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その2の1

「男と、居るだと……?」

「ハッ、男爵からの記録では、アーシェ皇女様以下、マウラ、セリス、ネリの3名も、同居している模様です」

「事実なのか……?」

 庭園の中、そう、威厳のある男は報告そ持ち込んだ黒服の男に悲しみの混じった低い声で聞きなおした。

 周囲には瓶に収められた花が咲き乱れ、噴水がわき、小鳥が飛び交う。

 男はシルクのローブを羽織っていた。シルエットの肩幅は広い。

 顔にはヒゲを蓄え、その皮膚は褐色だった。すでにけっこうな年齢なのはその顔のしわからしてよくわかる。

 そんな彼の手には、フォトスタンド。ソレが次々にアーシェの姿を映し出している。

 それは彼女の成長をつづった絵日記でもあった。

「ハイ、間違い……、ございません」

 苦々しく、黒服の男はつぶやく。

 よく見れば、彼らの耳はネコミミだった。

 尻尾も生えている。まさにナコタナコタ人そのもの。

 肩を震わせる、報告を受けた男。

 握り締めたフォトスタンドに亀裂が生じた。

「その、男とは……?」

「名は、アキヅキ、トオヤ。アオアオの人間です」

 ついに、パキンッと音を立てて、フォトスタンドの端が割れる。

 映りこんでいたアーシェの姿も、ソレに伴いノイズにまみれた。

「うおおおおおおおおおん! アーシェ! いつからそんな不良娘になってしまったのだ!? パパはそんな子に育てた覚えはないぞ!」

 どうやら彼がアーシェの父ということで、間違いはないようだった。

 怒髪は浮き上がり、天を衝きながらも彼は大きな声で怒鳴りあげた。

「至急、監査軍を送れ! 状況を正確に報告、触れ会うようなことがあれば突入せよ! 蝶よ花よと育てたわが子を、なんでそんなどこの馬の骨とも思えぬビチグソにとられにゃあならんのじゃああああああッッッ!?」

