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第11話 独壇場

主人公くんのカッコいい所を見てみたい―!!


あ、初投稿がしんどくなりました。

 ゴブリンとの戦いから数時間経過し、僕達はようやく目的の”ラズベランの街”に辿り着く。


「つ、疲れた……」

「あははー、サイトさんお疲れ様です♪」


 疲労困憊の僕を笑顔で労わってくれるカルミアちゃん。


 ここまでの道中、かなり大変だった。


 カルミアちゃんは元々旅慣れしているからか笑顔で僕の横を歩いてくれているが、僕は舗装されていない道を歩き続けて足にガタが来ていた。それだけじゃなくていつ魔物に襲われるかを常に考えていたので精神的にもかなり疲れた。


「さ、サイトさん。ラズベランの街に入りますよ」


 カルミアちゃんが指さす先には、大きな門がそびえ立っている。


「あれが……」

「はい! ”ラズベランの街”です……」


 街の名前に聞き覚えはない。しかし、その門から見える光景はまさにファンタジー世界によくある街並みだった。石造りや木造の建築物が立ち並び、大通りには露店も立ち並んでいる。そして何より人が多い。


 しかし……。


「……ん?」

「どうしたんですか、サイトさん?」

「いや……目の錯覚かな……道を歩く人たちの顔がなんか、変に歪んでいるというか……」

「え、どの人ですか?」

「ほら、今丁度僕達を横切った中年の男性も……」

「……そんな風には見えませんけど」


「え?」

「え?」


 僕はカルミアちゃんの言葉に首を傾げる。

 しかし、彼女はそんな僕を見て同じように首を傾げた。


「あ……れ……?」


 そこでようやく違和感に気付く。確かに今、あの中年男性の顔は歪んでいたはずだ。

 しかし次に見た時は普通の顔立ちになっていた。


 ……もしかして、疲れて目がおかしくなっていたんだろうか。


「……ど、どうやら疲れてたみたい。僕の錯覚だったっぽい」

「大丈夫ですか? それなら早く宿に行きましょう」

「だね」


 僕は気を取り直して彼女に頷いて、街の中の宿を探す。

 しかしその道中……やはり何度か街の人達の顔が不自然に歪んでいる錯覚を感じていた。


 ……ヤバいな、これ。どうやらよっぽど精神が参ってるみたいだ。


『……』


「どうかしましたか?」


 彼女が僕に声を掛けてくるが、返事をせず曖昧な笑顔を浮かべて黙って歩き続ける。


 そして10分程歩いてようやく目的の宿に辿り着く。


 グリムダール国王の計らいのおかげで今日一泊は予約が済まされており、名前を告げるだけで部屋を用意して貰う事が出来た。


 案内された部屋は想像ほど豪華では無かったが、ゆっくり考えるには十分な環境だ。


「じゃあサイトさん! 食事に行きましょう!」


 カルミアちゃんはそう言うと僕の手を掴む。可愛い彼女の提案だからすぐさま頷きたいところだったのだが、今の僕は精神的な部分で余裕が無くなっていた。


 それはさっき感じた錯覚が理由だ。


 何も言わなかったが、先程ロビーであった宿の主人も不自然に顔が歪んでいるように見えた。一緒にいるカルミアちゃんは全然そんな事は無いのだが、また街に繰り出せばあの不気味な歪んだ顔を見る羽目になる。


「……ああ、いや。ゴメン。ちょっと疲れてて……少し休むよ」

「そうですか? ……うーん、分かりました」


 カルミアちゃんは少し残念そうに頷くと、扉を開けて自分の部屋に戻っていった。

 僕は普段通りの彼女の後ろ姿を見てホッとする。


 ……今の僕はこの街が不気味なホラー映画の舞台のように感じている。


 何せ、突然街の人の顔が心霊写真のように歪んで見えるのだ。今はまだいいが夜になれば街灯一つないこの街は、まさにホラー映画のワンシーンのようになってしまうだろう。そんな気味の悪い状況で夕食に洒落込む余裕など一切無い。


『どうやらかなり酷い状態になっているようですね』


 彼女が部屋を出て、今まで無言だった女神様が突然話しかけてきた。


「何ですか突然。ちょっと今、参ってる状況なので一人にしてもらえませんか? 正直、悪態に突っ込む余裕が無いんですよ」


 いつもなら女神様の辛辣な発言に言い返す気力があるが、今はそれすら湧いてこない。


『それはそうでしょうね。あんな光景が見えてしまえば、常人は耐えられないでしょう』

「分かってるなら放っておいて――って今、何て言いました?」


 女神様の言葉に違和感を覚えた僕は咄嗟に聞き返す。

 すると、女神様はため息を付いて言った。


『貴方の精神がおかしいわけじゃありませんよ。私も貴方を通してその光景がしっかり映っています』

「え、それじゃあ、まさか……」


『……ええ、あれは錯覚でも無ければ幻覚でもありません。

 ……この世界の撒かれたウイルスが原因で発生した異常……つまり、”バグ”です』


「バグって、じゃああの人達の顔は……」


『この街か、あるいは周辺に撒かれたウイルスに侵食されている最中なのでしょうね。

 彼女……カルミアさんは見えないでしょうが、貴方は私の加護を受けているので”バグ”は視覚で捉えることが可能になっているのです。

 もし、このまま放置すればこの街の人達は、グリムダール城で王様に襲い掛かった”影”の魔物に変貌してしまう事でしょう』


「……そ、そんな……どうすれば……?」

『どうするも何も決まってるでしょう。貴方の職業は何でしたか?』

「……デバッガー」

『そう、貴方の役割は世界の”不具合”を発見する事。そして居間の貴方は私が与えたツールによって、それを修正して正常化させることが出来る』


 ……そうだ。僕が何故この異世界に転移したのかすっかり忘れていた。


『最初に言いましたよ。貴方は”勇者”ではない。

 故に魔物を倒す力も、魔王と渡り合う力もない。それは彼女の役目です。

 しかし、この世界の”不具合”は勇者である彼女にもどうしようも出来ない。貴方が修正しなければならないのです』


「……」


『さぁ、彼女の元に行きましょう。

 魔物との戦いは彼女の活躍の場でしたが……ここからは、貴方の独壇場(ステージ)です。

 ――彼女に少しでも良い所を見せたいのでしょう?』


 ……女言われなくても、僕の答えは決まっていた。


「……分かりました。やってやりますよ」


 僕は重い体を引き摺ってカルミアちゃんの部屋に向かうと、彼女に声を掛ける。


「カルミアちゃん」

「あ! サイトさん、もう大丈夫なんですか?」

「うん。心配掛けてごめん。……それより、ちょっと手伝ってほしいんだ」

「はい、良いですよ! ……って、何をですか?」


 ……”俺”は、暗い表情を塗り潰して無理矢理自信満々な表情に切り替えて言った。


「この街の人達を救う」

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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