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第40話 謎が謎を呼ぶ

「……ねっむ」


 翌朝、俺は欠伸をしながら”ラフレシアンの宿屋”を後にした。


 ロビーに向かうと既にダリルさんが俺が戻るのを待っていて、俺は彼に約束のお金を渡して鍵を交換してからお礼を言って別れた。


 その際、「目的の夢は見られたかい?」と聞かれたが、俺は曖昧に笑って誤魔化しておいた。


 宿屋の外に出た俺は、空を見上げる。


「……結局、アレは何だったんだ?」


 見た夢の事を考えたがさっぱり分からない。

 霧掛かった光景と大きな湖、そしてその畔に佇む青髪の女性……。

 しかし、その女性は半分人間で足は人間のソレでは無かった。


 あんな夢を連日のように見る宿であれば話題になるのは納得ではあるが……。


「……とりあえず、カルミアちゃん達と合流するか……」


 昨日行った食事処『安らぎの食卓』で二人と待ち合わせしている。

 今から行けば時間には間に合うだろう。そう考えて『安らぎの食卓』に眠い目を擦りながら向かうのだった。


 ◆◇◆


 目的の『安らぎの食卓』の店の中に入ると、店の奥からカルミアちゃんの声が聞こえた。


「おーい、サイトさーん」

「ん?」


 声のした方を振り向くと、店の奥のテーブルからカルミアちゃんがこちらに手を振っているのが見えた。俺はカルミアちゃん達に手を振り返しながらそちらに向かう。


「おー、はよー……」

「おはようございます、砕斗」

「おはよーです……あの、随分眠そうだけど大丈夫です?」


 カルミアちゃんが俺の顔を見て心配そうに言ってくる。


 俺は大丈夫と言いながらテーブルの椅子に座ると、今度は女神様が俺の傍に近寄って背後を取ってくる。なんだなんだ?