 だしだしとフォトスタンドの亡骸を踏みつけると、そこらじゅうにあった花瓶を投げて回るパパさん。

 がしゃんがしゃんとはなと水を撒き散らしながら、瓶が次々に割れていく。

「帝、落ち着いてください! 帝ッ!!」

 黒服が数人束になって取り押さえようにも、投げつかられた花瓶で吹き飛ばされる。

 水の入った瓶は意外と重いのである。

 たまらず、報告を行った黒服の一人は助けを求めた。

「者どもであえー! 帝がご乱心じゃああああああああッッ!!」

「きしゃああああああああああああああああッッッ!!」

 それでもしばらくは帝の怒りは収まらなかったとか何とか。




 にくきゅうその2 やっぱり地球はピンチなわけで。



 最近、俺は運命に抗うことを覚えた。

 というのも、ロクでもない神様が、俺の人生をメチャメチャにしようと暗躍しているからだ。

 なんでも俺は運命の種馬らしく、だれかとんでもない人物とくっつくことで新しい運命の申し子が生まれるらしい。

 そして、その運命というのがまたロクでもない。

 神様たちを一喜一憂させるためだけの生産性も何もないものだからだ。

 まったく冗談じゃない。

 俺は平凡に暮らしたいのに、このあいだのことで舞台は整ってしまった。

 ページは開かれた、というよりも、ページを開かされたというのが正しいだろう。

 まぁ、冗談じゃないといえば、この補習も含めての話だが。

 ピー。ピロー。ピロロー。

 カツカツというシャーペンがすべる音とともに、間抜けな音が教室に響き渡る。

 俺たちは早速、補習という悪夢の工程に取り掛かっていた。

 教室に教師は居ない。その代りといっては何だが、教壇の上には積み上げられたプリントの束。

 それを一日がかりで全て解けというのだからこれが悪夢でなくてなんなのか。

 少なくとも、単位というエサが下げられてなければ、まずボイコットしてたであろう。

 ピー、ピヒュルルルル、ピロッ、ピボー。

 時折、いや、結構頻繁に、間抜けな音は教室の中を反響する。

 しかし五月蝿いとも思わなかった。そりゃそうだ。そんなことに気を使ってられる神経などどこにもない。

 今はとにかく、プリントを片付けることが先決だった。

「秋月さん、ここ、わかるっスか?」

 机を向かい合わせて、補習三人組の一人、群雲夕陽と頭をつき合わせて問題に取り組む。

 彼女がシャーペンで指差した問題は、見たこともないような内容だった。

「あー、そこな? 俺もわかってないんだわ……、待っててくれ、今、教科書出すから」

「載ってるんスカね、三角関数、加法定理、基本定理の理屈なんて……」

「載ってる訳ねぇええええええええええええ!」

 これ出題した教師はアホか!? そんな定理の証明なんか高校生ができるかッ!

 一応普通科高校ではあるものの、ウチは進学校というわけでもない。どちらかといえばランクは下のほうで、模試ランキングにも名前が載ったことがないような高校だぞ!? 

