第21話 カルミアちゃんに自信を付けさせよう!
改めて旅をする目的を再設定し、新たな同志を得た勇者一行。
彼らが次に目指す場所は、ここから遥か北にある大陸。
魔王軍の侵略に苦しむ人々が居ると聞きつけた彼らは、その地へ急行する。
しかし……そこで彼らを待ち受けていたのは、想像を絶する強大な力を持った強敵だった……!
「な、なんだこの化け物は……!」
「こんな奴……どうやって倒せばいいの!?」
「……サイトさん! カルミアさん!」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」
俺達の戦いは、これからだ!
………。
「という感じで、強大な敵に立ち向かわなければいけません。分かりましたか?」
「いや、それ負けフラグじゃね?」
「サイトさん、そこは絶体絶命の危機に謎のライバルキャラが登場する流れですよ!」
「なるほど……」
彼女に言われて俺達はその場面を想像してみる。
「『――ふん、勇者一行が笑わせる。この程度の雑魚に手こずっているとは……』」
「『だ、誰だ!?』」
「『いえ、あのお方は……』」
「『し、知っているんですか……女神様!?』」
「『あの出で立ち……隙の無い構え……そして、彼の両手に持つ黄金の輝き―――まさか、彼は……!』」
「『で、伝説の……!』」
「『ええ……彼こそ数多の勇者の力を受け継いだ”究極勇者”です!』」
………。
「うわ、だっさ」
「あ、あの……女神様、流石にそのセンスはその……ごめんなさい……」
「………」
昼食を終え食事処を出た後の話。
俺達三人は街の中を散策しながら軽い雑談をしてお互いの仲を深めようとしていた。
今の話は、女神様が言い出したシチュエーションに乗っかって好き勝手に会話を続けた結果である。
「そ、そんなにダメでしたか……”究極勇者”……」
女神様はダメ出しされてしょんぼりとした表情で項垂れる。
「大体、なんでピンチで駆けつけるのが男なんだよ。そこは女の子で良いだろ?」
「え?」
「こういう時に現れるのはニヒルなイケメン男子って相場は決まっているでしょう。サイトさん」
「いやいやいや、この場合の主人公はカルミアちゃんだろ? ならライバルは同じ女の子でしょ。それか年上のお姉さんキャラとか」
「……それ、サイトさんの好みじゃないですよね?」
カルミアちゃんはジト目で俺に質問してくる。
「ち、違うし。主人公キャラに合った人選を考慮した結果、女の子が最適だと考えただけだし!」
「ふむ……ライバルが美少女であるなら、ここは”美少女戦士”と言ったところでしょうか」
「平成初期の名作美少女アニメをパクるの止めような。なぁ女神様?」
「誰が昭和生まれのおばさんですって?」
「んなこと言ってねぇ」
「あ、あのぉ……いつまでこの話が続くんでしょうか……?」
カルミアちゃんが俺と女神様の間に割り込んで話を止めに入った。
しまった。どうでもいい話で盛り上がり過ぎた。
カルミアちゃんの言葉で女神様はコホンと咳払いをする。
「……失礼しました。ええと……何の話をしてたんでしたっけ?」
「『どんな強敵にも立ち向かえ!』って話ですよ」
確かにそんな話をしていたような……。
女神様という頼もしい味方を得て、俺達は改めてこれからの指針を固める事にしたのだ。
「それにしても……女神様って想像よりもずっと気さくな方なんですね。こんな雑談も普通にしてくださるなんて」
「ふふふ……私はこれでも下の者から慕われていますからね」
カルミアちゃんのお世辞に女神様は嬉しそうに言う。まぁ女神様の性格は少しアレだが、今まで俺の軽口も怒らずに聞き流してくれるし、部下から慕われてるのは多分間違いでは無いんだろうな。
にしてもカルミアちゃんの口調がやけに硬い。
相手が女神様だからだろうか。
元教会修道女という事もあって『神』を特別視してるのかもしれない。
そんな話をしている間に俺達は街の散策を終えて一旦宿に戻った。
その後、一度自分の部屋に戻ると俺の部屋に再び集まる。女神様はベッドに腰掛けて、俺とカルミアちゃんはカーペットを敷いた床に座る。
「ここなら他の誰の耳にも入らないでしょうし、本筋に戻りましょう。
食べていた時の話の続きですが、私達は”黒炎団”の勢力に対抗する為に沢山の人々から協力を要請しないといけません。
その為に民衆に”黒炎団”を打倒する為に戦っているとアピールする必要がありますね」
「ああ、まぁ……そういう事になるよな」
巨大な犯罪組織に対抗しようとするには、こちらもそれなりの戦力を用意して対抗しなければならない。だから俺達がその敵対勢力を倒すために戦ってる事を街の住人達に理解してもらう必要があるのだ。
「しかし、ただ呼びかけるだけでは協力を得るのは難しいと思います」
「……? それは何故でしょうか、女神様」
「相手は無法者たちで構成された犯罪組織……表立って対立することを公言し、それが”黒炎団”の誰かに知られようものなら知人や家族に被害が及ぶ危険があります。むしろ関われば自分達も巻き込まれるかもしれないと考え、逆に距離を置かれてしまうかもしれません」
女神様の懸念はもっともだ。
俺達が”黒炎団”と敵対している事を公言すれば奴らは当然それを聞きつけるだろう。
俺達の企みを潰すために周囲の人に迷惑を掛ける可能性は非常に高い。
「で、女神様は具体的にどうしろと?」
「……そこは皆で相談しながら考える所だと思うのですが」
回りくどい言い方の女神様に質問すると呆れた声で返されてしまう。
