第138話 俺じゃねえ、お前だ
「レオ、今のお前の行動に後悔は無いな?」
俺は改めて質問する。そこに焦りの感情は全く無い。不思議なことに。
「………無いさ」
久しぶりにレオが返事をする。多少溜めがあったがいつも通りの声色。
「そうか、じゃあ――」
俺はこの場に似つかわしくないくらい笑みを浮かべながら言葉を続ける。
「――やっちまえ」
「!!」
次の瞬間、その矢は放たれた―――!!
その矢はレオの狙い通りに再加速するように勢いよく飛んでいく。
そして見事に目的の対象に命中する。
「ぐはっ……!!」
レオの狙い通りに。
その矢は、見事に男の左肩を貫いていた。
ライアス・ガーダーの左肩に。
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!? ラ、ライアス様ぁぁぁ!?」
その光景に兵士達は信じられない光景を見たかのように叫ぶ。さっきまで俺達を殺そうとしてたのにいきなり味方を撃ったんだから驚くのも仕方ない。もっともレオの味方は俺達で敵はあのライアスなんだから当然なのだが。
カルミアちゃん達はレオが俺を撃つかもしれないと心配してたようだが、俺はと気付いていた。その目が仲間としての俺達を見る目と何も変わらなかったから。
レオは用済みになった弓を地面に放り投げる。
俺は近付いてレオの肩ポンと叩く。
「上手く射貫けたじゃねーか、初めてだったんだろ?」
「……よく俺が初めて撃ったと気付けたな。隠していたつもりだったのだが」
レオは若干感心したように言う。
「お前、弓矢を持った時に使い方に一瞬戸惑ってただろ。構えも格好悪かったし、アレはどう考えても初めて弓矢を持った雰囲気だったじゃねーか」
「大した観察眼じゃないか。俺の真意を見抜いた点も含めてな」
「お前、言ってたじゃねーか、ライアスは俺に任せろってさ」
「……ふ」
「……へへ」
そうして俺とレオは互いに笑みを浮かべる。
俺はレオの肩から手を離し、ライアスに視線を向ける。
「ぐ……がぁ……」
左肩を貫かれたライアスは痛みで蹲っている。アイツもレオに劣らないくらい強そうだったが、あれだけ油断をしていたので何の反応も出来なかったようだ。
「でもお前もやっぱりアイツに情が残ってるんだな。心臓を狙えば全部終わってたのに、左肩を狙うなんて」
「……偶然だ。初めて弓を打つから狙いを外してしまったようだ」
「んな事言ってぇ、本当は嫌だったんだろぉ?」
「……ウザ絡みは止めろ。そこは俺がお前に直してほしい欠点だぞ」
「へいへい」
そんな会話をしながら俺達は揃ってコロシアムのステージに降りる。兵士達はライアスが射貫かれてかなり混乱しているようだが、かといって俺達に攻撃を仕掛けようとはしない。命令が無いから動けないのか、それとも動きたくないのか。まぁそれは後で分かるだろ。
観客に座る獣人達はライアスを心配する奴らも居たが、どちらかといえば横切る俺達に注目していた。
困惑する目、人間に対して少なからず嫌悪する目、何かを期待してるような目、他にも「いけー、そこだー」とか現実逃避して俺達に叫んでるアホも数人いるがとりあえずレオが小突いて黙らせていた。
そして全員に共通するのは、俺達の歩みを止める者は誰も居ないって事だ。これから俺達がライアスに何をしようとしているのか、薄々気付いているだろうに……。
俺達はライアスのいる場所まで階段まで登り、呻き苦しむライアスを見下ろした。ライアスは俺達を憎しみの表情で睨み付け、出血が止まらない左肩を右手で抑えながら叫ぶ。
「リオン・ガーター!! 貴様、裏切ったなぁぁぁぁぁぁ!!」
「……俺は初めから裏切ってない。この国の地にこいつらと一緒に再び足を踏んだ時点で俺は獣人達を憎しみから解放する為に動いていた。信じられる仲間と一緒にな」
そう言って、レオは俺達を見る。
「……よし、カルミアちゃん。ここまで俺達が姿を変えてこの国に滞在していた理由を皆に話してやろうぜ!」
「……はい!」
そうして俺達はライアスを無視して観客席を見下ろす。
そしてカルミアちゃんは叫んだ。
「皆さん、私達の話を聞いてくださいーーー!!!」
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