第142話 後日談的なエピソード2
それから一ヶ月後。
町の復興がさらに進み、レイグルの町は以前の町並みを取り戻しつつあった。
そして、俺達は役目を終えたことを感じてレイグル旅立つことを決めた。
……そして、レオとの別れの時でもある。
この一件で”はぐれ”の烙印を帳消しにされこの国に再び戻る事を許されたレオは、ここに残ることを自身の意思で決めた。
あれだけ仲良くなったのに別れることになってしまうのは悲しいが、レオの意思を尊重しないといけない。既に昨日の内に別れを済ませており、レオはここには居ない。
見送りに来てくれなかったのは少し残念だが……まぁアイツにも事情があるのだろう。弟のライアスの件できっと心を痛めてるだろうしな……。
「貴方がたには世話になりましたねぇ」
レイグルの統治者のファーリィは旅立つ俺達を見送るために兵士を連れて町の外まで来ていた。
「いえ、こちらこそ色々お世話になりました」
カルミアちゃんはそう言って頭を下げてお礼をする。
「こちらこそ、カルミアさん。貴女のお陰でこの国の忌まわしき妄執も確執も払拭できましたし、今後は人間達とも上手くやっていけそうです。とはいえ、まずは我々は人間をもっと知らねばなりません。まずは王都のアステアに赴いて人間の王に会いに行かねばなりませんねぇ。
ああ、こういう事を考えていると、腐っても私は権力者であることを自覚しますよ、あっははは」
「は、はは……」
もう最初の印象が完全にすっ飛んだファーリィのぶっちゃけ具合に俺達は苦笑いしか出来なかった。
「それに、あの黒装束の集団……。”黒炎団”と言いましたか、奴らから民や私達の命を救ってくれた事に、民を代表して心よりの感謝を……。
いつでもここを尋ねてください。その時は盛大に宴会でも開きましょう。きっと、その頃にはこのレイグルも獣人と人間達が共存する素晴らしい国になっているはずです」
「ええ、その時の事を楽しみにしていますわ」
女神は上品に返事を返す。
「あと、サイトさん」
「ん?」
「貴方とそこのミリアムさんが見事にぶっ壊してくれた廃塔の件に関してですが……」
「げっ」
ヤバ、今まで一度も触れられなかったから完全に忘れてたが、魔物を倒すために塔を崩落させてしまったんだ。いくら放置されてたとはいえ、国の所有物をぶっ壊してしまうのは洒落にならん!
「どうしました、サイトさんとミリアムさん。顔が青いですが?」
「い、いや、あの……その件に関しては色々事情がありまして……」
「出来れば、その……寛大な処置を……」
「ええ、事情があったのしょう。何せあの塔を壊してくれたせいで瓦礫が周囲の森や一部の建物に振ってきて町が余計に被害を受けてしまいましたからねぇ」
「うっ」
「……冗談ですよ。あの塔は長年放置されていましたし、もはや無用の長物でしたからね。むしろ彼らの本拠地を突き止めて元凶を倒してくれたこと、そして反撃のチャンスを与えてくれた二人にも礼が必要です」
「礼?」
「はい、貴方がたは魔王討伐と黒炎団の凶行を止める為に旅をしているとか。いつでも何処でもというわけにはいきませんが、我らレイグルも有事の際は協力します。なんせ、獣人は力だけは有り余ってますからねぇ。戦いに関してはもう頼れるだけ頼ってくださいよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「……それと貴方たちと一緒に行動を共にしてくれていた、リオン・ガーダーさん……いえ、今はレオ・グランツと名を変えていましたか」
「あ……」
ここには居ない俺達の仲間の名前を出されて、俺達は若干顔を俯かせる。
「彼の事ですが……私の独断であなた達に同行させることに決めました」
「は?」
「え?」
「ちょ」
「えぇ……?」
ファーリィの爆弾発言に俺達は目が点になる。
「というわけで、兵士の皆さん。レオさんを拉致してきてください!」
ファーリィはそう言いながら、兵士達に命令すると、兵士達は物凄い勢いで町の中に戻っていった。
それから数分後。
そこにはロープで簀巻きされて神輿に担がれてきたレオの姿が!
「……おい、ファーリィ。これはどういうことだ?」
レオは若干の怒りを滲ませた声で静かにファーリィに問う。レオが怒ると俺達でも結構焦るくらい怖いのだが、ファーリィはどこ吹く風だ。
「ははは、レオさん。ここに残ってライアスさんがやらかした罪を、代わりに兄である自分の身で贖罪しようだなんて考えは私にはお見通しですよ~」
「……」
図星だったのか、レオは無言でファーリィを睨む。
「レオさんの気持ちも尊重する気も無くはないですが、そーんな後ろ暗い気持ちを抱えてここに残られても困ります。ですので私は考えました。貴方は私達レイグルの代表として彼らの旅に同行してほしい。オッケーですか?」
「……」
「反論がないということは肯定と捉えて宜しいですね? はい、では決定」
「ふぁ、ファーリィさん」
「なんつー強引な……」
俺達は若干呆れながらもファーリィの言葉に苦笑いを浮かべる。だが、その提案は俺達にとっては歓迎すべきものだった。俺は不満そうな顔で神輿に担がれているレオに言った。
「おい、レオ。お前はどうする?」
「……俺は」
「俺は、……いや。俺達はお前と旅をしたいと思ってる。そうだろ?」
そう言いながら俺は仲間達に視線を向けると、皆頷く。
「だからさ」
そう言いながら俺は神輿の上に飛び乗ってレオの隣に立つ。
「この手を取れ、レオ!きっと楽しい旅になるぜ!!」
「……!」
レオは目を見開いて俺を見る。そして、その顔はすぐに不敵な笑みに変わった。
「……フッ。お前達は俺の意見など聞き入れはしないな」
「はは、そうかもな。でもお前だって嫌じゃねーだろ」
「……まぁな」
そう答えるレオは立ち上がり、俺の手を取る。
「よぉし、今から俺とお前は親友だ!!! 世界中に見せてやろう、俺達が、この世界に幅を利かせてる悪党どもをぶちのめす姿をよぉ!!」
「……ああ、それは……楽しそうだな!」
こうして、俺達の旅にレオ・グランツが同行することになった。
「お前となら……違う世界が見られそうだ……」
旅の仲間になったばかりのレオはクールな表情でそう言うのだった。
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