7話
寮に戻ると部屋に閉じこもった。
(見られた…見られた…見られた…)
なんであんなところで寝ていたんだ?
記憶を思い出そうにも覚えている事は球技大会でバスケをしていて
やけにふらふらすると思った事と、勝ってから…
一切の記憶がない事だった。
(運ばれた?…脱がされた…?)
考えたくない現実が押し寄せて来た。
転校してまだ間もない。
しかも、ここはプールが無く隠し通すには絶好の場所だったはずだ。
なぜなら、自分の事を知っている南條隼人がいるのだから。
それなのに…自分の不注意で…居場所を失いそうになっていた。
「最悪だ…」
気落ちすると布団に横になった。
身体的にも精神的にも疲れて、考えるのを放棄したかった。
コンコンッ
いきなりのノックに飛び起きると声が上擦ってしまう。
「はっ、はい!」
「起きてるか?入ってもいいか?」
隣の部屋の畑野の声だった。
「い、いいけど…」
「悪いな。気分大丈夫か?お前保健室に運ばれて行っただろ?ちょっ
と心配になってな…」
「あ、あぁ…平気だ。坪内から何か聞いたのか?」
「ん?…なんで圭から?あいつ途中で居なくなったけど、そっち行っ
たのか?」
「い、いや、なんでもないよ…」
「まぁ〜もうすぐみんな片付けが終わったら戻ってくると思うけど?
今なら浴場貸し切りだぞ?ゆっくり入ってこいよ。俺、戻るからさ」
「う、うん…」
畑野が帰ると寮は静かなものだった。
確かに大きな浴場は気になっていた。
どうせ、バレたのならそう長居はしないだろうと思うと、行ってみよう
と考えて、上の階の共同浴場へと行ってみた。
広くて大きめに取られている間取りのせいかまるで銭湯のようだった。
銭湯に入れたのも小学校に入る前までだった。
身体が成長するにつれて公衆の場には行けなくなった。
彼女だってこんな身体だと作れない。
唯一この身体を見ても軽蔑しなかったし、欲情しなかったのは近所に住
んでいたお兄さんだけだった。
今ではこの学校の寮長をしている。
みんなには厳しいらしいけど、幾島には優しいお兄さんだった。
「ん〜〜〜広いって気持ちいいなぁ〜」
声が響いて本当に自分の為だけの貸し切りみたいだった。
身体を洗うとゆっくりと湯に浸かった。
鏡を眺めるとこそに映る自分の姿が映った。
湯に浸かった自分はどう見ても女性にしか見えない。
股間に生えているアレさえなければ、女性として性を受けていただろう。
しかし、実際は精子を作れる器官を持って産まれて来た時点で男と判別
された。
身体の検査も何度もされたが、女性特有の子宮は存在しなかったからで
もある。
「僕の身体ってなんでこんな風に中途半端なんだろう…」
いっそ胸を取ってしまえば普通になれるのだろうか?
成人するまでは親の許可なしでは何もできない。
広々とした空間で少し油断していたのも事実だった。
出ようとちょうど扉に手をかけた瞬間、勝手に開いて目の前に見知った顔
が現れたからだった。
「なっ……」
「やっぱりここにいたかぁ〜。裕樹に…聞いて…き、たんだけど…?えっ!」
目の前にいるのは坪内宙。
メガネがくもっていく前に見た幾島の全裸に視線と言葉が止まってしまう。
男であると思っていた胸には柔らかそうな膨らみが…そして下半身には見慣
れたモノがついている。
そんな事ありえないはずのもので。
共存などできないモノでもあったからだ。
「そ…それって…」
「こ…このっ…ッ…変態兄弟がぁぁーー!!」
咄嗟に殴りつけると倒れた拍子に横を通り抜け、着替えを持ったまま部屋へ
とダッシュした。
多分、畑野が言ったのだろう。
考えが甘かった。
確かに大きな浴場は気持ちがいいが、それ以上に危険のが大きいのだ。
(バカだった。畑野が居なくても話さないわけ…ない…)
いつもよく一緒にいるなら尚更だ。
この気持ち悪い身体を見られた!!
その事が一番ショックだった。
部屋に篭ると、次の日は部屋に籠ったまま出ていかなかった。