第100話 交渉へ向かう
「で、交渉って何を言うつもりだ?」
俺達はカミラと一緒に再び獣人の元へと向かっていた。
「鉱山の奥に穴が掘られているのは獣人達の仕業なんだろ?」
「ああ」
「少し現場を見ていましたけど、間違いないと思います」
俺とカルミアちゃんが囚われていた時、奴らが岩盤に穴を開けている場面を見た。人間はドリルを使って穴を開けていたが、一部の獣人はなんと素手で岩盤を砕いて穴を開けていた。
見た目からして強そうな奴もいるが、獣人達の力がここまでとは思わなかったな……。
「ひひ、期待通りだね。交渉ってのは簡単、奴らをワタシ達の仲間に迎え入れて一緒に働いてもらうのさ。素手で岩盤を叩き割れるほどの怪力があれば、鉱山の仕事だって短時間で済む。労働時間も改善され人件費も削減。まさに一石二鳥じゃないか」
「なるほど、まぁ上手く取り込めれば万々歳だが……」
確かにそう上手くいけば理想的だが……。俺はチラリと隣を歩くカルミアちゃんの横に視線を移す。そこには女神とリリィが神妙な顔で並んで歩いていた。
「ミリアムはどう思う?」
俺は女神に質問する。人前なので彼女を呼ぶときは偽名だ。
「アイデアとはしては悪くないと思います。ですが……」
「アイゼンって人。なんか獣人を嫌ってるみたいだよ、大丈夫なの?」
女神とリリィは不安そうにカミラに質問する。すると、カミラはいつもの魔女のようなニタニタした笑みを引っ込めて真顔の表情に戻る。そして僅かに俯いたと思ったらため息を吐いて言った。
「……あの子はねぇ、子供の頃、獣人の友達が居たんだよ」
「友達?」
カミラの言葉にカルミアはキョトンとした反応をする。
「ああ。今でこそ情けない姿だが子供の頃はワタシに似て可愛らしい姿だったんだよ。素直でワタシの言う事を素直に聞くとても良い子だった」
「……わ、ワタシに似て……?」
「カルミアちゃん、俺も思ったが今は突っ込むの止めよう」
可愛らしさの欠片も無いのは俺も同意。
「だけどワタシが知らないところで他所の国の獣人の子供と仲良くなったらしくてねぇ。アイゼンは獣人の友達を家に招き入れ、一緒に遊んだりしていたんだよ」
「へぇ、異種族間で仲良くなってたんだな」
「……なのに、むしろ今は逆に獣人を毛嫌いしているように見えたんですが」
「……実はね、この国の獣人は大昔に人間に差別されて冷遇されていた歴史があるんだ。今は流石にそんなことは無いが、領主の息子であるアイゼンが獣人を家に招き入れている事があちら側に問題となっていたんだよ。もっとも全員がそういう考えではないんだが……」
カミラは昔を思い出すように目を瞑る。
「ある日、その獣人の両親と『ウチの大事な息子を唆してどういうつもりだ』と言って怒鳴り込んできた。昔の話とはいえ自分達を冷遇してきた人間達に思う所があったんだろう。
当然、アイゼンもワタシ達もそんなつもりは無かったから、すぐに誤解を解こうと獣人の町に出向いて説明しに行ったんだ。だが……それがいけなかった」
「どうしてです?」
「あちらの国では人間に対しての憎しみが未だに強く残っていた。説明しに行ったワタシ達が国を跨ごうとした瞬間、誰かが投げた石が飛んできてアイゼンの頭にぶつかったんだ」
「!!」
「勿論、ワタシとまだ当時は元気だった旦那は可愛いアイゼンを身を挺して庇った。そして必死に謝罪したんだが分かってもらえず、その日を切っ掛けにアイゼンと仲良くしていた獣人の子供との縁も切れてしまった。
……多分、あの獣人の子も両親を説得してくれてたんだろうが、彼の両親も人間に良いイメージを持っていなかったんだろうねぇ。それ以来、アイゼンは獣人達に対して嫌悪感を持つようになってしまったのさ」
「そ、そんな……可哀想……」
「それが理由で今は獣人を嫌ってるわけか」
「まぁ子供の頃のトラウマってのは大人になっても引きずってしまうもんさね」
「獣人の子供は今は何処に居るんだ?」
「さぁねぇ。今でも獣人の国に居るんじゃないのかい?
もっとも、あの日以降獣人の国に訪れた事は無いから今はどうしてるかは分からないけどね。ただ、今回問題になってる獣人達はどこぞの集落に居た奴らなんだろ?」
「ああ、そう言ってたな」
「って事は何らかの理由で国に住めない連中って事さ。そう言った連中は金や生活にも困ってる筈。なら仕事と住処を与えてやれば、きっと説得にも応じてくれる筈さね」
カミラはそう言うとニヤリと笑う。
「なるほどな。獣人を仲間にして鉱山で働かせるってことか」
俺は納得して頷く。
そして丁度良いタイミングで獣人達が掘った横穴の場所に辿り着いた。
「さて、話が終わった所で早速獣人達の所に行くとしようか」
「……やれやれ、上手く行けばいいのですが」
俺達はカミラを先頭に獣人達が掘った横穴の中に入るのだった……。
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