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第141話 後日談的なエピソード

 ライアスが追放命令を受けて国を出てから一ヶ月が経過した。俺達はレイグルにて先の件の後始末と復興の手伝いをして過ごしていた。


 トントントン……。


「壁の修理は大体こんなもんかな。もうちょい補強加えとくか……」


「おーい、サイト。そっちの壁の修理終わったか?」


「ああ、マッスル。丁度良かった。もうこっちはほぼ終わってるぞ。そっちはどうなってる?」


「こっちは瓦礫の撤去が遅れてる状況だな。あと、火事で使い物にならなくなった家財道具の撤去の業者が風邪引いたみたいでそっちも遅れてんだよなぁ」


「おいまた風邪で寝込んでるのかよ、あの獣人どんだけ身体弱いんだよ」


「ガガンボの獣人だから身体弱くても仕方ないだろ」


「ガガンボは虫じゃねーかお前ら獣人だろ!!」


「んな事言われても居るんだから仕方ねーだろ」


「あーもう、分かったよ。後でレオに頼んで撤去の方を手伝ってもらうわ」


「悪いな、今度メシ奢るからよ」


「この国のメシって味薄くてイマイチなんだよなぁ……」


「人間の味付けは濃い目だもんな。お前に作ってもらったチャーハンは美味かった」


「だろ? 今度、料理店に行っていっちょレシピを伝授してやろうかねぇ」


「レシピっていうほど別に凝ってもねぇだろ……じゃ、俺は仕事に戻るわ。お前さんは適当に休憩行って来てくれ」


「おー、お疲れー」


 そう言って俺はゴリラの獣人マッスルと別れた。


「さて、じゃあ休憩行ってくるかな」 


 あの日以来、すっかり俺達は獣人に受け入れられて、こうして仕事も貰えるようになった。獣人達もすっかり人間への不信感が消えて、どいつもこいつも根は気の良い奴らだと分かった。


 俺達はそんな獣人達の力になれるならと、この復興作業の手伝いをしていたのだ。少ないながらも給料も貰えるし旅の資金稼ぎには丁度良い。


「あ、サイトさん……休憩ですか?」


「おお、カルミアちゃん。そっちの仕事は終わった?」


「はい! こっちは女獣人さん達とお茶する約束をしてまして、今から向かうところなんですよー」


「おーそうかそうか、そいつは良いこって」


「皆、私に優しくて助かっちゃってます。きっとすぐに馴染めるように気を遣ってくれているのかな」


「いやいやカルミアちゃんの人徳だろ」


「えへへ、そうだと嬉しいんですけど……」


 カルミアちゃんはそう言って照れた表情で笑う。


「あ、そうだ。少しだけ散歩しませんか?」

「良いぜ、今からメシ屋に行くからそこまでは付き合うよ」

「うん……じゃあ行きましょうか」


 そう言ってカルミアちゃんは歩き出す。

 俺も彼女の隣に並んでゆっくりと町の復興の状況を確認しながら散歩する。


「復興、随分進みましたね」

「ああ、皆一致団結して集中して作業してるからな」


 獣人達は種類にもよるが、全体的に人間よりも筋力も持久力も上だ。だが人間ほど集中力がないようで、多少手が空いてしまうとすぐに何処かに行ってしまう。しかし、俺やレオが監督しながら作業を進めることで随分効率よく動けるようになった。


