第20話 真・俺達の旅はこれからだ!
女神様との食事を堪能した後、俺達は今後の方針を決めることにした。
「さて、今後の事ですが……」
料理とデザートを堪能した女神様は満足そうな顔を浮かべた後、真面目な顔をして言う。
「どうでもいいっすけど、神様でも食事はするんですね」
「必須ではありませんが嗜好品として食事を好む神もいます。まぁ無意味だと考えて食べない方も居ますが……」
「女神様は前者だと?」
俺がそう質問すると、女神様は小さく頷く。
「……話を戻します。今の貴方たちの目的は魔王討伐と撒かれた不具合を修正して世界を元の正常な状態に戻すことです。異論はありますか?」
女神様は俺とカルミアちゃんの顔を眺めてそう質問する。
「まぁそれに異論はないっすけど……」
「あ、あの……!」
カルミアちゃんが意を決したように手を上げる。
「なんですか、カルミアさん?」
「その……私の斃すべき敵が”魔王”だという事は理解しているんです。サイトさんも私とは別の重大な使命を帯びていることも……でもそれ以外にもどうしても許せないことがあって……」
「それってもしかして……」
彼女の言葉に察することがあった。
「……はい、サイトさん。”黒炎団”の事です」
「……だよね」
さっき自警団に”黒炎団”の話を聞いた時、彼女は何か考え事をしていたように見えた。正義感の強い彼女は、悪逆非道の限りを尽くす奴らの存在を放っては置けないのだろう。
「黒炎団……? 何の話ですか?」
「あー、実は……」
女神様に今回の事件の主犯の男の正体が、凶悪な犯罪組織”黒炎団”の首領だった事を報告する。
俺が報告すると、女神様は珍しく綺麗な顔を歪ませる。
「”独裁のレイス”……それがあの愚か者の名前ですか……」
「はい、間違いないです」
「二人で似顔絵を確認したけど俺達が見た奴そっくりでしたよ」
「つまり今回の件は、その”黒炎団”とかいう犯罪組織が起こしたテロ行為だったと言いたいのですね?」
「他の構成員を見たわけじゃないので断言は出来ないですが……」
「その犯罪組織の親玉が起こした事件ってのは間違いないな」
「ふむ……わかりました」
俺の言葉に同意すると、女神様は冷静に呟く。
「要するに、カルミアさんは『魔王討伐も使命だけど、”黒炎団”も放っておけないからついでに壊滅させよう』と言いたいのですね?」
「か、壊滅……? ええと、あんな悪い人達を放っておけないから何とかしたいってことなんですけど……」
「わかっています。だから壊滅、です。
”独裁のレイス”などという二つ名を持っている以上、おそらくその男は組織の人間を自由に操れる立場にあるはず。だとすれば、犯罪組織の行う行為は全てその男の指示によるものと考えるべきです」
「まぁ”独裁”……だもんなぁ」
全てが奴の指示だという女神様の推測は極論だとは思うが言いたい事は十分理解できる。それにあの男の性格だ……下っ端構成の軽犯罪は置いといても、奴の主導で再び大きな事件を起こすかもしれない。
頭を潰して完膚なきまで壊滅させないと意味が無い。
女神様の言いたいのはきっとそういう事だ。
「だけどカルミアちゃん。それは”黒炎団”と正面から敵対する事になる。俺もあのクソ野郎の事は殺してやりたいくらいムカついてるが、アイツらを相手にする余裕が今の俺達にあるとは思えない」
「ですけど……! 今回はどうにかなりましたけど、下手をすればこの街が滅ぼされてた可能性もあるんです」
「……それは」
……確かに、俺達が来なければ遠くない内にこの街はゾンビタウンになって都市機能が崩壊していただろう。そうなればいずれこの国の全ての街や村、そしてグリムダール城も滅ぼされてしまったかもしれない。
「……なるほど、カルミアさんの話は分かりました」
女神様はそう答えて目を瞑る。
いくら女神様でもそんな無謀な事を許可しないだろう。
俺はそう考えていた――のだが、
「では”黒炎団”を壊滅させることも私達の旅の目的の一つに定めましょう」
「うぉぉぉぉぉぉおい!!! なんで了承してんだよ、女神様!!」
あっさり了承されて思わずツッコんでしまった。
「そうは言いましても、私達の目的のためのルートにどうしても黒炎団が関わってくることになります。ならば、先に潰して敵の数を減らしておく方がいいと思いませんか?」
「いや、思わねぇよ!? 魔王討伐だけでもお腹いっぱいだって!」
「……その魔王と黒炎団が結託してるとしたら?」
「……は?」
女神様のその問いかけに俺はフリーズする。
ど、どういうことだ……?
