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元不良の社会人が異世界の勇者と旅をする話  作者: ノノノ
第一章 異世界に拉致られる
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第02話 異世界怖い。聞いてるの女神様!?

今日も初投稿です。

「ほぉぉぉぉぉぉ!! ここが異世界……!!」

 

 僕は魔法陣に吸い込まれたと思ったら、一瞬の浮遊感の後目の前に広がる景色を見て歓喜した。


「凄い!まるでゲームの世界みたいだ!」


 目の前は先ほどまで居た白い空間ではなく、深い森の中で遠くには城壁に囲まれた町が見える。


「よし、ひとまず行ってみるか……」


 早速目的地を決めた僕は、高鳴る胸の鼓動のまま町に向かって歩き出した。


「おおぉ!なんかすげぇ!!」


 道を歩きながら周囲の景色に感動する僕。行く人の中には獣耳が生えていたり、はたまた本当に剣と鎧を身にまとった冒険者風の女性等も歩いており、もうこの時点で異世界に来たんだなぁという実感が湧いてきた。


 しかし、平和に見えるこの世界。


 バグ女神様が言うには、不具合という名の”バグ”が世界中に蔓延っていて、それを何とかしないといけない。


 ……だが、僕はまだこの異世界の事なんて何も知らないし、これからどうしようかな……。


 そんなことを考えつつ町の入り口に近づいていくと、門番と思われる兵士風の男が槍を交差させて僕に近づいてきた。


「そこの者!止まれ!」

「……え?」


 急に止められた事に驚く僕。しかし兵士はそんな僕の事など気にせずに続ける。


「通行許可証か身分証明書は?無ければここから先は通さんぞ!」

「え、あ……」


 つ、通行許可証?身分証明?

 そんなもの、異世界に転移したばかりの僕が持っているわけないじゃないか。

 ええと、どうすれば……。


 と、僕が困り果てていると、僕の頭の中から不思議な声が聞こえてくる。


『……救世主様。私の声が聞こえますか?』

「!?」


 この声は……バグ女神様!?


『はい、今貴方にだけ聞こえるように話しかけています。通行許可証を要求されて困っているようですが、その問題を解決する為の手段は用意してあります』

「さすが女神様!」

『では、まず脱いでください』

「は!?」


 ふざけてんのかこの女神様。

 いや、頭に”バグ”が付いてても仮にも女神様。ここは素直に従うべきか。


「わ、分かりました……」


 とりあえず、門番達の様子を伺いながら上着を1枚脱いでみる。


「……ん? 貴様、何故いきなり服を脱ぐのだ?」

「もしかして変質者か?」


 おおっと、いきなり大ピンチだ。


「い、いや……。その……」


 おいどうすんだよ女神様。

 このままだと異世界生活1日目から変質者扱いで牢屋行だぞ。

 ゼロから始まる異世界生活どころか、マイナス1億から始まる逃亡生活になりそうなんですが。


『うわぁ……本当に脱ぎ始めましたよ。冗談だったのに』


 おいィィィィィ!!!まじふざけんなよこの女神様よぉォォォォ!!


