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その2の2

 灯夜の実家『メゾン・ニューハイツ』の一室。

 マウラとネリの寝室。

「どう思う?」

 と、おもむろにマウラはネリに尋ねた。

「そうですね、まずいと思います」

 電気もつけず、モニタに向かうネリとマウラ。モニタの光の元はノートPCだった。

 そこに尻尾を介して接続されているのは、マウス型オートマトンの親玉、男爵。

 モニタには、簡単には解読できそうも無い文字の羅列が浮かんでいた。

 おそらく、何かのプログラムのソースコードと思われるが、その長さといったら尋常なものではなかった。

『申し訳ございませぬ、ネリ様、マウラ様』

 しょぼくれた様子で男爵がつぶやく。

 そのコードは男爵に内蔵されているプログラムのものであるらしい。

「状況報告プログラム……、こんな深度に隠されていたなんてね。ため息が出るわ」

 ぎしっと椅子を鳴らして、マウラは背もたれに寄りかかると、腕を組んでから言葉どおりため息をついた。

 そのプログラムはまさに名前どおり。

 詳細なデータを逐一本星へと送るようプログラムされたものであった。

「さすがにプライベート記録まで流出はしてないみたいだけど、良心的なのはそれくらいね。無効化しようにもアドレスはまたぎすぎ。ここまで深いと、男爵の方にも影響が出るだろうし」

