第127話 博打
前回までのあらすじ。
レイグル爆破にブチ切れた俺は女神ミリアムと一緒に敵地に潜り込んだ。予想通りボス気取りで待ち構える男二人をワンパンしたのは良いのだが、そこに牛みたいな化け物が現れる。俺達は必死でそいつと交戦するが全く勝負にならない。
そこで俺は天啓を得た。
『サイトさん、逆に考えるんです。別に倒さなくてもいいやって、そう考えるんです!』
……という俺の天使カルミアちゃんの声が聞こえて、俺達は戦術的撤退を決め込むのだった。
……以上!
「いやぁ、あの化け物は強敵でしたね……」
「何を終わったような雰囲気出してるんですか!! すぐ後ろまで追ってきてますよ!」
走りながら後ろを振り返る俺に対して、後ろから付いてくる女神がツッコミを入れる。
「おいおい逃げるのに必死で現実から目を逸らしてんのか!?」
「さっきまで意味不明なあらすじを口にしてた貴方が言う!? なんですか天使カルミアちゃんの声って!? そんな声前回のどこを見てもありませんでしたよ!?」
「気付いちまったか、俺の秘められた能力……『天使の囁き』を!」
「ただの妄想!」
「う、うっせー! どうだっていいんだよ!」
俺は息を切らしながら女神に返答する。そろそろ体力の限界が近い。何とかして撒かないと追いつかれてしまう。
「逃げ続けてもジリ貧ですよ。どうするつもりです!?」
「考えがあってやってんだよ! ただ逃げてるわけじゃねえ!」
俺はそう叫びながらとにかく走る。
女神は先程言っていた。
全力で魔法を放てば倒せなくはないが、それをすれば俺達の立っている廃塔もろとも崩れてしまうと。ならば、女神が全力で魔法を放った瞬間に俺たちが廃塔から飛び降りて脱出すれば良い。
「……いや、そう上手くいくでしょうか?」
「さっきの場所じゃあ無理だっただろうな、だがアレを見ろ!!」
俺は廃塔の外にある高さ10メートルくらいの高さの森林を指差す。
「もう少し下まで降りないとヤベェだろうが、お前が魔法を放った瞬間に廃塔から飛び降りて、あの辺りに落下することに成功すれば少なくとも死にはしないだろう……多分!!」
「……多分!?」
俺の話を聞いて不安げな声を上げる女神。
「俺を信じろ!!」
「何ですか、そのギャンブルみたいな賭けは……!?」
「そうとも、命を賭けた大博打さ!」
そんな会話をしながらも俺達は全速力で可能な限り下に降りながら距離を取るが、ついに追い詰められてしまう。
「く……」「……」
背後は壁も何も無い空。まだ塔の中腹でありそのまま飛び降りてもまず助からない。だが、これ以上逃げることも出来ないなら覚悟を決めるしか無さそうだ。
剣を抜いて化け物の前に立つ。
「おい、女神様」
「……なんですか」
「時間を稼ぐから全力でぶっ放せ。その後、俺がお前を連れて飛び降りる」
「馬鹿ですか!? 本当に死にますよ!?」
俺の提案に異議を唱えようとする女神。
しかし俺は彼女の言葉を遮る。
「馬鹿じゃねえ、決めるしかないから言ってんだ! お前は一応”神様”だろうが、人間の俺が腹括ってんだからテメェも覚悟を見せろ!!」
「……っ!」
俺の言葉に女神は言葉を詰まらせる。
「……いきますよ」
そして、覚悟を決めたように魔法の詠唱を始めた。
「行くぜ、ここからが大博打だ!!」
俺はそう叫んで化け物に斬りかかる。
しかしオノで弾かれて逆にカウンターの一撃が俺を襲う。
「ぐおっ!!」
剣でガードするが衝撃が凄まじい。
俺は大きく吹き飛ばされた後に地面に倒れ伏す。
「砕斗!!」
「ぐっ……! 集中しろって言ってるだろうが!」
俺は気合いを入れて立ち上がり、床に転がった剣を拾い直して特攻する。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」
この化け物は見た目よりも遥かに強い。以前にカルミアちゃんが戦ったトロルという魔物よりもパワーも耐久力もあり、見た目よりも俊敏だ。
紛いなりにも剣と魔法を学んだ俺が全く歯が立たず防戦一方。宮廷魔道士になれるほどの魔力を持つ女神の魔法力でも全くダメージを与えることが出来ない。
以前レガーティアで戦った黒炎団の幹部らしき男よりもずっと格上だ。カルミアちゃん達と合流して戦ったとしても、勝てるかは怪しいだろう。
だが、それでも……!
「……いくらお前が頑丈でも、女神の全力の一撃を受けた状態で、塔の崩壊に巻き込まれたら助からねぇはずだ!!」
そう、俺の狙いはそこだ。化け物が女神の魔法に直撃して塔の崩壊に巻き込まれたら、いくらこのタフな奴でも生き残れないはずだ。
「だから、お前はここでくたばりやがれ!!」
そんな俺の叫びと共に、俺は剣を振りかぶりながら化け物に突進する。だが先程と同じでは結局俺が力負けしてしまう。ならば……!
「フルパワーだ!!!」
今まで拳に集中してた<強化>の魔法を剣に込める。これで俺の魔力は完全に打ち止めになってしまうがそれでも十分だ。
「うぉぉ!!」
渾身の力を込めて剣を振るうが、その一撃はオノで防がれる。
だが……!
――ピキッ……!
「!!」「グオ!?」
俺の剣への強化が功を為したのかオノに僅かに亀裂が走る。そのまま勢いに任せて突進し更に亀裂を走らせ……そして化け物の斧を破壊することに成功する。
―――が、同時に俺の剣にも限界が来てしまう。
奴のオノに亀裂が走っていたように、俺の<強化>に耐えられなかったのか、手に持つ剣がガラスのように砕け散ってしまう。
「くそ……!」
悪態を吐きながら化け物に体当たりをかまして化け物の態勢を崩す。
即座に俺は奴から背を向けて女神の方へと疾走する。
「今だ、やれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
「――もう知りませんからね……! <天地崩壊>!!」
俺が女神に合図をした瞬間、彼女の魔法が発動した。
凄まじい轟音と爆風。
それら全てが化け物に向けて放たれる。
廃塔を揺るがす凄まじい衝撃。
同時に廃塔の床や天井が限界を迎えて崩落していく。
「……く、もうダメ…………」
「ミリアム!!」
力を使い果たして倒れる女神を抱えて、俺は廃塔の外壁に登る。
「ぐっ……!」
その途中、何故か胸が酷く痛んだが今は気にしてる場合じゃない。
俺は彼女の身体を落とさない様にしっかり抱えて、外壁のてっぺんまで登り切る。
そして、今から飛び降りる場所を睨みつける。
あの森林に落ちれば、助かる可能性はきっとあるはずだ!
「……さぁ、行くぜぇぇ!!」
俺は彼女と共に夜の空へと身を投じるのだった……。
自由落下の旅




