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第27話 普通

 ゴブリンを成敗して馬を取り戻してから、俺達は最初の予定通りの進路を取る事を選んだ。


 食料事情の問題こそあったが、カルミアちゃんが野草やキノコにやたら詳しくて食べられそうなものを調達し、俺は通り道に綺麗な川を見掛けると川魚が泳いでいないか確認して時間を掛けて確保していた。


 女神様はその辺りに関してはあまり役に立たなかったが、俺が魚釣りを始めるとそわそわしているのが面白かった。


 途中で何度か旅を中断して食料確保していたせいで少々到着が遅れてしまったが、無事に目的の村に辿り着くことが出来た。


「はぁ……何とか着きましたねぇ……」


 ずっと御者席で馬を操りながら疲労した様子を見せていたカルミアちゃんが、村が見えてくると脱力したようなため息を吐いて呟く。


「本当ですか!?」

「よ、ようやく着いたか……。頑張ってくれてありがとう、カルミアちゃん」

「いえいえ……でもこれからは私以外にサイトさんも馬車を動かすのを手伝ってもらえると嬉しいかなーって」

「ああ、そうだね。俺も手伝えるように練習してみるよ」

「はい。是非……ふぁぁ」


 カルミアちゃんは眠そうに欠伸をする。


 俺もつられて欠伸をしてしまうが、日が暮れる前に俺達は村に到着することが出来た。


 村に到着すると馬車と馬を村の厩舎に預けて、宿に速攻で向かう。時間が遅かったので宿が取れるか心配だったが、滑り込むようにシングル部屋3つを無事に確保することが出来た。


 その後、女神様の催促もあって、俺達三人は宿の亭主に貰った地図を片手にご飯処を探す。


「ええっと……次の曲がり角を右ですね……」


 女神様は地図をガン見しながら前を歩く僕達を案内してくれる。俺達は案内のままある決まっているが、夕方な事もあるのかあまり村人とすれ違う事が無かった。


「”ラズベランの街”と比べると寂れてるなぁ……」

「ここは”村”ですもん。”街”とは規模が違いますって」

「まぁそれもそっか」


 ……そういえば、この村の名前を聞いてなかったな。


「カルミアちゃん、この村ってなんて名前なの?」

「普通の村ですよ?」

「いや、そうじゃなくて」

「普通の村です」


 ……あれ?


