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第117話 悪は去った。知らんけど。

 一方、サイト達の方は……。


「撃滅完了です!」

「なんか想像よりもすぐ終わったな」


 彼女の攻撃魔法が開戦の合図となったが、威勢の割に全員簡単に倒せてしまった。


 カルミアちゃんがほぼ無双していたのと、途中でリリィと女神の援護が入ったおかげで、俺は最後の一人を気絶させただけで済んだのだった。


「とりあえずコイツらを縛っておこう」

「あ、それならリリィに任せて」


 俺が馬車の中にあったロープで男達を縛ろうとするとリリィが買って出る。


 リリィは俺からロープを引っ手繰ると、男達を近くの木の傍まで引き摺って行って座らせると、手早く手足を縛っていく。


「リリィちゃん、手際良いね……」


「どこでそんなのを学んだのですか?」


「パパは狩りの達人だったから獲物を効率的に処理する方法とか色々教えて貰ったんだ。臓物の腑分け方とか毒抜きの方法も知ってるよ」


「なるほど、それで……」


 感心して頷く女神さま。

 いや、まだ子供のリリィがそんな血生臭い事知ってる方が怖くね?

 俺以外は普通に納得してるんだけど、もしかして俺が変なの?


「サイトさん、どうかしました?」

「いや、世界が違うとこうまで変わるんだなーって思ってさ……」

「???」


 俺の返事にクエスチョンマークを浮かべるカルミアちゃん。

 まぁそれは置いといて、俺は馬車の中に詰められていた樽の中を確認する。


「後はこの爆薬の材料をどうにかするだけだな」


 中には多量の火薬が詰まっており、特有の臭いが鼻に付く。


「これ、どうやって処理するかねぇ」


「街の中に持ち込むと引火の危険がありますので、魔法で凍らせて使用不可にしましょうか」


「なんか他にも色々使えそうで勿体ない気もするが、まぁ頼むわ」


 俺は女神に魔法で凍らせてそれを馬車に戻し、後で街から離れた荒野にでも持って行くことにしよう。


「……それで」


 処理を終えた所でカルミアちゃんは、木の傍で縛られている男達に視線を向ける。


「この人達、どうします?」


「レイグルの詰め所に引き渡すのが無難だと思いますが……」


「……いや、それは止めとこう」


「なんで?」


「俺達は獣人と人間の中を取り持つためにこうやって頑張ってるんだぜ。そんな時に獣人達が忌み嫌う人間の犯罪者を連れて行こうものなら余計に溝が深まる。ただでさえ俺達は余所者なんだ」


「確かに……」


 俺の言葉にカルミアちゃんは納得して頷く。


「なら、どうしますか?」


「とりあえずコイツらを起こして情報を吐かせよう。カルミアちゃん、こいつらの髪の毛に魔法で火を付けてくれ」


「えっ」


「頭が焦げ始めたら流石に目を覚ますと思うしな」


「お兄さん、鬼畜」


 リリィが引き気味に言う。俺はニヤリと笑いながら答えた。


「こういうのはな、最初に地獄を見せた方がすんなり喋るんだよ」


「強引ですねぇ……まぁこの人達には丁度いい薬ですか」


「だろ? 意見が合うなミリアム」


「ほ、本当にいいんですか?」


「俺が責任を取るから大丈夫、やってくれ」


 カルミアちゃんは俺の指示通り男達の髪の毛に魔法で火を点ける。火を付けた瞬間、縛られていた男は目を覚まして同時に叫びだした。


「あちちっ!? 何だこれ!?」

「あ、頭が燃えてる!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 目覚めにいきなり頭の上が放火してたらパニックになっても仕方ない。俺は用意してあった飲み水用の水をバケツに汲んで男達の顔にぶっかけて消化する。


「よう、お前ら。人生で一番ハッピーな目覚めだったろ?」

「ひっ!?」

 突然目の前に現れた俺を見て男達は怯えだす。

 俺はそんな男のパーマになった髪を無造作に掴んでニヤリと笑う。


「さぁて、楽しい尋問の時間だぜ?」


 敢えて恐怖させるためにサイコパス染みた笑みを浮かべるのがベストだ。


 お陰で男達の顔は恐怖に引きつって怯えている。こうやって恐怖させておけばすぐに心が折れて嘘も付かなくなるだろう。俺の演技力も大したもんだ。


 ただ……。


「お兄さん、顔がヤバイ」


 引き気味に呆れるリリィ。


「……」


 目の前の光景が信じられなくて、俺から目を逸らすカルミアちゃん。


「堅気に手を出すヤクザみたいですね」


 俺を容赦なくディスる女神。

 いや、お前も割とノリノリだっただろうが!!

 あと堅気は俺でヤクザはコイツ等だっての!


