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第28話 気合い満々の勇者様

 次の日の朝。俺は二人早朝から起こされ渋々着替えて外に出た。何故か鎧を着込むように言われたのが謎だったが、とりあえず俺は言う事を聞いて鎧を着て宿の外に出る。


「あ、サイトさん!」


 外に出ると同じように完全武装したカルミアちゃんが俺を待っていた。


「どうしたのこんな朝早くから」

「忘れたんですか? 昨日、女神様に『私に鍛えて貰うように』言われてたじゃないですかー」

「げっ……アレ、マジだったのかよ……」


 俺は昨日の事を思い出す。お酒の酔いが回り始めていたので、あまり真面目に捉えていなかったが彼女は本気のようだ。


「それじゃあ、行きましょー」


 そうして俺は彼女に連れられて村から少し離れた場所に向かう事になったのだった。


  ◆◇◆


 カルミアちゃんに連れて来られたのは村から少し離れた平野の場所だった。

 そこには俺達を待っていた女神様の姿があった。


「サイトさんを連れてきました」

「なんだ女神様、居ないと思ってたらこんな所で待ってたのかよ」

「サイトさんが来るのが遅かったので、その間に準備をしてたんですよ。ほら、周囲を見てください」

「ん?」


 女神様に言われて周囲を見渡すが、特に何かあるわけではなかった。


「あ、サイトさんは魔力感知は出来ませんよね。これは失敬」

「おい、嫌味か」

「カルミアさんは分かりますよね?」

「無視すんな」

「はい、お陰で邪魔が入らずに済みます。ありがとうございます」

「……どういう事だ?」

「サイトさん、見ててくださいね」


 カルミアちゃんは言いながら俺達二人から15mくらい離れた場所に移動して足元に転がっていた石ころを手に取る。


「いっきますよー? せーい!」


 そして、あろうことか俺の方に石をぶん投げてきた。


「ちょ」


 俺は慌てて避けるためにしゃがんで身を小さくする。

 しかし、彼女の放った石は10mくらい飛んだところで透明な壁にぶつかって弾かれてしまった。


「……は?」

「大丈夫ですかー!?」


 石を投げたカルミアちゃんがこちらに手を振って声を掛けてくる。


「あ、ああ。大丈夫ー!! ……女神様、これはどういうことだ?」


「私の力で周囲一帯に薄い膜を張って外敵からの攻撃を弾くようになってます。所謂、”防御結界”的なものと捉えてもらえればいいですよ」

「訓練中に魔物が寄ってきても困るので女神様にお願いしました!」

「……へぇー、ゲームみたいだ。それも魔法ってやつか?」

「ええ、まぁこの世界の魔法とはちょっと違う特別な物ですが……」

「女神パワー?」

「大体合ってますけど、もっといい名前思い付かなかったんですか?」

「胸囲バリア」

「……驚異? どういう意味ですか?」


 ……と女神様は口にするが、俺に視線に気付いて女神様は胸を手で隠す。


「何処を見てるんですか!?」

「いや、アンタの無駄にデカいおっぱい――」


「<天罰>」

「うげぇッ!」


 女神様がそう言うと、俺の足元から光の円陣のが浮かび上がり俺目掛けて小さな落雷が落ちてきた。


「痛てぇ……冗談だったのに」

「冗談でも女性の身体をネタにして揶揄ってはいけません。もしコンプレックスのある女性だったらこの程度の反撃では済みませんよ?」

「神様の天罰を超える反撃ってどんなだよ……?」

「泣きながら包丁で刺してくるとか?」

「メンヘラじゃねぇか」

「<天罰>」

「うげぇッ!」


 今度は俺の頭に小さな雷が落ちてきた。


「もしそういう女性と付き合いが出来てしまったら深入りしないように。お互い不幸な事になってしまいます。神様との約束ですよ?」

「目の前に雷を落としてくるヤベェ奴が居るんスけど、どうすれば良いですかね」

「さぁ? 自業自得だと思って受け入れましょう」


 女神様はまるで女神様のような笑顔でそのような事を仰る。

 笑顔で言う事じゃねえよ。


「……」


 俺達が言葉のボクシングを楽しんでいると、カルミアちゃんが心配そうな表情で戻ってきた。


「あのー、大丈夫ですか? 今、何か光ってましたけど……」

「ああ、ちょっとしたじゃれ合いですから」

「え?」


 いや女神様よ。じゃれ合いのレベル超えてませんかね。


「……むー、やっぱり仲良しさん?」

「違うって」


 カルミアちゃんは俺と女神様の仲を誤解している。


「それよりも特訓を開始しましょう」

「あ、そうですね!」


