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第107話 ぼったくり宿

 カミラの薬で獣人に変身してなんとかレイグルに潜り込めた俺達とレオ。レイグルの長であるファーリィに挨拶をした後、俺達は渡された地図を見ながら最寄りの宿に向かった。


 そこでレオとファーリィに感じた違和感について考える俺だったが、宿に着いたのでまずは一休みする事にしたのだった。


「……あん?」


 だが地図を頼りに訪れた宿に入るとそこは、宿というには少々寂れた場所だった。確かに他の建物に比べたらいくらか土地の広いものの、それでも人間の街の民家と比較しても決して広いとは言えない。


 そして、宿のカウンターには気怠そうな年寄りっぽい柴犬のような獣人が一人。


「いらっしゃい……旅の人かい?」


「ああ、そうだ。予約なしでもこの宿は問題ないか?」


「予約? そんなものしなくても部屋は空いてるよ。この国に好き好んでくる旅人なんて滅多に来ないからね。宿代は一人2000ルピーだ」


「はぁ? 高くね!?」


 宿の主人に提示された宿賃は人間の街の相場の二倍程度だ。しかも人間の宿はそれなりに設備が整っているというのに、この宿は外観もはっきり言ってしょぼくれてるし、まだ部屋に案内されてはいないが期待できるとは思えない。


「さっき言った通りこの国に客なんて滅多に来ない。

 誰も来ようとしないってのが正解だろうが……客が来ないんじゃ普通の値段じゃ宿をやってく事なんてできやしないんだ。こればっかりは我慢してもらうしかないな」


「こっちだって金は有限なんだぜ。悪いが別の宿を当たらせてもらう」


 俺はそう言って皆に合図を送って宿を出ようとする。


「待った」

「あ?」

「他の宿も同じさ。アンタ達にはここ以外選択肢が無いと言っても良い」

「どういうことだよ? おっさん」

「この国じゃ”人間”はお呼びじゃないって事さ」

「「「!?」」」


 その言葉に俺とカルミアちゃんとリリィの顔が一瞬強張る。


「……主人、それはどういう意味だ」


 レオは眉を顰めて主人の意図を探ろうとする。

 主人はため息を付いて言った。


「……と、すまんすまん。アンタ達が何故か人間のように見えてしまった。よく見たら人間に似た獣人なだけか……」

「……ホッ」


 カルミアちゃんが思わず息を吐く。どうやら主人に正体を見抜かれたわけではないようだ。


 ……レオの鋭い視線に怯えて日和ったわけじゃないよな?


「……だが、それでも他の宿に行くことは薦めない。どうしてもここがダメだというなら止めはしないが……」


 しかし主人は俺達が他に行こうするのを止めようとする。


 どういうわけか妙に必死だ。悪意があるようには見えずこちらを案じているような印象を与えるが、人間と違って表情が読みにくい獣人が相手では内面までは読み取れない。


「どうします、砕斗。ここは嫌だというなら別の宿を探しますが」

「……」


 女神が俺にそう問いかけてくる。


「……サイト。ここは御仁の言葉を信じるとしよう」

「レオ」

「……理由は後で話す」

「分かった……。ならおっさん、ここで構わねぇ。……ほらよ」


 俺がそう言って仕方なく人数分の宿代を支払う。

 主人はホッとしたように溜息を吐いて言う。


「……なら鍵を渡そう。部屋は二階だ。勝手に上がってくれ」


 そう言って主人は人数分の鍵をカウンターの上に置いた。俺達はそれを受け取ってさっさと二階に上がるのだった。


 ◆◇◆


 各自の部屋で荷物を置いた後、俺達はレオの部屋に集まっていた。


「……で、理由は何なんだ。レオ」

「……あの御仁、目が嘘を付いていない」


「「「「……」」」」


  レオのまんまな台詞に俺達は言葉を失って視線だけ向ける。


「……なんだその反応は」


「いや、お前って本当真面目なんだって思って……」


「……どういう意味だ、それは」


「あはは、レオさんが頼りになるって事ですよ。ね、サイトさん?」


「……で、本当の理由は何なんだ?」


「……あの御仁、薄々俺達の正体に気付いてるぞ」


「それは、レオさんを除く私達が”獣人”ではないと気付いていると?」


「……最初に”人間はお呼びじゃない”と口にしていただろう。すぐに誤魔化していたが、視線が真っすぐで心を見透かされているようだった。

 そんな御仁が他の宿に行くなとアドバイスするのだ。我々の事を案じている所を見るに他の獣人とは異なる見識を持ってる。ならば信頼しても良いのではないか?」


「うーん、でもなぁ……」


「仮に他の宿で我々の正体が気付かれたらただでは済まん。国から追い出されるのは間違いない」


「だけど、あの老獣人が私達を謀ろうとしている可能性は?」


「……」


 女神の質問にレオは黙り込む。

 そこまで考えていなかったのか、彼が疑う事を知らないのか。


「でもリリィもあの人は信じて良い気がする」

「……」


 真面目なレオとリリィがそう判断するなら俺も信じるべきかね。仮に騙されていたとしたら、その時は俺らにはどうしようもなかったと諦めるしかない。


「わーったよ、二人が言うならこれ以上何も言わない」


「ま、信じるしかないでしょうね」


「私も信じることにします。……それでサイトさん、これからどうします? 私達はどう動けばいいでしょう?」


 カルミアちゃんの質問に俺は考える。


「んー、そうだなぁ。怪しまれない程度にこの国の獣人に外の印象を探ってみるかね。それと一緒に外のの話をして興味を持ってもらうようにしよう。興味を持ってもらえれば、凝り固まった考えを多少でも変えてもらえるかもしれないからな」


「とはいえ、幼少から人間に対して悪印象を持つように教育が施されているから簡単には”洗脳”は解けない。根気よくやるしかないだろうな」


 レオの忠告に、俺達は口を開けたまま固まってしまう。


「……さっきから何なんだ、お前達は」


 レオは俺達に呆れる様な視線を向けてくる。


「いや、”洗脳”って単語が出てくるとは思わなかった」


「ですがその言葉は的を得ていますね。……部族全体が『洗脳』によって外の世界の人間達を忌み嫌い恐れている。これは独裁国家による情報封鎖などでも起こり得る事例ですし、それ以外にも宗教などでも珍しくない話です」


「え、何? この国って宗教国家なの?」


「リリィちゃん、そういう例えって事だよ」


「でもそれに酷似していると捉えた方が良いでしょう」


 だとしたら迂闊に俺達が人間である事をバラしたらえらい事になりそうな気がする。そういえば、ファーリィの家に居た護衛もしつこく「人間の話をするな」と口にしていたな。


 名前は何だっけ……えっと……。


「……あ、そうだ、ライアスだ」

「!!」


 思い出して名前を呟くと、一瞬レオの身体がビクンと震えた気がする。


「……どうした?」

「……いや」


 ……やっぱりレオの様子が変だな。

 だが本人は語りたがらないし、どうすっか……。


「……追及は後でいいか。よし、外に出て片っ端から獣人達に声を掛けよう。

 まずは軽い世間話で軽く当たってから流れで色々探ってみよう。無理して情報を引き出さなくていいからな、最初は仲良くしたいってアピールする感じで行けばいいぜ」


「「「賛成」」」


 と、俺達は意気揚々と宿から出ていった。


「……」

 レオは何かを思案しながら、遅れて俺達の後を追って来るのだった。

ここまで読んでくださってありがとうございます

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