第120話 子供は寝る時間
前回までのあらすじ。
レイグルに仕掛けられた爆弾を見つけるために街を捜索する俺たち。大した情報も無く見つけるのは困難で途方に暮れていた俺達に子供達から思わぬ情報を得る。そして無事に爆弾を見つけ出し多大な情報を掴むことが出来たのだった。
「で、早速捜索を再開したいところなんだが……」
外に出た俺たちだったが、もう深夜で外は真っ暗だった。
「ふわぁ……」「うぅ……」
カルミアちゃんとリリィの可愛らしい欠伸が聞こえる。
まだ子供な二人を引っ張り出すのはマズかったか……。
彼女達の方を見るとカルミアちゃんが少し顔を赤くして口を抑えていた。
どうやら欠伸を見られて恥ずかしいらしい。
「……砕斗」
「ああ、今気付いたよ」
俺に呟いた女神の一言に俺は頷いて反省する。
そして二人に向かって言った。
「カルミアちゃん、リリィ。こんな時間まで付き合わせて悪かった。ここからは俺達アダルト組に任せてくれ」
「……おい」
「アダルト組って」
レオと女神がジト目で俺を見る。大人組と言いたかったのだが、変にオシャレにしたせいで顰蹙を買ってしまったようだ。
「いや、冗談だって」
俺は苦笑しながらアダルト組に謝罪し、カルミアちゃんとリリィに向き合う。
「でもサイトさん」
「最後まで付き合うよ?」
「この調子だと徹夜になりそうだからな。明日何かあった時に俺たちがへばってたらその時は二人に頼るつもりだけど、今日は俺たちでどうにかするよ」
俺がそう言うと二人は顔を見合わせる。
「どうする? お姉ちゃん……」
「……ええと、本当は付き合いたい気持ちもありますが助かります……これ以上恥ずかしい所をサイトさんに見られたくないし」
カルミアちゃんの最後の方は声が小さくなっていたが、周囲が静まっていたので俺の耳にもしっかり届いていた。カルミアちゃんとリリィは俺の言葉に思わず笑みをこぼす。そして……。
「……それではお言葉に甘えさせていただきます」
二人はそう言って頭を下げるのだった。
◆◇◆
二人を無事に宿に返した後、俺達三人は夜のレイグルを歩き回りながら話をする。
「光灰石って言ったよな。他の爆弾も同じように作られてると考えていいのかね」
「おそらくな」
俺が質問するとレオは即答する。
「特定の方法のコツは?」
「サイトとリリィが光る壁を見て特定できたように夜はぼんやりと光を放つ特性がある。街灯の少ないこの街なら目を凝らせばなんとか分かるはずだ」
「っていってもなぁ……俺達は偶然見つけられたが簡単には見つからないと思うぜ?」
「どれだけ仕掛けられてるかも不明瞭ですからね……もし、誰かの家の中に仕掛けられていたらどうしようもありませんし」
「……このレイグルは警戒心の強い獣人ばかりだ。流石に家の中にまで仕掛けられる事はない……と思うが……家を空けている時間を狙われたらアウトだからな」
そんな会話を続けながらレイグルを歩き回る。
しかし、やはり夜では光灰石も見つけづらいようで中々見つからない。
「うーん……流石にこの暗さじゃ難しいか」
俺は諦めかけて別の手段を模索する。すると女神は何かを思い付いたのか足を止める。
「ん、もしかして見つけたのか?」
「少しアイデアが閃きました。温存しておきたかったのですが……」
僅かにでも光を放っているのなら光の光度を魔法で感知すれば場所を割り出せるのではないかと」女神はそう言って目を瞑り詠唱を開始する。
「――我は美の化身にして女神■■■■■……女神の名において権能の一つを解放する」
「いや、美の化身って」
思わず突っ込んでしまうが、詠唱の邪魔をせずに黙って見守る。
「■■■……我は光を見通す目を持つものなり……」
女神の周囲で風が巻き起こる。そして、その風が止んだ後……。
「……見つけました」
そう言って女神は目を開ける。すると、ここから離れた場所の数か所から突然光の柱が空に向かって立ち上がる。
「お、何したんだ?」
「光度を数十倍まで跳ね上げました。流石に家屋は対象外にしましたが、街灯のないこの国で光を放つものは限られているはずです」