「書き込めない領域、ということですね」

 と、ネリもつられてため息をつく。

「男爵のストレージにアクセスが集中してるから何かと思えば……ウィルスよりたちが悪いものだなんて」

『まことに申し訳ない……、コレばかりは我輩のコントロール下にはないもので……』

 縦線を引いて、しょぼーんとさらに沈み込む男爵。

 根底にあるプログラムゆえ、コントロールができないらしい。

 つまりは人間で言うところの心臓だ。自分の意思では動かせない、ソレと同意。

 彼女らの言葉からして、事態はどうやら相当深刻な模様だった。

「しょうがないわね、フォーマットする?」

『ふぉーまっと!?』

 マウラの提案に、びくりと身震いする男爵。

 フォーマットといえば初期化。初期化といえば一大事。

 機械にとってはそれは安楽死と大差ない。

「おおう、ソレはやりすぎかと」

 しかしソレをとめるのはネリ。 

「もっと手っ取り早くレンジで」

『チンッ!?』

 再び身震いする男爵。

「冗談ですよ」

 と、無表情のままネリは続ける。

『冗談に聞こえませぬぞ!?』

 涙声で男爵は訴える。かなり怖かったらしい。

 その様子を見て、マウラは後頭部を掻きながらノートPCのキーをたたく。

「しょうがないわね、とりあえず、連絡用ポートだけ埋めて、ホールの閉鎖をかければ凍結できるから、そうしておくわ」

『出来るのでしたら最初からそうしていただきたい!』

 そう反論する男爵を、ぎろりとにらみつけるマウラ。

 黒ぶちめがねの奥の眼光は鋭かった。

「貴方、使いっぱしりのクセに今のは少し生意気だったわよ?」

『ひぃっ!?』

「第一、誰の所為でこんなにまでめんどくさい事になってるのかわかってるのかしら。態度が悪いわよね、態度が。人に物を頼む態度じゃないわね」

『ヒィイッ!?』

「やっぱりチン、しちゃおうかしら」

『チンはやめてくだされ! チンはいやああああああああ!』

 がくがくと男爵が震えると、ぴろんっという音とともにストレージがはずされた音がノートPCから響く。

 どうやらOSはXPらしい。

「あ、フリーズした」

 こともなげに、マウラはつぶやく。

 男爵は別の意味でチーンとなった。

 やれやれと頭を振るネリ。しかしそれも一時。

 真剣な顔で、マウラに尋ねる。

「これは、来ますかね?」

 その問いに、何をいわんやと言った様子で、もう一度ため息をつくマウラ。

「来るわね。監査軍」








 センター街から少し離れた夜の公園。

 噴水の脇のベンチに座り、メフィは大きくため息をついていた。

 脇には引きずってきた良平を寝かせている。

 なんという赤っ恥。

 久々に現世に出てきて、これが今回のマスターかと思うと頭が痛くなってくる。

 元の世界に戻ろうにも、マスターがその気にならねば帰ることは許されない。

 まぁ、普通はすぐに願い事を叶えて、それではいサヨナラといくところだが、良平の願い事ときたら規約の範疇の外だった。

 彼の願い事ときたら、あの秋月灯夜をあっといわせたいということだけだったのだから。

 そんなわけでうらやましがらせるために彼女の振りをしていたわけだ。

 今は角も第三の目も、跳ねも尻尾もしまってある。服装だって現代人と変わらないものに変更している。カモフラージュはバッチリだ。

 が、手を加えているのはそういった人間には無い部分のみ、ほかはノータッチ。

 そりゃあ、自分の見た目には少々自信はある。そういう面で選んでもらえるのは嬉しいとも思う。

 が、はっきりいって、あの褐色肌の女性とショートカットの女性には負けていた。主に胸囲的な意味で。

 それはちょっと悔しいと思う。

 要するに羨ましがらせるつもりがこっちが羨ましくなってしまったというだけの話だ。なかなか屈辱的な結果である。

 このまま引き下がるのも、なかなかに癪だなと、メフィは内心思っていた。

 第一、あの二人───

「う、うーん……」

 と、考えをまとめに入った時、隣で寝かせていた良平がうめいた。

「……そんなに、くっつくなよメフィ。かまってやるからさ、ムニャムニャ……」

「フンッ!」

 その言葉を聴いた瞬間、メフィの左ひじのエルボーが振り下ろされた。

 ずどむ。

「ぶごぉ!?」

 横っ腹を押さえて、身もだえを始める良平。きれいにツボに刺さっていたようで、声も上げずに震えていた。

 まったく、どういう夢を見ていたのだろう。いや、どういう夢かは容易に想像が付く。

 ただ、その夢を見続けられるのは、どうにも気分がよくなかった。

 しばらくして、やっとのことで起き上がる、良平。

「あれ? メフィ? おはようのチューは?」

「そんな事実は無かったわ。すべては夢よ。夢」

「そんなバカな!? あの新婚生活がすべて夢だったなんて!?」

 びしゃあんと良平の背後に黒をバックに稲妻が走る。

「はっ、だからなのか……、膝枕も口移しもすべてエアにしか感じなかったのは……、それが俺の想像力の限界だとでも言うのか!?」

「なんて夢みてるかなコイツは……」

 頭を抱えるメフィ。

「返せ! 俺の幸せで朗らかで和む夢を返せ! いや、むしろ、今ならまだやり直せる! 結婚してください! 胸でかくなったら!」

 詰め寄ってくる良平を押さえつけ、顔を背けるメフィ。

「うーわ、うっとおしい!」

 そんなときだった、二人に声をかけるものが現れたのは。

「もし、そこの御二方。ちょっとよろしいか?」

 二人は同時に声の主に目を向ける。

 女だ、しかし、その姿はどこかしらダンディーに見えた。

 ハイヒールで嵩増しされた高い身長、締まった体のライン。赤茶けた長い髪。

 着こなしているのは髪の色と揃えた赤こげ茶にラインの入ったスーツ姿。ぱりっと履きこなしたパンツ。きちんとまとまったネクタイに、頭にはソフト帽。

 そのとがった自己主張の強い胸と、くびれた腰さえなければ、かもし出されるダンディズムでそこらの女などいちころなのではないだろうか。

 いわゆる、宝塚的な美女だったのだ。

「アンタ、だれ?」

 尋ねたのは、メフィ。良平との会話をきりたかった念もある。

「おっと、コレは申し訳ない」

 言って、女はスーツの裏ポケットから、名刺を取り出す。

「ワタクシ、こういうものでございます」

 名刺を受け取ったメフィは、そこに書いてある肩書きを読み上げた。

「何々、私設探偵、サラ・ラサラ・サラサ? 胡散臭いわね……」

「ソレはそうでしょうね、ですが、肩書きなどそのようなものです。とりあえず、ワタクシが聞きたいのはある場所のことだけなので、そこまで構えないでいただきたい。そうだ、これはお近づきのしるしに」

