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第12話 深夜の物騒なデート

そろそろ”僕”と”俺”の書き分けが面倒。

 僕はカルミアちゃんを連れて宿を出る。

 宿の外はすっかり暗くなっており、街灯一つないこの街は、月明りだけが頼りだった。

 そして二人で街の大通りを歩いて行く。


「サイトさん、どこに行くんですか?」

「元凶を探しに行く」

「元凶?」

「うん。街の人があんな風に歪んでしまっているのは理由がある。誰かがこの街で悪さをして、街の人達に影響を及ぼしているからだよ。このまま放っておくと不味い事になる」


 ……という話をさっき女神様から聞いた。


「……でも、私は特に異常は感じませんけど……」

「……」


 カルミアちゃんは僕の言葉を信用していないわけじゃない。しかし自分に感じ取れない異常を僕だけ理解できている事を疑問視しているようだ。せめて彼女も『視る』事が出来ればすぐ納得してもらえるのだろうが……。


 ……おい、女神様。何とかなんとかならないんですかね?


 心の中で僕達を眺めているであろう女神様に対話を試みる。


『永続的に見るのは不可能ですが、一時的になら可能です』


 ……よし、それなら何とかなりそう。やり方を教えてください。


 僕は女神様から方法を聞き出して彼女に声を掛ける。


「カルミアちゃん」

「はい?」

「あそこに親子連れの三人が居るよね。丁度店から出てきた人達だよ」


 僕はその人達を指差す。

 おそらく母親の女性と父親と思われる男性、そしてまだ10歳くらいの少女の姿だ。

 どうやらさっきまで街のレストランで食事をしていたようだ。


 その内の一人……父親と思われる男性が、僕には首から上が風船のように膨張しているように見えた。


「え、はい……居ますね」


 カルミアちゃんはその親子連れを見て首を傾げる。やはり特に異常を感じていないようだ。


「じゃあ、カルミアちゃん。僕の手を握って……僕が見えている光景を一瞬だけ見せてあげる」

「えっと……じゃあ、失礼します!」


 カルミアちゃんはそう言って僕の腕に自分の腕を絡ませる。


 ちょっ……!? む、胸の感触が……!?

 というか、手を握ってって言ってるのに何故腕を掴む!?

 ……いや、僕に触れていれば問題ないんだけど……。


「ま、まぁ良いけど……そのまま離さないでね……」

「はい!」


 彼女の元気な返事を聞いて、バグ修正用ツール、略して”バグ剣”を取り出してその親子三人の父親の方に真っすぐ向ける。


「……カルミアちゃん、今から見せるけど、覚悟しててね」

「え、覚悟?」


 僕はそのままバグ剣の能力を起動する。


 こうすることでデバッグ修正モードへと移行すると同時に、僕と物理的接触をしていた彼女にも異常が見えるようになるはずだ。


 そして、僕に腕を絡めている彼女へと視線を向けると……。


「……っ! さ、サイトさん……アレ……何ですか……!?」


 彼女の視線は親子連れの男性に固定されており、暗がりでも彼女が怯えているのが分かった。


「アレが今僕が見えている光景だよ。……待ってて、今、元に戻すから……」


 僕はバグ剣の能力を更に起動。デバッグ修正モード状態で更に男性に標準を合わせる。


 そして、「修正開始」と唱えた瞬間、男性の身体に様々な文字列や数式が流れ出し、数秒時間を掛けて元に戻った。


「え、あれ!? 今何が!? あ、でもお父さんの姿が元に戻ってる?」

「僕が今本来の状態に戻したんだ。これで解決……って訳にもいかないんだけどね」


 僕はそう彼女に言ってため息を吐く。


「え、治ったんじゃないんですか?」

「一時的にはね……。でも、この街の沢山の人はあの状態が持続化してる。それに元の根源を断たない限り、今の状態に逆戻りになってしまうんだ」

「一体どうすれば良いんですか?」

「さっき言ったよ。こんな狂ったウイルスを撒いた元凶を見つけ出して成敗して供給を断つ。逆にそれ以外に解決する手段が無い。放っておけばこの街の人達はウイルスに侵食されて皆、魔物のようになってしまう」

