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第30話 練習練習練習!

 それから数日間。


 レイ達はしばらくの間、”普通の村”に留まり心身を鍛えることに専念していた。


 次の目的地に向かうのも大事だが、急いで事を為そうと無理をすれば、逆にそれが大きな失敗を生む。


 女神は二人にそう諭して経験を積ませることにした。


 結果――


「カルミアさん。練習通り、あの的に攻撃魔法を当てるのです。準備は良いですか?」

「は、はいっ!」


 カルミアは女神に言われて緊張した面持ちで、10メートル先にある板で作った簡単な的を指差す。


「……いきます!<火球>(ファイアボール)


 彼女が呪文を唱えると、指先から炎の球体が真っすぐ飛んでいき、見事に的に命中して炎上する。


「で、出来た……出来ましたよっ、女神様!」

「ふふふ、良く出来ました」


 嬉しそうに身を弾ませるカルミアちゃん。そんな彼女に女神様は優しく微笑んで頭を撫でる。


 彼女が見事に的に命中させるためにトライした回数は都度15回。


 最初の方は指先から火球が飛ばずに大火傷したり、そもそも発動しなかったり、何故か背後で見守っていた蛇行しながら俺に飛んできたりと、なかなかに散々な結果だった。


 しかし、彼女は諦めずに練習を続けてついには的に命中させるまでに至ったのだ。


「サイトさん、見てましたかっ! 私、頑張りました!」

「おー、流石カルミアちゃん! これでもう敵無しだね。よっ、無敵の勇者様!」

「えへへ、それは言い過ぎです~♪」


 よほど成功させたのが嬉しかったのだろう。

 普段ならムッとするようなわざとらしい世辞すら彼女は喜んだ。


「まだ成功率は高くありませんが、ひとまず及第点としておきましょうか」

「はい、女神様先生!」

「語呂悪いな、おい」


 そんな俺の突っ込みをスルーしてカルミアちゃんは女神様に深々とお辞儀をする。


「私、頑張ります! 勇者としてもっともっと精進します」

「その意気ですよ、カルミアさん」

「で……でもっ、あの……」


 カルミアちゃんが何か言い辛そうに口をもごもごさせる。

 それを見て女神様が察したように頷いた。


「……あぁ、もう一つの魔法の話ですね?」

「……はい。そっちがその……上手くいかなくて……」


 おや?

 女神様が彼女に教えた魔法は今のだけではないらしい。

 そっちはあまり捗っていないという事か。


「あっちの魔法は相手が居ないと実践が難しいですからね……自分を対象にしても限界がありますし」

「で、ですよね……」

「そんなに難しいのか。その魔法は?」


 俺がそう質問すると、二人は俺の方を見て悩まし気な顔を浮かべる。


「はい……そうなんです」

「こればっかりは経験ですし、そもそも使用しないに越したことは無い魔法ですから」

「ふーん、よく分からんけど、相手が必要だっていうなら俺が協力するけど?」


 俺が胸をドンと叩いて自分をアピールすると、カルミアちゃんは何故か目を輝かせて俺の手に飛びついてくる。


「本当ですか!?」

「え、予想外に飛びついてきた……いや、協力するのは本当だよ?」

「助かりますっ! なにぶん、自分で使っても効果が確かめられない魔法なので……」

「……んん? 誰かを対象する魔法って事か。じゃあ、今から試してみようか」

「あ、その……今はその魔力が……」

「魔力? ……あ、もしかしてさっき魔法を連発してたから……?」


 俺がそう質問すると、彼女はコクリと頷く。どうやら魔法回数には限界があるようだ。この辺り、現実に即しているというか、ゲームっぽいというか。


 あんな不思議パワーが無限に使えるとは思わないから納得ではある。


「それなら仕方ないか……じゃあ、明日にする?」

「はい! よろしくお願いします!」


 やった。これでカルミアちゃんを一緒に居られる時間が増える。こうやって彼女になるべく親身に接することで好感度を上げていくのが俺の作戦なのだ。


「では、次は砕斗の方ですね」

「げ」

「げ、じゃありません。貴方さっきから腕が全然動いてないじゃないですか」


 女神様は俺の持つ剣を指差して言う。


 そう、彼女の魔法の練習が物珍しくて腕が止まっていたけど、今は剣の素振りの最中だったのだ。カルミアちゃんの魔法と違ってこっちはひたすら単調で腕を酷使するだけの苦行だったりする。


