case3−1
0 Side:書店
「バックヤードの在庫数えてから寝るから、先に寝ていいよ」
「助かるわ。じゃあお願いね。おやすみ」
俺は星見台高校に通う2年生。家が書店の為、明日の棚卸しを前に、面倒なバックヤードの在庫を数える手伝いをしていた。
誰もいないバックヤードは静かで、俺が数を記入する際のペンの音くらいしかしない。
そんな中、それは突然起きた──
バサバサバサという音が売り場からしたので、俺は手を止め急いで向かった。
「何だ何だ。売り物なんだから大切にして欲しいもんだね」
もう店は閉めているので、お客さんがいないのは分かっている。だから独り言を吐きながら、通路を覗いていった。
「あ〜あ。平台の本がこんなに。バランス悪かったかな。気をつけよ」
一人文句を言いながら乱れた本を綺麗に整えていく。
バサバサバサ──
バサバサバサ──
今度は違うところから本が落ちる音がした。それも複数。
「なんなんだよ!」
俺は家族を起こし、今あったことを説明した。
その後、全員で売り場を確認したものの、異常は見られなかった。
「明日、九と早瀬に話してみるか」
1 Side:九
「へぇぇ。中屋の家って本屋だったんだな。で、俺と美波にその謎を解いて欲しいと」
クラスメイトの中屋文章に呼ばれ、俺は美波と一緒に中屋の家の前へとやって来た。
「今日は午後から店閉めてもらってるから、店の中を自由にして大丈夫」
「お邪魔しま〜す」
心霊現象かもしれないと言われたけど、ならそれを証明してやると大口を叩いてしまった。
「なぁ、美波は信じるか? 超常現象ってやつ」
「テレビとかで観るのは大好きだけど、実際は……」
「なぁんだ、美波も怖いんだな」
「“も”って言ったね。ここちゃん“も”怖いんだぁ」
やってしまったと思った俺は、わざとらしい咳払いをした。
「俺には謎が語りかけてくるからな。チャチャっと解決してやるから心配すんなよ」
「ここちゃん、そんな事言って大丈夫なの?」
ガタン──
「きゃぁぁぁぁ!」
「…………ここちゃん。怖がり過ぎ」
俺は恥ずかしくなり思わず両手で顔を隠した。
「にゃう〜ん」
「きゃぁぁぁぁ!」
「ここちゃん。一旦落ち着いて。よく見てよ」
顔を隠した指の隙間から、俺は恐る恐る視線を向けた。
「……猫かぁ。いやぁ、そうじゃないかとは思ってたんだよ」
「ショコラ。ダメじゃないか店に来たら」
そう言って子猫を抱き上げた中屋。
「可愛い。ショコラっていうの?」
「うん、まだうちに来て間もないけど、好奇心旺盛で家の中あっちこっち走り回って困ってるんだ」
俺は抱えられたショコラに顔を近づけて……。
「ショコラ。お前、犯人知ってるか?」
「にゃ〜」
「そうかそうか」
「ここちゃん。ショコラ何て?」
「にゃ〜だって」
謎は何も解けていないが、皆ショコラの可愛さにやられてしまっている。
「ショコラの言葉が分かればなぁ。そうか、その手があったか」
目撃者かもしれないショコラと話をするため、俺は動いた──