「なるほど。今光っている部分を調べれば、奴らが仕掛けた爆弾である可能性が高いと?」
「ええ、その通りです。持続時間はそこまで長くありません。時間が経てば光は弱くなり、三時間もすれば光は完全に消えてしまうでしょう」
「よし、なら三人で手分けして調べよう」
「分かった」
「もし光を怪しんで近づいてくる人が居た場合避難を呼びかける様に。万一起爆した場合犠牲者が出てしまいますからね」
「りょーかいりょーかい」
「気を付けておこう」
そうして俺達は三人別々に行動することになった。
それから四時間後―――
俺達はそれぞれ調査を終え集合場所に戻っていた。
「爆弾は俺とレオで合わせて全部で8個あったぞ」
「基本的に中央街を中心に爆弾が埋め込まれているようだったが、起爆する時に連鎖する様に等間隔で設置されて調整されていたようだな」
「なるほど。私の方も全部で4つ見つける事が出来ました。魔法で凍結処置を施したのでもう起爆することはないと思います」
「俺の方はレオに頼んで分解してもらった。仮に起爆スイッチを押されても爆発することは無いってさ」
「流石レオさんですね」
女神はレオを見て微笑むが、レオは無表情で言う。
「……それくらいしか取り柄が無いだけだ」
「いや、そんな事ないって」
「鉱物を見分ける眼力と爆弾を解体するだけの知識と技量を持ち、更に単独で魔物を屠るだけの強さと、貴方の長所を上げるにキリがありませんよ」
「……」
女神にしては珍しいくらい褒めるが、レオはそれでも照れた様子は無かった。すると女神は微笑みの表情を素に戻して言った。
「褒め甲斐がありませんね。この私がこれだけ称賛を口にしているのに」
「お前が珍しく人を褒める所をみて感心してたのに、今ので全部台無しだよ」
「ふん、なんとでも言いなさい」
そう言ってそっぽを向く女神だった。
そんな様子に俺は苦笑するが……。
「……これで危機は未然に防げたと言っても良いのかね?」
俺は二人にそう質問をしてみる。しかし、二人は首を振る。
「……まだ分からん」
「家屋の中までは調べていませんからね。それに……」
「それに?」
「爆弾そのものが気を逸らすためのブラフという可能性もあります。例えば爆弾で民衆を混乱させ、それに乗じて奴らが何か行動を起こす作戦だった、という事も想定すべきです」
「例えば要人暗殺などだな。それ以外にも街の外に避難した民衆を別の場所に誘導し、一網打尽にする……など、悪辣な手段を考えていてもおかしくない」
「……」
……やっぱコイツら、俺より全然頭良いな。
普段から自己評価が高い女神は置いといても、謙遜するレオは知識量も豊富だし頭の回転も速い。
廃塔で怪しい奴らの会話を聞いて、自分達だけで動かず俺達への報告を最優先にしたことも優秀さの裏付けだ。冷静に状況を判断して的確な判断が出来ている。これほど頼りになる奴も居ない。
「……どうしたサイト、黙り込んで」
「……いや」
お前の優秀さに感心してた、なんて恥ずかしくてとても言えないな。
「とりあえずお疲れ様。もう遅いから今日は休もうぜ」
「ええ、これ以上夜更かししては私の美貌が崩れてしまいます」
「言ってろ、バカ女神」
俺たちはそう軽口を叩きながら帰路へ付く。
「……ところでミリアム……女神とは何だ?」
「あ」
疲れてうっかり女神である事を口にしてしまった。
「ええと、その……」
「先程の詠唱でもそのような事を言っていたが……。何だったか……『美の化身にして、女神……』…………と聞こえたな……名を名乗った部分だけ不自然に聞こえなかったのが気になるが……」
「……おい、ミリアム。お前の虚栄心丸出しの詠唱のせいで色々怪しまれてるぞ。いい加減隠し通すの面倒になってきたんだが」
「い、言い方……仕方ないですね。レオさんにも少し事情を話しておきましょうか」
「……?」
レオに追及されて珍しく慌てる女神だった。結局、その追及は宿に帰宅するまで続くことになったのである程度の事情を話す事になってしまった。
ここまで読んでくださってありがとうございます
 




