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第139話 私はカルミア

「話……?」

「人間のあいつらが俺達に何の話があるっていうんだ?」


 観客席の獣人達、そしてライアスの身が気掛かりな兵士も俺達の突然の訴えに困惑している。だが、カルミアちゃんは構うことなく話を始めた。


「最初に挨拶を。私は、カルミア・ロザリーといいます!!」


 まずは自己紹介。

 この状況で最初にそれを言うのは間抜けな気がするが彼女らしい。


「私達はこの国レイグルの獣人さん達とアステア国の人間達が仲直りしてもらうために来ました!!」


 カルミアちゃんの言葉に、再びにざわめきが起こる。


「な、仲直り……?」

「この処刑場で言う言葉じゃないよな……」

「っていうか、俺達に人間と仲良くって……」

「正気か、アイツら」

「わざわざ獣人に化けてまでして、そんな事を……!?」


 ざわつく観客席の獣人達。だが、ここからが本番だ。カルミアちゃんはすぅっと息を吸うと、更に言葉を続ける。


「この国の歴史の話、私達はここにいるレオさんに聞きました。かつて、この国は酷い人間達から逃げ延びる為に、貴方達の先祖の獣人さん達が作り上げたって。

 ……きっと、その人達は、すごく、すごく辛い思いをしたんだと思います。ライアスさんみたいに、種族そのものを否定したいって気持ちも……」


「……」


 地に伏せて苦しんでいるライアスもカルミアの言葉は聞こえていた。だが人間に何が分かる。自分達と仲直り?そんなもの、ここに居る獣人達が認めるわけがない。


 ……そう確信していた、のだろうが。


「皆さんがどれだけ私達人間を恨んでいるかは分かりません。ですけど私達人間も貴方達獣人も、どっちも進んで理解しようとしたことがありましたか? 対話しようって、考えた事はありますか!?」


「!!」


 その言葉に、客席の獣人達はハッとしたような表情をする。

 誰もが考えなかったのだ、人間と話し合うなんて。

 当然だ。自分達が自ら閉ざして遠ざけていただけは無いか。

 そうして何年何十年過ごしたか。

 最後に人間の姿を見たのはいつだったか。


 ……いや、もしかしたら生まれて一度も見たことが無いかもしれない。


 自分達は昔から、『人間は恐ろしい存在である』と教わった。

 それを教えてくれた獣人達は、一度もこの国を出たことが無かったはず。


 ……なら、今の人間は?

 自分達が恐れている人間達なんて、何処に存在するんだ?

 彼らは初めて自分達が教わってきた事が全て虚構だったことに気付いた。


「だからこそ、私達はお互いを知るべきだったんです!!

 最初はお互いに自己紹介で良いんです!

 それから好きな物、趣味とかを話して、それからどんどん話を広げていって……! きっと最初の方はぎこちなくなるとは思います。警戒してしまうとは思います。でも……!!」


 カルミアも最初はそうだった。

 勇者として世界に旅立って色々な町を巡って人々を交流を繰り返した。

 でも、彼女は元々は人見知りが激しく、話をするのも怖かった。


 それに、自分みたいな小娘が突然勇者だと名乗っても、奇異の目で見られるだけで中々信じてくれなかった。そんな事ばかり続いて、心が折れてしまいそうだった。


 ……だけど、あの日。あの時。


『ところで、キミは?』

『あ、自己紹介忘れてましたね。私はカルミアって言います!』

『僕はサイト。よろしくお願いするよ』


 カルミアは運命の出会いを果たした。 


「でも……それでもいつか理解してもらえる日が来ます。

 自分が強くそれを望めば!

 心からその人を知ろうとすれば!

 そして自分の本当の感情を知ってほしいと願えば!!

 今の私だって、まだまだ全部曝け出す勇気はないけど……それでも……!!」


 カルミアの胸の奥から熱いものが込み上げてくる。

 目の奥から涙が溢れそうになる。


 だけど、彼女の言葉は止まらない。


「それでも私は、皆に私の事を知ってほしい!!!

 だって、そうしないと自分が生きてるって思えなくなるから!!!

 だから、私は、……何度でもこの言葉を口にします!!!」


 カルミアは両手の拳を強く握りしめて言った。


「私の名前は、カルミア!!!!

