第99話 親に逆らえない領主
前回、危うく人質になりかけていたサイトとカルミア。
しかし、機転を利かせて無事に包囲網を突破して建物の外に出ることに成功した。
「よっしゃ、このまま逃げるぞ!」
「はい!」
サイトの言葉にカルミアは頷いて台車から降りて走り出す。
後方を見ると獣人達が怒り狂った形相でこちらを追い掛けてきていた。
そこまで怒らせたつもりは無かったのだが……。
このまま捕まれば今度こそ無傷では済まないかもしれない。
「まぁてぇぇぇぇいいぃ!!」
「クソ、逃がすな!!」
「俺達の恨み、思い知れ!!」
獣人達は血走った目でそう叫びながら迫ってくる。
「あわわ、このままじゃ捕まっちゃいますよ!」
「と、とにかく逃げるんだよ。一度安全な場所まで逃げて――」
「サイトさん、ストップ!」
「!」
カルミアちゃんに言われて俺は足を止める。
すると逃げようとした方向から他の獣人達がワラワラとやってきていた。
「逃さんぞ!」
「観念して捕まりやがれ!!」
俺達は囲まれてしまう。
その時、その場に女神が空を飛んで上空から駆けつけて来た。
「二人とも!」
「やはり捕まっていましたか」
空を飛ぶ女神の背中にリリィが捕まっており、慌てた様子でこちらに声を掛けてくる。
「お、やっぱり助けに来てくれたか!」
「女神様ー、助けて下さい!!」
「……仕方ありませんね」
女神がため息を吐きながらそう言うと、彼女の背に乗るリリィがスリングを取り出して構えて地面に向ける。
「二人とも、目を瞑って!」
リリィはそう叫ぶとスリングの紐から手を離し、茶色い弾が勢いよく地面に着弾する。
すると、一瞬だけ火花が飛んで白い煙が辺りに立ち込める。
「煙幕!?」
「今のうちです! 逃げますよ!」
俺達は女神の背に乗って飛び立ち、獣人達から逃げ出すのだった……。
…………。
獣人達の集団から逃げ切った俺達。あの煙幕で時間を稼いだお陰で獣人を振り切った俺達は、この事を報告する為にアイゼンの所に戻る事にした。
「何、鉱山の奥に獣人達が穴を掘って鉱石を盗み出そうとしていたと!?」
アイゼンは驚いた様子で俺達の話に聞き入る。
「ああ、一応説得しようとはしたんだが聞き入れてくれなくてな……」
「獣人さん達、どうも裏の方から穴を掘っていたみたいです」
「……な、なんてことだ……許せん!」
アイゼンは顔はこめかみに青筋を立てて立ち上がる。
「この鉱山は私のものだ! 獣人如きに私の財産を奪われてたまるかっ!! おい、お前達!!」
「は、はい!」
アイゼンに呼ばれたアイゼンの護衛達は慌てて返事をする。
「獣人狩りだ! 今から行って仕留めて来い!!」
「で、ですが……!」
護衛達は困った様子でアイゼンに言う。
「なんだ、私の言う事が聞けないのか?」
「い、いえ」
「とんでもございません!!」
護衛達はそう言って頭を下げる。しかし、他の護衛が機嫌を伺うように尋ねる。
「し、しかしアイゼン様。そこの者達の話によると、以前にアイゼン様がグレイトボアーを捕獲したことを恨んでいる様子。ここはその事を謝罪して穏便に済ますわけには……」
「……なんだと、私が悪いと言いたいのか?」
「い、いえ! その様なことは……!」
アイゼンは不機嫌そうに護衛を睨みつける。
するとそれまで黙っていたカミラが口を開いた。
「……はぁ」
「な、なんだよ、かーちゃん」
カミラのため息を聞いて露骨にビビり始めるアイゼン。どうやら街の人間や護衛には高圧的な態度を見せても自分の母親には強く出れないらしい。その辺り、まだ可愛げがあるという事か。
コイツのせいで酷い目に遭った気はするが、親の手前殴るわけにもいかない。今はカミラの話を聞くことにしようか。
「お前、相変わらず獣人の事を根に持ってるんだねぇ」
「……ん?」
獣人に対する態度がキツイのは何か理由があるのか?
「ち、違う。私は自分の財産が誰かに奪われるのが嫌なだけで……!」
「なら、部下に頼らず自分の身一つで獣人達と戦ってみたらどうだい。それくらい運動すれば、その弛みきった身体も少しは引き締まるってもんだろうさ」
「そ、そんな事、出来る訳ないだろ!」
「……やれやれ。不出来な息子の為に、私が一肌脱いであげようかねぇ……ヒッヒッヒ……」
カミラはそう言って怪しげに笑いながら、俺達の方に歩いてくる。
「アンタ達も協力してくれるね?」
カミラはそう言って協力を持ちかけてくる。だが、獣人の事情を聞いていた俺達としてはアイゼンの言うような強硬策はご免だ。
「悪いがそこの領主様の為に戦うつもりはないぜ」
「私もサイトさんと同意見です。アイゼンさんが獣人さん達に謝った方がいいと思うんです」
「な、なんだと……!」
俺とカルミアちゃんの言葉を聞いてアイゼンはまた怒り出すが、それをカミラが手で制す。
「ヒッヒッヒ、ワタシも別に暴力で解決する気なんかないさぁ」
「か、かーちゃん……」
「だからお前達を見込んで頼みがあるのさ」
「かーちゃんが? そ、それは……」
アイゼンは困惑した様子でカミラに尋ねる。
「交渉さ。ま、出来の悪いお前じゃ無理だろうし、こういう時こそ親の出番ってわけさね。で、どうだい?」
「……交渉か」
カミラの交渉が具体的に何をするのか聞かなければ分からないが、和解出来るならアイゼンの命令よりはマシだろう。俺達四人は少し相談した後、カミラの提案に乗る事にしたのだった。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
良ければいいねや評価をお願いします。




