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第39話 夢の中にダイブした

 その後、結局俺達は三人で再び”ラフレシアンの宿”に訪れた。


「ひとまず宿のロビーに居る客に声を掛けてみましょうか」

「ああ」

「は、はい……」


 ミリアムの提案に、俺とカルミアちゃんは頷く。しかし、カルミアちゃんはあまり乗り気では無さそうだ。もしかしたら無理に誘ってしまったかもしれない。


「カルミアちゃん、無理に付き合わなくても良いんだぜ?」

「だ、大丈夫……こういう事はサイトさん達に頼ってばかりだから私も頑張らないと……」

「……そうか、ならいいんだけど」


 彼女は明るく振る舞ってるが、こう見えて意外と人見知りな所がある。


 元々静かな場所で生活していただけあり、旅立つまでは見知った人達以外とは交流が少なかったと聞いている。


 勇者としての啓示を受けて旅に出て彼女も努力はしているようだが、やはり知らない人達との交流には気後れしてしまうようだ。


「ふむ、砕斗。彼女にお手本を見せてあげてはどうですか?」

「いや、手本って……」


 女神様がそんな事を言ってくる。

 別に俺は人付き合いのプロとかじゃないんだが……。


「そこのソファーに座って本を読んでいる男性に声を掛けてみては?」

「……ん、まぁ……やってみるか。カルミアちゃん、参考になるかは分からんけど一応見ててね」

「は、はいっ」


 俺がそう言うと、カルミアちゃんは緊張した面持ちで頷く。そして俺はロビーのソファーに座って本を読んでいる男性に声を掛ける事にした。


「すんません、いいっすかー?」

「はい?」


 俺はなるべく軽い感じで声を掛けてみると、男性は顔をこちらに向けて返事をしてくれた。眼鏡を掛けた30代くらいのラフな恰好をした男性だ。おそらく旅行者だろう。


「なんでしょうか?」

「この宿に連泊してる人で間違いないっすか?」

「……? ああ、確かに私は一週間前から宿に泊まってるが……」

「ああ、やっぱりっすか」


 俺がそう応えると男性は怪訝な表情を浮かべる。


「……何故、連泊してると分かったんだ?」


「いや、割とリラックスした格好でくつろいでいるように見えたんで。仮に今日泊まりに来たとするなら、自分の部屋で荷物の整理とかしたりするもんだと思いますし」


「……まぁ合ってはいるが」


「多分、お一人さんっすよね。家族連れなら今頃部屋で一緒に過ごしているか外に出て遊びに行ってるでしょうし。少しだけ時間貰っても良いっすかね?」


「……私の事を調べたのか?」


「いやいや、勘で言ってるだけっすよ。不快にさせたら申し訳ないっす」


「……どうやらそのようだな。で、何の用で?」


「不躾で申し訳ないんすけど、今日だけ部屋を代わってほしいんす。

 あ、俺の宿はこことは別の宿なんですけど、この”ラフレシアンの宿屋”で噂になってる夢の事を聞いて泊まりに来たんだけど満員になって途方に暮れてまして……」


「……ああ、なるほど。あの夢の事か……」


 男は俺の話を聞いて、顎に手を当てて考える素振りを見せる。


「一回は諦めて別宿を探してきたんすけど諦めきれなくて……はは。

 今日一日分のこの宿の代金は払わせてもらいますんで、一日だけ俺の別宿の部屋を代わってもらえませんかね、宿の人には俺から言っておきますんで」


「……仕事道具はそのまま置いておくが問題ないか? もし、仮に無くなってたらキミを疑う事になるが」


「いやいや、んな事しませんって。噂の夢が気になってるだけで何なら寝る時間だけでも構いませんし。もし紛失物があったら言ってください。無茶な金額じゃなければ弁償しますから」


