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その2の5



 そんな灯夜らの脱出劇の幾分前。

 アーシェら四人は、サラの部屋の前の廊下で、ひそひそと言葉を交わしていた。

 それもしばらく、マウラの一言に、セリスはとてつもなくイヤそうな顔を浮かべた。

「えええぇぇぇええぇぇ……」

 眉の間にしわを寄せて、小さく低く、抗議の声を発する。

「色仕掛けって、相手は女よ? 姉さん」

「だからこそよ」

 マウラは諭すように、セリスに耳打ちする。

「サラ提督は法を逆手にとって自らの信者を増やしているわ。レズに目覚めさせればこの法律はハーレムだもの」

「なんとまぁ、非生産的な……」

 とはネリ。続いて、セリスに白羽の矢が立ったことに疑問を述べる。

「ですが、なぜセリスのお嬢なのです?」

「最適だからよ。ネリ軍医、貴方は失礼だけどつるぺたのちびっ子。総帥はああみえて意外なことに皇女。危険なことには不向きだわ。こんな皇女でも傷物になったら私のキャリアに傷がつくし」

 すらすらと、ひどい言葉がマウラの口からもれ出る。

 遠慮が無いにしてもあまりにもな言い分だった。

「ホント、失礼ですね。これでもニーズあるんですよ」

「わらわだって意外ととかああみえてとかは心外なのだ」

 ぶーとむくれる二人。

「だまらっしゃい。そんなドラム缶体系趣向の限定的なニーズ対象っ子やアホの子で可愛そうな皇女に、これは勤まらないと言ってるのです」

 ドムンッ! と言葉のナイフが二人を突き刺した。

「アホの子って……」

「ドラム缶て……」

 チーン、と音を上げてフェードアウトしていくアーシェとネリ。

 しかし、アーシェだけはがんばってその状況から踏みとどまった。

「あ、アホの子であるならセリスちゃんだってそうなのだ!」

「総帥ひどいっ!?」

「アホの子ですがこの中で一番スタイルがいいのはこんなアホな子ですが妹のセリスですし、皇族でもありません。視覚的誘惑効果も最も高いでしょう。スレてもいないし。アホですが」