なんでここで魔王と犯罪組織が繋がる事になるんだ……?
俺が女神様に食って掛かっているとカルミアちゃんは弱々しい態度で俺に言った。
「サイトさんが倒れた後、現れたんですよ……その、魔王が」
「……ぇ」
なんで? 俺がぶっ倒れてた間に一体どんな超展開が起きてたの……?
「魔王が直接姿を現したわけじゃなくて声だけでしたが、その声は間違いなく自分を”魔王”だと言ってました」
「……マジ? 女神様も聞いたの?」
俺は彼女の言葉を否定したくて、女神様に話をふるが……。
「――ええ、魔族特有の忌々しい気配も感じ取れました。あれは間違いなくカルミアさんの宿敵……”魔王”です」
「おいおい、マジか……」
「魔王は”独裁のレイス”に向かって興味深いことを言及してました。
奴に向かって『客人』だの、『貴様のストックを消耗する許可を出していない』……などですね。
それ以外にレイスは魔王に向かって『アンタに貰った玩具』がどうのと意味深な言葉を残してました」
”ストック”とか”アンタに貰った玩具”という意味は理解出来ない。
しかし、”客人”という言い方はどう捻じ曲げて解釈しても、奴と魔王に繋がりがあると解釈せざるを得ない。
「推測ですが、男がサイトさんに首の骨をへし折られて死ななかったのは魔王のチカラでしょう。
”ストック”という単語と、魔王の『消耗する許可を出していない』という言葉の意味は『魔王があの男に命のストックを与えている』のだと私は解釈しています。消耗という言葉があるので限りがあるのでしょうが……」
「ッ……!」
その女神様の推測の意味を理解して背筋が凍った。
つまりあの男は理解出来ない能力ばかりか、殺しても死なない不死身の肉体って事だ。
「それと、”玩具”というのは、カルミアさんが戦っていた魔物の事でしょうね。これで人間であるはずのあの男が、魔物を使役していた理由も説明がつきます」
「そんな……」
カルミアちゃんも、女神の推測を聞いて動揺しているようだった。
「じゃあ、あの男が言ってた能力……<データ改竄>も魔王に与えられたって事か?」
俺が女神様にそう質問するが、女神様はそれには即答しなかった。
「……そっちに関してはまだ調査中です……が、少しだけ心当たりがあります。ひとまず詳細が分かるまでそちらは別案件だと考えた方が良いですね」
「マジかよ……」
魔王やレイスが今までの常識を覆す存在だという事だけは理解出来た。
「……というわけでサイトさん。黒炎団が魔王と癒着していることは理解出来ましたか?」
「……ぐぐぐ」
今の話を聞いて無関係だとはとても考えられない。
「……まぁ事情は……理解したくないけど理解しましたよ、ええ」
「分かってくれて助かります」
「でも、だからってまさか黒炎団を壊滅させるんですか?」
「……おそらく何らかの理由で協力関係になっているのでしょう。
仮に一方を無視したとしても、私達の目的を妨害しに来る可能性は高いです。
それ以上に、カルミアさんの言う通り、この街の様な被害は事前に食い止める必要があります。……壊滅まで持っていかなくとも、最低限あの男を無力化……出来れば命を絶つ方が後の憂いも無くなります」
「無力化か……。まぁあのクソ野郎が居なくなれば、残った黒炎団は解散するだろうし、後は他の人達に任せるって手もあるか」
「……もっとも、司令塔が居なくなって暴走する可能性も否定できませんが」
「ぐ……じゃあやっぱり俺達が黒炎団を壊滅させる方が確実なのか」
しかし、そんな戦力は何処にもない。
いくらカルミアちゃんが強くてもそんな危険な奴らと敵対したらただじゃ済まないし、俺に至ってはバグ修正が出来るだけの普通の人間だ。
”独裁のレイス”の相手は俺が引き受けられるが、それ以外の構成員と対抗する戦力が無い。
「――だからこそ、私はあなた達に別の旅の目的を提示します」
「!!」
「!?」
女神様のその力強い言葉で、俺とカルミアちゃんに緊張が走る。
「これからあなた達は、様々な街や村に訪れる事になるでしょう。そこで犯罪組織”黒炎団”に対抗する為の戦力を探すのです」
「戦力を……探す?」
「それって、”黒炎団”に対抗するために味方になってくれる人を探せってことですか?」
「そうです。国中で指名手配を受けている極悪の犯罪集団なのでしょう?