「……そんなに夢の事が気になるのか、面白いものでもないのに。……まぁいい……私は一旦部屋に戻って貴重品だけ取ってくるよ」


 男は呆れたように溜息を吐いて、肩を竦めるとソファーから立ち上がる。


「あざっす! 俺の名前は”サイト”と言います」


「行商人をやってるダリルだ。後でロビーで落ち合おう。その後にキミの宿に案内してくれ」


「勿論っす!」


 そう言って俺は何度も彼に頭を下げて、彼は自分の宿泊部屋に荷物を取りに行くのだった。


「……ふぅ」

「……彼女に見本を、とは言いましたが、本当に説得を成功させるとは」

「サイトさん……凄いです」


 俺が息を吐いて二人の元へ戻ると、女神様は肩を竦めてそう言いカルミアちゃんが尊敬した目を向けてきた。


「でもあの人、一人で泊まってるぽいから三人分は無理だったわ」

「まぁそれは仕方ないですよ」

「えと……私はサイトさんを参考にして、自分で他の人に頼んでみますっ」


 カルミアちゃんはそう言って笑顔を作る。

 そしてロビーの奥に走っていった。

 おそらく別のお客さんを探しに行ったのだろう。


 彼女の背中を見送った女神様は俺に言った。


「……砕斗、私は彼女が心配なので影ながら様子を見てきます」

「ああ、頼んだ。無茶しそうなら止めてあげてくれよ。俺が夢の内容を確認すればそれで問題ないわけだし」

「ええ、言われなくとも」


 女神様は頷くと、カルミアちゃんの後を追っていった。


「……さてロビーに行ってダリルさんを待つか」

 

 俺はそう呟いてロビーに向かって、部屋を交換することを受付の人に説明する。


 その後にやってきたダリルさんに再び礼を言ってから、俺は自分の宿の部屋に彼を案内して部屋の鍵を交換するのだった。


 ◆◇◆


 そして、その日の夜――


 俺は無事に一日だけダリルさんの部屋と交換してもらい、”ラフレシアンの宿屋”の一室に腰を下ろしていた。ダリルさんの商売道具が置いてある部屋には入らず、あくまでベッドを借りるだけだが……。


「さて、夜も遅くなったし寝るか……」


 俺はそう言って上着を一枚脱いで、ベッドに入って眠りに就くのだった。


 ……カルミアちゃんは上手くいかなかったか。

 ……さて、噂の夢はどんなもんかじっくり拝見してやろうじゃないか。


 ……そんな事を考えている間に、俺の意識が朦朧としていき――


 ――気が付けば、そこは霧に覆われた湖だった。


 周囲を見渡すが霧のせいか視界が悪く周囲の様子が判別しづらい。しかし湖の反対側には湖の周囲よりは霧が薄く、長い長い架け橋が架かっているように見えた。


 ……これが、噂の夢か。


 俺は声を出してみようとするが、何も発することが出来ない。


 それだけじゃない、俺は身体の自由が効かず足が勝手に湖の畔に歩いていく。

 

 おいおい、このまま湖に飛び込んだりしないだろうな……?


 夢の中とはいえ焦燥感を覚えた俺は何とか逆らおうとするが全然言う事を聞かない。


 そうこうしているうちにどんどん畔の傍まで近づいていき――


 そこで、話に聞いていた青髪の女性の姿を捉えた。


 その女性は噂の通り全裸で湖の畔に腰掛けている。こちらには背を向けているが長い青髪と白い肌の美しい背中だった。下半身が見えないのが本当に惜しい。


 どうせなら立ち上がってこちらを振り向いてくれないだろうか……と、俺がそんな風に考えていると、それまで微動だにしなかった青髪の女性がこちらの方にゆっくりと振り向く。


 その瞬間――俺は戦慄した。


 なぜなら……その女性の下半身は人の物ではなく――まるで魚の様な尾ひれだったからだ。


 それを確認した瞬間、俺の意識は徐々に遠ざかっていく。

 しかし意識が覚醒する寸前、声こそ聞こえないが彼女の口が言葉を紡いだ。



 目覚めた後に考えた結果、彼女は以下の言葉を口にしていたのだ。



『わ』『た』『し』『を』『み』『つ』『け』『て』……と。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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