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第137話 レオ・グランツ

 前回までのあらすじ。


 俺・超覚醒!!!!!!


 ……以上。


「これで形勢は逆転したな」


 レオの言葉で気合いを入れ直すと同時に、一つの修羅場を終えて場が膠着したことで俺は周囲を把握し直す。


 ライアスサイドにもそれなりの兵士達が配備されている様子。


 だが、戦力として見ればその程度、先日の黒炎団のように物量と質で押せるほどの数も技量も無い。


 そして高みの見物をしているライアス。以前の戦いぶりを見れば強いのは分かるが、それでも俺達数人を相手出来るほどじゃない。


 問題は……。


「(正面に居る観客たち……)」


 彼らは俺達を見て困惑しているが、こちらを見て攻撃を仕掛けてくるような気配はない。ライアス達に無理矢理連れて来られたらしく俺達の処刑を見物したくて来たわけじゃない。


 故に彼らの今の表情は、緊張……だろうか。


 何故、緊張しているかと言うと、おそらくライアスサイドの旗色が悪くなったら自分達が人質にされることに薄々気付いている。彼らは脅されているだけでライアスの味方ではない。


 かといって、殺されそうになってる俺達を見て、哀れには感じているようだが身を挺して庇うほどではない。


 ……少なくとも、今彼らは中立の立場にあると思われる。


「サイト」「ん?」


 俺が考えを巡らせてるとレオが俺の名を呼んだ。


「頃合いだ。俺やカルミア達の変身を解いても良いと思わないか?」


「あん?」


 確かに、カルミアちゃんはカミラの変身薬で今も変身中だが、解いても良いってのは……。


「……なるほど、そろそろ俺達の目的を伝えても良いって訳か……本当の意味で、『人間』を信じてもらうために」


 俺はレオの考えをなんとなく読み取り言った。


「カルミアちゃん、リリィ……それにレオ。もう元の姿に戻って良いぞ」


「……何? どういうことだ」


 ライアスは俺の言葉の意味を理解出来ずに首を傾げる。


「そうですね、ちょっと驚かせてしまいそうですが」

「この猫ちゃんの姿も気に入ってたんだけど、仕方ないか」

「……」


 そして、三人は懐から俺が前に渡した解除薬を取り出す。懐にあったおかげか取り上げられなかったのが幸いだろう。そしてそれを服用すると、彼女達の姿がどんどん変わっていき……。


