第129話 生存確認
自分達の行動がカルミア達を救った事を知らずに飛び降りたサイトとミリアムは……。
「……っ、いてててててて!!!」
「……」
首尾よく木々をクッションにして上手く着地出来たらしい。
自分達を受け止めた木は途中でへし折れており、悲惨な状態になっていた。またサイト自身も、身体の至る所に木々の幹が突き刺さってしまい激痛に苦しむことになってしまった。
しかしそれは彼にとっては幸運だったかもしれない。
自分が意識を手放してしまえば、抱きかかえてる彼女を落としてしまった可能性があった。痛みで意識を保っていられたのは不幸中の幸いかもしれない。
彼らを受け止めた木々にとっては迷惑この上ない話である。
「くそ、やっぱり無茶があったか……おーい、女神様、生きてるかー?」
「……」
抱きかかえてる女神に声を掛けてみるが反応が無い。死んでるわけじゃないだろうが、飛び降りた時のショックか、体力と魔力が尽きて意識を失っているのだろう。
「しゃーねぇ、寝てるわけにもいかないし降りるか……っと」
サイトは女神に怪我をさせないよう、慎重に木を足場にして地面に降りる。意識が無い彼女を地面に寝かせると、一息ついてから自身の状態を確認する。
「うわ、どこもかしこも傷だらけじゃねーか……っていうか背中が死ぬほど痛い!!」
服を脱いでみると背中が内出血を起こしており、着地の衝撃がダイレクトに伝わっていた事が伺えた。骨が折れてるかもと考えた身体が動くのでマシと好意的な解釈をする。
「……っ、まぁ命が助かっただけマシと考えるか……。ありがとよ、俺達を受け止めてくれた名も無き大木さんよ。お前が居てくれなかったら俺達死んでたわ」
言いながらぼっきり折れてしまった木に頭を下げる。
「……さて、どうすっかね。レイグルの町に戻りたいところだが、まだ火災は収まってねぇみてぇだし、何よりコイツを放っておくわけにもいかねーか」
傍に横たわっている女神に視線を向ける。
彼女の傍にしゃがんで軽く揺さぶりながら声を掛ける。
「おい、大丈夫か?」
「……」
「……ち、反応が無い。神様が死んじまうなんて事はないだろうが……」
嫌な想像を振り払い、とりあえずサイトは彼女の心臓がちゃんと動いてるか確認する為に彼女を仰向けに寝かせ直す。そして、彼女の胸元近くに自分の顔を近づけ……。
「……」
サイトの目の前には、やたら大きな二つの膨らみが視界に入ってきた。
「……こうしてみると、こいつデケェな」
生存確認をする為の行為だというのに、悲しい男の性である。
「しかも近くで見るとやっぱすげぇ美人だし……黙ってりゃ絶世の美女なのが残念過ぎる……」
女神がもし起きてたら後で天罰を受けそうな言葉をいくつも漏らしながら、そっと彼女の心臓の辺りに耳を当てる。
「(心臓の鼓動は……ちゃんとあるな……)」
一度顔を上げて軽く彼女の袖やスリットを捲り上げてみる。
「……怪我も思ったより少ない。じゃあ完全に気絶してるだけかねぇ……何にしろ良かった」
普段、セクハラ発言を繰り返す彼だが、この時は純粋に彼女の身を案じての行動である。彼の今の行動を誰かに見られでもしたら確実に誤解を受けるだろうが、幸い目撃者は居なかった。
「……ん」「お!」
女神の意識が戻ったのか、小さく声を漏らして身じろぎする。
「気が付いたか? 女神様?」
「……ここは……?」
軽く周囲を見渡しながら呟く女神にサイトは説明する。
「廃塔近くの森林だよ。お前が魔法をぶっ放して意識を失った後、崩壊する前にお前を背負って飛び降りたんだ」
説明しながらサイトは自分達を受け止めてくれた木々を見上げる。
「コイツが助けてくれなかったら死んでたけどな。お前も感謝しとけ」
「……そうですか」
女神は一言小さく呟きながら立ち上がる。そして、木に手を当て魔法を発動させようとするが、一瞬手の先が光輝いた程度で効果を発揮しなかった。
「無理すんなよ。魔力残ってねぇんだろ?」
「どうやらその通りですね……」
女神はため息を付く。そしてサイトの姿を一目見て気付いた。自分は何処も怪我をしていないというのに、同じく一緒に飛び降りた彼の姿は悲惨な状態だ。
装備していた皮鎧は鋭利な刃物で切り裂かれて鎧としての体を為しておらず、下に着込んだ衣服はビリビリに破れており、全身擦り傷と切り傷だらけだった。特に背中は酷い事になっており、それが自分を庇った事で負った怪我だと気付いた。
「……」
「おい、無言で睨むなよ。俺は何もしてないぞ?」
女神の伺う視線に若干の罪悪感を感じたのかサイトは自己弁護を行う。
で、そこで彼も気付いた。
「(冷静に考えたら、さっきの俺の行動ヤバくね?)」
彼女の身体を確認するために胸元に顔を近づけたり、袖やスリットを捲り上げたり傍から見たら完全に変態行為だ。
「違うんだ。決してやましい気持ちがあったわけじゃなくてだな……」
「……ええ、分かってますよ」
慌てて弁解するサイトだったが女神は意外にも素直に彼の弁明を聞き入れていた。そして上半身裸になっていた彼の肌に手を当てる。
「お、おい、何だよ」
「……」
もしかしたら何かをされるのではないかと焦るサイトだったが、女神は彼の肌に手を当てて優しく撫でるだけだった。そして手を離すと彼女は彼に背を向けて言った。
「とりあえず服を着てください、見苦しいです」
「見苦しくねぇよ!?」
女神の辛辣な一言にいつも通り突っ込みながら、言われた通りに脱いだ服を着直す。といってもボロボロなので結局見苦しいのは変わらないのだが。
しかし女神の頬がほんのり緩んでいた。
というよりそれを見られたくないので女神は彼に背を向けたのだろう。
辛辣な言葉は彼女にとっての照れ隠しなのかもしれない。
もっとも、彼はその事に気付く事は無かった。
「で、身体は平気なのか?」
「ええ、魔力は残っていませんが、身体そのものに異常はありません」
「そか……」
女神の返事にホッとした彼だが、何故だか居心地が悪くなってそこで口を閉ざしてしまう。女神も色々彼に言いたいことがあったのだが、素直な言葉を出せずにいた。
そして、少しだけ無言の時間が続き……。
「……あの、さっきは――」
「……待て、なんか聞こえないか?」
「え?」
女神が口にしかけた言葉だったが、運悪く彼に遮られてしまう。
一瞬ムッとしたが、彼が真剣な表情で遠くを見つめていることに気付いて女神も警戒態勢に入る。しかし、耳を澄ませてみるが、ざあざあという水の流れの音と自分達が草を踏みしめる音しか聞こえない。
……いや、僅かにノイズが混じっている。
「何か、聞こえますね……」
「ああ、近くで誰かが騒いでるような……いや、金属音も聞こえる……」
「ということは……」
「誰かが、近くで戦ってる……!」
そして、その意味を察した二人は同時に駆け出すのだった……。
リアルでやったら社会的に死ぬ




