case3−2
1 Side:九
夜の書店で巻き起こる怪事件。俺と美波はクラスメイトの中屋文章に頼まれ、この事件の謎を解くことになった。
「いいか、ショコラ。よーく聞いてくれよ。犯人はひとりだったか? いやいや、こんなに散らかすんだ。ひとりな訳ないよな。大勢だったよな。どうだショコラ。俺の推理合ってるだろ。謎が語りかけてくるんだ」
ショコラの頭を撫でようと近づくと……。
「痛っ! いや、そんなに痛くない。ってか俺、なんでショコラに肉球パンチされるの?」
「なぁに言ってるにゃ〜って言ってるんじゃない?」
「いや、俺の推理を応援してるんだよ。きっとそうだ」
ショコラに語り掛けながら頭を撫でる。
「ねぇ、ここちゃん。ショコラに聞くって言ってたけど、猫の言葉なんてわからないわよ?」
「それはほら、これを使うんだよ」
俺は猫語を翻訳するというアプリを起動させた。
可愛らしい猫の顔と、翻訳というボタンが画面に登場した。
「見てろよ。なぁ、ショコラ。お前はこの店で起きた事件の犯人を見たか?」
俺は質問を終えると、翻訳というボタンを押し、ショコラの顔に近付けた。
「にゃ〜ん」
「ここちゃん。ショコラなんて?」
翻訳中と表示された画面を眺めること数秒。
「おっ、出た出た。ん? ショコラお前……」
美波と中屋の視線が俺に注がれる。
「ショコラはこう言ってる……ご飯まだ? って」
「あはは! ほらな」
「ここちゃん、どこが応援してるよ」
中屋と美波が呆れたように俺に声を掛けた。
「ショコラ、ご飯は後からだ。推理の途中だからな」
気持ちを新たにショコラの機嫌を損ねないように気を配る俺。
「やっぱり無理なんだよ。言葉がわからないから、より理解しようとする。私はそんな関係が素敵だと思うけどなぁ」
美波はショコラを抱き上げると、遊んでおいでと解放した。
「わからないか……そうか、そういうことか! 美波、わかったよ!」
「えっ? 犯人がわかったの?」
俺は数歩進み振り返ると……。
「犯人は……」
美波と中屋の注目を再び集め、たっぷり間を取ってから口を開いた。
「犯人は……いる。どこかに。そして、この事件の犯人こそが、この事件の犯人なんだ!」
2 Side:美波
中屋君はここちゃんを指差し、目を瞬かせながら、音量ゼロの口で「何言ってんの?」と、私に訴えかけて来た。
「最終的には解決するから。もう少し待ってあげて」
いつだってそう。ここちゃんは、なんだかんだで事件を解決する。
「ねぇ、中屋君? 当時の状況を再現してもらえる?」
「わかった。あの日俺は、ここで在庫を数えてたんだ。すると、店舗の方で音がして……」
中屋君が店舗へと繋がるドアを通り、私とここちゃんは後へ続いた。
「当日、このドアは開いてた?」
私の質問に中屋君は頷く。
「じゃあ誰かいれば出入りは自由に出来たってことよね。」
「通れたとしても、外へ出るのは無理だよ。店舗側はシャッターが完全に閉まっていたし、バックヤードを通って外へ抜けるには、家の中を通らなきゃいけない。玄関には鍵が掛かっていたから……」
「密室事件じゃん!」
興奮気味のここちゃんが、目をキラキラさせながら喜んでいる。
「きたきたきたきた! 密室事件。俺が相手になってやる!」
姿の見えない犯人に、ここちゃんはどのように立ち向かうのでしょうか?
「真相が俺の背中を押してくれる」