「まず貴方は基礎的な技術が皆無なのでそれをどうにかしないと」

「っていうけどさ、これをやって本当に剣術を覚えられんの……? 腕の筋肉を酷使してるから腕っぷしは強くなりそうだけど、正直何の訓練になるんだか……」


 俺がそうやってボヤくと、カルミアちゃんは言った。


「そんな事無いですよ。毎日、決まった”型”を反復させて身体に染みつかせることで技術が上がるんです!」

「へー、そうなのか」

「……って私に剣を教えて下さった騎士様は言ってました」

「ふーん……」


 騎士様ねぇ……やっぱり男なんだろうか……。


 クソッ、カルミアちゃんに手取足取り教えている場面を想像するとなんかムカついてきた。


『ふっ……嫉妬ですね』


 頭の中で数メートル先に居る女神の声が響く。

 いや、間近に居るのに念話で話してくるんじゃねーよ、女神様!

 つかニヤニヤしてんじゃねえ!!


「まぁ、それでカルミアちゃんが強くなったのなら……」

「はい♪ だから基礎訓練の素振りは欠かしては駄目です!」


 といっても、毎日500回以上振ってんだけどね……。しかも日を増す毎に50回ずつ増やされてるし、型が増えると別のもやらされるからしんどくてしゃーない。


 乱れたフォームでやるとやり直しさせられるし、かといって真面目にやると腕が痛くて筋肉痛に悩まされる。実際、今日も朝起きた時から体中の筋肉がヤバイ事になってた。


「そうだ。素振りに飽きたのなら、久しぶりに私と剣の勝負しますか?」

「お、良いね。ここ数日、俺も剣の練習する様になったし、前回よりはまともな勝負に――」

「――なると良いですねぇ」

「うるせぇよ……絶対勝てねぇことは分かってんだよ」


 途中で会話に割り込んできた女神様に俺は疲れた声で返す。


「ふむ……」


 すると、女神様は何か思いついたのか、俺に近付いてきて耳元でこう囁いた。


「カルミアさんは戦闘中に隙は殆どありませんが、相手が砕斗の時は気が緩んでる事が多いようです。それが隙になるかもですよ?」

「む……!」


 俺の時だけ気が緩んでると言われるとなんか癪だが、確かに以前の手合わせではそんな雰囲気だった。


「よし、カルミアちゃん。勝負だ!」

「あは~! 勝負です♪」


 もう返事の時点で緩みまくってるじゃないか。俺と彼女は5メートルほどの距離を開けてお互い向き合う。


「では二人とも、準備は良いですか」


 女神様は俺達に問いかけて、俺は頷く。


「こっちはいつでも」

「はい♪」


 カルミアちゃんの返事は相変わらずだが、それでも剣を構えるとやはり雰囲気が少し変わる。


「では―――始め!」

「っ!」


 女神様の号令と共に俺は即座に彼女に近付く。


 実力差は歴然だ。以前の手合わせの時は十数回手合わせしても殆ど即一刀両断されてしまっていた。


 しかし、それは当然。


 その時の俺は剣術のいろはも分からず、ただ闇雲に突撃を繰り返していたに過ぎないからだ。


 なら、今の俺はどうだろうか……?