 仲間達の反応はともかく、俺は男達に尋問をするために改めて口を開いた。


「さて、まずはお前達の素性を教えろ。……おっと、嘘付いたらこの髪の毛引っぺがすからな?」

「は、はい……」

 縛られて身動きが取れない以上、逆らう選択肢はない。そう悟ったのか男達は素直に自分達の事を話し始めた。


「……とまぁ、そんな所です」

「……なるほど。黒炎団の連中だったか」


 尋問の結果、コイツらはレガーティアの時と同じ黒炎団だった。ただこんな使いっぱしりをさせられているので分かる通り下っ端らしい。爆薬を運んでこいと命令はされていたようだが、大した情報は持っていなかった。


「で、でも、こんな目に遭わされるくらいならもう黒炎団に帰りたくありません!」


「改心しますから助けて下さい!」


「うわぁ……完全に心が折れてますね……」


「お兄さん、尋問官にでもなってみたら? 天職だよ?」


「やらねぇよ……ったく」


 リリィの皮肉に返事をして俺は舌打ちしながら男達を睨む。


 さて、どうすっかね。

 本人達は本気で後悔してるっぽいからちょっと試してみるか。


「……おい、本当に心を入れ替えると約束するか?」


「は、はい!」


「もし嘘付いたら……覚悟しとけよ?」


「う、嘘は付きません! ど、どうせ失敗した俺達に居場所なんてもう……」


「故郷に戻って、大人しく真面目に暮らします……」


「だ、だから殺さないで……!」


「ゆ、許してください……! あ、有り金なら全部出しますから……!」


「……」


 ……なんだか、俺が冷酷無比な奴に思われてないか?


 まぁ演技とはいえそれっぽく振る舞っていたが、小悪党のコイツ等にそんな風に思われるのも癪だな……。 


「……最後に答えろ。黒炎団はなんでこのレイグルを狙った。しかも爆破テロなんて最悪級に性質の悪い事をやろうとしてるのは何でだ? それくらいなら流石に知ってるだろ?」


 俺が最後にそう質問すると、男達は虚ろな目で互いの顔を見合わせて答える。


「いえ、具体的に何が目的かは……」


「おいおい、そんなのも分からねぇのかよ。……じゃあ爆弾の指示をしたのは誰だ?」


「……それは、ボスが……」


「ボス? ……”独裁のレイス”の事か?」


「……はい」


 あの街で会った男の顔が浮かぶ。


「……クソ。相変わらずのクズだな。今度会ったらマジで殺してやる」


 俺の呟きは男達にも聞こえたらしい。

 俺が視線を向けると一斉に顔を伏せて土下座を始める。


「ヒィィィィ! ごめんなさい、ごめんなさい!」

「反省します、反省しますからぁ!」

「あんな奴らの命令はもう聞きません!」


「……あー、分かってるよ」


 頭をポリポリ掻きながら俺は億劫に堪える。

 すると、背後の女神が言った。


「……それで、本気でこの三人を解放するんですか?」

「ああ」

「本気ですか?」

 女神は男達に厳しい視線で睨みつけた後、俺に視線を戻す。


 ……心配する気持ちは分かる。

 確かにあんな組織に一度でも与した奴らなんぞ信用置けないだろう。

 いくら口で反省したと言っても、何をしでかすか分からん。


「んー、どうすっかな。手足を折ってから海にリリースしても良いが、そこまでやるのも流石にな……」

「ひっ!?」


 男達は『この人は本気だ』と悟り、恐怖で顔を歪める。


「冗談だよ、まぁ半分本気だったが」

「うわー」


 俺の言葉にリリィが感情の乗ってない声で非難してくる。


「……しゃあねぇ。とりあえず武装解除しとくか」


「……はぁ、仕方ないですね」


 女神は呆れた様子で溜息を吐くが、それ以上は何も言わず、女神は魔法で男達の武器や武装を解除する。


「とりあえず、武器を没収しておきました」

「サンキュ。……よし、足の縄だけ解いてやるよ」


 俺はカルミアちゃんと一緒に男達の足を拘束していた縄だけを解く。

 そして男達はなんとか自力で立ち上がる。


「あ、あの……」


「これだと手が自由に動かせないのですが……」


「少し待て……。ミリアム、自動で人間に裁きを与える事って出来るか?」


「……まぁ少人数なら」


「なら、コイツらの誰かが一人でも悪行しそうになったら、連帯責任でコイツら全員に裁きを与える、みたいな事は可能か?」


「出来なくはありませんね」


「良し……聞けお前ら」


「は、はい!」


 俺の言葉に男達は背中をピンと伸ばして立ち上がる。


「ロープは解いてやる。だが絶対に悪い事はするなよ。たとえ軽犯罪だろうが人様に迷惑を掛けたりしたら……」


 そう言いながらミリアムに視線を移す。


「そこのおっかない女がお前ら全員の頭に雷を降らす。

 手心なんてしてくれねぇから、もしやらかしたら即天国にお陀仏だ。

 いいな、絶対に人に迷惑掛けるなよ!?」


「は、はい」


「返事がちいせえ!!!」


「はいっ!!!」

「絶対に悪い事しません!!」

「一生、雑草のように大人しく生きてます!!」


「よし、ならお前らは自由だ。俺の言葉を忘れるなよ!!」


「「「はい!」」」


 俺の威圧にビビったのか、男達は揃って返事をした。

 そうして俺は男の腕のロープを解き、散々警告してから奴らを解放するのだった。


「……ふ、善行を積んじまったな」


 俺は最後にそう言って、クールに去るのだった。


「なにこれ」

「あはは……まぁ悪は改心したってことで」

「誰がおっかない女ですか、全く」


 俺の後ろで仲間達が呆れた声を出すのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます

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