 勇者として大切な人達と旅をしています!!!

 皆さんの名前を聞かせてください!!!

 皆さんの事を教えてください!!!」


 その瞬間、客席の獣人達が立ち上がった。


「お、俺の名前はマッスル!! ゴリラの獣人だ!!」


「私の名前は、アイミー! リスの獣人で今年で23歳よ!」


「お、俺は元々旅の流浪人でここ出身じゃないんだが……水の都出身の獣人だ。名前は……」


「人間達! 私の名前はサルガス! 猿の獣人で……!」


「お前ェェ!! 今俺の自己紹介の途中だっただろうガァァァ!!」


「うっせぇよ! んなもんあとで何十回でも聞いてやるよ!!」


「お前達、落ち着け! 今はそんな事している場合ではなかろう!」

「そうよ!! 喧嘩してる場合じゃないでしょ!!」

「皆さん……!!」


 客席から続々と名前を名乗る獣人達。だが、彼らの自己紹介は止まらない。まるで堰を切ったように次々と名乗っていく。そして、それはやがて大きな波となってコロシアムに響き渡る。


「俺はガウンだ!! 狼の獣人だ!!」

「私はアマンダよ!! 猫又の獣人なの! 皆、よろしくね!!」


 そんな獣人達の自己紹介ラッシュを俺達は互いの顔を見合わせながら笑い合う。


 一通り自己紹介を終えると、今度は獣人達がこちらに向かって叫んだ。


「おい、アンタ達の名前を聞かせてくれ!!」

「今の人間の国の事を教えてくれよ!」

「俺達、国を出た事無いから何も知らないんだ!!」


 ……カルミアちゃんの言葉が、レイグルの獣人達の心に届いた!!


 俺は、彼女の心からの願いが叶った事を嬉しく思い、レオに視線を向ける。


 すると、彼もまた穏やかな笑みを浮かべていた。


 そして俺とレオは互いに頷き合った後、大声で叫んだ。


「いいぜ! まず俺はサイトって名前だ! 見ての通り、人間屈指の超イケメンで男の中の男だ!よろしく!!」


 俺がそう叫ぶと、観客席や兵士達が呆気に取られ、やがて爆笑の渦が巻き起こる。


「どははははは!! 屈指のイケメンっなんだよ!!!」


「人間の事は全然知らないけど、流石にそれは……あはははははは!!!」


「っていうか、お前さん。少し前に片っ端から俺達に声かけまくってたじゃねーか!!!!」


「お前の事はもう知ってるって!! はははははは!!!」


「なら俺だって獣人族ナンバーワンの尻尾を持つって名乗っていいか、良いよな!?」


「良いわけないだろ、アホか!!」


「はははは!!」


 獣人達は俺の自己紹介に腹を抱えて笑う。そして、そんな彼らの笑いが徐々に収まっていき、やがて皆の笑い声が止み始めた頃に他の皆も挨拶をする。


「……俺はレオだ。数年前までこの国に住んでいたが、名前を変えてこの国に戻ってきた。さっき奴が言っていた元の名前は好きじゃないから『レオ』と呼んでほしい」


「リリィだよ。獣人と人間の混血で、レガーティアっていう人間の国で冒険者達の指導をしてた冒険者ギルドの職員だよ。あ、今子供だと思ったでしょ? リリィは子供じゃないからなー! まだ年は若いけど立派な大人だー!!」


「……私は、ミリアム。本当の名前を名乗ると何故か邪魔されてしまうので今はそう名乗っておきます。それ以上の事を知りたければ……ふふ……私に貢物を寄越してくれたら色々教えてあげますよ?」


 それぞれが好き勝手に挨拶をすると、今度は俺達だけじゃなく全然が隣人にも挨拶を始める。中々に収拾のつかない状況になった。


 そうして、俺達はついでとばかりにここまでの旅路の話を始める。他の国の事やどんな人々を会って来てるのか、他所の国の獣人達がどのように過ごして人間と暮らしているのか。


