2話
カーテンの中に透けるシルエットは男女のソレで、誰が見ても分かる
ような行為で窓から入る光がまざまざと現実の行為を如実に再現して
いたのだ。
幾島の顔が、見てはいけないものを見たとでも言っているようだった。
「こ、これ、これって…」
「まぁ、落ち着けって。こんな事で驚いてたらコレからやっていけな
いぞ?」
「で、でも…ここは学校なんだぞ?」
隣の畑野が周りを見るように言うと、周りの目が血走っているのを感
じて、ゾッとした。
男子の視線が見ている先は明らかにカーテンの中の人に注がれている。
誰か分からないが男女が絡み合うようなシルエットに興奮した観客の
荒い息遣いに気持ち悪さを感じた。
「どこ行くんだ?見ていかないのか?」
「こんな事を人前でする奴の気がしれないよ」
畑野の言葉を遮るように言うと、幾島は廊下に出て行った。
チャイムが鳴る頃には教室は普通の状態へと戻っていた。
あの時に居なかった人といえば…隣の席の坪内圭だった。
じっと眺めていると不意に目が合ってしまった。
気まずい気がしてと視線を逸らすと向こうから話しかけて来た。
「お前は見ていかなかったんだ〜?」
「見てって…/////」
「何赤くなってるんだ?いつもの事だぞ?」
「彼女に失礼じゃないのか?もっと大事にしろよ!」
「ん〜〜〜?彼女じゃね〜し…ただのモブじゃん?」
「…!」
一瞬、言葉に詰まった。
彼女じゃないと平然と言ってのけるこの男に今は嫌悪感しかない。
「彼女でもない子にあんな破廉恥な事をしたのか!」
小声で言うと、彼の反応は予想以上にクズだった。
「は?向こうが求めてたんだから嬉しいんだろ?別に俺が誘ったわけ
じゃねーよ。あんなビッチ誰が彼女にするかよっ…」
この男が言えたことではないだろうと思いながら教室に入ってきた
教師によって話は遮られたのだった。
放課後になるとそれでも、そんなクズな男へ女子が群がる。
「圭くーん、今日どう?」
「ん〜?お前飽きたからいいや。」
「えーーー、昼は嬉しそうだったじゃん」
「もういいよ。俺の理想とは違ったから。」
もう最低としか思えない会話が横から聞こえてくる。
女子も簡単には引き下がらなかった。
「散々煽ったんだから最後までシテよ!」
「嫌だよ〜めんどくさいー」
「ちょっと〜!ならバッグ買って!」
「まぁ〜た今度な…」
のらりくらりとかわすと出ていこうとする。
すると廊下から声が聞こえて来た。
「おい、圭!今日覚えているよな?」
「はいはい、分かってるって…」
「そんなところで油売ってないで行くぞ。おっ、可愛い子ちゃん、
ごめんな?借りてくよ。それとよかったら…」
そういうと坪内圭に似た顔のもう一人がメガネをクイっとあげると
彼女を抱きしめた。
しかも、幾島の目の前で彼女のヒップに沿っ手を回すとゆっくり下
から持ち上げると揉むように触り出した。
「わ、私…宙くんでも…」
「う〜ん、いまいちかな。お肉たるみ過ぎて弾力なさすぎるよ。」
頬を染めて言った彼女に辛辣な言葉が帰って来た。
(この野郎どもは…)
どうにも、女の子を性的なものにしかとらえてないような言動に虫
唾が走った。
「悪いんだけど、女性に対してその感覚はおかしいんじゃないか?
昼間といい、今といい。彼女に謝れよ!」
幾島は咄嗟に出た言葉に坪内兄弟の視線がこちらに向いたところを
睨みつけた。
「何?こいつ?圭のクラスに居たっけ?」
「あぁ、こいつ?季節外れの転校生って奴?」
「編入試験首席合格って君か?すごいらしいじゃないか?なら、尚更
俺らに逆らわない方がいいよ?女なんて媚び売る生き物なんだから
いちいち構ってたらキリが無い…」
メガネの奥で目を細めると幾島の目の前までくると忠告でもするように
声を顰めた。
「せっかくこの学校に入れたんだから。退学にはなりたくないだろう?」
「なっ…」
「行くぞ。圭、もっと兄らしく振る舞えよな〜」
「へ〜、へ〜、どっかに理想の可愛い子、居ないかな〜」
女子を置いてそのまま出て行ってしまう。
どっちにも相手されなかった彼女は悲しそうに教室を出ていく。
「大丈夫?」
「君、転校生だったんだね…変なところを見せちゃったわね!大丈夫よ。
いつもの事だから。そのうちまた私がいるようになるわ。だって、私は
圭のミューズなんだもの」
どこからくる自信なのだろう?
彼女は吹っ切れたように笑うと出て行った。
寮に向かうと南條が先に待っていてくれた。
「海人くん、おかえり」
「南條先輩!」
「寮を案内するよ。それとここは共同浴場だから、君はこっちね」
管理人室横を通って専用の鍵を開けるとそこには仮眠室と簡単なシャワー室
がついていた。
鍵を手渡すと南條は平然と説明を始めた。
「夜の浴場は誰もいないけど注意はしてくれ。それと…ここはこの鍵でしか
入れないのと、鍵を持っているのは俺と海人だけだから安心してくれてい
いよ。」
「ありがとうございます」
部屋は普通なら相部屋なのだが、幾島は一人部屋をあてがわれたのだった。