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第116話 人手不足疑惑のある黒炎団

 その日の夜……。


 俺とカルミアちゃんは西側。そして女神とリリィは東側。それぞれグループに別れてレイグルの周辺を見張る。目的は例の黒装束の仲間達を待ち伏せして妨害するためだ。


「サイトさん、レオさんは本当に大丈夫かな?」


 俺の隣でカルミアちゃんが心配そうに呟く。


「あー……まぁアイツなら大丈夫だとは思うんだが……」


 そのレオは俺達二人や女神達とも別行動で、敢えて廃塔の近くで待機している。


 昼間話していたように、レオは俺達が動きやすいように自ら囮を買って出て、廃塔で住み着いている黒装束達の注意を引き付けているのだ。とはいっても別に塔の中に忍び込んで暴れているわけではない。


「黒装束の悪い人達、後ろからこっそりレオさんに襲い掛かったりしない?」


「大丈夫だろ。アイツなら多分、すぐ気配に気付いて首根っこを掴んで投げ飛ばすくらいはするんじゃないか?」


「そ、そうですかね……」


 カルミアちゃんは心配そうな顔をする。


「あの怪力で握りつぶしちゃわないか心配です」


「心配するのそっちかよ」


 俺達はレオが実際に戦っている場面はまだ見てないが、岩盤を素手で容易く破壊するパワーだ。もしレオの役割が俺やカルミアちゃんだったら襲われていた可能性もあるが、レオなら警戒して手を出さない可能性が高い。


 というかレオはそれを狙って自ら志願したのだろうが……。


「リリィの奴、足引っ張ってないだろうな……」


 ここにはいないリリィと女神の事を心配しながら、俺達はその場に待機を続ける。

 そして数時間後……。


 ――砕斗、聞こえますか?


 頭の中で聞き覚えのある声が響く。


「!? ミリアムか!」

「!」


 俺がそう口にすると近くを監視していたカルミアちゃんが気付いてこっちに走ってくる。


『どうやらこちら側が当たりだったようです。不審な馬車が荷台にいくつかの樽のようなものを運んで塔へ向かっているようです』


「了解、なら俺達もすぐそっちに行くよ」


『お願いします。いざとなれば私が攻撃を仕掛けるつもりですが、爆薬を運んでいるとなると下手な攻撃魔法は使えませんからね』


「引火して爆発すると、塔に居る奴らに気付かれる可能性もあるしな……」


「サイトさん、行きましょう!」


 俺と女神が念話してると、事情を察したカルミアちゃんがそう言って俺の袖を引っ張る。


「ああ、そうだな」


 俺は頷いて、カルミアちゃんと共に女神達がいる東側へと駆け出すのだった……。



 ◆◇◆



 一方その頃……。サイトとの念話を終えたミリアムはリリィと一緒に例の連中の動向を伺いつつ、木々に隠れながら後を追う。


「ミリアムさん、馬車に乗ってる全部で3人みたいだよ」


「案外数は大したことありませんね。馬車に積まれてる樽の中に爆薬が仕込まれているのでしょうか」


「多分……ここからでも少し火薬の臭いがするんだよね」


「流石獣人との混血ですね、リリィさん」


「慎重に運んでいるようだけど、流石に徒歩じゃ追いつけないね。どうする?」


「では、私の魔法で馬の注意を引いてみましょうか」


 ミリアムはそう言いながら、馬車の方に手を翳す。すると、馬車の荷台に乗っていた馬が突然暴れだし、御者が馬を宥めようとする。


「お、おい暴れるな!」


 御者は馬車を停めて外に飛び出して馬を抑える。

 下手に暴れると中の爆薬に引火して大変な事になるから必死の様子だ。


「さて、今のうちに……」


「どうするの?」


「私が馬に使った魔法は一時的に気を逸らして注意を引く魔法ですので、いずれは効果が切れます」


「じゃあ今の間にやっちゃう?」


「いえ、砕斗達がもう少しで来ると思うので……」


 ミリアムは一旦馬車から目を離して辺りを見渡す。そして……。


「来ましたね」


 ミリアムは少し離れた場所を見て言った。そこには剣を抜いたサイトとカルミアの二人が、馬車の背後からこっそりと忍び寄ろうとしていた。


 ……だが。


「……む、何者だ!」

 どうやら荷台の方に一人居たようで、サイトとカルミアが忍び寄る気配に気付き、馬車の荷台から飛び降りて二人の前に現れた。


「ちっ、気付かれたか」

「襲撃失敗ですね」


 だが二人は特に悔しがる様子も無く、怪しい男達に剣を向ける。そしてサイトが男の前に出て、うすら笑いを浮かべながら言った。


「へへっ、兄ちゃん達。命が惜しけりゃ荷物を置いていきな!」

「それだとこっちが悪役みたいです!」


 すかさずカルミアは突っ込むが、男達はそんな二人の漫才を無視して短刀を取り出す。


「……ふん、物取りか。俺達は貴様らのような薄汚い獣人に用は無い」


「今、死にたくなければこの場からさっさと去るがいい……。もっとも、早いか遅いかの差でしかないだろうがな……くっくっく」


「っ」


 二人は男達の挑発に表情を変える。そしてカルミアは意を決して両手を前にかざすと、魔法で炎の矢を複数生成する。


「コイツ……魔術師か!」

「おい、火はマズいぞ!!」


 カルミアの魔法を見て慌て出す男達。そんな男達を見てサイトは挑発する様に言った。


「中の積み荷は爆薬だもんなぁ。当たったら不味いよなぁ?」

「……な、何故それを!」

「さぁな。だが、アンタらの運はそこまでだ」


 サイトはニヤリと笑い剣を構え直すと、カルミアに合図を出す。


「……カルミアちゃん、やれ!」

「はいっ! 『炎よ』!!」


 カルミアはそう言うと炎の矢を男達に向けて放つのだった。


 ◆◇◆


 一方その頃……廃塔では。


「……気配がする。始まったか」


 廃塔のすぐ傍で、薪に火をくべながらレオは呟く。レオの足元には、途中で狩った魔物の死体がいくつも転がっており、レオはその魔物の肉を刃物で裂いて串焼きにしていた。


 わざわざ廃塔のすぐ傍でそんな事をしているのは囮になるのが理由だったが、レオは例の連中達が全く近寄ってこない事に少々肩透かしを食らっていた。


「(何か仕掛けてくると思ったが……)」


 もし仕掛けてくるなら、レオはそれはそれで好都合だと考えていた。

 自分に注意を向けてくれるなら適当に相手をして頭数を減らすつもりでいたが、塔の男達は動き出す様子はない。

 こちらに気付いていないのか、それとも初めから無視されているのか。

 何にせよ、アイツらに危害が向かわないのであれば問題ない。


「……ふう」


 数年ぶりに帰ってきた故郷だというのに、素性を隠してこのような事をしている自分に多少複雑な感情を覚えつつ、レオは一息つく。


 ……そんな彼の様子を、黒装束の一人が怯えた様子で見ていた。


「(な、何だアイツ……足元に転がってるのは魔物の死骸……? しかも喰っているのか……?)」


 黒装束の男達は、レオの存在に気付いていたが、あまりの異様さに手が出せないでいた。結果レオの作戦は彼が気付かないうちに見事に達成していたのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます

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