 カルミアちゃんは女神様の言葉に顔を明るくする。


「じゃあサイトさん。早速ですけど私と剣の勝負をしましょう。ほら、訓練用の木の剣を持ってきましたよ」


 カルミアちゃんはそう言いながら俺に木の剣を差し出してきた。


「俺がカルミアちゃんの相手? さすがにそれは……」

「今の貴方は剣の基礎すら出来ていませんからね。だからゴブリン程度の相手にすら手傷を負ってしまう」

「う……」


 女神様の鋭い突っ込み。何も言えねぇ。


「だからこそ足手まといにならないよう彼女から戦いの基礎的を学びましょう。まずは彼女と剣を交えてみてください」

「まぁ、そういう事なら……」


 俺は剣を受け取ってカルミアちゃんと少し距離を置いた位置で互いに木の剣を構えて向かい合う。


 こうやって彼女を向かい合うと、グリムダール城で決闘した時の事を思い出す。


 あの時は俺も極限の状態だったので観察する余裕が無かったが、彼女は構えた状態から時が止まったように身体に揺れが無い。


 ただし、こうして旅をして彼女の事を知って当時と受ける印象が全然違っていた。


 あの時は戦闘時の威圧感を『化け物』などと決めつけて恐怖していたが、今は清廉潔白な戦乙女の様な雰囲気だ。圧倒的強者なのは変わりないが。


 それから俺と彼女は構えたまま睨み合うがどちらも動かない。


「サイトさん、彼女は貴方が攻めてくるのを待っているんですよ」

「って言われてもな……」


 どうやって攻めても速攻で捌かれて手痛い反撃を受けてしまいそうだ。


「むー……こうやって構えてるだけじゃ特訓になりませんって」

「サイトさんのやる気を上げるために、何かしら褒美でも考えた方が良いのでしょうか?」

「俺に聞かれても……」


 女神様の俺に向けた言葉に適当に返事を返す。

 カルミアちゃんは構えたままこちらを不満そうに見つめている。


「じゃあ私に一撃でも入れられたら、どんなことでもいう事を聞いてあげますよ」

「ちょ……」

「ん? 今、何でもするって言ったよね?」


 カルミアちゃんの言葉に女神様が口を挟もうとしたが、即座に俺が声を出してかき消す。


 彼女がどういう意図で言ったのかは分からんが、こんな魅力的な提案を受けて黙っていられるはずがない。


「よし、やろう!」

「うわー……分かりやすい人ですね……」


 女神様が呆れているが、男なんてそんなものである。可愛い女の子にちょっとでも良い所見せる機会があるなら見逃さないし、なんでもするとか言われたら奮起するしかないだろう。


 ……具体的に何が奮起するかは明言しないけど。


「ふふ、よく分からないけどやる気満々になりました! 勝負です!」

「さっき言った事、忘れないでね!」

「はい! ご飯でもなんでも奢りますし、肩叩きでもミサでも聖書の読み書きでもなんでもどうぞ!」


 ダメだ、この子。

 さっきの発言で俺がエロい事考えてるとか全く分かってねぇ。

 予想通りド天然な発言だった。


 ……だが、俺が勝ったら絶対に俺の願いを聞いてもらおう。


「っしゃあああ、いくぜぇぇぇ!!」


 俺は気合いを入れながら彼女に向かっていき―――



 ―――数時間後。



「ふぅ、お疲れです、サイトさん。最初よりも全然動きが良くなりましたよ♪」

「アッハイ、オツカレサマッス……」


 見事に彼女にボコボコにされて触れる事すら出来なかった。


「怪我の治療しましょうか?」

「お願い、超お願い。数十回剣で殴られて打撲だらけなんだわ、マジで」

「はいはい……」


 俺は女神様に懇願すると「仕方ないですねぇ」と言わんばかりに治癒魔法を使ってくれた。


「じゃあ少し休憩したら次行きましょう!」

「えぇ……まだやるんすか、カルミアせんせー」

「はい♪ 先生って良いですね! もっと呼んでみてください!」

「カルミアせんせー、お腹が減りました」

「もうちょっと頑張りましょう♪ 最初は剣の素振り500回と短距離ダッシュ20本と腕立と腹筋30回を3セット。その後に村の外周10周走って基礎的な体力を付けましょう。その後に食事ということで♪」

「……」


 地獄みたいな内容を可愛い笑顔で押し付けてくるカルミアちゃん。


「はい、そこの木剣」


 彼女はそう言って俺に木刀を渡してくる。


「……ハイ」


 俺は力なく返事をすると木の剣を構えたのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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