「ってか、なんでそんなに二人仲良くなってんの?」

 唐突に、真剣な顔で、良平が俺たちに声をかけてきた。

『は?』

 同時に、疑問符が頭の上に浮かぶ俺たち。

 群雲も俺も、何を言ってるんだこやつは。としか頭に浮かばなかった。

「仲、いいっスか? ウチら」

 と、首をかしげながら群雲。

 俺に聞かれてもなんと応えていいやら。

「いいじゃんかよ! 机迎え合わせて二人で黙々問題解きやがって! 隣でリコーダー吹いててもさっぱり気がついてねーじゃねーか! 寂しいぞ俺は!?」

 ばしっと口にしていたアルトリコーダーを床にたたきつけながら良平。

「吹いてたのかよ、道理でピーヒャラ五月蝿いと……。プリントしろよ」

「一人じゃ解けないんだよ! なんだそれ? わざと言ってるか!?」

「いや、気がつかなかっただけで……」

「判ってるYO! 気がついてほしいからリコーダーなんか吹いてたんじゃないかYO!」

「あ、秋月さん載ってましたよ、加法定理の証明」

 と、前髪を掻き分けながら群雲。

「うそぉ!?」

 群雲が広げた教科書を覗き込めば、確かにそこには定理の証明が載っていた。

 それも内容はほぼ同じ。

 だからといってできの悪い俺たちがすぐに解けるようなシロモノではないが、いつかはきっと解けるだろうという希望に満ち溢れる出来事だった。

 教科書も教師もあながちバカにしたものではないらしい。

 ほっとかれた良平が涙声で吼える。

「だーかーらー! 泣くぞ畜生!」

 うーわ、うっとおしい。

「泣けば?」

「うん、泣けばいいっス。ジャマッス」

「う、うわああああああああああああああああん!」

 群雲の言葉を引き金に、本気で泣き出す良平。

 そのままかばんをつかむと、ダッシュで教室を後にする。

 窓の向こうで、やってきた奏さんと鉢合わせするのが、視界の端で見ることができた。 

 俺が補習の手伝いを頼んでいたのだ。

「おう、村上じゃないか、どうし……」

「おろろおおおおおおおおおおん!」

 しかし、奏さんと一言も交わすことなく、すれ違うと、脱兎のごとく走り去る良平。

 その様子に、頭に疑問符を浮かべる奏さん。

 がらりと、教室のドアを開けどういうことなのかと俺たちに問うてきた。

「泣いてたぞ?」

 説明するのもめんどくさいので、適当な理由をでっち上げる。

「生理だそうで」

「生理ッスね」

「ああ、ならしょうがないか」

 納得する奏さん。

 今日も補習は平和だった。





 引き戸をバンッ! と開き、彼は大声で頼りの人を呼んだ。

「どら……、いやさ、親父いいいいいいいいいいいいいッッ!」

 危ない言葉を口走りそうになって、さすがの良平も言い直す。

 ここはセンター街の端っこにある古本屋。そこが彼の実家だった。

「おう倅!? どうしたそんな号泣で!?」

 カウンターの向こうの、筋骨隆々な男が、息子の涙姿を見てΣを飛ばす。

 前掛け姿がぜんぜん似合っていなかった。

 どうやら良平の父親のようだった。

「なんか願い事がかなう魔法の本とかねえ!?」

 良平は涙声で思いのたけを父親にぶつける。 

「いきなりだな。そりゃ、古本屋やってる手前、本には事欠かないけどよぉ……」

 ぼりぼりと、後頭部をかきながら、頭をひねる、良平父。

 しばらく腕組みすると、ショーケースの中身の本を取り出した。

「そうだ、コイツなんかどうだ? 一万二千年前の書物だそうだ」

 どん、とカウンターの上に古めかしいく、厚い本を乗せる。

 表紙には、何語かもわからぬ題名が、打ちつけたプレートに掘り込んであった。

「ワーオ眉唾物にもほどがあるねダディ。八千年過ぎたころからもっと恋しくなるのかな?」

「何の話だ」

「いや、コッチの話」

 ふむ、と良平父はうなる。

「まぁソレはおいておいてだ、この手の魔道書ってのは買い手がつかなくてな。飾ってるだけだったんだが、まぁ、読むのにはかまわんだろう」

「読めるの?」

「日本語版だからな」

「うーわ、すげぇ胡散臭ぇ!」

 良平のことばはもっともだった。

 一万二千年前の日本語なんて読めるのかどうかも判らないものだったろう。

 それは買い手がつかないわけだった。

「で、効果は?」

「知らん」

 つっけんどんに返す、良平父。

「まぁいいや、この悲しみを紛らわすにはちょうどいいしな。恩にきるぜ親父!」

 と、最後に残してかばんもほったらかして階段を駆け上がる良平。

 そんな後姿を見送るりながら、良平父はつぶやいた。

「ま、ほどほどになぁ」






「えーと、ガラムマサラにシナモンスティック。ジャガイモ人参玉ねぎに、ターメリック、クミン、コリアンダー……」

 自室にこもり、本を開き、台所からせしめた材料を広げる良平。

 てかそれカレーの材料じゃ……。

「それらを、四方に配置して、と……」

 がりがりと、フローリングの床にチョークで線を引いていく。

 その図形は円の中に正三角形を互い違いに組み合わせた、方陣。

