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第14話 単独行動

 女性の悲鳴が聞こえた方角に向かうと、そこには女性と異形に変化した人間の姿があった。


「くそ、またか!」


 バグ剣を取り出しながら異形に襲われそうになっている女性の前に駆けつける。


「大丈夫か!?」

「あ……」


 女性は逃げようとして足を引っかけたのか、尻餅を付いて地面に倒れていた。

 ”俺”が前に出ると安堵したような表情を浮かべる。


「ここは任せて! 今の間に逃げて人を呼んでくれ!」

「……だ、ダメなの。腰が抜けて……」

「ちっ!」


 ”俺”は舌打ちをしながらバグ剣を構える。

 こうなってしまうと逃げることも助けを呼ぶことも出来ない。

 カルミアちゃんが傍に居ないので自分一人で目の前の異形に対処しなければ……。


 大丈夫だ。魔物ならともかく、バグ剣が通用する相手なら……!

 バグ剣で直接斬りつけるか、それか別の手段で動きを鈍らせて……。


「きゃ!」


 そんな事を考えていたら、背後の女性の悲鳴が聞こえた。振り返ると、そこには目の前の異形とはまた別の異形が幽鬼のようにフラフラとした足取りでこちらに近付いてきていた。


「おい、マジかよ……!」


 一対一ならまだしも、足手まといを連れて二対一はキツすぎる。

 ただの喧嘩なら不意打ちアリでギリ行けるが、相手は理性を失って敵意丸出しなゾンビ擬きだ。

 しかも背後の女性に危害を加えないよう配慮しながら戦う必要がある。


「畜生……! くらえっ!」


 とりあえず二対一はマズい。数を減らさないと。

 ”俺は”まず目の前の異形を速攻で対処する為に、半ばヤケになって斬り掛かる。

 剣術など知らない俺は、とにかく右手で剣を振り回す。


「がっ!」


 しかし、そんな雑な攻撃は当然の如く躱される。


 そしてそのままカウンターを喰らう形で異形に片腕を無造作に掴まれて、そのまま地面に叩きつけられる。


 同時に左手に持っていた松明を地面に落としてしまう。


「ぐはっ……!」


 異形化した人間の元の姿は普通の男性の筈なのに、物凄い力だった。自分より圧倒的に強いカルミアちゃんですら投げ飛ばされるわけだ。衝撃で呼吸が出来ずに意識を失いそうになるが、何とか立ち上がってバグ剣を構える。


 ……こうなったら!


「グアアアアアァァァ!」


 異形が右手をハンマーのように振り上げながら、自分に襲い掛かってくる。”俺”は敢えてその攻撃を避けずに、バグ剣を構えて防御する体勢を取る。


 そして次の瞬間、異形の拳が俺の腹に直撃した。


「ぐはっ……!」


 その衝撃に思わず前のめりになって倒れそうになるが、何とか堪える。


「うおおおっ!」


 気合を入れて足腰に力を入れると、そのままバグ剣を異形の顔に叩き込む!!


「グッ!!」


 頭に剣の腹が直撃し、それと同時に異形が変化が起こる。


 異形の周囲に数式と文字列の羅列が出現し、異形の身体を包み込んだ。


 そして次の瞬間、その羅列が弾けるように消えると、そこには元の人間の男性の姿に戻り、そのまま地面に倒れて気絶する。


 これで一体倒した……後は……!


 二発手痛い攻撃を受けた身体に喝を入れて俺は背後を振り向く。


 そこにはさっき現れたもう一体の異形の姿があり―――


「あああぁ……た、助けて……!」


 その異形は、腰を抜かした女性の背中を左手で地面に押さえつけ、今にも右手に持っているバールのような鈍器で彼女を襲おうとしていた。女性は恐怖に引きつった顔でこちらに必死に助けを求めていた。


