!」
俺がそう判断するとカルミアちゃんがすぐに立ち上がって馬車の外に飛び出す。敵の数はそう多く無さそうなので彼女一人でも対処は出来そうだ。
カルミアちゃんも判断したのだろう。
俺が出ようとする前に素早くゴブリン達に向かっていく。
「ゴブッ!?」
「ゴブブ!!」
ゴブリン達は謎の言語で話し合いながら笑い、彼女に向かっていく。
カルミアちゃんはいつも通り、短剣を構える……事はせず、手を伸ばしてゴブリン達に手のひらを向ける。
そして――
「<火球>!!」
彼女がそう叫ぶと、彼女の掌から30センチの程の大きさの火の玉が発射されゴブリン達に向かって飛んでいく。
「ゴブッ!?」
「ゴブゥッ!?」
火の玉は見事に命中し、二匹のゴブリンを焼き尽くす。そしてそのまま燃えながら地面に倒れた。
「おお、すげぇ……一発でゴブリンに飛んでったぞ」
少し前までまともに操作しきれなかったことを考えるとかなりの上達っぷりだ。
「驚くのはそこなんですね」
「まぁカルミアちゃんならゴブリンくらい楽勝だしなぁ……」
「確かに……まだまだ未熟ですが、これで彼女も勇者として一歩成長しましたね」
「勇者として……ね」
「なんですか、何か言いたい事でも……?」
「……いや、大変だなって思ってさ……あんな普通の女の子なのにさ」
「今更ですね……それを理解したうえで貴方は彼女と旅することを選んだのでしょう?」
「ああ、ちゃんと理解してるさ。アンタも含めて一蓮托生ってやつだろ?」
「ええ、その通りです」
俺達がカルミアちゃんの事を話していると彼女が足早に戻ってきた。
「どうでした、女神……ミリアム様?」
「良い感じですよ。以前と比べて精密操作の錬度が上がっています。この調子であれば近いうちに更に高度な魔法も使えるようになるでしょう」
「本当ですか!? 良かったぁ……」
女神様に褒められてカルミアちゃんも嬉しそうだ。
しかし、アレだな。
カルミアちゃんが強くなると、どんどん俺の影が薄くなっていくな。
折角彼女に剣技を教わって多少は強くなったつもりなのに……。
「では、カルミアさんは馬車で休んでいてください。私が馬車を動かしますので」
「ありがとうございます、ミリアム様」
彼女は返事をして馬車の中に入っていった。
「行きますよ、砕斗。貴方も馬車に乗り込んでください」
「ああ……」
俺はそう返事して馬車の中に戻る。そして女神様が馬を走らせ始めると、俺はこっそり女神様に近付いて声を掛ける。
「……なぁ、やっぱり俺も魔法教えてくれよ」
「……前に言ったでしょう。貴方はこの世界の住人じゃないのですから魔法の素質は……」
「でもあの子に全部任せるわけにもいかねーだろ……なぁ頼むよ」
俺がそう頼み込むと女神様は「はぁ」とため息を付く。
「……レガーティア王国に着いたら多少指南はしてあげますよ。ですが、魔法に関しては本当に才能が無いので多くは期待しないでくださいね」
「ちぇ……まぁ仕方ないか。んじゃ俺は着くまで横になるわ……」
「ええ、おやすみなさい」
そして俺は馬車で横になってレガーティアまでひと眠りすることにした。
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