第34話 またデレる主人公
「てやあっ!!」
――ズシャッ!!
「たぁぁぁぁ!!」
――ズバッ!!!
「死ねやぁぁぁぁぁ!!!」
――バキッ!ドガッ!!
「……ふぅ、コボルトは滅びたか」
「最後だけ剣じゃなくて殴ってましたよね、絶対」
「いや、身体が鈍らないようについ……」
コボルトを全て倒した俺達は一息つく。
結局、数が多くて俺一人いうわけにはいかず、カルミアちゃんに手伝ってもらって魔物を殲滅出来た。
危ない場面もあったが案外どうにかなるものだ。
正直、かなりビビってたのだが意外と大した相手じゃなかったな。
コボルトが弱いのか、それともカルミアちゃんが言うように俺がそれだけ強くなったのか……。
三週間、みっちり頑張った甲斐はあったようだ。
「サイトさんっ!」
「うおっ!?」
考えていると後ろからカルミアちゃんがガバッと抱き付いてくる。
突然の事に俺は驚きながらも、彼女の胸の柔らかさを堪能しようと背中に全神経を集中させるのだが、彼女が硬い胸当てを装備していたせいで弾力を殆ど感じることが出来なかった。
「くそっ……なんでこんな時に抱き付いてくるんだよっ……!」
「へ? ご、ごめんなさい」
「いや、どうせなのでその軽鎧脱いでもう一回抱き付いてくれると嬉しい」
「なんでですか!?」
「なんでって、そりゃ鎧着てたら柔らかさが伝わらないじゃないか!」
「何言ってるの!? 馬鹿っ!」
カルミアちゃんは顔を真っ赤にして慌てて俺から離れる。
「それでなんで急に抱き付いてきたの?」
「サイトさんが私の想像通りに強くなって嬉しくて、つい……!」
「あ、あぁ……そういう事か」
「でもこれでサイトさんも自分が強くなった自覚が出来たんじゃないですか?」
「うん、これはカルミアちゃんのお陰だね。……もしかして、女神の奴がこの話を俺に持ち掛けてきたのは……」
「あはは……実は私が相談しに行ったんです。サイトさんが自信を無くしているみたいだからどうにかならないかって……」
「なんだ、そういうことだったのか」
女神が俺に強引に行かせようとしていた本当の理由を知って納得する。
……おい女神様、村人が俺に頼み込んできたって話は嘘だったのかよ?
俺は目を瞑って女神の顔を思い出して念話を試みる。
するとすぐに反応があった。
『あら、カルミアさんが白状したのですね』
やっぱりそうかよ。村の人間が俺に話を持ち掛けてくるとかおかしいと思ったぜ。
『いえいえ、確か貴方への依頼というのは嘘でしたが、砕斗とカルミアさんの顔が覚えられていたのは事実ですよ。村の外で熱心に特訓している余所者の二人というのは傍から見ても奇異の存在で酒場でも噂になってました』
悪い意味でじゃねーか!
「サイトさん、急にだんまりしてどうしたんですか?」
「あ、女神と話をしてた……。女神様、とりあえずコボルト退治は終わったから帰るわ」
『それは良かったです。では気を付けて帰ってきてくださいね』
「ああ」
俺は途中で念話からカルミアちゃんにも聞こえるように会話して、合流場所を決める。
「よし、それじゃ帰ろうか」
そして洞窟を出ようとした時、ふと何か違和感を感じて立ち止まる。
「……ん?」
俺は途中で異様な気配を感じて足を止める。
そして、女神から与えられた能力を使ってバグ修正ツールのバグ剣を呼び出す。
「その剣……」
「なんかバグっぽい気配を感じたんだけど……」
俺は何もない袋小路の壁まで歩いていき、そこにバグ剣を突き刺した。
すると、その壁がボロボロと崩れていき、暗闇の奥に道が現れる。
カルミアちゃんはその光景に驚いて言った。
「隠し通路……サイトさん、よく気が付きましたね?」
「女神の奴に散々バグの修正させられたからなぁ……何となく感知できるようになったみたいだ」
俺はバグ剣を消失させてその壁の向こうへ歩き出す。
「あ、待ってくださいよっ」
カルミアちゃんは慌てて俺の後に続いて通路に入る。
そしてその奥へ進むと小さな洞穴があった。何とそこには……!