 言って、右手をメフィへと向け、差し出すサラ。

 警戒しながら、メフィはその右手を見つめる。

 すると、ぽんっという音とともに、赤いバラが手の中に生まれた。

「初歩的な手品ですが、貴方には赤いバラが似合う……」

「ど、どうも……」

 その熱っぽい視線に、気おされるメフィ。無理やり、受け取らされる。

 そのやり取りに、むっとしたのは良平だった。

 普段なら食いつくはずだが、今回ばかりの良平は違った。

 完全に男力で負けていると、本能から悟ったらしい。

「そ、それで、どこに行きたいんです? お姉さん」

「ああ、教えてほしいのです。この近くに、『メゾン・ニューハイツ』という民宿はありませんか?」

 その言葉に、顔を見合わせるメフィと良平。

 そこならついさっきまで居た場所だった。

「ああ、そこなら……、もが」

 答えようとする良平の口を後ろ手に押さえ、代わりに答えたのはメフィだった。

「そこなら、この公園をまっすぐ出て、右に曲がって、次の角を右に、その次の角を右に、次を右に、あとはずっと右に行ったところよ」

「ありがとうございます、美しい人」

 ぺこりと恭しく一礼を送り、立ち去ろうとする彼女。

「まって」

 その後姿を呼び止めるメフィ。

 声に反応し、サラは一度振り返る。

「今夜はもう遅いわ。今度にしたらどう?」

「なるほど、ご忠告痛み入ります」

 再び、ぺこりと頭を下げ、サラは今度こそ去っていく。

 その後姿を見送りながら良平はメフィに尋ねた。

「あんなデタラメな道順教えて、なに考えてんだ?」

 そう、メフィの道順をちゃんとたどれば、この公園に逆戻りしてしまう。

「ウサ晴らし」

 こともなげに、メフィは答えた。

「それにあの探偵。地球人じゃないわ。そんなのとかかわってられますか」








 ちりとりと箒を持ってエプロン姿のイチローが俺の部屋へと入ってくる。

 もう時刻は0時。俺はゲームの電源を落とし、テレビを切った。

「お疲れさん」

 俺がねぎらいの言葉を送ると、こくりと頷くイチロー。

 掃除用具をベッドの下に片付けると、自らの尻尾をつかんで、コンセントにぶっさす。

 そうしてからイチローはコンセントの前に正座する。

 スリープモードに入ったのだ。

 なんだかんだでコイツはよくやってくれている。

 最初はどうしたものかと思ったが、かなり何でもこなしてくれちゃう上、文句も言わないので、今ではメンバーの中で一番の働き者だ。

 今日だって使っていない部屋の掃除で一日つぶしてしまったのに、何も怒ることも無い。

 しゃべれないからというより、進んで家事の手伝いをしてくれる。

 もしかしたら好きなのかもな。掃除。

 そんなことを思いながら、俺は明日に備えてベッドにもぐりこんだ。

 明日も多分、奏さんと群雲が迎えに来る。それもかなり早い時間帯に。

 それに合わせて目を覚まさねば、申し訳ないとも思うわけだ。

 この間の一件から、確かにあの二人とは距離が縮まった気がする。

 だからといって付き合うとかそういう感情はまったく無い。

 まぁ、それでいいと思う。女友達が増えるのは男としては嬉しい。

 そんなことを考えているうちに、俺は眠りのふちへと落ちていった。

「充実してるようじゃないさ」

 また出た。

「また出たとは失礼だねキミ」

 んじゃどう言えばいいんだよクソ神様。

「なおさらひどい言いようになってるし。まぁ、いいや。誰にするかは決めたかい?」

 何の話だよ。

「しらばっくれちゃって。一つ屋根の下にいるって言うのに、手も出さないつもり? やーいチキン野郎」

 だれがチキンか。

「そいじゃあ、不能?」

 誰が不能だよ! 黙れよ! むしろ黙らすぞ!?