「に、人間?」

「あの二人だけじゃなくて、あの子達も人間だったのか……」

「いや待て、一人だけ姿が大して変わってない奴がいるぞ」


 観客席の獣人達が騒ぎ始める。流石にここで俺達の姿が変わるとはだれも想像していなかっただろう。俺達もまぁこんな大舞台で変身解除するなんて考えもしなかったが。


「に、人間……!? いや、それも驚きだが、貴様……やはり、貴様は……!!」


 ライアスは人間に戻ったカルミアちゃん達ではなく、レオに視線に集中している。


 レオは元々獣人だが薬によって僅かに容貌が変化していただけだ。そのため、観客席や兵士達もさして驚く様子は無かったのだが、ライアスだけは動揺を隠せていない。

 何故なら……。


「そうだ、ライアス。俺は……お前の兄であるレオ……いや、リオン・ガーターだ」

「……っ!」


 反応を見るに、レオが自分の兄である事は薄々気付いていたらしい。しかし、拳を握りしめて人間の俺達を見るより殺意の籠った奴の目を見る限り相当な因縁がありそうだ。


 が、それ以上に俺は気になる事があった。


「おい、レオ。お前偽名だったのかよ」

「……」


 レオは俺に一瞬視線を向けると、若干気まずそうな顔をして視線を逸らす。


「……正体がバレると困る。お前達に名乗ったのは、”はぐれ”として追放された時に自分で改めた名だ」


「そうなんですか……でも、レオって良い名前だと思います!」


 レオの告白にカルミアは明るい声で肯定する。

 それを聞いて俺達はクスリと笑う。


「確かに、リオン・ガーターなんていう気取った名前より今の方がお前らしくていいと思うぜ」


「今はレオ・グランツだもんね。そっちの方が格好いいってリリィも思うよ」


「三人とも、名前で弄るのは止めなさい。レオさんも困ってるでしょう」


「ははは」「ふふっ」「あはは」


 女神の言葉に、俺とカルミアちゃんとリリィが噴き出す。

 それを聞いていたレオは、僅かに口元を緩める。


「……ふ、俺も今の名の方が気に入ってる」

「ははは、やっぱお前は俺と気が合うな!!」

「……同感だ。俺も、お前と一緒に居るのは心地いい」


 俺とレオは互いにニヤリと笑う。

 だが、そんな俺達に水を差すようにライアスが叫んだ。


「何故だ!? リオン・ガーター! 何故お前がそんな薄汚い人間達と一緒に行動している!? そいつらは悍ましき人間! 俺達獣人にとっての仇敵である事を忘れたか!!」


「……それは昔の話だろう、ライアス・ガーター」


 怒りで我を忘れたように叫ぶとライアスと反対に、氷のように淡々と冷静に話すレオ。


「昔だろうが今だろうが関係ない!!

 このレイグルの創設者達は薄汚い人間どもに奴隷のように扱われ、怪我や病気になった獣人達はゴミのように捨てられた!!

 時には何度も逃亡を図ったが、その度に犠牲者が出しながら追っ手を差し向けられ連れ戻された!

 そこに待つのは地獄よりも恐ろしい拷問と罵倒!!

 獣人だって人間と同じく、両脚で立つ知恵ある生き物だというのに、奴らは獣人の尊厳を貶めてなじり続けた!!

 貴様もこのレイグルで、人間ほど醜い生き物はこの世に存在しないと学んだだろう!!」


「……あぁ、学んださ」


 レオはライアスの言葉に答えると、拳を強く握り締める。


「だが、それは全部歴史の教科書に書いてあった遠い昔の話だ。もうそんな時代はとっくに過ぎ去っている……!」


「過ぎ去ってなどいない!! 今も人間は同じだ!! 数日前のあの黒装束の人間達を思い出せ!! アイツらがまともな奴らに見えたか!!!

 俺達の故郷を焼いてそれを見て嗤い、同胞たちの命を弄んだ!! 貴様の横にいるその人間どももそいつらと同じだ!!」


「違う」


「違わないさ、そいつらも仲間だ! このレイグルを貶めた諸悪の根源、元凶、俺達獣人達が一致団結して滅ぼすべき”巨悪”だ!!」


 おいおい、好き放題言ってくれるな……。


「なぁ我が兄よ。今なら全てを水に流してやろう。お前に付けた”はぐれ”の烙印も今なら返上してやろうじゃないか。だから、今からでもこちら側に戻って来い!!」


「……戻るだと?」


「一度は俺達に反旗を翻した愚か者の貴様とはいえ、それでもこのレイグルに生まれた獣人。

 それに俺と同じようにお前にはあり余ったパワーがある。醜い人間どもを皆殺し出来るだけの力が!!」


「……!」


「俺に従え、リオン・ガーター。その人間達をお前の手で殺せば全てを許してやろう!!」


「はぁ!? ふざけんなよ、てめぇ!!」

「……」


 思わず俺はライアスに向かって叫ぶが、レオは黙って俺の方に腕を伸ばして制してくる。


「レオもさっきから黙ってんじゃねえよ、何とか言えや!!」

「ちょ、サイトさんも落ち着いて!?」


 俺がレオに一言言ってやろうとするとカルミアちゃんが止めてくる。


「ねぇレオさん、レオさんがそんなことするわけないよね?」

「……レオさん。貴方の弟はああ言ってますが……」


 そこにリリィと女神がレオに声を掛ける。

 だが、レオは何故か無言になって俺達から視線を逸らす。


「ちょ、お前!!」

「だ、大丈夫ですって! ねぇ、レオさん!?」

「……」


 カルミアちゃんが俺を後ろから抑えて、レオに声を掛ける。

 だが、それでもレオは何も口にしない。


 そんな様子を観客や兵士達は、緊張した様子。


 兵士達もライアスに命令された俺達への攻撃も忘れている様子で成り行きを見守ってる。あるいは、この状況で何かが変わるかもという期待があるのか。


 だが、ライアスはレオの無言を自分の提案の肯定だと受け取ったらしい。恐ろしいほどの悪意の籠った笑みを浮かべて言った。


「ふん、うるさい人間達だ……。

 リオン・ガーター。まずはその男を殺せ、俺達レイグルの獣人達の前で殺すんだ!! これは俺達獣人にとって歴史的な一歩となるだろう!!」


 ライアスは全ての憎悪を込めてそう叫ぶと、周りは静まり返る。そして、俺達を含めてここに居る全ての生物の視線がレオに注がれる。


「……」


 そして、レオは十秒程度思考してから、その足を一人の兵士達に進める。


「れ、レオさん……!?」


 今までレオの事を信頼していたカルミアちゃんだったが、彼の行動の意味が分からずその背中に声を投げかける。だが、レオはこちらには一切視線を向けず見当違いの方向に歩みを進める。