「つまり少人数を取り込むだけでは効果が薄いという事です。首都や国の有力者に協力を持ちかけるか、私達自身が街の中で目まぐるしい成果を出して市民の信頼を得ることが大事だと考えます」
「……ああ、なるほど。人望ある有力者に頼んで同志を募ってもらうってことか」
「あるいは、”黒炎団”の妨害工作を跳ね除けるほど街全体や領内に私達の組織が根を張っている事を見せつける事で、協力者を増やす事も出来ますね」
「だけど、それだけの信頼を得るには……」
「……ええ、そうなりますね」
俺と女神様はカルミアちゃんに視線を移す。
「え……えっ? な、何ですか?」
「カルミアさん。貴女の”勇者”としての肩書きが重要という事です」
「うん。特別な存在として認識されてる”勇者”のキミが大々的に”黒炎団をやっつける為に戦います”って宣言すれば、街の人達も俺達に協力してくれると思う。
勿論、言葉にするだけじゃなくて実績を出す必要はあるけどね。主にカルミアちゃんが矢面に立つことになるけど、俺達が全面的にサポートするからそこは安心してほしい」
俺は女神様と自分の考えをまとめるように言う。
「私が……ですか?」
しかし、カルミアちゃんは俺の説明に表情を曇らせる。
そして女神様にチラリと視線を移すと、再び俺に視線を戻すが、自信が無いのか俯いてしまった。
「私なんかより……女神様が言った方が……」
「って言ってるけど、女神様?」
カルミアちゃんの提案も分からなくもない。
というか、女神様なのだから人間である勇者よりも遥かに人望は厚いだろう。
しかし女神様は首を横に振る。
「本来、神は人間社会に口出しするのは禁じられているのです。それに、私は人前に出るのはそこまで得意ではないというか……天界に引きこもってるのが多いので……」
「自分で言うんかい」
「事実ですから……私だとうっかり悪態を突いて顰蹙を買ってしまいそうです」
……俺と対話していた時の彼女の態度を考えたら納得だ。
「……そんな事、私に出来るんでしょうか。教会で神託を頂く以前は、私はただの修道女でしたし……」
彼女にしては珍しい自信の無さそうな表情で俯く。
俺も彼女の気持ちは分かるし、実際俺にやれと言われても不可能だと断言できる。
しかし、”黒炎団”と戦う決断をしたのは彼女自身。
そして”勇者”である彼女だからこそ人を動かせる力があると思う。
「カルミアちゃん」
「……はい」
声を掛けたものの、どう彼女を励ますべきだろうか。
当たり障りのない言葉なら思い付くが、それで彼女を奮い立たせられるだろうか。
優しい言葉で彼女を諭すか、それとも厳しい態度で彼女を強引に説得するか。
俺は彼女を見つめながら考えを巡らせる。
……まずは、彼女に自信を付けてもらうのが良いんじゃないだろうか?
「今は深く考えなくてもいい。
無理難題だって俺でも理解してるし最初は少しずつ挑戦してみよう。俺達も協力するし難しいと判断すれば別の方法を模索する。……なぁに、ここには『女神』とかいう偉そうな奴がいるんだし、いざとなれば神様の奇跡で何とかしてくれるさ」
そう言って俺はベッドに座る女神様にアイコンタクトを取る。俺の言葉で女神様は少し不服そうにジト目で俺を見るが、彼女は小さなため息と共に言った。
「多くを期待されても困りますが、多少の人心掌握くらいはやってみせましょう」
「……だってさ、カルミアちゃん。ひとまず細かいことを考えずに頑張ってみようよ。カルミアちゃんのひたむきな姿を見れば街の人達も考えが変わってくるよ」
「……本当に、私にそんな力が……?」
「うん、俺が保証する。カルミアちゃんが”勇者”とかそういう理由とは関係なしに、俺自身がキミの影響を受けて心変わりしたんだし、さ」
彼女の肩に手を置いて優しく諭す。すると、カルミアちゃんの顔も徐々に明るくなってくる。
「……はい。サイトさんが言ってくれるなら、頑張ります」
「よし……!」
ようやく明るい表情に戻った彼女の返事を聞いて俺は安心して彼女に頷く。
すると、女神様はベッドから立ち上がっていった。
「話が纏まったところで、目的の第一歩としてこの街の人達を味方に付けることを考えましょうか」
「まぁそれが無難だよな」
俺は女神様の言葉に同意する。つい数日前に俺達はこの街の人達を全員救ったようなものだし実績だ。問題はこの話を誰に持ち掛けるかってことなんだが……。
「あ、それなら自警団の人達に頼めば……」
俺の説得が効いたのか、カルミアちゃんは手を挙げて自ら提案をする。
その言葉に女神様も頷く。
「ええ、彼らは事情を知っていますし、”黒炎団”の脅威も理解しているので協力を要請すれば快く引き受けてくれるでしょう」
女神様の言葉にカルミアちゃんは嬉しそうに笑う。
「それと先に私達の顔を住民たちに知ってもらった方が良いかもしれませんね」
女神様の言葉にカルミアちゃんは頭を傾げるが、すぐにピンと来た。
「なるほど。自警団の人に紹介してもらう前に、仲良くしておけば否定意見が出にくくなると」
「ええ、民衆もそちらの方が納得してくれるでしょう」
「じゃあ、早速行こうか」
「はい!」
俺達は早速、自警団の詰所へと向かう事にした。
しかし、部屋を出る直前にとあることを思い付き、部屋を出ようとした女神様に声を掛ける。
「あ、女神様。頼み事があるんだけど……」
「??」
俺は事が終えた後の事を考えて、女神様にとあるお願いをすることにした。
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