「えー、んじゃ、何でさ」

 そんな気持ちになれないだけだよ。誰かさんのおかげで。

「誰かって、誰のことかな?」

 オマエだオマエ!

 ロクでもない未来になるってわかってて、ほいほいそっちに行くバカがいるか!

「えー、でも、もれなく美人の伴侶つきだよ?」

 だとしても、だ!

「まぁ、今日はそのことじゃないんだ。ケルーベイムの調子はどうだい?」

 ケルーベイム?

「そっちじゃイチローと呼ばれてる子だよ」

 ああ、よくやってくれてるよ。申し訳ないほどの働き者さ。

「それじゃあ、大事にしておくんだね。これから、少し騒がしくなるよ」

 そこまで言ったのを聞いたころだろうか。

 小鳥の鳴き声で、朝が来たのを悟ったのは。








 ぽふりと、エプロン姿のイチローがご飯を注ぐ。

 ロボットがご飯をよそう姿はかなりシュールだが、見慣れてしまえばなんてことは無い。

 その脇では、♪~と鼻歌を歌いながら同じくエプロン姿のアーシェ総帥が目玉焼きとウィンナーを焼いていた。

「いつもありがとうね、アーシェちゃん、イチロー君」

 と、どこか枯れた響きのイントネーションで、席に着いた弥生さんは二人に感謝の意を述べる。

 だが、そのことばはどこかうわべだけのものに聞こえた。

「いえいえー、お世話になってる手前、コレくらいは当然なのだ」

 と、まったく屈託の無い笑顔でこっちを向くアーシェ総帥。

 いい子だよな、やっぱり。

 そんな彼女向かって、仕込んでおいた毒を、弥生さんは放つ。

「おかげで私、やること無くて困っちゃうわ。ええ、もう年だからいいんですけど」

 ぴしゃあッと稲妻が走ったのは、たぶん気のせいだろう。

「はぅっ!」

 びくりと、背筋を振るわせるアーシェ総帥。

 彼女たちが来る前は朝食云々はすべて弥生さんの受け持ちだった。

 やることが無くなった弥生さんはどこか不完全燃焼なのだろう。

 姑いびりかよ。いや、同居人いびりか? てかあんたまだ二十台だろうが。

 まるで蛙と蛇のような対図。もちろん蛇は弥生さん。

「う、うううぅ……、こ、交代するであるか?」

「あら、やぁねぇ。私はアーシェちゃんのご飯が食べたいのよ。ええ、食べたいの……」

 ふふふふ、と黒い影を浮かべながら弥生さん。

 こ、こええ……。

 マウラさんとはまた別の怖さを抱え、弥生さんはアーシェ総帥の後姿をじっと見つめる。

「はわわわ、がくがくぶるぶる」

 これは失敗できない、と彼女は思っただろう。しかし、手元がおぼつかない。

 フライパンの柄をつかみなおすアーシェ総帥。

 そのとき、アーシェ総帥は叫んだ。

「あっちいぃいいいぃいいっっ!?」

 どうやら柄の鉄の部分に触れてしまったらしい。

 急いで、蛇口をひねり、水にさらす。

 ただ、そこでほっとしてはだめだった。まだフライパンには火がついたままだったのだから。

 しばらくすると、ぶすぶすと焦げ付いたにおいとともに、黒煙を上げるフライパン。

「にゃッ!?」

 気が付いたときにはもう遅い。真っ黒に焦げ付く目玉焼き。

 カチンとコンロの火をきったのは、イチローのほうだった。

 ほんと役に立つなコイツ。

「うあうー、ありがとうなのだー、イチローさぁん……」

 しょぼーんと縦線を引いて涙を浮かべながら、アーシェ総帥。

 弥生さんがニヤリ、としたのを、俺は見逃さなかった。

 黒い、黒いよ弥生さん……。

 その様子だと、アーシェ総帥の手当てなんかしてくれそうも無かった。

「たく、しゃーねえなぁ」

 俺は席を立ち、救急箱を取りに出る。

 救急箱は風呂とつながった洗面所にあった。そこまでの道のりは別段遠くない。