「おおっ!!」
「凄い……もしかしてコボルトが集めてたのかな……?」
そこには金銀財宝……とまでは言わないが、おそらくコボルトがかき集めていたと思われるルピーが積まれていた。
他にも金属片などのゴミも混ざっているが、もしや光るものを集める習性でもあるのだろうか。
「よし、これは俺達の物だ」
「え、でももしかしたら村からコボルトが盗んできた可能性が……」
「いやいや、身元が分からないんじゃ証明しようがないし」
「なら女神様に相談するのは?」
「……」
クソ……カルミアちゃんが良い子過ぎる。
カルミアちゃんが俺の世界に来たら、落とし物はなんでも交番に届けに行くんだろうなぁ。
だが、カルミアちゃんがこんな提案をする以上無碍にするわけにもいかない。
俺達はルピーの山を布の包んでコソコソと巣穴から撤退することにした。
◆◇◆
「お帰りなさい二人とも。怪我はありませんか?」
俺達が巣穴から出ると、馬車を引き連れた女神様が出迎えてくれた。
「ただいま戻りました。女神様」
「女神様、ただいま」
俺とカルミアちゃんは女神様に挨拶を返す。
女神様は俺が抱えていた布袋を見て怪訝な表情を浮かべる。
「砕斗、それは?」
「馬車の中で話すよ。俺達クタクタだから馬車の操縦任せていいか」
「分かりました。じゃあ帰りましょう」
俺とカルミアちゃんは馬車の中に乗り込み、女神様は御者席に乗り込んで馬車を動かす。
それから数分して、馬車の中でぐたーっとリラックスしている俺達に女神様は俺達に背中を向けたまま質問をしてくる。
「それで? その袋の中身はなんですか?」
「ああ、コボルトの巣にあったルピーの山だよ。多分、コボルトが集めたモンだと思うんだが……」
「きっと村から盗んだ物も混ざってると思うんです。女神様、返した方が良いですよね?」
俺の言葉をカルミアちゃんが補足した上で、自分の考えを女神様にぶつける。
この時の俺はコボルトのお宝を自分達の物にしたいあまり渋い顔をしていただろう。
そんな俺の考えを女神様は分かっていたのか、
「必要ありませんよ。それは貴方達が魔物を倒して得た対価です」
……と、俺が彼女に伝えたかったことを代弁してくれた。
「で、でも……」
「今回の依頼、私達が受け持ったのは『コボルトの巣にいる魔物の殲滅』であって、コボルトに奪われた宝の奪還ではありません。初めから依頼に含まれていたのであれば持ち帰って返却するのが筋でしょうが、現状でその義務はありません」
「そうですか……」
カルミアちゃんは女神様なら自分の意見に賛成してくれると思ったのだろう。
だが意外にも女神様は俺と同じような考えだったので、彼女はしょんぼりと肩を落とした。
「まぁまぁ、そう落ち込まないでカルミアちゃん」
「サイトさん……」
「どうしてもこの村に還元したいのであれば、巣で拾ったお金を村で使い切れば良いのですよ。そうすれば結果的にこの村にお金を返したと言えます。これでどちらにとっても損が無い最良の方法だと思うのですが、どうでしょうか?」
「……そうですね。そうしますっ!」
カルミアちゃんは女神様の言葉で元気を取り戻したようだ。
「砕斗もそれでいいですよね」
「ああ、俺もそれが一番良い手段だと思う」
……にしても、この女神様、案外融通が利くよな。
自分の美貌を誇示したり毎日酒場に通って飲んでたりとかなり俗物的な人物なのだが、会話してて嫌に感じることも最近はそんなにないし、意外とノリも良い。
……こういう所、俺も意外と女神の事が気に入ってるのかもしれない。
「それで、話は変わりますが、初めてのダンジョン攻略はどうでした?」
「サイトさん大活躍でした!」
「ほほぅ、なら今後もこういう案件があれば砕斗に頼んでも良さそうですね」
「いや、それは正直勘弁……」
俺は苦笑しながら女神様に返事を返す。
女神様はクスッと笑いながら「でも臨時収入もあったわけですし、利益があるなら良いのではありませんか?」と俺を茶化してきた。
「……まぁお宝が本当に見つかるなら考えとくよ」
とはいえ自分達の命が最優先だ。欲に身を任せて命を落としては元も子も無い。
……その後、俺達は無事に村に帰還して、コボルトの巣から得たルピーで村の経済を回すのだった。
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