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第130話 飛び込み

「はぁ……はぁ……!」「あれは……」


 森林で身を休めていたサイトと女神だったが、遠くから聞こえる音に反応して音のする方向へ向かってみるとそこには……。


「おりゃああ!!」

「人間なんかに獣人の俺たちが負けるわけない! はぁぁぁぁ!」

「くそ、獣人どもめ!!」

「勢い付きやがって!」


 森林の中でレイグルの獣人達が武器を持って黒装束の集団と戦闘を繰り広げていた。


「……黒炎団の連中か。俺達より町を襲う事を優先したか」

「廃塔には居ませんでしたが、町に増援を送り込んでいたようですね」

「よっぽど獣人達を潰したいらしい、けど……」


 サイトは悪辣な黒装束の集団を睨みつけながら、その戦いの様子を観察する。獣人達は火災やここまで辿り着く為に犠牲になった人数も相当な数であり、今戦ってる彼らも無傷とは言い難い状態だ。


 女性の獣人や子供の獣人は戦いに参加せず、男の獣人が武器を持って必死に戦っている。


 一方、黒炎団の集団は必死になって食いついてくる獣人達に焦りを見せていた。こちらは戦いに関しては手慣れているようで、身軽な武器を手に取って魔法でけん制しながら動き回って多数の獣人を相手取っている。


 だが単独での戦力が上だとしても獣人の方が圧倒的に数で上回る。

 このまま上手く行けば獣人達が押し勝つだろう。


「……ん、あれは?」

「なんだ?」


 視線を追ってみると獣人に混じってカルミアとレオが奮戦している様子だ。彼女達も無傷とは言えないが、周りの獣人達に声を掛けて戦意を高めながら果敢に戦っている。特にカルミアちゃんは周りの獣人達に指示を出しながら魔法で上手くサポートしている。


「良かった、無事か……」

「ですが、リリィさんの姿がありませんね……」


 彼女の言葉でリリィが居ない事に気付き視線を彷徨わせる。獣人達が黒炎団と戦っている後方に、彼らの戦いを不安げに見守っている獣人の子供達の中に目的の人物の姿があった。


「あそこに居る。後方で子供の獣人達を守ってるみたいだ」


「そうですか……ではリリィさんの所に向かいましょう」


「ん? でも俺達もカルミアちゃんの加勢に行った方が……」


「今の私達が戦力になると思いますか?」


 女神にそう言われてサイトは黙り込む。女神の言う通り、今の自分では足手まといになるだろう。その事実に渋々納得した俺は女神と一緒にリリィの元へ向かうのだった。


 ◆◇◆


「リリィ!」

「あ、お兄さん! それにミリアムさんも!」


 二人の姿に気付いたリリィが駆け寄ってくる。

 リリィは言った。


「二人とも人間の姿に戻ってるじゃん?」


「あ、そういえばそうだったわ」


「色々あってそれどころじゃなかったんですよ、こっちは……」


「こっちも大変だったよ。町が火の海になってから走り回って獣人さん達を避難させてたんだけど、途中で瓦礫に埋もれてた獣人さん達を助け出したり、迷子になってた子供を誘導したり……」


「あー、大変だったな」


「本当そうだよ! ……でも、一番はあの集団が襲ってきた事かな」


 そうリリィは口にして獣人達と黒炎団の戦いに視線を向ける。


「最初はリリィ達だけで相手してたんだけど、途中であっちが人質を取って脅してきたんだよ。ピンチだったけど、今は獣人さん達が戦いに参加してくれたお陰で子供達を守る事に専念出来てるよ」


 リリィはそこまで一気に口にしてため息を吐くと、俺達に言った。


「二人は何してたの?」


「俺達は元凶を潰しに廃塔に行ってたんだよ」


「倒せたの?」


「ああ……でも、アイツらが召喚した魔物に苦戦してなぁ……」


「最終的に私達だけでは倒しきれなかったので、廃塔の崩落に巻き込んで倒す事しか出来ませんでしたよ」


 サイトと女神はリリィに経緯を説明する。


「突然、廃塔が崩れてびっくりしたよ。あれはミリアムさんがやったの?」


「ええ、魔法で」


「二人が塔から落ちてくるところを見たけど、よく生きてたね」


 ボロボロの俺の姿を見ながらリリィは若干あきれ顔で言った。


「ははは、女神の加護ってやつか? 肝心の女神様は気を失ってたけどな」


「余計な事を言わないでください、砕斗」


「でも、二人が塔を壊してくれて助かったよ。お陰で連中の意識を逸らすことが出来たし、カルミアお姉ちゃんの一声で獣人さん達全員を味方に付ける事が出来たもん」


「おお、そうなのか」


 どうやら俺達の博打は知らぬ間に皆を助けていたようだ。


「カルミアお姉ちゃんも途中で脅されて抵抗出来なくなって、本当に危なかったんだよ?」


「マジか」


「そのせいでカルミアお姉ちゃん、酷い目に遭わされたし……」


「……」


 ……カルミアちゃんが酷い目に?


