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第18話 生還

 ――真っ暗な世界。


 何も見えず、何も聞こえず、全ての事象が無に帰す虚無の世界。

 体の感覚はないが、闇夜の川の中に身を任せているような浮遊感を感じる。


 ……ああ、俺は死んでしまったのか。


 少し前に、自分が怪しげな男に凶刃を受けて殺されてしまったことを思い出す。

 今は痛くないが、それもおそらく痛覚すら感じないほどに身体がボロボロになっていたのだろう。

 だが……それでも、最後に俺はあの子を守ることが出来た。

 あの狂気に満ちた男を倒せば、おそらく魔物も制御を失うだろうし彼女も無事に逃げることが出来ただろう。

 懸念点としては、あの子が死んだ俺の事を悲しんで精神を病んでしまわないかという事だが……。


 ……心の強いあの子ならきっと大丈夫だろう。


 俺みたいな捻くれ者でも友達になってくれる優しい女の子だ。

 きっと彼女の優しさに触れて、彼女の隣に並んでくれる仲間達だって作れるだろう。

 その輪に自分が居なくなってしまったことは辛いが……。


 ……そういえば結局、あの女神とはちゃんとした形で話が出来なかったな。


 元の世界で出会った時が唯一まともな会話で、それ以降念話のような形で会話をしていた。

 彼女の本性を見て幻滅したりもしていたが、何だかんだで嫌いにはなれない人物だったように思う。

 散々弄られたり雑な扱いをされていたが、よくよく考えれば自分も彼女に同じような態度で接していたな。

 ただ、最期の時は、彼女も自分の事で泣いてくれていた様子だった。


 ……はは、好きな女の子を守れて、死に逝く寸前で女神様に泣いてもらえるなんて、俺って結構捨てたもんじゃないな。


 ………。


 ………あれ、なんかおかしくないか?


 死んだっていうのに、ここまで長々と物事を考えられているのは幾ら何でも不自然じゃないか?

 そもそも、俺は本当に死んだのか……?

 いや、確実に致命傷を喰らったことは覚えているし、何があっても助かるとは思えない。


 ……じゃあ、今の時間は一体……?


 ――いい加減、目を覚ましたらどうなんです?


 ……?


 暗闇の中で、唐突に女性の声が響き渡る。

 俺はその声を聞いて、その声に聞き覚えがあった事を思い出した。


 この声……もしかして……。


 次の瞬間、俺の視界が一気に明るくなった。


 ◆◇◆


「……んあ?」


 目を覚ますと、そこは見慣れない天井だった。


 ……いや、この天井はラズベランの宿の俺が取った部屋だ。


 ……という事は、俺は――


「生きて……る、の……か?」


 正直、あの状況から生きて帰れるとはとても思えなかった。

 しかし現実、俺はこうして意識が戻って目を覚ましている。


「よっ……と……」


 ベッドから上半身を動かして体の調子を見てみる。若干怠いがしっかり動く。

 次に胸に負った傷を確認してみるのだが……。


「……嘘だろ? 無傷じゃん……?」


 なんと傷痕など欠片も見当たらず、完全に完治していたのだ。

 その事実に俺は驚きを隠せない。


「一体、どういう事なんだ……?」


 とにかく状況が飲み込めず困惑していると、部屋に誰かが入ってきた。

 入ってきた人物を確認すると、カルミアちゃんだった。


 そして僕と彼女の目が合うと――


「……カルミアちゃん」

「……」


「……カルミアちゃん?」

「……」


「あの……」

「……」


 彼女は呆然とした様子で一言も喋らない。


「カルミアちゃん?どうしたの?」

「……はっ!」


 俺が再び声を掛けると、彼女はやっと我に返ったように意識を取り戻す。そして――


「サイトさん!!」

「うわっ!?」


 突然飛び掛かってきた彼女に押し倒されるような形でベッドに倒れ込む。


「良かった……!良かったよぉ……!」


 そんな涙で顔をグシャグシャにした彼女の姿を見て俺は――


 やっべぇ!彼女のおっぱいがめっちゃ当たってる!!

 ていうか、体全部やわらけぇ!! それにめっちゃ良い匂いがする!


 ――ぶっちゃけ、大興奮していた。


「あ、あの……カルミアちゃん?」

「サイトさん!良かった……!本当に無事で……!」


 そう言って彼女はギュッと俺の身体を抱きしめてくる。

 彼女の背中に手を回すと、今までに無いぐらい細いことに気付いた。そして身体の柔らかさもだ。

 しかもそんな柔らかい身体を彼女自身から押し付けてくる。


 こ、これは……”もう好きにして♪”ってコトぉ!?


 彼女の可愛い唇にキスして、彼女の逆に押し倒してしまってもいいの!?