 第一そこまで広い間取りなどしていないわけだし。

 下りの階段の脇を通り過ぎ、がちゃりと洗面所の扉を開く。

 と、そこには、ジーンズを履きかけている、セリスさんがいた。

 俺の目に入るのは白と水色のストライプが入ったシマパンツに包まれた、形のいいお尻。

 …………。

 いや、その……。

「うわぁああああああああっ!?」

「きゃあああああああああああっ!?」

 急いでジーンズをあげるセリスさん、同じく、俺も急いで顔を背ける。

 顔が真っ赤になっていくのがわかる。

『な、なんで……?』

 同時に同じ言葉をつぶやく、俺たち。

「あ、わ、私は、髪の毛がまとまってなかったので朝シャンプーを……」

 ああ、道理で。髪が湿っぽいわけだ。

「俺は、総帥が火傷したからその、救急箱を取りに……」

「あ、そ、そうですか……」

 かしこまって、二人そろってうつむく。

 そのとき、俺たちに疑問の声がかかる。

「二人して何してんですか?」

 視界をめぐらせれば、小さい少女と身長の高い女の人のメガネコンビが見えた。

 部屋から出てきたパジャマ姿のネリさん。その後ろで、うーんと伸びをする同じくパジャマ姿のマウラさんだった。

「あ、いや、これは……」

 どう説明しようか困ったが、ネリさんは俺たちの顔を見比べるとまぁいいです、とつぶやいた。

「とりあえず顔洗いたいので、二人ともどけてもらえますか?」

「あ、はい」

 道を譲る俺たち。

 そこで俺は当初の目的を思い出していた。

「あ、救急箱とってもらえます?」

「む、了解です」

 言って、がちゃんとドアを閉めるネリさん。しばらくして、またがちゃとドアが開かれ、救急箱が差し出される。

「はい、どうぞ」

「あ、どうも」

「だれか、怪我をしたのですか?」

 と、メガネのすわりを直しながらマウラさんが俺に問うてくる。

「ああ、総帥が……」

「なるほど、どうせ朝食を作ってて、イビられてポカミスやらかして火傷でも負ったと、そんなところでしょう?」

「───見てたのかアンタっ!?」

「いえ、当たりなんですか?」

 驚いた、完璧すぎるほど的中している。

「まぁ、総帥の行動パターンなんて明日の昼くらいまで予測できます」

「まるで飼い主ですね」

「似たようなもんですよ。判りやすいし」

 ちゃきりと、ずれたメガネを直すマウラさん。

「まぁ、顔洗ってから行くので、先に朝食でも食べててください」

 と、最後に彼女は言い、入れ違いに出てきたネリさんと洗面所を交代する。

 じゃーと、再び水が流れる音が響いた。

 出てきたネリさんが顔を拭きながら俺に言う。

「総帥の手当て、いいんですか?」

 あ、そういえばそうだった。

 戻り、俺は総帥に声をかける。

「おーい総帥ー、火傷見せてみー」

 すると、スリッパをパタパタと鳴らしながら、総帥が駆け寄ってきた。

 むぅ、なんという小動物的なしぐさ。

 いい子なんだよなぁ、ホント。

「はうう、ありがとなのだ灯夜さん」

 涙ながらに差し出される人差し指。

 俺は彼女の人差し指に軟膏を塗りつけると、包帯を巻いていく。

 彼女の指を手当てし終えたそんなときだったろうか、玄関口からいつもの声が聞こえたのは。

「おーい、灯夜ぁ!」

 もはや聞きなれた奏さんの声。

「今日は客も連れてきたぞー!」

 客だぁ?

 こんな朝っぱらからか?

 俺は窓を開けて、下の奏さんらを見下ろす。

 そこには群雲と奏さん、そして見たことも無いスーツ姿の女の人が立っていた。

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