「……リリィ」


「ん、何? っていうかお兄さん、急に顔が怖くなったよ!? どうしたの!?」


「その、カルミアちゃんを酷い目に遭わせた奴はどいつだ?」


「えっと……」


 リリィは有無を言わさない口調のサイトに若干戸惑いを覚えながらも、戦ってる連中に視線を彷徨わせて、一人の黒装束を指差す。


「アイツかな」


「……アイツか、俺の天使をキズモノにしたのは……」


「(キズモノって)」


「リリィ、何でもいいから武器をくれないか? 魔物を倒す時に武器壊しちまってな」


「あ、それならそこに転がってる剣を……」


 リリィがそう言って地面を指差すと、サイトは歩き出して剣を拾う。

 そして……。


「クソやろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!! カルミアちゃんに手を出してただで済むと思うなよ!!テメェらの手足ぶった斬って臓物引き抜いてやんよゴラァァァァァ!!!!」


「お兄さん!? キャラ変わってる!?」


 今まで見た事もないような狂気に満ちた表情で叫びながら、サイトは黒装束に向かって突撃していくのだった……。


 ◆◇◆


 サイトが鬼の形相で戦場に突入する少し前。カルミアとレオは余裕が出てきた戦いの中で仲間に指示を出しながら戦場を見ていた。


「……しぶとい奴らだな、それだけは感心する」

「でも皆さんのお陰であと一押しです!」

「カルミア、怪我は大丈夫なのか?」

「はい、全然問題ありません」

「……嘘だな」

「え?」


 レオの言葉にカルミアは僅かに驚きの表情を浮かべる。


「先程からお前は魔法ばかり使っていて、あまり動かず戦況の把握に努めている様子だった……手足の限界が近いんだろう……?」


「………! ……あはは、レオさん。凄いですね……」


 それはカルミアの状態を一発で見抜いたレオに対しての素直な称賛だった。カルミアは辛い状況でもあまり人前で見せない様に心掛けており、真意を悟らせない様に努力をしていた。


 それは彼女と最も親しいサイトすら気付けないほどだったのだが、レオには見抜かれてしまった。レオの指摘通り、カルミアはもう戦えるだけの余力が殆ど無かった。


「でも、大丈夫です! もうちょっとだけ頑張れます!」

「……そうか」


 だがレオはカルミアの虚勢を見抜いた上で彼女の意思を尊重する事にした。そして二人は獣人と黒炎団の戦闘に意識を向けなおした……その時だった。


「死ねぇぇ!!」「っ!」


 黒炎団の二人が混乱する戦場から飛び出してくる。

 どうやら司令塔の自分達を潰しにきたようだ。

 狙いはレオと、カルミア。


「カルミア!」


 レオはカルミアを庇って一人の攻撃を受け止めるが、それでも一人が手一杯。すり抜けてきたもう一人がカルミア目掛けて襲い掛かる。


「くっ……!」


 咄嗟に腰に収めていた短剣を取り出して迎撃しようとするが、疲労のせいで手が上手く動かず一手遅れてしまう。


 その隙を突かれて敵はカルミアに急接近し――


「――っ、貴方は!?」

「ククク!」


 カルミアは襲い掛かってきた敵が、自分を脅迫してきた人物である事に気付く。トラウマになりかけていた彼女は戦いの最中に目を瞑ってしまう。


 それは戦場において致命的なミスだった。


「死ね」


 視界が暗くなった中で聞こえた敵の冷酷な言葉が聞こえ、カルミアの意識はそこで途絶え――


「死ぬのはテメェだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」……途絶える前に、彼女がよく知る人物の叫び声が響き、その直後に男の悲鳴が響き渡る。


「ぎゃああああ!?」

「……?」


 カルミアは恐る恐る目を開ける。そこには彼の背中があった。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

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