「レオさん、まさか……!?」

「な、何をする気?」


 女神もリリィも、カルミアちゃんと同じく何かを感じ取ったのかもしれない。彼を止めないと何か取り返しのつかないことが起きてしまうと。


 ……まさか、自分達を裏切るのではないか?と。


 次の瞬間、彼女達の嫌な予感が確信近くまで現実になってしまう。


「おい、そこの兵士」

「は、はい!」


 レオは歩み寄った兵士に声を掛ける。兵士は身体を震わせて、敵であるはずの俺達の一人のレオに敬礼のポーズを取って返事をする。


「その弓と矢を貸してくれないか」

「自分ので、ありますか?」

「ああ」


 兵士は言われた通りにレオに自分の弓矢を手渡す。すると、レオは受け取った弓と矢を軽く見て触ると、ややぎこちない感じで弓を番えて構える。


 ……俺の方に。


「レオさん!!」

「な、何で!!?」

「レオさん、ダメです。彼を殺してはいけません!!」


 カルミア、リリィ、女神の三人がレオの凶行を見て一斉に声を上げる。


「……」

「……」


 俺はこの雰囲気の中、本来一番焦るべき俺はレオと同じく無言になってしまった。仲間であるはずのレオが俺に矢を向けて、今にも殺そうとしているこの局面で何故俺は黙ったままなのか。自分でも不思議で仕方なかった。


「そうだ、リオン・ガーダー! その人間を殺せ!」


 耳障りな声が響く……。


 だが、そこでカルミアちゃんは俺とレオの間に割り込んで両手を横に伸ばして俺を庇おうとする。


「退け、カルミア」


 レオは今までの俺達と接するような冷静な口調でカルミアに言う。


「レオさんこそ、その弓矢を閉まってください! いくら兄弟だからってあんな酷い人の言う事を聞く必要はありません!!」


 カルミアちゃんは退かない。自分の命に危険が及んだとしても、それが仲間であっても全力で守ろうとする。それは彼女が本物の勇者の心を持っているから。


 だからこそ、自分達を裏切ろうとするレオを止めるしそれを許さない。


 だが彼女の目は優しさと慈愛に満ちている。レオの凶行を止めようとするのは、俺を救うだけじゃなくて彼の心を救おうとしているのだ。


 だが、しかし……。


「カルミアちゃん、今は退いてくれ」

「さ、サイトさん?」


 まさかの自分が庇ってる俺からそんな言葉が出るとは思わなかったのだろう。


「大丈夫だ、ここは男同士でケリを付けてみせるからよ」

「で、でも……レオさんが……!」


 カルミアちゃんは俺とレオに何度も視線を往復させ、迷った末に射線上から身を引いた。それでもカルミアちゃんは不安そうな表情で俺達二人を見つめる。


「悪いな、カルミアちゃん……さて」


 そんな彼女の表情に可愛らしさを感じながら、俺は改めて視線をレオに向ける。


「……」


 しかしレオは黙ったまま。だが、レオのその目は……。


「レオ、こうなったからには遠慮するなよ?」

「サイトさん!」


 俺の言葉にカルミアちゃんが怒った様に叫ぶ。そんな叫びを俺は手で制すと、背後で俺を心配そうにしているリリィと女神にも言った。


「聞いたな、二人とも。これは男同士の問題だ。お前達の出る幕じゃないぜ?」


「お、お兄さん……」


「……全く、もう……死んでも知りませんよ……?」


 リリィと女神は呆れたように、そして何処か諦めた様子でそんな事を言う。


「……」


 レオはそんな仲間達に一瞬視線を移すが、再び俺に視線を合わせる。そして狙いを外さない様に……というよりは、弓を確実に射る為に念入りに握りしめる。


「レオ、今のお前の行動に後悔は無いな?」


 俺は改めて質問する。そこに焦りの感情は全く無い。

 不思議なことに。


「………無いさ」


 久しぶりにレオが返事をする。

 多少溜めがあったがいつも通りの声色。


「そうか、じゃあ――」

 俺はこの場に似つかわしくないくらい笑みを浮かべながら言葉を続ける。


「――やっちまえ」

「!!」


 次の瞬間、その矢は放たれた―――!!

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