「し、失礼しましたぁ!!!」


 いきなり女神様に裏切られた僕は、とりあえずその場から逃げ出した。


 ◆◇◆


 とりあえず門番からの視線を逃れるために城壁の壁伝いに逃走する。


 そして門番が追いかけてきていないことを確認してから、僕は立ち止まってその場にへたり込んで息を整える。


「ぜー、はー、ぜー、はー」


『ちょっと面白かったですね。今度またやってみましょう』


「ほんと勘弁してくださいよ!」


 頭の中に響くバグ女神様の声に全力で怒鳴る。


『……で、さっきの許可証の話ですが』


「それですよ、それ! 異世界生活1日目で詰んじゃってるじゃないですか!! どうすんですか!?」


『まぁ許可証と身分証明に関しては追々入手する必要ありますが、まず城壁の中に入ることが先決ですね』


「え、でもさっきそれが無いと入れないって……」


『それは門番が勝手に言っているだけです。入るだけなら他に方法があります。……ふむ、今の私は貴方を通して視界共有出来ているわけですが……バグの気配を感じますね』


「え、それってどういう……」


『貴方がいる場所の近くにバグがあるという事です。そのバグを処理すれば恐らく入れるでしょう』


「な、なるほど……って! それ早く言ってくださいよ!!」


『仕方ないじゃないですか。貴方が近づかないと私も勘付くことが出来ませんし……。とりあえずその場所まで向かいましょうか。ほら、歩いて歩いて』


「は、はい!」


 バグ女神様に言われるがまま僕は城壁に沿って再び歩き始めた。

 すると30秒もしないうちに見つかった。


『ふむ、そこの城壁の壁ですね』


 バグ女神様に言われて立ち止まり、女神様が指定した壁に近付く。


 ……なんの変哲もない壁だ。他の城壁部分と特に違いがあるように思えない。


「あの、見た感じ変わりないように見えますが」

『いえ、私にはバグの波動を感じるので間違いありません』


 バグの波動ってなんやねん。


『とにかく、今からこの壁に思いっきり頭突きしてください』

「はぁ!?」


 いきなり何を言い出すんだこの女神様。そんなんで壁が壊れるわけないだろう。


『いいからやってください。こんな所で独り言言ってたからまた不審者扱いされて城の兵士を呼ばれますよ』

「ぐっ……」


 そ、そうか……。僕の頭の中に響くバグ女神様の声が門番に聞こえている様子は無かった。


 つまり周囲から見れば僕はずっとブツブツ呟いてる不審者に見えるわけだ。


 それは勘弁してほしい。

 僕は仕方なく覚悟を決めて壁に頭突きをかます。


「くそぉ!もうどうにでもなれ!!」


 そして渾身の力を込めて城壁に頭突きすると――


 ――ニュッ


「は?」


 壁の中に自分の頭が抵抗なくめり込んだ。視界の中は真っ暗だが特に痛みは無い。僕はとりあえず頭を動かせることを確認すると、壁から一歩引いて頭を壁から引き抜いた。


「うわぁ……なんだこれ……」

『貴方もデバッガーならよく知ってるでしょう。所謂”壁抜けバグ”ですよ』

「ええと、つまり壁の当たり判定が消失してるってことですか?」

『まぁそういう事です。これを使えば壁を無視して城壁の中に入ることが出来ますね』


 ……い、色々突っ込みたいことがあるが、確かにこれなら門番に絡むことなく城壁の中へ入ることが出来そうだ。


 僕は周囲に誰も居ないかを確認し、さっき頭がすり抜けた場所に手を当てる。


 すると、頭と同じように壁は抵抗なく僕の体を受け入れる。そのまま、壁を通り抜けることに成功した僕は周囲を見渡すと――目の前には城壁の中の様子が広がる。


「こ、ここが町の中……で合ってるんですよね?」

『ええ、グリムダール城の城下町です。ひとまず、そのままの恰好だと怪しまれるので服屋か防具屋に行って身なりを整えましょう』


 バグ女神様に言われて自分の恰好を確認し直す。なるほど、今の恰好は僕が仕事から自宅に帰ってそのまま上着だけ脱いだ状態だ。こんな格好で異世界の町をうろついていたら確かに目立つだろう。


「じゃあ、服屋か防具屋を探しますか」


 そう思いながら僕は街を散策し始める。しかし、この世界のお金を持ってないのだがその辺はどうするんだろう。このバグ女神様がなんとか工面してくれるのだろうか。


 そんな風に考えながら歩いていると――


「きゃああああ!!」

「!?」


 街の奥から突如女性の悲鳴が聞こえてきた。


「な、なんだ!?」

『……バグの波動を感じます』


 どうやらこの悲鳴はバグの影響らしい。

 という事はもしかしたらあの壁抜けバグが悪用されて不審者でも現れたか?

