case2−3
1 Side:九
「高校生にもなって美波も笹羅も迷子だなんて、ほんと世話が焼けるな。しかし、本当に迷子なんだろうか。高校生だぞ? やっぱりここは俺の出番か」
幼馴染みとクラスメイトの二人が同時にいなくなるなんて、どう考えても普通じゃない。そう思った俺は、この事件の謎を解くことにした。
推理に集中するために、出来るだけ人のいない場所を選び……。
「何だ何だ? 何か始まるのか?」
俺が立っていたのはイベントステージの上だったらしく、あれよあれよとステージ前に人が集まった。
「一瞬にして人が二人消えるトリック。この謎は中々手強そうだ」
「僕なら、こう考えるね」
そう言って俺の前に歩いてきたひとりの青年は、ステージに上がってきた。
「いいかい? 君はこう言ったね。一瞬にして人が二人消えるトリックと」
「そんなことよりあなたは?」
「ふふっ。僕には分かっていたよ。君が “そんなことよりあなたは” と言うことをね!」
誰だって言うだろう。そして、会話が噛み合っていないことに、見物人達はザワザワし始めた。
「ねぇ、何が始まるの?」
「芸人のショーなの?」
「探偵コントらしいよ」
あちらこちらでこの二人を見守る買い物に来ていた人々。
「これは失礼した。僕は偶然通り掛かった探偵です。君の話を聞いて、犯人がわかりました」
「俺の方が犯人わかってますけど。いい意味で!」
突如現れた謎の探偵に挑発され、俺はつい大風呂敷を広げてしまった。
「何だよ、いい意味って!」
見物客からのツッコミで、周囲が笑いに包まれる。
「では聞かせてもらいましょうか? 君がわかったという犯人について」
「そうですね。いいでしょう。いつかお話しましょう!」
全く進展しないどころか、噛み合わない二人のやり取りに、「今しろよ!」と、盛り上がるイベントスペース。
「いいでしょう。では僕の考えを聞いていただきましょう。同時に2人が消えた点。まるで雲隠れのようだ」
うんうんと頷きながら聞く俺。
「雲隠れと言えば“忍者”ですよね。そう、つまり犯人は……」
「犯人は忍者ですよね!」
探偵の話に割って入り、先に言い切った俺は、探偵との勝負に勝った。
「君の推理力はすごいな。今回は僕の負けだ。犯人がわかってよかったね。それじゃあ僕は行くよ」
探偵はステージを降りると、最後に一言こう口にした。
「めでたしめでたし」
変な空気がこの空間を支配し、見物客からは「終わったのか?」などと言った声がささやかれ始めた。
「探偵さん。俺には向こうからやって来てくれるんです」
「ん? 何がやってくるんだい?」
俺はしっかり間をとって、かっこよく決まるようにこう言った。
「謎が語りかけてくる」
「僕の完敗だ」
すると、俺の発言に拍手が起こり、探偵と見物客は帰って行った。
2 Side:美波
「美波ちゃん。九君どこ行ったんだろう。私達のこときっと探してるよね」
英里ちゃんの問いかけに私は……。
「何処かで変な推理してなきゃ良いけどね」
「いくら九君でもひとりじゃ無理だよ」
「それもそうだね」
二人の横を通る人の会話が聞こえてきた。
「さっきの推理コント、何を伝えたかったんだろうね」
「そうそう一瞬にして二人が消えるトリックがどうのって言っておいて、結局落ち着いたのが忍者って何を言いたかったんだろう?」
「わかんないなぁ。あの子達のコント」
私は英里ちゃんと無言で見つめ合った。
「迎えにいこう」
「推理をコントって言われてたね」
しかし腑に落ちないのが、最後の一言だった。
「“あの子達”って言ってたけど、ここちゃん誰と何したのかしら。英里ちゃん、急ごう」
舞台の上ではまだ推理が続いていた。
「美波ちゃん、舞台の上に九君がいる!」
「それは注目されるわ。コントって言われてたけど。まぁいっか。お〜い、ここちゃん」
「おお! 美波。笹羅も無事だったか! うまく忍者から逃げられたんだな」
ここちゃんの推理では、どうやら私と英里ちゃんが忍者にさらわれたということになったらしく……。
「美波、聞いてくれよ。俺探偵に勝ったんだよ」
「探偵はここちゃんでしょ。さぁ、急いで買い物して戻ろう」
「九君。どうして注目されてるのに恥ずかしくないの? 私ならきっと何も出来ないまま、ただ泣いちゃうと思う」
「そんなの簡単なことだよ。本気で心配したからさ」
ここちゃんはそう言うと歩き出し、またどこかにいなくなりそうだったので、私がしっかり後ろからベルトを掴んだ。
「本気で心配……か。九君かっこいいな」
「英里ちゃん行くよ」
「あっ、はいっ!」
それを見ていた観客の二人が……。
「結局のところ、あの兄ちゃんが迷子になっただけのことなんじゃないか?」
「高校生で迷子になったのを誤魔化すためにコントかぁ。可愛らしいじゃない」
そんな会話が聞こえてきた。