「おい、止めろ!」


 俺はすぐさま地面に転がっていた松明を異形に投げつける。

 そして、俺が投げた松明を異形がバールで振り払った瞬間に突っ込んで体当たりを喰らわせる。


「ガッ!」

「コイツを喰らえ!!」


 そして、奴が地面に倒れたところでバグ剣を使ってさっきの異形と同じように変化を起こさせる。


 異形が数式と文字列の羅列に包まれて、やがて元の人の姿に戻る。


「はぁ……はぁ……」


 なんとか目の前の敵を倒せた”俺”は荒い息でその場に立ち尽くす。


「……あの、ありがとうございます」


 背後から女性の声がして我に返る。女性は抜けた腰を抑えながらも何とか立ち上がっていた。


「……いや、無事で何よりです。それよりも一人で帰れますか?」

「何とか……」


 女性は地面に倒れている二人の男性に視線を移す。


「この人達、今の内に捕まえて衛兵に突き出した方が良いんでしょうか?」

「いえ、気絶しているだけだし、少ししたら目を覚ますと思います。多分、もう暴れることはありませんよ」

「で、でも……」


 女性はかなり不安そうな表情を浮かべている。

 無理もないか、さっきまで唸り声を上げて自分に襲い掛かってきてたわけだし。


「俺……いや、”僕”が保証しますよ。それよりもこんな時間に何してるんですか。今、この街は危険なんです。すぐにでも家に戻ってください」


 ひとまず状況が落ち着いたので口調を整える。


「仕事から帰る途中だったんですが、帰る途中に怪しい人影を目撃しまして……。

 衛兵を呼ぶ前に姿だけでも確認しようと追いかけたんです。それで行った先の廃屋にまで向かったんですが、人影は何処にも無くて……引き返そうとしたら途中でこの人達に突然襲われて、ここまで逃げてきたんです。……私、何か何だか分からなくて……」


 女性はそう言いながら地面に倒れている二人の男性を恐怖の目で見つめて肩を震わせる。


「……廃屋? その場所って何処ですか?」

「あ、あっちの方です」


 女性は少し歩いてT字路の右側を指差す。


「この道の突き当たりを左に行った場所に、少し前に火事で倒壊した廃屋があるんです」


 怪しい人物を見掛けて人を呼ばずに自力で調べようとしたこの人の度胸に感心するが、結局自分が追い込まれてしまっては元も子もない。余計な事をしなければ危険な目にも合わなかっただろうに。


 俺はそんな無謀なこの人に内心では呆れながら告げる。


「……僕が調べてきます。貴女は危険なのですぐに帰宅してください。

 ――あ、そうだ。もし途中で酒場の近くを通ることになったら、酒場の中に”カルミア”って名前のブロンドの髪の女の子がいると思います。その子に僕が廃屋に向かった事を伝えてください。僕の名前は『サイト』と言います」


「わ、分かりました。サイトさん。本当にありがとうございました!」


 女性は何度も頭を下げながらその場から去って行く。それを見送った後、”俺”は教えられたT字路の先へと足を踏み入れる。彼女が言っていたようにT字路の右を進み、更に突き当たりを左に向かう。


「……ここか」

 女性の言った通り、目の前には焼き焦げてボロボロになった廃屋があった。


「……自分から面倒事を引き受けるなんて……あの子に感化されてしまったか?」


 ……怪しい影がここに逃げたって話だけど。もしこの廃屋の中に潜んでいるとしたら……。


 俺は廃屋の中を覗く。周囲に他の人影は見えないが、まだ中を調べていない。

 もしかしたら何処かに隠れているかもしれない。


「念の為に」


 バグ剣を取り出して慎重に中に入ろうとして扉に手を掛ける。

 その瞬間だった。突然、扉が勢いよく開き、中から何かが飛び出して来た。


「うお!?」


 飛び出してきた何かはそのまま俺の身体に体当たりして押し倒すと、そのまま馬乗りになって首を絞めてくる!


「ぐっ……!」


 しかし思ったほど力が強くなかったので、何とか振り払って立ち上がる。

 警戒しながら距離を取ってそいつの姿を松明で照らして姿を確認する。すると……。


「異形……じゃない? お前は……!」

「……殺すなよ、やれ」


 目の前の人物がそう言った瞬間――俺の後頭部に衝撃が走り、俺の視界が暗転した。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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