ならば奴らの被害に遭った住人は沢山居るはず。目的を話せばいざという時に協力を得られる可能性が高いです。
”黒炎団”と正面から敵対するためには、それまでに沢山の同志を集めて戦力を整える。そして、普通の人間には対抗できない”独裁のレイス”はあなた達二人が引き受ける」
「……っ」
無茶苦茶だ……と言いたいが、女神様の言葉は筋が通っている。
相手が悪の組織で今も被害が拡大してるのであれば、そんな危険な奴らから住民を守ろうとする善意の人間は沢山居るはずだ。例え民間人であっても数がいれば黒炎団の連中を一斉に取り締まるだけの戦力を集めるのは不可能じゃない。
それだけの戦力を一度にどうやって集結させるかという問題もあるが、それはカルミアちゃんの存在を誇示すれば不可能ではないだろう。グリムダール城で国王様が『勇者』である彼女を特別視したように、彼女の『勇者』という称号は本人の力量以上に意味がある。
「……どうですかサイトさん。私の提案は?」
「……悔しいけど、理にかなってる」
俺は女神様の言葉にそう返事を返す。
「……カルミアさん、どうですか?」
「……やります。それで、あの悪い人達をどうにか出来るなら……!」
「……決まりですね」
女神様はそう満足げに頷く。
「……では、更にもう一つ。目標を提示します」
「え、まだあるの!?」
”魔王討伐”に”世界中の不具合修正”に”黒炎団を壊滅させる”という途方もない難易度の任務を要求されているのに、これ以上に何をしろって言うんだ!
「最後に提示する目標、それは―――」
「それは?」
カルミアちゃんは真剣な目で女神様を見つめて言葉を待つ。
「――あなた達二人が、今以上に成長して強くなることです」
「へ?」
「えっ」
思わず俺達二人は気の抜けた声をだしてしまった。
「魔王はとても強大、そして黒炎団の勢力もまた強大です。
ならば、世界の希望となるあなた達も今以上に強大な存在にならなければなりません。
それがこの世界を背負う使命と重さです。それだけの覚悟がありますか?」
「あります!」
「………ははっ、カルミアちゃんがそこまで気合十分だと、俺も頑張らないとな」
彼女がここまで強く決意を固めているのに、俺が尻込みするわけにはいかない。
「……良い覚悟ですね」
そう言って女神様は微笑んでいた。
「……では、ここから私達は一蓮托生です。三人でこの困難を乗り越えましょう」
「……え、三人?」
俺はその言葉に何故か違和感を覚えた。
「それってつまり……」
「……女神様も、私達の旅に付いてきてくれるって事ですか!?」
「え、マジで!?」
カルミアちゃんの言葉に違和感の正体に気付いた。
「……何のために私がこの衣装に着替えたのか、理解していなかったのですか」
女神様は俺を見て呆れて椅子から立ち上がる。彼女の着ている衣装は……昨日まで纏っていた女神様の装束ではなく、俺達と同じような旅の装束だ。
「この旅の目的は、”世界のバグの修正”……そして、魔王や黒炎団を打倒する為にはあなた達二人の力だけでは心許ないと思ったからです」
「……あれ?」
なんか今サラッとディスられた様な気がするんだが……?
「未熟なあなた達ではとても目的達成は困難……ならば、私が直接出向く必要があるでしょう。……感謝してくださいね、サイトさん?」
女神様はそう言って綺麗なドヤ顔で胸を張る。
「……じょ、上等だ……! 女神だからって遠慮せずにコキ使ってやるからな!」
「わぁ……! 女神様、これからよろしくお願いしますっ♪」
「はい、よろしくお願いします。カルミアさん」
「いや俺を無視すんなっ!!」
こうして俺達は女神様の同行を正式に許可する。
そして、三人になった勇者パーティーで世界平和の旅へと出るのだった……。
ここまで読んでくださってありがとうございます!!
これにて第二章は完結となります!!
この先の冒険がどうなるのか……!本当にどうなるのか分からん……!
この小説を読んで気に入ってくださったなら、「いいね」や高評価、それに気が向いたら感想を頂けたらとても嬉しいですっ!
それではまた!!