「エコエコアザラク、エコエコアザラクと、ほしいものを念じながら唱えます、か。本格的ジャン!」

 ぱむ、と本を閉じ、気合を入れる。

 どこらへんが本格的なのか一度しっかりと聞いてみたい反応だった。

「いっちょやってみっかぁ!」

 マッチで線香に火をともす良平。

 モクモクと細い煙が立ち昇る。

 それにしても和洋折衷はなはだしい儀式である。

「エコエコアザラク、エコエコアザラク……」

 呪文を、念じながら唱える。

 そのたび、魔方陣が青く、淡く、脈動するように輝いた。

 おお、これは、いけるのか? という念が、良平の脳裏に浮かぶ。

 そうして手ごたえを感じた良平は、さらに強く、強く、念をこめた。

「かわいくて美人で胸がでかくて優しくて、エロいことしても笑って許してくれる上にそのくせフォローもできて嫌味じゃない、そんな彼女を……」

 激しく鳴動し始める、魔方陣。

「エコエコアザラク、エコエコアザラク……! うおおおおおおおおおおお!」

 念はさらに強く、強く。

 しかし、ソレとは反対に、ピークを過ぎた魔方陣は次第に力を失っていく。

「あ、あれ? 彼女、彼女、彼女!!」

 念じることを続けても、光が弱くなるのは止まらない。

 ついに、光は消えた。

 それを見て、大きく、良平はため息をつく。

「なんてな、出るわけないか」

 諦めとともに、本を投げ、きびすを返す。

 祈りすぎてのどがガラガラ。台所から麦茶の一本でも持ってくるつもりだった。

 が、それは魔方陣に背を向けた瞬間、かなわぬこととなった。

 光の消えたと思った魔方陣が、最後に一度、大きく輝いたからだ。

「おう、マジか……!?」

 振り返る良平。

 そこには、魔方陣の上に浮かぶ、女がたっていた。

 なんとも過激な格好だ。肩アーマーに長いゆとりのある袖口はいい、がその姿はいわゆるボンテージ姿。

 頭には巻き上がった羊のような角、背中にはこうもりのような羽。

 矢印のような尻尾に、額には三つ目の目まであった。

 明らかに、人間ではない。形容するなら、悪魔。

 が、その姿は見ほれるほどに美しかった。

「か、かわいい……」

 良平にしてみれば理想といって間違いない容姿。

 願いがかなったと、間違いなく良平は思い込んでいた。

 思えば苦節17年。生まれてこの方彼女というものに恵まれたことが無いのだ。

 こんな子が彼女になってくれるならどれだけ自分に自信が持てるようになるだろう。

 ただ悔やまれることがあるとすれば、彼女は貧乳だったことか。

「そなたが、我を呼び出した張本人か?」

 女は良平に問う。

「そそ、オレオレ! 結婚を前提に付き合ってくれますか!?」

 反射的に応える良平。

 そんな彼を、いきなり女の渾身の右ストレートが襲った。

「んな望み叶えられるかぼけええええええええええええええええええッ!」

「ごぶるばぁ!?」

 どだだんッ! と仰向けに倒れ伏す、良平。

「な、殴ったね!? 美少女にも殴られたことないのに!」

 と、いうことはこれで1カウント追加であろう。

 しかし、そんなことはどうでもいいといったように、女は続けた。

「アタシが専攻するのは世界制服とか誰かを呪うとか何かをぶっ壊すとか、そういった攻撃的なもんだけなのよ! 説明書読めタコ!」

「説明書って……」

 良平は先ほど放り投げた本を拾い上げ、目次を探して注意のページを開く。

「何々? 『この本はあなたの望みを叶えます、ただし、恨み言のある人のみ』だぁ!?」

「そういうこと、だから、恨み言が無いなら、さっさと送り返してくれない?」

 そういわれたとき、良平ははたと何かを思いついたらしかった。

 腕を組み、ブツブツと何かをつぶやくと、ぴんと人差し指を跳ね上げる。

「いや、あるぜ、恨み言」

「そうなの? じゃあさっさと言いなさいよ。アタシは帰って風呂に浸かって眠りたいんだから」

 腰に手を当て、ため息をつく女。

 まったくやる気など見えなかった。

 だがそんなことはお構いナシに、良平は彼女に聞く。

「その前に、名前教えてくれない?」

「名前? いいわよ。 アタシはメフィスト。メフィスト・フェレス。あっちじゃメフィって呼ばれてたわ」






 曇り空で月も見えぬ夜のこと。

 ピンポーン、と、インターホンの軽快な音が、家の中に鳴り響いた。

 その音に、否応無く、見ていたバラエティ番組の映るテレビの前から立ち上がる俺。

 ったく、なんだよ。

 せっかく補習がひと段落着いて、こちとらリラックスタイムだってのに。

 部屋を出て、階段を下りかけたところで、すでに弥生さんが掃除機を手に応対しているのが見えた。

 肩越しに見えるのは、良平の頭。

 壁にかけてある時計を見れば、もう九時を回ったかという時間だった。

 なんだあいつ、こんな時間に。

「あの、灯夜いますか?」という声が、聞こえた。

 俺になんか用事か?

 あ、もしかして補習のプリント見せろとか、そういうことか?

