第118話 地雷原を征く勇者たち
男達を逃がした後の話。
「ふぅ、とりあえずあれだけ心折っておけば大丈夫だろ」
あの後、男達を縛るロープを切れ目を入れて多少は逃げやすくしてやった。だが、そのままだとまた悪さをする可能性があったので、軽い口調で「もしまた悪さしたら、今度は〇すからな?」と言ったら死ぬほど怖がっていた。
冗談のつもりだったのだが、それを見てたカルミアちゃんには「本気に見えましたよ」と言われてしまった。口が悪いだけで好青年として振る舞ってたつもりなんだけどなぁ。
「本当の好青年は、敵だろうと嬉々して拷問したりしません」
「おい女神、無許可で心読むんじゃねーよ!」
たく、女神の奴の前で考え事をしてるといつもこーだ。
「で、お兄さん。この後どーする?」
「おうリリィ。とりあえず、この爆薬を処分してからレオと合流しよう」
俺は奴らが運んでいた馬車の中にある樽を見て言う。
「大量の爆薬を処分出来る場所というと……」
「まぁ何もない所だよな。山の近くだと万一影響が出ると困るしな」
「街に影響の出ない荒野辺りに穴を掘って埋めてから起爆させるのがベストでは?」
「あー、なるほどな。確かあの辺りは何もないし、そうすっか」
そうして俺達は馬車に乗って慎重に爆薬を運び、安全な場所に埋めてカルミアちゃんの炎魔法で遠隔で爆発させ、その場を離れた。
「さてと」
俺達は馬車でレイグルの近くまで戻ると、毛皮を背負ったレオを出くわした。
「おう、レオ。戻ったか」
「ああ……要件は無事に済んだようだな」
レオは俺達の囮になるために、廃塔の近くで連中の目を引こうとしてくれた。
「ああ、なんとかな」
俺はレオに事の顛末を話す。
「……黒炎団。そんな連中が関わっているのか」
「ああ、他の国でも大概迷惑を掛けてる犯罪集団だよ。まさか今回も関わってるとは思わなかったけどな」
「私達、あの人達を止めるためにも旅をしているんです」
「……もっとも、旅の目的はまた別ではありますが」
カルミアちゃんの言葉に補足するように女神は呟く。
「”旅の目的”?」
「あ、えーと……その……」
レオは怪訝そうな顔を浮かべるが、カルミアちゃんは慌てて口を濁す。
「まぁ、その話は今度でいい。レオの方はどうだった?」
「……塔の前で奴らの気を引くために狩りを行って肉と毛皮を裂いていたが、結局最後まで接触はしてこなかったな。見られている気配はしたのだが……」
……多分、レオにビビって接触を避けてたんだろうな。っていうか魔物の返り血でレオの衣服が血に染まってるし、夜にこんなのに出くわしたら俺でもビビるわ。
「まぁなんだ。お疲れ様」
「レオさん、その恰好じゃ怪しまれますから、少し身なりを整えてレイグルに戻りましょう」
女神にそう言われてレオは一瞬顔を顰めて自分の姿を見る。
「……そうか、血で汚れていたか」
「レオさん、どんだけ魔物を狩ってたのさ?」
「……暇だったから適当に大型を狩っていたぞ。ざっと30匹くらいは狩ったか」
「もうお前ひとりで魔物殲滅できるんじゃね?」
「……無茶言うな」
◆◇◆
その後、俺達はカ魔法で汚れを落としてから宿に戻った。
宿に戻った俺達は一旦俺の部屋に集合し今後の事を相談する。
「俺達の妨害で奴らの計画を遅らす事に成功したはずだ」
俺がそう言うと仲間達は頷く。
「これで多少時間を少し稼げるといいんですが」
「でも既に設置された爆弾はどうするの? 場所も分からないままじゃ対処しようもないよ?」
リリィの質問に、俺は「うーん」と唸ってから答える。
「それなんだが、普通の爆弾ってどういう作りでどうやって仕掛けてるんだ? そこからヒントが欲しいんだよ」
「え? うーん……なんだろ……」
「……中に火薬が詰められているのは理解してるだろう」
「それは分かってるよ」
レオの呆れた口調の言葉に苦笑する。
「俺が知りたいのは爆弾の構造だよ。金属が使われてるとか、火薬の成分に特徴があるとか。見つけられなくても無力化する手段があれば解決するかもしれんし」
女神が思案気な表情を浮かべて俯くと、数秒後に顔を上げて言った。
「……そうですね。爆弾自体の構造は実物を見ないと何とも言えないですが、男達が運んできた火薬から推察するに石炭やコークスから精製される黒色火薬を使われてのではないでしょうか」
俺の疑問に女神はそう返事をしてくれた。
初めて聞く言葉だが情報が欲しくて更に質問する。
「その、黒色火薬?ってやつは何か特徴がないのか? 保存方法に気を付ければ起爆させないように出来るとか……」
「黒色火薬は吸湿性が低いので湿気に強くある程度の保存が利くようになってます。なので外に仕掛けてある可能性も十分にありそうですね」
「……ってことはアレか。最初に予想してたような固い外殻に包んで地中や岩盤に隠すような面倒なことはしてない可能性が高いと」
「手間のかかる場所には置かないでしょうね」
「でも、下手に人が触れる場所に置いとくわけもないよね」
「……なら、手の届かない場所なら? 例えば、少し高い屋根の下や天井の裏に隠してあるとか。壁などの表面を削って埋め込んであるとか」
カルミアちゃんの言葉に、俺と女神は顔を見上げて同時に叫んだ。
「それだ!!」
「それです」
「へっ!?」
「流石カルミアお姉ちゃん、冴えてるね!」
リリィも感心して頷く。レオも「うむ」と頷いて感心した様子だ。
「え、えっと……お役に立てました?」
「ああ、十分参考になったよ。その辺りを参考にして明日早速町の中を調べよう」
「一つでも爆弾を見つけることが出来れば、残りを探すのはかなり容易になるはずです」
「なら、今日は早めに寝て明日に備えよう」
「そうしよう!」
そうして、ヒントを得た俺達は明日に備えて早めに休息を取る事にしたのだった。
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