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第124話 クセの強い主人公と女神様

 サイトと女神が町を後にする少し前。


 レイグルから少し離れた森にて。火事で死んだと思われていたライアスとファーリィの二人はなんとか逃げ出して町から遠ざかろうと必死に走っていた。


「……はぁ……はぁ………っ……!」

「ファーリィ様、足を止めてはいけません。一刻も早く離れなければ……!」

「分かっています……く…………!!」


 ファーリィは調子が悪いのか、途中で足を止めて跪いてしまう。


「……仕方ありません。追っ手が気になりますがここで少し休憩をしましょう……」


 ライアスはそう言いながら周囲を探ってファーリィの傍に近付く。だが、ファーリィは近くの木の傍に背中を預けて言った。


「……いえ、その必要はありません。ライアスさん、私の事は良いからレイグルへ戻ってください」


「何を言うのです……? 俺は貴方の護衛ですよ?」


「……私はいいのです。貴方は私に代わって町に戻って逃げ惑う民を救ってあげてください……。きっと彼らは混乱しています。誰かが誘導して避難させないと多くの犠牲者が出てしまう」


「しかし……ファーリィ様が……」


「……今の私が生き延びたとしてもこの身体ではそう長くない。最悪、私が囮になりますのでその間に貴方が…………っ」


 ファーリィは途中で言葉を詰まらせる。

 自分達が逃げようとした方向から近付いてくる何者かの姿を視界に捉えた。

 それは自分達を襲ってきた人間の追っ手だった。


「く……こんな所まで……人間め……!」


 大柄な獣人であるライアスはファーリィを守るために槍を構えて人間と対峙する。だが……。


「……ぐあっ!」

「何……!?」


 後ろを振り返ると、ファーリィの傍にもう一人の人間の姿があった。

 追っ手は二人居たのだ。


「……抵抗を止めろ。お前が抵抗したら、この男を殺す」

「……っ!」


 弱ったファーリィ喉元にナイフを当てながら、その人間はもう一人の獣人を脅すのだった。ライアスは人質を取られて為す術も無く槍を地面に捨てるしかなかった。


 ◆◇◆


 ――廃塔にて――


「……」

「……」


 町を後にした二人は敵の拠点の廃塔へと移動していた。


 サイトが先頭に立って前を歩き、彼が安全を確保した後ろを悠々と付いていくミリアム。


 二人のその姿は、一見すれば騎士と姫のような主従関係にも見えてしまうだろう。


 だが、この二人は主従関係ではない。


 彼ら二人は、ただの人間と女神という立場で考えたら比較にならないほどの力関係なのだ。


 しかし、この場においては二人の立場は対等だった。


 それはこれまでの旅路で結んだ信頼関係……というわけでもなく……。


「砕斗、この建物は崩れやすそうなのでもっと慎重に歩きなさい」


「うっせ」


「というかそんなズカズカ歩くと埃が舞うので私が被害を受けます。私の美貌を汚さないでください」


「知るかボケ」


「というか勢いでここまで来ましたが、何か作戦でもあるのですか?」


「あぁん? ねぇよそんなもん」


「いつも通りノープランですか」


「んなこというなら少しはお前が考えろや。いつもしたり顔で軍師っぽい立ち位置にいそうなのに毎回ポンコツじゃねーかオメェ」


「そういう事は従者である砕斗の役目です」


「俺がいつお前の従者になったよ? カルミアちゃんが相手なら従者だろうが騎士だろうがペットだろうが、何なら下着の役目だっていいけどよぉ」


「いや最後」


「あぁん!? 美少女の肌着になってその感触を味わいたいって思うのは男の性だろうが!? テメェ、タマタマ付いてねーのかよ!?」


「私、女ですけど」


 信頼というか、この二人は素でタメ口を言い合える仲なのだ。

 故に、一切気遣いなど不要。

 自分を偽る事もなく極限状態であればあるほど本音で話し合える。


「あぁ、もう良いや。考えるのがめんどくせーし……正面からぶっ潰してさっさと終わらせるぞ」


「同感ですね。これ以上貴方と絡むのも面倒ですし」


「んなもんこっちも同じだっつーの」


 二人は愚痴を言い合いながら廃塔を登り続ける。

 そして、ついに頂上に辿り着いた。


「随分、すんなり来れてしまいましたね」


「おかしいな、途中で襲われるくらいは覚悟してたんだが……」


「最後の部屋で待ち構えてるんじゃないですか?」


「ああ、ありそーだな」


「小物のクセに自分が大物だと勘違いしてる中ボスにありがちですよね」


「で、実際は誰かの口車に乗って利用されたり、実は雑魚だったってパターンな」


「ええ。……まぁ、相手が誰だとしても逃がすつもりはありませんが」


「当然だな。レイグルを火の海に変えた事を死ぬ寸前まで後悔させてやる」


 サイトがそう口にすると、女神はサイトの背中に手を当てる。


「ん、なんだよ?」


 サイトは振り返って背後に立っている女神に視線を向ける。


「……冷静さを失わない様に。貴方は極力非人道的な行為を避けるべきですよ」


「……」


「私が止めなければ、あの三人を殺していたでしょう? もし元の平穏な生活に戻りたいなら、取り返しのつかない行為は避けるべきです」


「……はっ、今更だろ。大体、この世界に来て真っ当な暮らしに戻れるとは思ってねーよ」


 サイトは彼女の助言をそう吐き捨てる。


「俺は逃げるつもりはねぇよ。お前との関係だってそう簡単に切れることは無い。俺達は一蓮托生なんだからな」


「一蓮托生……」


「覚悟しろ、ここからは死地だ……お前に背中を預けるからな」


「……ええ」


「じゃ、行くぜ……?」


 そう言って、俺は廃塔の頂上にある扉に手を掛けた。

 

 ―――ギィィィィィィ。


 重い鉄格子で出来た扉を開けると、そこには大きな日時計と———。


「ようこそ、我らがアジトへ」


 予想通り、残った黒炎団の二人が俺たちを出迎えてきたのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます

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