「せいっ!」


 飽きるほどやらされた剣術の素振りと同じ上段からの振り上げ。


 その剣の軌道がブレる事は無く、彼女の後頭部辺りを狙って真っすぐ繰り出される。


 だが、当然通用しない。


 彼女は初見の時点で俺がどういう攻撃を繰り出すか理解していたようで、俺の攻撃を見切って身体を半歩後ろにずらして片手で剣を構えて弾く。


 明らかに正道の受け方ではないのは素人の俺でも分かる。だが彼女にとってはそんなトリッキーな動きも正道的な動きもバランスよくこなす実力がある。


「ふっ!」

「……っ!」


 カルミアちゃんは剣を弾くと同時に俺の懐に飛び込んでくる。


 俺は咄嗟に背後に跳んで距離を離そうとするのだが――彼女はそれ以上の速度で詰めてきて横薙ぎの攻撃を放ってくる。


「くっ!」


 咄嗟に剣を身体の前に置いてガードするが、そこまでだ。


 一撃防御出来たと同時に、彼女は俺の靴の上に自身の足を乗せて移動を封じてくる。そして身動きが取れなくなった俺に、彼女は剣の柄部分を俺の喉元の数センチ手前に突きつけてこう言った。


「勝負あり、ですね」

「……はい、参りましたよっと」


 俺は両手を上げて降参するのであった。

 少しは上達したかと思ったが、どうやら話にもならなかったようだ。


「でも、サイトさん。以前よりも全然鋭かったですよ」

「ならいいんだけど……」


 ……確かに、以前と比べたら初撃はしっかりとしてたと思う。


 ただ、彼女に見切られていたので結局は前と全然変わってない。


「サイトさん、前と全然変わってない……って思ったでしょ?」

「ギク」


 心を読まれてしまったようだ。


「あのですね。そもそもサイトさんの剣の構えは私が教えたんですから対処法は知ってて当然です。だから防がれた事に落ち込むことなんかないですよ」

「……ま、まぁ……そうなんだけどさ……」

「それに、私に防御させた時点で以前よりも全然凄いですよ。だって前だとそもそも一撃が当たる前に勝負が付いてる事が多かったですもん」

「……」


 そう思うと俺、すげぇ情けないな……。


 一応、彼女と俺は十数センチくらい身長差があって手足も俺の方が長いはずなのに、ここまで完封されるとは……。


『ププッ、情けないですねぇ』


 だから念話で煽ってくんなクソ女神!!

 お前、声に出さない時の方が性格悪くなるよな!


「ぐぎぎ……!」


 俺はカルミアちゃんから女神の方に視線を向けて敵意を込めた表情で睨みつける。


「あらあら、どうしたんですか砕斗。そんな顔をして」

「お前、ホンマ……!」

「サイトさんと女神様って時々私の知らない方法で会話してますよね……」


 カルミアちゃん鋭い。


「え、えっと……今のはですね」


 女神はカルミアちゃんの視線を受けて言い辛そうに口を開いた。


「サイトさんがその、あんまりにも落ち込んでたので、激励をしてあげようと……」

「ただ笑って煽ってるだけじゃねーか! やっぱアンタ性格最低だ!」


 数日前に態度を改めようとした自分を恥じたくなってきた。


「まぁまぁ落ち着いてください、サイトさん。確かに今回は私の勝ちでしたが、練習を続けていればきっと強くなれますよ。そだ、新しい剣の型を教えてあげますよ。次は袈裟斬りとかどうですか?」


「よし、教えてくれカルミアちゃん。そしてそこの性悪女神をぶった切る!」

「喧嘩はだめー!!」


 剣を構えようとする俺と、その俺を羽交い絞めにして止めようとするカルミアちゃん。


「全く……神に刃を向けるなんてとんでもない子ですね……!」


 そんな俺達を見て女神は手を腰に当ててわざとらしく怒るのであった。

 怒りたいのはこっちなんだよ、この女!


 ……まぁ、本気で切ろうなんて思っては無いんだけど。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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