 僕は急ぎ現場へ駆け付けると――女性を襲っている怪しげな影があった。


「……って、アレって……」


 ”影”と表現したのは比喩だったのだが、本当に影そのものだった。


 普通に人の輪郭をしているのだが、頭を含めて全身真っ黒なのだ。その怪しい影は女性を掴もうとして、女性は必死に抵抗している。


 女性は無我夢中で逃れようと抵抗しているが、周囲の人間は怖がって近づこうとしない。


「だ、誰か助けてー!!!」


 彼女はそう叫ぶが、やはり目の前の存在が恐ろしいのか、皆顔を青くして恐れている。


「女神様、アレどうすれば!?」

『バグである以上、修正をしなければいけません。……ふむ、正面に手を伸ばして手のひらを開いてください。良いものをあげましょう』

「え、こうですか!?」


 言われるがままに僕は右腕を伸ばして手のひらを正面に開いた。


 すると、僕の手の中に光が集まりだし……光が収まった時、そこには一振りの鞘付きの剣があった。


「え!? け、剣……? まさか伝説の武器とか……?」

『いえ、バグ修正用の便利ツールです。この異世界の世界観に合わせるなら剣が丁度良いかと思いまして。とりあえず、それでバッサリと斬っちゃってください』

「い、いきなり斬れって言われても……!?」


 影は女性と揉み合ってるから下手すれば女性に剣が当たってしまう。それにまさか剣で戦うなんて思わないじゃないか!剣術の素人の僕には荷が重すぎる。


『大丈夫です。貴方なら出来ます。バグを修正し世界を救うのが貴方の使命ですよ』

「く……!」


 ええい、ままよ!


 僕はその場から駆け出して手にした剣を棒のように振り上げて影に斬り掛かる。が、影はそれに気付いたのか、もみ合っていた女性の身体をこちらに向けて盾にしてきた。


「なっ!?」

『問題ありません。そのまま女性ごと斬ってください』

「そ、そんな無茶苦茶な!」

『良いから!』

「っ!」


 もうどうなっても知らない!


 両手で剣を槍のように突き立てて、そのまま女性ごと影に突進する。

 そして、そのまま女性ごと影を剣で貫いた。


 一瞬、女性は目を見開いて自分の腹に突き立てられた剣を見て声なき悲鳴をあげる。


「う、うぁ……!」


 一方、自分はとんでもないことをしてしまったと思い、その場から二、三歩後退して地面にへたり込む。


 すると、女性と共に串刺しになった影は――


『■■AAAAA■AA■AAAZZZZ△△○○!!!!』


 人とは思えない、とても言葉として聞き取ることが出来ない叫び声をあげて……塵になって消え去った。


『はい、解決』

「え……?」


 バグ女神様の言葉通り、周囲の人々は影の消失に驚きを隠せない様子だ。

 そして僕は――自分のしたことに恐怖していた。


「お、”俺”はなんて事を……!」


 人を刺してしまったという罪悪感と自分がしでかした事に対する恐怖が自分を支配する。


 そして、その場から何もかも捨てて逃げようとするのだが――


「……あれ? 痛くもなんともない」


 キョトンとした女性の声を聞いて僕はそこで正気を取り戻す。振り返ると、僕が剣を突き刺した女性は何事もなくその場に立っていて、自分が刺したお腹の辺りを手で摩っていた。


 彼女の足元には僕が突き立てた剣が転がっており、彼女は不思議そうな顔でそれを拾い上げて僕の方に歩いてくる。


「あのっ、ありがとうございました!」

「……え?」


 女性は僕にお礼の言葉を言いながら、剣を両手に添えて僕に差し出してくる。

 僕は戸惑いながら女性から剣を受け取る。


『良かったですね、女性に感謝されましたよ』


 頭の中でバグ女神様はそう言うが、僕は内心ではそう思えなかった。


 だって、僕は今、この人を―――!


『大丈夫です。貴方に渡したその剣はあくまで「バグを取り除くツール」です。

 物理的威力は一切無いので人体に影響はありませんし、貴方が人殺しになるなんてことは絶対ありませんよ』


 ……え、マジで?じゃあ、今のは……。


『貴方はバグを消滅させて、一人の人間を救う事が出来ました。周囲の視線を見てください。貴方を責める様な厳しい視線に見えますか?』


 言われて僕は改めて周りを見渡す。すると、確かに周囲の人々からは僕を責めるような冷たい視線は感じられなかった。むしろ――


「兄ちゃんすげぇな!あの影を一撃で倒しちまうなんて!」


「ありがとうございます……!おかげで助かりました……!」


「あんた凄いじゃないか!誰も化け物が怖くて近づこうともしなかったのに、あんな勇敢に立ち向かって!」


 ……と、このように感謝の言葉ばかりが投げかけられる。真ん中の人は、被害に遭った女性だ。


『誰かが言いましたが、貴方は影に勇敢に立ち向かった。ここに居る人間達が誰もが恐怖して近づけなかった化け物相手にですよ。それは間違いなくあなた自身が振り絞った”勇気”の結果です。誇りなさい』