「ですから、”普通の村”なんですよ」

「え、どゆこと?」


 カルミアちゃんの謎すぎる返答に戸惑っていた俺だが、後ろの女神様が言った。


「地図には、”普通の村”と表記がされています。要するに『普通の村』が正式名称なんでしょう」

「いや、そんなわけあるかい!」


 俺は思わず突っ込みを入れる。

 まさか自分達の村にそんな適当な名前を付ける様な事はしないだろう。


「む……サイトさん、私の言葉を信じてくれないの……?」


 カルミアちゃんはこちらを向いて上目遣いで頬を膨らませて抗議してくる。


「いや、だってねぇ……」

「むー、それなら村の人に聞いてみればいいじゃないですか!」

「分かった分かった……そんなに怒らないで……」


 俺はむくれている彼女を宥めて、自分達以外に人が居ないか周囲を探ってみる。すると、如何にもな布装備着用の男性を発見した。


「お、第一村人発見」

「あっ、ちょっとぉ……サイトさん?」


 俺はカルミアちゃんの声をスルーしてその村人に声を掛ける。


「あのー……旅の者なんですが質問いいっすか?」

「はい。こんにちは、旅の人」


 まるでRPGのNPCのような台詞を吐く人だ。


「この村って何て名前なんですか?」

「ここは普通の村ですよ」

「……マジすか?」

「はい。文字通りの普通に良い村ですよ。旅の人」


 俺はとりあえずカルミアちゃんに目配せしてみる。


「……」


 しかし、彼女はこちらと目線を合わせようとしない。疑った事で彼女の機嫌を損ねてしまったようだ。


「あー……ども、ありがとうございます」

「いえいえ。では失礼します、旅の人」


 第一村人は笑顔で去っていった。


「満足しましたかぁぁ……?」

「うっ……」


 後ろからジメッとしたカルミアちゃんの声が聞こえる。

「ゴメン、俺が悪かった」

「分かればいいのです。えっへん」


 俺が謝ると彼女はすぐに機嫌を直してくれた。本気で怒っているわけではなかったようだ。


「二人とも、場所が分かったので早く行きますよ」

「はーい」

「はーい」


 女神様の声に俺とカルミアちゃんは声を揃えて返事をするのだった。


 ◆◇◆


 ”食事処――安寧”にて。


「かんぱーい!」

「おー、カルミアちゃんノリノリだなぁ。かんぱーい」

「乾杯です」


 互いにグラスを軽くぶつけ合いながらまずは一杯。ここまでの旅の苦労と無事到着出来た喜びを分かち合うかのようにグラスに入った飲み物を一気に飲み干す。


 ちなみに俺と女神様はお酒で、カルミアちゃんは未成年なので中身は冷たいお茶である。


「美味しいっ!」

「いい飲みっぷりですね。カルミアさん」


 さっきまで疲れ果てていたように見えたカルミアちゃんが急に元気になって女神様も口元が緩む。飲み終えるとカルミアちゃんは、運ばれてきた料理を見て更に目を輝かせる。


「サイトさん! これっ、これ見てくださいよ! タコさんです、タコさんっ!」


 そう言って彼女は箸を器用に使って皿に乗ったタコを摘まんで俺に見せる。


「おお、本当だ。っていうかこっちにも居るんだなぁタコ」

「ねぇ? 可愛いですよね!」

「言うほど可愛いか、これ?」


 俺のイメージではタコは可愛いと呼べる生き物では断じてない。


「なぁ女神様、これかわいいか?」

「きっとサイトさんよりは可愛いのではないでしょうか」

「おう、久しぶりの毒舌じゃねえかよぉ女神様」

「ふふっ……冗談ですよ」


 女神様はそう言って笑みを浮かべる。


「私にしてみればどちらも可愛いものです」

「でた、神様目線」

「ねぇねぇ女神様、これはどう思います。うにー!」

「あら、可愛いですね」

「ですよね! うにーってしてますよ!」

「ウニって名前の響きほど柔らかいモンじゃないけどな。中身はともかく外はトゲトゲしてるし……まぁ味は美味いけど」


 このお店は海鮮料理がメインで、特にタコや刺身などの料理が人気らしい。味はそれなりと言ったところだが、一緒に出されるお酒が中々喉越しが良くて特に刺身との相性は抜群だ。