 そういうことなら俺が直接応対したほうが早いだろう。

「俺になんか用?」

 弥生さんの後ろから、俺は良平に声をかける。

「あ、灯夜君、ちょうどいいところに。お客さんよ」

「うん、弥生さん、ありがとう。交代するよ」

 そういうと、弥生さんはあわただしく、手にした掃除機で再び埃を吸い込みだした。

 視線を良平へと向ける。

「で、どうかした?」

「ふ、ふふふふ……」

 いきなり笑い出す良平。

「俺にもやっと春が来たんでなぁ! オマエには紹介しておいてやろうかと思ってなぁ!」

 はぁ、さいですか。

 正直、どうでもいいんですが。てか、補習のプリントはいいのかよお前。

「カモンメフィ! マイハニー!」

 そうして、ドアの影から、呼ばれた子は姿を現した。

 年齢は俺と同じくらい。

 色素の薄い、跳ねたクセ毛の髪。色の白い肌。

 それはそれはかわいらしい美少女だった。

 しかし外見からして日本人ではない。メフィって名前からして、どこか外国の人なのだろうか。

「ども」

「ああ、ども」

 ぺこりと会釈をするメフィにつれられて、俺も頭を下げる。

「ファーハハハハ! うらやましかろう!」

 正直なところ、すこしうらやましい。

 が、それを言ってしまうと、良平のことだ、付け上がるに違いない。

 そうなるとすごくウザいのでぐっとこらえて我慢する。

 しかし、よくよく考えてみれば、彼らの接点はいったいどこなのだろうと思い至る。

 探り、入れてみるか。

 と、そんな風に悪い勘ぐりを浮かべたときだった。

「あ、灯夜さん、お風呂開いたのであるよ?」

 俺に向かって、ほこほこと湯気を発しながら髪を拭くアーシェ総帥が語りかけてきたのは。

「まだお湯残しているので、早めにどうぞ。あ、風呂の栓抜いといてくださいね」

 とはその後ろを付いて歩く、セリスさん。同じくほこほことしており、容易に一緒に入ってたのだなと悟らせる。

 二人ともパジャマ姿で今はネコミミを出していない。ナコタナコタ族ということを隠すための偽装だ。

 しかしいつものメンバーというには二人足りない。

「マウラさんとネリさんは?」

「マウラちゃんなら一番風呂だったのだ。ネリさんは二番手。今は二人とも部屋でなにかしてるんじゃないかにゃ?」

「ああ、なるほど」

 ということで、良平にはお引取り願うことになった。

「悪いな、風呂はいらなきゃいけないから、また明日……、どうした?」

 そこで、俺は良平が固まっていることに気が付いた。

「お、おま、おまえ……、誰だあの美人二人は!?」

「へ?」

 そ、そりゃアーシェ総帥も、セリスさんも相当な美人だが、なんでこんな血走った目で聞かれにゃならんのか。

「聞いてないぞ!? しかもお風呂だぁッ!? 彼女たちが入った残り湯に浸かるつもりか!? 体を洗った残り湯に!?」

「ちょ、なんつー人聞きの悪い!?」

「事実じゃねーか! 誰だよ!? 紹介しろよ! さぁ、さぁ、さぁ!」

 詰め寄り、つかみかかってくる良平。その目は涙であふれていて、暑苦しい。

「ちょ、ちょっと……!」

 さすがに尋常ならざるその様子に、メフィさんも押さえにかかる。

「五月蝿い! やかましい! オマエだって負けてるじゃないか! 悔しくないのか!? おもに胸囲的な意味で!」

「失礼な人ね!?」

 う、たしかに、メフィって子は胸がかわいそうかもしれない。

 アーシェ総帥もセリスさんも平均以上にあるし、形もきれいだから余計に不憫に思える。

 というかナコタナコタの純血種のみなさんは総じてスタイルがいいのであるが。

「灯夜! オマエあれか!? いっぱいおっぱい胸いっぱい、僕のおなかも腹いっぱいか!? ちゃんと韻踏んでるからって許されるとでもおもってるのか!?」

「いいかげんに……、しなさいッ!」

 どむすっ! と鈍い音が響く。

 見れば、メフィさんの右の拳が良平の鳩尾に突き刺さっていた。

 白目をむいて、崩れ落ちる良平。

 最後に、畜生、ともらしながら。

 なんだろうこの拭いがたい罪悪感。

「それでは、お騒がせしました……」

 顔を真っ赤にしてメフィさん。よっぽど恥ずかしかったと見える。

「ああ、いえ、こちらこそ……」

 ぺこりと頭を下げて去っていくメフィさんと、引きずられる良平を最後に見送る。

 俺が風呂の湯を入れ替えて風呂に入ったのは言うまでも無い。

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