第110話 レイグル調査続行
前回のあらすじ。
第一打者カルミアちゃん情報収集に成功。
俺達は一旦宿に戻り、彼女の話を聞いていた。
「……というわけです」
「なるほど」
カルミアちゃんはリンという女獣人から得た情報を俺達に共有してくれた。
リンから得られた情報は大きく分けて3つだ。
1、この国は獣人が人間を避ける為に出来た国である事。かつてこの国の創始者であるレイグル。この国の名付けとなった存在は、人間の労働力として働いていた国から仲間と共に逃亡したが、逃げている間何度も追っ手が差し向けられていった。人間よりも強い獣人と敵対する人間の兵士達もただでは済まず、長い逃亡生活の後に追っ手は徐々に少なくなっていたそうだ。
しかし、彼の仲間達も人間達の追跡に心身共に疲弊していき、やがてレイグルはこの国を建国する事を決める。そして彼は仲間と共にこの獣人の国を作りあげた事となる。
2、この国の獣人は人間に恨みを持っており、人間である俺達とは敵対する可能性が高い事。しかし、その恨みの正体は今はもう亡き年老いた獣人達が若い獣人達に『教育』という形で伝えられたものだ。実際に人間達に何かされた、という獣人は今は殆ど居ないらしい。
これは、以前にレオに聞かされた内容と合致している。問題なのは、先達の獣人達の言葉はこの国の獣人達にはまるで神様の言葉の様に信じられているという事だ。
3、最近、この国で不審な出来事が起こってるらしい。具体的に何か被害があったわけではないのだが、気が付いたら近くの瓦礫の壁が崩れていたり、夜中に人魂らしき光を見たといった話もある。
まさか幽霊というわけではないだろうが……。
「2は既知の情報ではあるよね?」
「ああ、レオが言ってたな」
俺とリリィがレオに視線を向けるとレオは黙って頷く。
「ですが、1についての情報は初耳ですね。……レオ、貴方は知ってましたか?」
話を黙って聞いていた女神はレオに質問をする。
「……昔、ここで作られた教本を見た事はあるが……確かに似たような事は書かれていた気がする……が」
「が?」
「……多少、盛られている気がするな。建国の理由に関してももっと違った気がするが……」
「ああ、なるほど。多分、良いように脚色されてんだろうな」
「……そういうものなのか?」
「歴史って時間が経つほど美化されるもんだしなぁ。良い部分は強調され、都合の悪い部分は歴史の闇に葬られるもんだよ。んでもって不祥事があれば丸ごと消去されるってね。歴史の教科書でも音楽の教本でも似たような話はある」
そんな話は何処にだってある。
俺の居た世界だけじゃなくてきっとこの世界もそうだ。
「……お前は不思議な奴だな」
レオは読めない表情で俺にそう言ってくる。
俺は笑って答える。
「いや、俺からすりゃあ獣人だの天馬だの女神だの精霊だので、こっちの世界の方がよっぽど不思議空間だよ」
「……こっちの世界?」
「おっと、口を滑らせたか。まぁ話す機会があるならお前にもまた話すよ。今はそれよりも……」
「情報の精査が先ですね」
俺の言葉を遮って女神がそう口にする。
「じゃあ、最後は3ですね」
カルミアちゃんのその言葉に、俺達は再び3つ目の情報に意識を向ける。
「とはいえ、最後の3つ目は随分と不明瞭だよね」
「瓦礫の壁が崩れるってのは、自然劣化の可能性があるけど……」
「人魂ってなんだよ……」
「他にも、夜中にコソコソ何かが這いまわるような何かを見たとか見てないとか……」
「見てるのか見てねぇのかどっちだよ!?」
「まさか黒いアレのことじゃないでしょうね……?」
「黒いアレ?」
「台所で出現するアレだよ。気が付いたら増殖して大変な事になってる奴」
「どこの世界だろうが人類の敵のアレです」
「???」
俺達が口々にアレコレ意見を言い合うも、結局有益な情報は得られなかった。
「ま、ここからは個人で色々情報集めてみるか」
「……フム。ならば互いに気を引き締めて事に臨むとしようか」
レオはそう言って部屋の扉を開ける。
「お、早速行くのか?」
「……ああ。お前達よりは疑われることもないだろうしな」
「気を付けろよ。お前は生粋の獣人だが、追放された身には違いないんだろ?」
「……理解している。お前達こそ気を付けろ。万一変身が解けたり人間と疑わるような言動をすれば……」
「分かってるさ」
「……ならいい」
そう言ってレオは部屋から出ていく。
「よし、俺達も行こうか」
そして俺達は情報収集の為に部屋を後にした。
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