「……え、まさかグリムダールでも同じような事が……?」


 カルミアちゃんは目を大きく見開いて口元を手で抑えてこちらを見る。

 僕はそんな彼女を見て苦笑する。


「ここまで酷い状態ではなかったよ。でも、放っておけばそうなったかもね」


 この異世界に放り込まれて言われるがままに仕事をしてたけど、この惨状を見て自分のやっていたことが間違いでは無かったと今更理解する。


 何だかんだで、女神はちゃんとこの世界の為に僕を送ったのか……。

 本人には直接言わないが、僕は心の中でそう思った。


『ならもっと崇めて。そして私への今までの非礼と暴言の謝罪してください』

「だが断る」

「えっ」


 僕の心の声を勝手に盗み聞きして尊大に言い放つ女神様の言葉を一刀両断する。


 しかし僕の声が口に出てしまっていたので、隣に居たカルミアちゃんが僕の言葉に連鎖反応を起こしてしまった。


 ちょっとこのコミュニケーション面倒臭いよ!

 つかいい加減こっちに直接出てきてください女神様!


『だが断ります』


 人の台詞パクんな!!

 ……ごめんなさい自分もパクってました。許して色んな人。


『……まぁ良いです。それよりもその元凶の話ですが』


 何か分かったんですか?


『何かしらのバグを利用して姿を隠していると思います。悪化し始めている街の人達を修正しつつ、街の中を散策して怪しい場所を見つけましょう』


「……了解。カルミアちゃん、今から街の中を探し回るよ。元凶を見つけて根本から修正する」

「分かりました! 私も出来る限り協力します!」

「ありがとう。じゃあ早速行こう」


 こうして僕とカルミアちゃんによる街の中の探索が始まった。街は当然ながら街灯一つ無いので真っ暗だが、僕達は一旦宿に戻って宿の亭主に、油を塗った布を巻いた松明を分けて貰って夜道を照らす。


 これなら十分な明るさを担保できるだろう。しかし見た目よりも重い。

 両手で持てばそこまでじゃないけど長時間持っていると結構負担に感じる。

 そう思っていると僕の隣を歩いていたカルミアちゃんが僕の手から松明を引っ手繰る。


「私が持ちます!」

「あ、いや……こういうのは男の役目だし……」

「私はその”バグ”?……というのを見つけられないですけど、サイトさんは判別できるんですよね。今、これくらいしか私は役に立てないので……やらせてください」


 彼女はそう言って松明を両手に持って頑なな態度を取る。


『積極的に自分の役割を買って出るなんて、出来た子じゃないですか』

「じゃあお願い」

「はい! それじゃあ街の中を探しましょう」


 こうして僕達は二人で夜の街を散策する。

 カルミアちゃんが松明を持って先行し僕が後ろをついて行く。


 怪しい場所を見つけてはバグ剣で調べ、危険な状態の町人を見掛けたら修正して元の状態に正常化する。


 しかし二人だけで調べていたら時間がとても足りない。

 いつまでも状況が進展しないまま時間が過ぎていくことに僕達は焦燥感を感じていた。


「うー……こうなったら酒場とかで情報を集めますか?」

「聞いてどうにかなるとも思えないけどな……」


 カルミアちゃんがそうであるように普通の人は”バグ”など認識できるはずもない。

 聞いたところで「何言ってるんだこいつ」扱いされるだけだろう。


 しかし、こうやって調べ回ってもキリが無いのも事実だ。


「分かった、それじゃあ――」


「きゃああああああ!!」


 僕達が方針を相談している最中、少し離れた所で女性の悲鳴が響き渡る。


「今のは!?」

「カルミアちゃん!」

「行きましょう!」


 僕は松明を持って先行する彼女を追う。


 そして悲鳴が聞こえた場所まで辿り着くと……。


「……な」


 そこには、まるでゾンビ映画に出てくるような人ならざる者の姿があった。


『あれは……』


 女神様の声が頭に響く。しかし今はそれどころではない。

 その”バグった人間”の容姿はさっき見た男性と似たような不気味な姿だった。

 違うのは、それが他の正常な人間に襲い掛かっているということ!