「ああもう、髪が乱れてますよ。ちゃんと寝癖直しましたか?」


 女神様はそう言いながら俺の髪の先っぽを引っ張ってくる。


「んーにゃ……一回目覚めて二度寝したら時間が全然無くて急いで宿を出てきた」


「部屋を出た時に忘れ物とかしなかったでしょうね? ……ほら、動かないでください」


「ん」


 女神様はそう言いながら櫛を取り出して俺の髪を梳き始める。

 彼女の手が俺の首に触れてちょっとくすぐったい。


「ちょっと砕斗、子供じゃないんですからじっとしててくださいよ」

「子供じゃねえ」


 周りのテーブルの客が俺を見ててメッチャ恥ずかしいんだけど。

 視線に耐えられなくなって俺はテーブルに顔を引っ付ける。


「……カルミアさん、彼の代わりに朝食持ってきてあげてくれませんか?」

「はい……ふふふ、二人って本当に仲良いんですね」


 俺からは見えないがカルミアちゃんは笑ってそんな事を言う。


「仕方なく世話をやいてるだけです。砕斗がだらしないのがいけないんです」

「うっせぇ」

「そんな風にしてるとなんだか姉弟みたい……サイトさんも大人しくて可愛い……」

「そ、そうですか……姉は悪くないかもしれませんね……」

「でも女神……ミリアム様はお母さんっぽい気もします」

「お母さん!?」

「あはは……あ、注文してきますね」


 そう言ってカルミアちゃんは奥に遠ざかっていった。

 俺の朝食を代わりに持ってきてくれるのだろう。

 その後ろ姿を見送っていると女神様が俺の背中をポンポンと叩く。


「ん?」

「それで、目的の”夢”はちゃんと見れましたか?」

「……ああ。カルミアちゃんが戻って来たら話すわ」

「……てっきり、美人女性の裸が見れて満足してるかと思いましたが、そうでは無さそうですね」

「なんで俺の裏目的がバレてるし」


 女神様の言う通り、俺が夢を見る役目を買って出た目的の3割くらいがそれである。


「いや、冗談のつもりだったのですが」

「誘導尋問かよ」

「ただの自爆だと思いますよ?」

「んー……でもなぁ、正直あの夢見たらそんな気分でも無くなるわ……」

「……」


 女神様は俺の言葉に返事をせず、引き続き俺の髪を櫛で梳き続けるのだった。


 ◆◇◆


 それから、カルミアちゃんが持ってきてくれた朝食を平らげた俺は、二人に昨日見た夢の話を伝えた。


「……ふむ、周囲が霧に覆われていて橋が架かってる湖ですか」

「夢の中の話だから現実にそんな場所があるかは怪しいもんだけどなぁ」

「それで、その女性は普通の人じゃなくて……」

「ああ」


 カルミアちゃんの質問に俺はゆっくり頷いて、夢の中で見た女性の姿を思い出す。


 青髪で美しい白い肌の女性。


 振り向いた時の顔立ちはやや幼くて、俺の好みからは若干外れる貧乳だったのは置いといて……。


 その女性の下半身は人間の足ではなく、魚のような鱗で覆われていた。


「それって伝説にある『人魚』じゃ……」

「なるほど、言われてみりゃ確かに人魚っぽかった……」


 異世界にも『人魚』という空想上の生物が伝説と伝えられているのは親近感を感じるが、この異世界では実在するのだろうか?


「んで、夢の最後に人魚が言った言葉は……」


 ”わたしをみつけて”。

 俺は思い出しながら二人に人魚の言葉を代弁する。


「……」

「……」


「で、ミリアム。どう思う?」

「どう、とは?」

「この夢の意味だよ。最後の言葉から察するに、人魚は自分を探してほしいって言ってるんだと思うが」

「……おそらく、その人魚は実在するのでしょうね。そして誰かが何らかの意図を持って、この夢を客に見せている……」

「……でも一体誰が?」


 カルミアちゃんが疑問を口にするが……。


「それは具体的には分かりませんね」


 女神様は首を横に振ってそう答えた。


「人魚が自分を見つけてほしくて、宿の客に夢を見せている……と考えるのが自然でしょうか」

「それか、宿屋の誰かの仕業ってのも考えられるか」


 女神様の推測に俺も乗っかって自分の意見を語る。ただこの場合だと、その人物が何の目的でそんな事をするのか見当が付かない。


「霧の掛かった大きな湖に、長い架け橋がある場所……」

「なぁカルミアちゃん。この世界のどっかにそんな場所あるか?」

「……うーん、霧が掛かってる大きな湖ですかぁ。……あ」


 俺がそう聞くとカルミアちゃんが何かを思い出したような顔をする。


「ある?」

「ええと……ルーシア聖教会の司祭様が以前にそのような事を仰っていました……。ルーシア聖教会から遥か南西の場所に、願いの叶うとされる大きな湖があって年中霧が掛かっているとか……ただ、架け橋があったかどうかまでは……」


 カルミアちゃんは申し訳無さそうに顔を伏せる。


「いえ、情報が少ない今の段階でそこまで分かれば十分です」


 女神様はそう言ってカルミアちゃんをフォローする。

 俺もそれに頷いた。


「まぁ、分かってどうするかって話なんだけどな」

「確かに、何かしら悪意があって他人に夢を見せているならまだしも、ただの人魚のメッセージなのだとしたら、今のところは私達の目的には関係なさそうですしね」


 女神様の言う通り。


 俺達の今の目的は魔王討伐とこの世界の不具合を改善する事。それと『黒炎団』の壊滅させることの三つだが、どれも人魚との関係性は無さそうだ。


「たまたまその近くに行くことがあれば探してみるって感じかねぇ……」


 もはやただの寄り道イベントだ。


「ちなみに、カルミアちゃんの過ごしてたルーシア聖教会はここから遠いのか?」

「ええと、途中で船で大陸を渡って、その後にグリムダール城に辿り着くまでは駅逓所で馬で乗り継いで来たので……」

「……気軽に行けそうな場所じゃないなぁ……」


 俺は両肩を上下させ肩を竦めて降参の意思を示す。


「少々当てが外れたという気持ちはありますが、まぁ宿の件はこれで良いでしょう」

「その人魚を探さないんですか?」


 女神様の言葉にカルミアちゃんは拍子抜けした表情で質問をする。


「ええ」

「でも、なんだか可哀想な気がします……」


 カルミアちゃんは俺達の話を聞いて納得がいっていないようだ。


「まー、旅の目的の一つに添えておくくらいは良いんじゃね? 女神……じゃなくてミリアム」

「……! はい、それでいいと思います! どうですか、めがみさ……ミリアム様」

「……二人とも、いい加減私の呼び方に慣れて下さいよ」


 女神様は俺達の言葉を聞いて苦笑しながらそう答えるのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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