第131話 可哀想な敵さん
「死ぬのはテメェだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
カルミアちゃんに襲い掛かろうとした黒装束の男に、サイトは持っていた剣を全力で叩きつけた。
「ぎゃああああ!?」
その一撃で男は悲鳴を上げて一撃でぶっ倒れる。
「さ、サイト……さん?」
「おうカルミアちゃん、無事で良かったぜ! 相変わらず可愛い戦ってても可愛い何なら存在自体がもう可愛いな!!」
サイトは久しぶりに見たような気がするカルミアを見てテンションが爆上がりし、そんな訳の分からない事を口走る。
「え、えっと……」
「カルミアちゃん、コイツがお前を酷い目に遭わせた奴で間違いないか!?」
「は、はい!そうです!」
「そうか……なら死ね!!」
サイトはそう叫んで黒装束に剣を振りかぶって、倒れた奴のケツ目掛けて剣を突き刺す。
「ぐぎゃああああああ!!!」
「はっはっは!! これで済むと思うなよ!? 次はその下にあるそれを潰した後にお前の人生も潰してやっからなぁぁ、そぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉら!!」
「ぎ、ぎぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「ちょ、サイトさん!?」
剣をケツに突き立てて上下に動かしながら、俺は黒装束を容赦なく蹴り続ける。するとそこへカルミアがサイトを羽交い絞めにして止めに入った。
「サイトさん! もう十分です!」
「え? いや、まだ俺の怒りは収まってないんだけど……」
「いやいやいや、もういいですから! これ以上はもう死体蹴りになっちゃいますって!」
「カルミアちゃんをキズモノにした罪は末代まで許されねぇんだよ!」
「キズモノ!? いや、サイトさん絶対何か勘違いしてます! レオさん、サイトさんを止めて!」
「……無事に戻ってきたと思ったら、随分とご機嫌だな、サイト」
既に襲い掛かってきた敵を倒していたレオは、大暴れするサイトとそれを必死に止めるカルミアを見て苦笑する。そしてサイトの肩を両手で掴んで軽く持ち上げる。
「お? なんか浮遊感が……ってレオじゃねーか。相変わらずお前はデカいな、元気してたか?」
「お前……いや、お前こそ元気そうで何よりだが……」
レオは気が抜けてしまうようなサイトの言葉に思わず笑ってしまいそうになるがそれを堪えて彼を地面に降ろす。
「よっと……ふぅ、コイツをボコったおかげで少し冷静になれたわ」
サイトはそう言いながらたった今倒した黒装束の男に視線を向けて笑う。その男はうつ伏せで倒れており男の尻の中心には見事に剣のタワーが突き立っていた。
「あ、剣返してもらうからな」
グサッ!
「ぎゃああああああ!!!!! ………ぐはっ」
サイトが剣を引き抜いた事で男の尻から血が流れ沈黙した。
そんなサイトの様子にカルミアとレオは引いていたが、大切な仲間が無事でいてくれた喜びが勝った。
「サイト、よく戻ってきてくれた」
「本当に……それに助けてくれてありがとう」
二人に背後から声を掛けられてサイトはくるりと振り返り、戦場の真っ只中にしては妙に爽やかな笑みを浮かべる。
「おう、二人も無事で良かったぜ」
「塔から飛び降りるところを見ていたが、よくあの高さから無事だったな」
「女神様……じゃなかった、ミリアム様も無事なんですか?」
「勿論アイツも元気だぜ。ただ魔力がスッカラカンだからリリィと一緒に待機してもらってるよ」
「そうか。……しかし、お前その姿……」
「変身薬、効果切れちゃったんですか?」
二人はサイトが人間の姿に戻っていた事が気になるようだ。今は戦場と化しているのでそれどころではないが、もし通常時でこのレイグル領内で人間が居た場合ロクな事にならない。
「ああ、解除薬を飲んで元に戻ったんだよ」
「解除薬? そんなのあったんですか?」
「一応手渡されてたんだよ。実際、この姿の方が動きやすいしな」
「……ふルミアの動きが若干ぎこちなかったのはそれが理由か」
レオはカルミアの姿を見てそう言った。確かに今の彼女は綺麗な毛並みでモフモフしており獣人の中でも顔立ちは綺麗だが、元の人間の姿と比べるとかなり違う。
カルミアも多少それは気になっていたのだが、自力解除も出来ず獣人の前で人間に戻るわけにもいかなかった。
「えっと、その……この姿でいるとどうしても動きが鈍っちゃって……」
「それなら解除薬を二人に渡しとくわ」
サイトはそう言ってカルミアとレオに解除薬を一つずつ手渡す。
「さ、この勢いで終わらせようぜ。これが終わったらレイグルの復興も手伝わなきゃならんしな」
「サイトさん、ポジティブ……」
「というかお前、よく動けるな……。よく見たら傷だらけじゃないか」
「ほ、本当だ。サイトさん、治療しますね……癒しの力を……」
そう言ってカルミアはサイトに駆け寄り、彼に治療の魔法を施す。女神と比べてまだ未熟なのと彼女自身の残り魔力が心許ないので完全回復とまではいかないが、サイトは随分と身体が軽くなった。
「流石カルミアちゃん! ……よし、レオ。お前も結構疲れてるっぽいがまだまだいけるよな?」
「当然だ……それに、あの男の前で弱った姿を見せるわけにもいかんからな」
「あの男?」
レオの言葉に思い当たる節が無かったサイトはレオの視線を追ってみる。そこには今でも戦闘を繰り広げてる獣人達の姿があった。
殆どがサイトの知らない獣人だが一人。
見覚えのある獣人の姿があった。
「アイツ、ライアスって名前だったような……生きていたのか」
「……ああ」
「サイトさんには言ってませんでしたね。ファーリィさんとライアスさん、生存が絶望的だと思われていたんですが無事に屋敷から脱出していたようです」
「なんだ、そうだったのか」
彼らを助けることが出来ずに心残りだったのだが、無事に生きていたとなれば話は別だ。サイトは顔に喜色を浮かべながら獣人達に手を振って無事をアピールする。
「よう、無事で良かったな!!」
「……?」
だが、ライアスからすると変身薬の効果が切れてしまった彼は不審な人間でしかなかった。
「……誰だアイツは。人間のようだが敵か?」
「いえ、ライアス様。あの人間、我らを襲った黒装束を一人倒していました」
「ということは仲間割れか?」
「さ、さぁ……?」
「どのみち、今は相手にしている場合ではない。行くぞ」
「はい!」
そう言ってライアスはサイトを無視して戦場の奥へ進んで行く。
「あ、おい! ……行っちまった」
「……サイト、今は黒炎団を潰すのが先決だ」
「そうだな。よし、さっさと終わらせようぜ!」
そう言ってサイトは剣を構えて戦場を駆け抜ける。
そして獣人と黒装束の戦いに乱入し、そのまま戦い続けた。
尻に剣をブッ刺した後、執拗に男の金の玉を蹴り続ける主人公