 それで彼女衣服を一枚一枚脱がして、そしてこの流れに身を任せて同化して――



 何ていう事を思いながら彼女の感触を堪能していると――不意に部屋の扉が開く。


「………」


 扉が開いたのに、何故か誰も入ってこない。

 もしかして、この状況を見て絶句して気を遣っているのだろうか。


 流石に人に見られながらさっきの妄想した行為を実行に移すわけにはいかない。

 人に見られながらヤルって性癖として相当ハイレベルじゃないだろうか。


 俺はカルミアちゃんの肩を掴んで優しく彼女を引き離す。


「……ありがとう、カルミアちゃん。その……色んな意味でご馳走様です……」

「うぇえ……?」


 俺の身体から離れた彼女は、涙目ながらも俺の言葉にクエスチョンマークを浮かべていた。


 正直、もう本当に残念で仕方ないし、誰も来なければこのまま行けるとこまで全力全開してゴールインしたかったけど。


 脳内に溢れ出る実行に移したい妄想を押し留めて、開いた扉の方を見ると――


「……」「……」


 そこには、何故だか顕現していたバグ女神様の姿があった。

 そして、女神様は俺をゴミを見る様な蔑んだ目で見つめながらこう言った。


「……この期に及んで発情を抑えられぬとは。躾けのなっておらぬ駄犬め。蘇生と同時に貴様に去勢を施しておくべきであったか……」


 ……なんか、普段の女神から想像できない威圧感でとんでもない事を言われていた。


 ◆◇◆


 ……その後、色々説教を受けてから1時間後――


「……そっか、あいつ生きてたのか」


 二人に事情を聞いた俺は、あの後何が起きていたのかを知ることが出来た。


「はい……ごめんなさい、私が不甲斐ないばかりに」


 カルミアちゃんはトロル相手に劣勢になって、結果的に俺の足を引っ張っていたと考えたのだろう。


 しかし、彼女のせいじゃない。

 俺がアイツに殺されそうになったのは俺自身の問題だ。


「カルミアちゃんのせいじゃないよ。正直、あの状況は詰みに近い状況だった」


 事実、あれはどうしようもなかった。


 圧倒的に格上の魔物を召喚され、召喚した男自身も不老不死と来たもんだ。こちらが全てを知ったうえで攻略に掛かるくらいの状態で無ければ、あの状況から逆転して勝利するなどとてもじゃないけど無理だ。


 それこそ、この女神様が地上に実体化して現れてくれなければ、俺も彼女も奴らに殺されていただろう。

 俺が倒れた後、この人が現れてカルミアちゃんを救ってくれたらしい。


 普段偉そうにしているだけある。

 いざというピンチに出向いてくれるのなら今までの悪態も全部許せてしまう。

 それに多分、俺がこうして無事でいられたのは……。


「……それで、女神様……」


 カルミアちゃんがそう呟くと、僕達二人の話に聞き手となっていた女神様がこちらを向く。


「この方のお力で、サイトさんの傷を治してもらえたんです」


「……やっぱり、そうだったのか」 


 俺は女神様の方を向くと視線が合う。

 あの傷で俺を助けられるのはこの人くらいだと思っていた。

 流石に、これはちゃんとお礼を言うべきだよな?


「女神様、ありがとうございます」

「え、貴方に普通にお礼言われるとか、正直引くんですが……」

「どんだけ無礼な女神なんだよアンタ」


 お礼言って損したわ。


 俺がそう言うと、女神様は少し不満そうな顔をするが、すぐに自信満々な雰囲気を醸し出す。


「とはいえ、これで私の偉大さを思い知ったでしょう。そもそも私は普段から貴方の事を丁寧にサポートしていましたし? 今回の一件を踏まえてしっかり私を称えるように」

「はいはい、凄いねー」

「心が籠ってない!やり直しです」

「流石女神様、見た目通り能力も凄い! 性格以外は!」

「ふふん、そうでしょう…………。サイトさん、今なんか余計な事言いませんでした?」

「言ってねえよ、アホ女神」

「次に蘇生する際には去勢を施すので覚悟してくださいね」

「いや、それはマジで止めてください」


 去勢して性欲無くなった男とか、今後何を生きがいにすればいいの?

 ていうか、突然雰囲気変えて威圧しないでほしい、本気で怖い。


「……こほん、そろそろ真面目な話に戻りましょうか」

「……ああ、うん。確かに……」


 俺と女神様を見てるカルミアちゃんが何とも言えない表情になってるし。


「それで、女神様。アイツがばら撒いたウイルスはどうなった?」


 そこが一番の懸念点だ。ウイルスの影響を受けた人達がまた暴れ出したら俺達の努力が無駄になってしまう。


「それに関しては問題ありません。あの男がこの街から消えてからこの街を包んでいたバグの波動は一気に消失しました。完全に消えるまで小時間掛かるでしょうが、後は万一暴走しないように数日見守っていれば問題ないでしょう」

「……そうか。なら安心だな」

「貴方は今日は一日はゆっくり休んでいなさい。明日は街の自警団の人達の所へ行って今回の件の報告と、周辺状況の確認をお願いしてもらいます。私達だけで処理するには少しばかり目立ち過ぎましたからね……」

「うわ、面倒くさい……」


 ただえさえ身体が怠いのに、面倒な事この上ない。


「サイトさんが3日間寝込んでいたので、その辺りの説明はサイトさんが目覚めるまで待ってくれって断ってたんですよね」

「3日……?」


 俺が倒れてそんなに時間が経ってたのか……。


「でも、サイトさんがこうして無事で私、本当に……」

「カルミアちゃん……」


 3日も寝込んでいる間、彼女は僕をずっと看病してくれてたのだという。

 そして今、無事に済んだ俺を見て涙を流してくれている。


 ああ……本当に生きてて良かった。


「それじゃあ……改めて、カルミアちゃん」


 俺は真面目な顔で彼女に向き合う。


「は、はい!」


 彼女も表情を引き締めて俺の方に向き直る。そして――


「結婚してください」

「いや、段階飛ばし過ぎでしょう。死んで頭のネジが外れたんですか」


 うるせぇよ。

 ていうか、俺マジで一回死んだのかよ。冗談抜きで怖いわ。


 俺は軽く咳払いしてから改めて話を切り出す。


「まぁ今のは冗談として……」

「冗談……?」

「し、しんみりし過ぎてたから、少し和ませようと思ったんだよ」


 6割くらい本気の感情だったのは言わないことにする。


「……ただいま、カルミアちゃん」

「……おかえりなさい、サイトさん!」


 ……こうして、俺達は生きて再会することが出来たのだった。

あと2話で第二章完結します。

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。

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