 周囲の人達は男性の凶行に驚いて逃げ回っているようだ。


「っ!」


 バグ剣を取り出して、僕はその男性にバグ修正モードで標準を合わせる。


 すると、「修正開始」と唱えた瞬間に男性の身体に文字列や数式が流れ出す。しかし……。


「……止まらない。何故!?」

『プログラムの修正が間に合っていませんね。ああなると一度動きを止めないと……』

「……く」

「私、止めてきます!」


 カルミアちゃんが僕よりも先に異常行動を起こす男性に飛び掛かる。自分が行こうと思ったが、彼女なら男女の力差があったとしても問題なく制圧できるだろう……と考えていたのだが、甘かった。


「ぐるるあああああああああ!!!」

「ちょっ……暴れないで……! す、凄い力……!!」


 ダメだ。彼女は何とか動きを止めようと頑張っているけど、バグった男性の方は異常なパワーで抵抗している。


「きゃっ!」


 そのままカルミアちゃんを振り回し、投げ飛ばしてしまう。

 彼女は受け身を取って何とか立ち上がるが、その隙に男性が彼女に襲い掛かる。


「ちっ!」

 こうなったら意識を奪うしかない。

 ”俺”はカルミアちゃんの前に飛び出して襲い掛かってくる男を迎え撃つ。


 そして、男がゾンビのように口を開いてこちらに噛みつこうとしてきた瞬間――


「おらあっ!!!」


 渾身の右ストレートが男の顔面に突き刺さり、男はその衝撃で後ろに吹き飛び、地面に倒れる。


「カルミアちゃん! 大丈夫!?」

「は、はい……ありがとうございます!」


 ”僕”は彼女の安否を確認。どうやら無事のようだ。


「男は……」

「……今ので完全に意識を失ったみたいですね」

『今の間に元に戻しましょう』


 カルミアちゃんの言葉に続くように、僕の脳内で女神様の声が響く。


「修正、再開」


 バグ剣を男に向けて再び標準を合わせる。すると、今度は男の身体に大量の文字列が流れ出すと同時に、数式や数字がその体を侵食していくように這い回る。そして数秒後に男の姿が正常に戻る。


『バグを修正しました。これでもう大丈夫ですよ』

「ふぅ……終わったぁ」


 女神様からの報せを受けて僕は安堵の息を漏らす。


「でもこんな風に街の人が暴れ出すなんて……これも魔王の仕業なんでしょうか……」

「……」


 カルミアちゃんの呟きに僕は一瞬思考が停止する。


 ……魔王……魔王……?


「魔王ってなんだっけ?」

「え、覚えてないんですか!? 旅立ちの前の日に王様に言われたじゃないですか?」

「え……あ!」


 わ、忘れてた……。

 一応、カルミアちゃんの目的は魔王討伐だっけ……。

 自分の事ばかり考えて忘れてた……。


『……一応、補足ですが。この世界の”バグ”に魔王が関わってる可能性も否定しきれません。なので、この異常な状態の人達は魔王の影響を受けている可能性もあります。ですが今は何の情報も無いので判断しかねますね……』


「そ、そうか……。まぁもしかしたら魔王の仕業なのかも……?」

「でも人を救うって意味では何も変わらないし最善を尽くすしかないですよね!」

「……とりあえず酒場にでも行こうか。情報を集めに……」


 僕はそう言ってカルミアちゃんが頷き、再び夜の街を散策するのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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