 どうでもいい話から皆が興味を引く様な話をいくつも皆で話し、そうして俺達人間と獣人の溝はどんどん埋まっていった。


 だが……。


「こ、こんな、バカな事が……!」


 そんな人間と獣人の関係性の修復を心から否定しようとする人物が一人居た。


 ライアス・ガーダーだ。


 彼は後ろからカルミアの演説を聞きながら心の中で全てを否定しようとしていた。しかし、自分の意思に反して同胞であるレイグルの獣人達は、彼女の言葉を受け入れてしまった。


 だが、彼にはまだ切り札があった。

 ライアスはようやく出血が止まった左肩を抑えながら立ち上がる。


「く……」

「……ライアス、お前まだ……」


 ライアスが起き上がってレオや俺が警戒して奴と対峙する。

 だが、ライアスは俺達を無視して観客席に向かって叫んだ。


「き、聞け。我らが同胞よ。この者達の言葉を聞き入れてはいけない。コイツ等は俺達を騙そうとしている!!」


「……」

「……」

「この者達は、あの黒装束の人間達を操って我らレイグルの火の海に沈めようとした!! 諸君らもまだ記憶に新しいだろう。あの悍ましい戦いは全てコイツら仕組んだ卑劣な罠なのだ! だからこそ、この極悪人達をこの場所で処刑を執行せねばならないのだ!!」


「……」

「……」


「さぁ同胞たちよ。武器を取れ。

 我らの宿敵である卑劣な人間を我々自身の手で裁くのだ。さぁ!!」


「……」

「……」


 だが、ライアスの演説を聞いて獣人達は完全に沈黙を貫いていた。


「ど、どうした同胞たち。何故動こうとしない。敵がこうやって目の前にいるんだぞっ……!」


 ライアスがそう叫んでもやはり誰も動こうとしない。焦れたライアスは観客席の獣人ではなく自分の部下である兵士達に喝を入れる。


「ええい、兵士達。お前達が民の見本となるのだ。この人間達を射貫け!!さぁ早く!!」


「……」


 だが、兵士達も同様に動かない。それどころか……。


「……ライアス様。私も、この人間達の考えに賛同します」

「な、なんだと!?」


 兵士の一人がライアスに向かってそう呟く。他の兵士達も皆同じ意見なのか、武器を持つ事無くただじっとしていた。そんな彼らの行動にライアスが動揺していると、今度は観客席の獣人が言った。


「ライアスさんよ。俺達も正直嫌なんだよ。これ以上、見た事もない人間を蔑むのは」


「……なっ」


 一人の獣人が声を出すと、他の獣人も次々とぶっちゃけ始める。


「私も正直嫌よ。何も知らない自分の子供に『人間が獣人の敵だから何があっても関わっちゃダメ』って言うの本当にキツイのよ。

 『どうして人間と関わっちゃダメなの?』とか『敵っていったい何なの』とか聞かれても何も答えられないもの。だって私も全然知らないもの」


「ウチもそうだなぁ。会ったことも無い人間を恨むように教育するって冷静に考えて狂ってるだろ」


「大体……コイツらがが黒装束の人間達を操ってたとかライアスさん言ってたけど、俺達を一生懸命庇って戦ってくれたところを見てんだよな」


「瓦礫に挟まれてたところをそこのちっちゃいのに助けてもらったんだよ」


「ライアス様は国家転覆罪……とか言ってたけど、俺達を助けようとしてくれた恩人にそんな罪与えていいのかよ」


「感謝の言葉を言いたかったのに言えなかったんだよ。だって人間を称賛したり庇ったりしたらレオさんみたいに追放されちゃうんだろ。……どう考えても理不尽だよな」


「……これ以上、うちの子供達に人間を嫌うような振る舞いをしろって教えるのは真っ平よ。もう二度としたくないわ」


 獣人達は皆、口々にライアスに反論する。そんな彼らの言葉を受けても尚、ライアスは必死に言葉を続けるが、もはや誰も言葉を聞き入れようとしない。誰がどうみても、この国に悪影響を与えているのは、俺達人間ではなくライアスにしか見えないからだ。


 そして……。


「ライアスさん、もういいでしょう」


 か細い声、それでもはっきりと届く声が、処刑場の入り口から響き渡る。そこに現れたのは、この獣人の国レイグルの現統治者であるファーリィ・レイグルだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます

書いてる時はテンションめっちゃ上がってたんだけど時間置くとなんか違う感じがしなくもないこともない

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