「三度もアホの子いわれた!?」

 ガーンとΣがセリスの頭から跳ねる。

 が、それでも納得行かないものはいかない。

「ソレを言ったら適任なのは姉さんじゃない。スタイルだってそう大差ないんだし! そこんところはどうなのよ!?」

「私は拘束役です」

 いけしゃあしゃあ、とはこのことを言うのだろう。

「うーわ、きったなー!」

 しゃりんとマチェットを引き抜きながら、マウラは言う。

「ビークワイエット。アンタこそ非情に徹せれるの? 私はいざとなったら慈悲無く、躊躇無く、容赦なく、掻っ切るわよ」

『ひぃっ』

 びくりと震え上がり、抱き合うセリスとアーシェ。

「ま、そういうわけだから。大丈夫。脱ぐだけでOK」

「うわーん!」

 小さく、セリスの涙声が、廊下に響き渡った。






 てなわけで。

 意を決して、セリスはサラの部屋のインターホンを押し込む。

 ピンポーンと、銀河共通の軽い音が響き渡る。

「どうぞ」

 帰ってきたのは、そんな簡素な言葉だけだった。

「……失礼します」

 固唾を飲み下し、セリスはドアを開く。

 中では、椅子に腰掛けたサラが、赤い髪をいじりながら本を読むことに没頭していた。

 しかし、セリスの姿を見るに、彼女は本をパタンと閉じる。

「おや、セリスさん。どうかしましたか?」

「い、いえ……、あ、あの、何を読んでたんですか?」

 声が上ずる。

 とりあえず、話題になりそうな何かを言わねば、前に進まなかった。

「ああ、これですか?」

 と、サラは今しがた閉じた本をセリスに見せる。

『女たちの楽園』と書いてあった。

 ソレを見てセリスは、顔を赤らめてホンマモンだ……! と危機感を露にする。

 が、その態度は逆に、サラにとっては好意的に見えたようだった。

「興味、ありますか?」

 ずい、と一歩踏み出してくるサラ。

 その挑発的な態度に、ひー、と内心叫び声をあげながら、セリスは決意を新たに固める。

 そうだ、ここで彼女に隙を作れば……。

 ドアの向こうに控えてくれている3人が、どうにかしてくれる。

 それを信じて、今こそ役に立つときだ。

「あ、あの、サラ提督。私、あなたのことが、前からずっと……」

 しまった、突然すぎたか!? と思うも、その突然さが功を制す。

 口に出すのも恥ずかしい言葉が、彼女の演技を迫真のものにしていたのだ。

 ほう、とサラが声を上げる。

「それは嬉しい、ワタクシも、前々から貴方のこと、いいなと、思っていたんですよ?」

 伸ばされた右腕が、セリスのあごをなでる。

 その触れるか触れないかのやさしいタッチに、ぞわりとセリスの背筋が震えた。

 しかしここまできたら、引き下がれない。

 自らの服のボタンをはずしていくセリス。ぱさりと、絹の落ちる音が床に響いたかと思うと、セリスは下着姿になっていた。

 引き締まったウェスト、とがったバスト。肩から大腿部にかけて作られているバランスのよい黄金比。それが明かりの元にさらされる。

 胸の下で腕を抱き、顔を背けるセリス。尻尾と耳がしなだれる。

 その様子に、サラの目が血走り、伸ばされた唇が、セリスの頬を吸う。

 それのなんとおぞましいことか。

「嬉しいですよ、セリス近衛騎士団長……」

 耳元でささやかれる、熱を持ったつぶやき。

 ひー、早く助けに来てー!

 と、念じたが早いか、背後の部屋のドアが、いきなり開かれた。

 そこから、マチェットを持ったマウラが、サラに向かって突進する。

 反応の遅れたサラは、あっさりと、首元にマチェットの刃が触れるのを許してしまった。

「なっ!?」

 驚いたのはサラだ。

「騒ぐと掻っ切りますよ。サラ提督殿」

 そんな彼女に、冷ややかな言葉で返す、マウラ。

「よくやりましたセリス。なかなかの迫真さでしたよ。もしかして、本気でその気あるんじゃないですか?」

「ないわよぅ! もちょっと早く助けに来てよぅ!!」

 ぺたんと座り込み、ひーんと子供のような涙声で姉に講義するセリス。

「謀りましたね……!」

 忌々しそうに、背後のマウラをにらみつける、サラ。

「この戦艦、ギュンターの指揮系統を頂きに来ただけですよ」

 と、平然と言い放つマウラ。端ではいそいそとセリスが服を着ていた。

 うまくいったのかと、ドアの影からひょこりとアーシェとネリの二人が顔をのぞかせる。

「うはー、ドキドキだったのだー」

「本格的でしたねぇ、なんか」

 二人とも顔は真っ赤だった。

「よし、コレで人質は二人になりました。一気に攻め落としますよ」

「にゃ? 二人とな?」

 クエスチョンマークを浮かべる、アーシェ。それに、ネリは返す。

「こういうことです」

 その小さな手の中には、小さなリボルバー。

 その銃口は、アーシェの顔に向けられていた。

「……にゃにゃッ!?」

「シナリオはこうです。私たちは皇女である総帥とサラ提督を拘束、それを交渉材料に、戦艦ギュンター制圧します。しばらく、おとなしくしておいてくださいね」

「これで、総帥だけは経歴に傷がつきません。貴方は一応皇女なので。まぁ、そのあと口八丁手八丁でわれわれの正当性も認めさせますが」

 説明を付け加えるマウラ。

「にゃ、にゃるほど……」

「あ、言い忘れてましたが、実弾ですよ」

 ネリの言葉に、顔を青ざめさせる、アーシェ。

 自然と、両腕は天井に伸びた。

「にゃー!! これじゃ強盗の集団とかわらんのにゃー!!」


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