 女神様はテーブルの中央に置かれた刺身をいくつか自分の皿に移し替えて、皿の隣に置かれた醤油とワサビを付けて口に頬張る。


「……む、これは……!」


 どうやら気に入ったらしい。折角なので俺も刺身をいくつか移し替えて食べてみる。


「うわ、すげぇ柔らかいな……口に入れた瞬間溶けていくみたいな……」

「少々値が張る一品ですが、注文した甲斐がありましたね」


 他の料理と比べると1.5倍くらい値が張るようだ。俺達が注文した刺身山盛りは3人分なのでその値段はこの中でも飛び抜けている。


「ふぅ……料理も美味しくてお酒も美味しいなら言う事はありませんね」


 女神様はそう言って一旦箸を置いて表情を改めて、俺とカルミアちゃんの顔を見て言った。


「今回は色々アクシデントがありましたが、無事にこの村に辿り着けて良かったです」

「いや本当だよ。ラズベラン出てすぐにモンスターに襲われてどうなる事かと……」

「お陰で貯めてあった食料も全部無くなっちゃいました」

「まぁ、その辺りはお二人が食料を調達してくださって助かりましたが……」

「女神様は虫に襲われて逃げ回ってただけだもんな」

「むっ……!」


 俺の茶々に女神様の顔が少しムッとする。


「っていうか蜂に襲われてたみたいだけど刺されなかったのか?」

「刺されましたよ。だけど私は女神なので!」

「女神様なので……?」


 カルミアちゃんは首を傾げて彼女の言葉を待つ。


「……女神なので、治癒魔法で毒抜きしました」

「いや、しっかり効いてんじゃねぇかよ」

「女神様なのに!?」


 女神様だから毒が効かないとかそういう話でもないらしい。


「……コホン、私の事は良いのです」

「あ、逃げたな」

「それよりも、私としては朝起きたらサイトさんが大怪我していたことの方が印象が強かったですけどね」

「え、着替えを覗かれたことじゃなくてですか?」

「待ってカルミアちゃん。気にして無いように見えたけど実は根に持ってたの?」

「いやいやいや、緊急事態ですし仕方ない…… って待って待って、椅子から降りて床に頭を擦りつけないで!」

「ハッ、俺は一体何を……」


 どうやら無意識に土下座しようとしていたようだ。カルミアちゃんに嫌われたくないという深層意識がそうさせたのだろうか。


「ま、まぁ着替えに関しては情状酌量の余地しかないので不問にします」


 何この女神様、口悪いのに実は優しいのか?


「女神様、俺アンタを見直したよ」

「普段から見直してください……これでも私は貴方の事を相当気遣っているのですから。それよりも私が危惧してるのは貴方の単独行動が危うかったことです。あまり無茶しないように」

「はい、さーせん」

「……本当に反省してます? カルミアさんも凄く心配してたんですし、もうあんな事はしちゃダメですよ?」

「はい、反省してます。……カルミアちゃんにも相当怒られちゃったし」

「本当ですよっ! もうサイトさんったら……」


 そう言ってカルミアちゃんは頬を膨らませてそっぽを向く。


「……でも、今回に関しては俺の力不足が招いたことだよ。次はそうならないように上手くやる。だから心配は要らないよ」


 俺がそう話すと、彼女達は食事をする手を止めて俺の顔を見る。


「サイトさん……」

「……孤高というか、妙にプライドが高いですね。私としては身の程を知って無茶してほしくないのですが」

「いや、大したプライドじゃないよ。単に自分が恰好悪いのが腹立つだけで……」

「……要するに、今後も無茶するという事ですよね?」

「いやいやいや」

「はぁ……やっぱり私が見てあげないと駄目そうですね……」


 女神様はそう言って少し嬉しそうな笑みを浮かべて俺を見る。


「お、デレた?」

「デレてませんが?」

「……二人とも、前から少し感じてましたがすごく仲良いですよね……」


 カルミアちゃんが、俺と女神様のやり取りを見て羨ましそうな表情を見せる。


「嫉妬?」

「はい、二人の仲睦まじさに嫉妬してますっ!」


 少し頬を膨らませながら彼女は言った。そんなストレートに言われると逆に俺も女神様も言葉に詰まってしまう。


「女神様。俺達、カルミアちゃんに仲睦まじいと思われてるっぽいよ」

「多分、貴方が馴れ馴れし過ぎるのが理由ですよ。もうちょっと私を神様として敬いなさい」

「じゃあ敬うのでここの支払いよろしくお願いします。いやぁ流石神様、腹が太い!」

「貴方、絶対わざとでしょう……?」

「はい」

「はいじゃないですが」

「……そういうところです。何だかんだで女神様はサイトさんに優しいように思えます」

「……誤解ですよ」


 女神様はそう言ってカルミアちゃんに向き直って彼女の頭を撫でる。


「サイトさん、今後無茶をするのであれば私からも考えがありますよ?」

「え、何? 俺、神罰でも喰らうの?」

「いえ、神罰ではなく……とりあえず、カルミアさん」

「はい?」


 突然、話を振られたカルミアちゃんは首を傾げる。


「少し彼を鍛えてあげてください。たかだかゴブリン如きに手傷を負わないように、みっちりと」


 ………。


「ええええぇぇぇ!?」

「はぁぁぁぁぁぁ!?」


 俺とカルミアちゃん女神様の言葉に驚いてつい大声で叫んでしまった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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