「……!」


 バグ女神様の言葉で、僕の心の中にあった罪悪感が薄れていく。


 そっか、僕は一人の人間を助けることが出来たんだ……。


「あの……勇者様!」

「え、勇者?」


 女性はそう言って僕に手を差し出す。握手を求めているのだろう。


 僕は少し照れながらその手を取ろうと手を伸ばすが――


「なんだ、今の騒ぎは!!」


 中年男性の威圧的な大声と共に、鎧を見に付けた兵士数名がこちらに向かってくる。その様子に周りの人々は道を開け、男性は鎧をガシャガシャと鳴らしながら僕の元にやってきた。


「おい貴様!一体ここで何をしていた!! というか、貴様。さっきの不審者じゃないか……どうやってここに入ったのだ!?」

「え、いや僕はその……」


『バグ修正をしてました』なんて言ったところで誰も信じないだろう。


 だからここはなんとか誤魔化そうと思ったのだが――


「勇者様です!!」

「……え?」


 先程、僕が助けることが出来た女性は、鎧を見に付けた男性の前に立ち塞がってそう叫ぶ。


「……勇者? ……どういうことだ?」

「今、化け物に襲われていた私をこの方が助けて下さったのです!」

「な、なんだと……この怪しい身なりの男が、ですか?」

「はい!そうですよ!」


 鎧の人は僕を睨む。

 この人からすれば僕は不審人物にしか見えないだろう。

 他の街の人と比べて全然違う恰好だし、さっきの件もあるし……。


 すると、僕達を周囲から伺ってた街の人達が兵士達に叫ぶ。


「おいおい、兵士さんよ! 化け物から街を救ってくれた勇者様にその態度はないだろ」

「そうだよ。その人も女性も嘘なんてついてないよ」

「その人が持ってる立派な剣を見なよ。見事な一撃で化け物を突き刺したんだぜ」

「ああ、しっかり見てたよ。俺達が証人だ」


 皆、僕をそんな風に庇ってくれる。


「う……む、確かに。その剣は……」


 鎧の人は僕の持つ剣をマジマジと見つめて唸る。

 すると、彼は僕に向かって頭を下げた。


「失礼した!まさか勇者様だとは露知らず、無礼な態度を……!」

「あ、いえ……」


 良かった。危うく捕まるところだったけど、これなら何とか無事に収まりそうだ。


 しかし勇者様って……僕はただのデバッガーなんだけどなぁ……。


「……で、では僕はこれで」


 勇者様とか言われちゃってるし、これ以上変な誤解を受けるのは勘弁だ。


 そう言って僕は引きつった笑みを浮かべながらその場を立ち去ろうとするのだが、鎧を着た兵士にがっしりと腕を掴まれてしまう。


「あ、あの……まだ何か?」


 もしかして、城下町に不法侵入したことを咎められるのだろうか。


 そんな不安を感じながら、兵士さんに視線を向ける。しかし、兵士の口から出た言葉は予想外の言葉だった。


「勇者様!! 是非、王の元へ! 我が国は、貴方のような存在を待ち望んでおりました!!」

「……へ?」

「さぁ、お前達! この国についに勇者様が現れたぞ! 失礼のないように城へ案内するのだ!!」

「「「はっ!」」」

「え、あの……えぇっ!?」


 すると、鎧を着た兵士や街の人達が一斉に僕に近寄ってくる。そして僕はそのまま大勢の人達によって押し出される形で、僕は城下町の奥に見える王城へと強引に連れて行かれてしまうのだった。



 ――そして、ようやく一話目の冒頭へと辿り着く。



「其方の名は何と申す?」

「ええと……僕は……」


 王様に名前を問われ、僕は名前を伝える。


「名前は、”サイト”と申します」

『引っ張った割に平凡な名前ですね』


 うるさいですよ女神様。

 こちとら一般人なんで物語に映える名前なんかあるわけないでしょう!?


「そうか、では勇者サイトよ! 我が国は其方を歓迎するぞ!!」

「おおおおおーー!!」


 兵士の皆や街の人達が拍手をして僕を迎えてくれるのだった。

1話目で即打ち切ろうとか思ったのですが書けたので2話目も投稿しました。

この先を続けるかは様子を見て判断しようと思います。読んでくださった皆様。良ければ評価をお願いします。そして感想を下さればなお嬉しいです。

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