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第114話 鳥かごから出よう作戦

 ――次の日。


 サイト達は同じように獣人の子供達を招いて青空の下で外の世界の授業をしていた。その授業が終わった後に俺は獣人の子供達を全員集めて話をする。


「みんな、今日も来てくれてありがとうな。ミリアムの授業はどうだった?」


「おもしろかった!!」


「レイグルとぜんぜんちがうー!」


「ボクもおそとのまちに行ってみたいー!!」


 獣人の子供達は俺達の授業を受けて、無邪気にそう感想を口にする。


「そうか、それならよかったよ」


 俺はそんな子供達に笑顔で応える。

 子供が相手だから俺もいつもより笑顔マシマシだ。ここに女神とリリィが居たら気持ち悪がられそうだがあの二人は授業の片付けの最中。突っ込む奴はだれもいるまい。


 そして獣人の子供達に優しい口調で語り掛ける。


「なら実際に行ってみるか? 丁度他の獣人達も住んでいる人間の街が近くにあるんだよ」


「ほんとー!?」


「行ってもいいの!?」


「ああ。……だけどお父さんやお母さんに許可を貰わないとね」


 まぁそれが一番の難関なわけだが……。幼いこの子達と話し合うだけなら簡単だが、国の常識に囚われてしまった大人の獣人を説得するのは100倍難易度が高いだろう。


 なんとか説得する方法を考えてるのだが…… 。


「”きょか”って……?」


 獣人達の子供が首を傾げる。


「ああ、言葉が難しかったか。つまりお父さんとお母さんに『一緒に行ってもいいか』って聞かないといけないんだよ」


「えー、むりだよー!」

「お外は怖いから出ちゃダメって言われてるもん!」


「……だよなぁ」


 流石にホイホイと外に出てしまうような教育はされてないか。人間を嫌悪し続けて、外の世界との交流を絶っていたこの国なら無理もない事だろう。


「んー……一緒に来てもらうのが早いか……」


 人間が昔と違うって事を知ってもらえばそれだけで印象が変わるだろう。なら実際に連れて行くのが一番手っ取り早いのだが。


「おとーさんたちと一緒に行くの?」


「ん? ああ、それが出来れば一番早いんだけどなぁ」


「おとーさん、おこるとこわいよ?」


「ははは、そりゃお父さんは怖いもんだよ。頼もしい限りだ」


 自慢じゃないが、俺の親父は相当怖かった。


 幼少の頃から俺がイタズラしようものなら頭に拳骨が降ってくるし、家に強盗が押しかけた時は後ろからタックルかまして犯人をボコボコにするし。


 でも母が病気になった時は毎日病院に通っては心配していたっけか……。


 俺にとって恐怖の対象ではあるが、あれほど頼りになる存在も居なかった。


「(……もう、そんな姿も見れなさそうだけどな)」


 ……溜め息の出る話だが、今は感傷に浸っている場合ではないか。


「どーしたの?」


「いや、ちょっと自分の家族の事を思い出してね。……そうだな、近いうちにお父さんとお母さん達に挨拶に行くよ。もし上手く行ったら家族一緒に団体で旅行することになると思う」


「りょこう!?」


「たのしみ!!」


「ああ、楽しみにしててくれ。それじゃあ今日は解散。明日も遅刻しないようにね」


「はーい!」


 子供達の元気いっぱいな返事を聞いて、俺は彼らと別れる。


「ふー……」

「あれ、子供達もう帰っちゃったの?」

「ん?」


 聞き慣れた声を聞いて後ろを振り返ると、そこには片付けを終えたリリィと女神が荷物を抱えて立っていた。


「おう、お疲れ。子供達はもう帰ったぞ」


「お兄さん、案外子供に懐かれてるよね。見た目アレなのに」


「ネズミなのに」


「俺もネズミの獣人なんか最悪だよ!!」


「あはは」


「……少し話が聞こえてましたが、子供達を外の世界に連れて行くつもりですか?」


「ああ、子供だけじゃなくて両親も一緒に行かせるつもりだよ。一度、外を自分の目で見てもらって、それから判断してもらおうと思ってな」


「そうですか……」


「授業のお陰であの子達も少しずつ外の世界へ興味を持ち始めてる。情報封鎖された反動で強く関心を持ってくれてるんだろうが、いい傾向だと思うよ」


「ええ、そうですね。この調子で子供達が興味を持ち続けてくれれば……」


 女神はそうに頷くが、対照的にリリィは少し難しい顔をしていた。


「どうしました? リリィさん」


「んー……予想通り子供達の興味は引けたけど、大人の獣人達はどう説得するのかなって。お兄さん、アイデアあるの?」


 そう質問され、俺は少し考えて数秒の間を置いて答える。


「……無い。何か案あるか?」


「た、頼りない……」


「でも、確かに大人をどう説得するかが問題ですね。純真な子供達は興味を持ってくれましたが、大人の獣人達は人間に対して悪感情持ってるのがこの国じゃ普通ですし………」


「……だよな。何か切っ掛けでもあれば良いんだが……」


 俺達が頭を悩ませる中、リリィが何か思いついたのか手を叩く。


「そうだ。いい方法があるよ」


「お? なんだ?」


「ミリアムさんの魔法で『うん』って言わせるんだよ」


「……えぇ?」


「それは反則だろ……」


「でもレガーティアの城の兵士には同じ事やったでしょ?」


「やりましたけど、あれは……」


 あの時は城に入る為に仕方なくやった行為だ。それだって最終的に洗脳が解けてしまって捕まったし、今回も上手くいくとは思えない。


「じゃあ、ミリアムさんの権能……魔法で何とか出来ないの?」


「私の権能はそんな多用できるものじゃありませんよ。というか失敗する可能性あるなら使いたくありません」


「失敗すると恥ずかしいから?」


「貴方に揶揄われるのが嫌なんですよ」


 女神が俺を見て微妙な表情を浮かべる。


 そーかそーか。

 神様でも人間に失敗を突っ込まれると嫌な気分になるのか。


「なら、話を素直に聞いてもらうようにするとか? そういうのは無理か?」


「……まぁ、出来るかもしれませんが……うーん……」


 俺の提案に女神は腕を組みながら考え込む。


「……何度も繰り返し能力を使うのは勘弁ですよ」


「なら子供達の保護者を一同に集めて、そこで説明会をするとか?」


「説明会とか聞くと数年前まで就活してた身としては、嫌な思い出ばっかだな……」


「何があったんですか……」


「色々あったんだよ」


 まあ、何はともあれ。今後のプランが決まったのは良い事だ。


「よし。カルミアちゃん達と相談して色々決めてこう」

「というか、あの二人は今何をしてるの?」


 リリィの質問に女神が答える。


「裏で色々動いてます。……昨日、怪しい連中を見掛けたようで、今はその調査中ですよ」


「怪しい連中って……」


「面倒な事に、相手は人間っぽいんだよな」


「人間への評価を改めさせるためにこちらは頑張っているというのに、人間側に妙な動きがあるのは複雑ですね」


「ホントだよ。……厄介な事にならないといいけど」


 そんな事を話している内に、俺達は拠点としている宿に戻るのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます

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