第13話 昔、むかし、あるところに……。
聞き上手な女神様。
その後、酒場に入って情報を集めに行ったのだが……。
「やっぱり駄目だったかぁ……」
「ご、ごめんなさい。一人くらい心当たりある人居るかなぁ……って思ってたんですけど」
ほぼ予想通り、今回の件に関わるような情報持っている人は居なかった。
せめて怪しい人物くらい誰か知ってそうだったんだけどなぁ。
「もう夜も遅いし、これ以上の捜索は無理かな」
『ですがさっきの状態を見たでしょう。時間を置けばあのような人が増え続けることになるのは自明。急いで原因を断たないといけません』
「……分かってるよ」
女神様の言葉に僕は溜息を吐く。
言われるまでも無くあれは危険過ぎる状態だ。
長時間放っておけば街の人間が全てゾンビ化して街がゴーストタウンと化してしまう。
明日の朝、どうなってるかすらも分からない。
誰が何の目的でこんな恐ろしい事をしているのかは分からないけど……。
「ううん……こんな状況で私達が休むわけにはいかない。少しでも早く街の人を助ける為にも……そして、魔王を倒す為にも!」
「カルミアちゃん……」
「サイトさん。こうなったら手分けして情報収集しましょう。私は酒場の人達に更に聞き込みをしますから、サイトさんは外に出てお願いします。もし何かあったらすぐに戻ってきてください」
「分かった。じゃあ後はよろしく……って、酒場の人は酔っ払いもいるけど大丈夫?」
カルミアちゃん可愛いから酔っ払いに絡まれそうだけど。
「大丈夫です! 任せてください!」
カルミアちゃんは胸当ての外した自分の胸をふんわり叩いて、その胸がプルンと震える。
なにその弾力、すげぇ。
胸当て外してる時はそんなに大きくて柔らかかったのか。
ふーん、叡智じゃん。
「カルミアちゃん、事が終わったら僕の部屋においでよ。よく考えたら自分達の事あんまり話してないし? もっとお互いの事知りたいっていうか?」
「え、突然なんですか。っていうか疑問形? なんで?」
『あんまり下心出すと天罰起こしますよ?』
「し、し、し、下心じゃねえし!?」
「サイトさん、誰と話してるんです? っていうか下心?」
「な、何でもない! じゃあ、外に行ってくるから!」
僕はそう言って慌てて酒場を後にする。
◆◇◆
危うく失言しそうになって慌ててカルミアちゃんから逃げ出してしまった。
「……はぁ、やっちまったなぁ……”俺”……」
『一人称が変わってますよ』
「……あ」
しまった。慌てていたせいか、つい昔の口調に戻ってしまった。
『……前に盗賊に襲われた時もそうなってましたが、何か事情があるみたいですね』
「……いや、事情って程では無いんだけど」
『言い辛いなら訊きませんが……』
「……大した話じゃないです」
”俺”はため息を付いて、酒場の外に立てていた松明に火を灯し直して夜の暗い街並みを歩き出す。
「中学生の頃、親の都合で転勤するまで……いや……今思えば、アレは”俺”のせいだったのかもしれないけど……」
『……俺のせい?』
「ちょっとだけ身の上話しますけど……俺が通ってた中学校……結構荒れてまして……。令和の時代なのに、平成初期かよって思うくらい不良グループみたいな奴らが居てどうしようない所だったんですよね」
『……はぁ』
女神様は気のない相槌を打つ。
「んで……当時、俺、クラスメイトで気になる女の子がいまして……。
その子が不良グループに絡まれてるのを見て、俺……なんていうか、恰好付けたくなったんですよ。
だから、絡まれてる女の子を庇って、『お前らいい加減にしろよ』……的なね」
『……なんというか、今の貴方と全然イメージが付きませんね』
「でしょうね……その後、色々あってそいつらと大喧嘩しまして。
その時はボコボコにされたんですが、その後に手段を選ばずに仕返ししてやったんですけど。結局、それが原因でクラスの皆に恐れられてしまって……その女の子にも避けられて……学校にも居づらくなって……。
親は転勤だからって”俺”に気を遣ってくれてましたが、実際は学校に居場所が無くなった俺の為だったんだと思います」
『……それが、一人称が変わったことと何か関係があるんですか?』
「引っ越しした後、俺、心を入れ替えたつもりだったんですよ。
喧嘩もしなくなったし、身なりも地味な感じにして、口調もなるべく大人しい当たり障りの感じに変えて、一人称も『俺』から『僕』に変えたんですよ。勉強も真面目にするようになりましたし……ただ、結局あんまり友達は出来なかったですけどね……やっぱ違和感があったんだろうなーって思います」
『転校デビューといったところですか。話を聞いてると失敗したようですが……』
「まぁそんな感じです。表面的に真面目にやってたから内申点は悪くなかったし、教師からも真面目な生徒だという認識でしたよ。それでも勉強なんて好きじゃなかったから、就職を選びましたけどね」
それで入ったのが今のゲーム企業の子会社だ。
元々ゲーム好きだったのと親の紹介で入ったので就職活動は苦労しなかった。
「……話が逸れましたね。要するに、今の”僕”って口調は意識的にやってるんですよ。余裕が無くなったりすると昔の口調に戻って”俺”に変わるだけです」
『で、心の声だから私に対してだけやたら口調がキツかった……と』
「いや、それは半分以上わざとですが」
『……』
女神様がこめかみに青筋を立てて怒っているのが脳内に響く。
『まぁ、貴方の態度の悪さは今後しっかり躾けるとして……』
俺はペットかよ。
『彼女の前でわざわざ口調を変える必要もないんじゃないですか?』
「最初に猫被っちゃったし……」
他の奴らならともかく、彼女の前だとなぁ……。
”僕”って口調でずっと今まで接してきたし、今更変えるのも恥ずかしいっていうか……。
『でしたら一人称だけでも”俺”に戻しますか? いっそ「敢えて”口調”を変えて、自身の深層に眠る本来の自分を封印していた」という設定を付けるのは?』
それもはやただの中二病だろ。とっくに成人してるんですが。
しかし女神様の言う事にも一理ある。これから旅をする上でずっと”僕”で通すのは無理があるか……。
「……まぁ考えときます。……所で、女神様?」
『なんですか?』
「俺が転移する前、僕の年齢を気にしてましたけど、アレ何だったんです?」
『……あ、ちょっと用事思い出しました』
「オイコラ」
女神様の突然の発言に僕は思わずツッコミを入れる。
『で、では……私はこれで』
そう言ったきり、女神様にいくら脳内で話しかけても反応が無くなってしまった。
「アイツ、マジで逃げやがった……」
「キャー!」
突然、夜の街にまた女性の悲鳴が響き渡る。
「マジかよ……!」
”俺”はすぐにその方向へ走り出した。
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