 え?レオも獣人だろって?いや、アイツは色々規格外だから……。


「ま、個性が強い連中が多いからローテーションが合わない事もあるけど上手くやってるよ」


「サイトさん、本当器用ですよね。自分で作業しながら他の人に指示も出来てるし」


「いやぁ適当にやってるよ? だってアイツら力あるから俺は軽作業やってるだけで楽できるしな」


「それに、サイトさんは獣人の皆さんともう仲良しになってるし」


「それ言ったらカルミアちゃんもだろ?」


「え、私……?」


 カルミアちゃんは俺の言葉に驚いた様子を見せる。


「だってさっきも獣人の女の子達とお茶する約束してたじゃん。もうすっかり馴染めてるんだし」


「そうかな……」


 それで会話が一旦途切れた。気まずいわけではないが、彼女は何か考え事があるらしい。こうやって俺を散歩に誘ったのもきっと何か話したいことがあるからだろう。


 ……よし、こっちから切り出してみるか。


「カルミアちゃん、何か話したいことがあるんじゃね?」

「あ、ええと……分かっちゃう?」

「おう、俺はカルミアちゃんの事は大体全部分かるからな」

「全部って?」

「例えば今日の下着の色は少し大人っぽい黒下着だとか……って、うお!」


 突然キックをかましてきたカルミアちゃんのおみ足を反射的に躱す。


「な、何で知ってるの!?」


「そりゃああれだ。昨日、仕事の帰りに衣服店の店員さんにカルミアちゃんが下着買って行ったことを聞いたから」


「あ、あの女獣人さん……お喋りすぎます……!」


 カルミアちゃんは顔を真っ赤にしている。ほんと可愛いなこの子。


「で、カルミアちゃん。何かあった?」

「……サイトさん相手に隠し事は難しいなって最近いつも思います」


 そう言うとカルミアちゃんは俺の目の前に立って俺と目を合わせて立ち止まる。


「……サイトさんから見て私のことどう思います?」


「え、超可愛いけど」


「……そ、そうじゃなくて……! ……私、サイトさん達と旅をするようになって少しは成長出来ているんでしょうか?」


 お?何か悩みがあるのかと思ったが、そういう切り口か。成長か……前よりバストサイズが少し増えてるとか戦闘力が上がったとかすぐに理解できる部分もあるが、多分そこを聞いてるんじゃないよな。


「んー、そうだな」


 俺は最近のカルミアちゃんの事を回想しながら考える。


「……自然になった、かな」

「自然、ですか?」

「無理して笑ったりする事が減った」

「!」


 カルミアちゃんは驚いた表情を見せる。


「それに、前よりも自分の意見を言えるようになった」

「そう……ですか?」

「他にも俺以外の相手にも感情を表に出せるようになった」

「それは成長なのかな……ただ我儘になっただけのような」

「いやぁ全然違うぜ」


 思い出すのは一ヶ月前の彼女が獣人達に向けて話した演説だ。


『自分が強くそれを望めば!』

『心からその人を知ろうとすれば!』

『そして自分の本当の感情を知ってほしいと願えば!!』

『今の私だって、まだまだ全部曝け出す勇気はないけど……それでも……!!』


 あんな言葉、数ヶ月前の彼女にはとても言えなかった。勇者としての責務に囚われて自分を出せなかった当時と比べて彼女は大きく変わった。


「カルミアちゃんはさ、今の状態からもっと前に進みたいって思ってる?」


「いつも思ってる」


 彼女は即答で答える。やっぱりこの子にはこういう時には迷いがないな。常に今の自分に満足していない。努力を怠らない。


「そうか……なら大丈夫、俺が保証する」


 俺はそう言ってカルミアちゃんの頭を撫でる。すると彼女は少し照れたように顔を赤らめて目を細める。


「あ、でも……」

「うん?」

「私、まだサイトさんみたいにはなれないかも……」

「俺?」

「一日で友達100人作っちゃうサイトさん」

「あれは真似しなくていいって」


 俺は苦笑いを浮かべる。


「それよりもカルミアちゃん。少しだけ敬語が減ってきたな」

「あ……!」


 カルミアちゃんは口を抑えて驚いた表情を浮かべる。


「まだぎこちない部分もあるけどな」

「しょ、精進します」

「カルミアちゃん、そういうとこだぞ」

「あ……」

「言葉が固い。『うん、がんばるぅ~♥』くらいが丁度良い」


 出来る限り彼女の声に似せて台詞を作ってみる。

 が、カルミアちゃんの表情が何故か青くなってしまった。


「サイトさん、それ私の真似?」

「お、おう」

「普通に気持ち悪いです! 止めてください!」

「ひでぇ!」


 そうして、俺達は再び散歩を続けていく。

 彼女の悩みも晴れたようで、その表情は朗らかだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます

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